作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「中也の雨衣」(作詩:中原中也)

中也の雨衣チュウヤノアマギヌ指示速度拍子調性備考
1春宵感懐シュンショウカンガイAndantino4分音符=80ca.4/4ヘ長調
2雨の日アメノヒLarghetto付点4分音符=63ca.6/8ト短調Baritone Solo
3海は、お天気の日にはウミハ、オテンキノヒニハAllegro4分音符=120ca.4/4ト長調
4風雨フウウAllegro4分音符=132ca.4/4ニ短調
5暗い公園クライコウエンAndante4分音符=72ca.4/4ト短調Tenor Solo
6雨が、降るぞえアメガ、フルゾエAllegretto4分音符=108ca.2/4ト長調

作品データ

作品番号:T100:M82n
作曲年月日:201?年?月?日

初演データ

初演団体:西南シャントゥール
初演指揮者:徳永和彦
初演年月日:2012年12月8日
西南シャントゥール第35回定期演奏会(於アクロス福岡シンフォニーホール)

※当初は作曲者自身が初演指揮をつとめる予定だったが、2012年6月頃、外出活動に対してドクターストップがかかったため団内指揮者へ変更となった。

楽譜・音源データ

作品について

数々の男声合唱の名曲を送り出してきた多田武彦の最新刊。中原中也の「雨」にまつわる5つ詩がテキストになっています。中也の詩によるタダタケ作品といえば「在りし日の歌」がすぐに思い浮かぶことでしょうが、現在のところ全部で7つの組曲が作られています。男声合唱ファンならばすべてのタイトルを言えるでしょうか。西南シャントゥール(指揮 徳永和彦)の委嘱によって作曲され、2012年12月に初演されました。(パナムジカ新刊紹介より)
詩の出典
「春宵感懐」「雨の日」……『在りし日の歌』(創元社、1938年)
「海は、お天気の日には」「風雨」「暗い公園」「雨が、降るぞえ」……未刊詩篇

歌詩

春宵感懐
雨が、あがつて、風が吹く。
 雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵。
 なまあつたかい、風が吹く。

なんだか、深い、溜息が、
 なんだかはるかな、幻想が、
湧くけど、それは、掴めない。
 誰にも、それは、語れない。

誰にも、それは、語れない
 ことだけれども、それこそが、
いのちだらうぢやないですか、
 けれども、それは、示かせない……

かくて、人間、ひとりびとり、
 こころで感じて、顔見合せれば
につこり笑ふといふほどの
 ことして、一生、過ぎるんですねえ

雨が、あがつて、風が吹く。
 雲が、流れる、月かくす。
みなさん、今夜は、春の宵。
 なまあつたかい、風が吹く。
雨の日
通りに雨は降りしきり、
家々の腰板古い。
もろもろの愚弄の眼は淑やかとなり、
わたくしは、花瓣の夢をみながら目を覚ます。
     *
鳶色の古刀の鞘よ、
舌あまりの幼な友達、
おまへの額は四角張つてた。
わたしはおまへを思ひ出す。
     *
鑢の音よ、だみ声よ、
老い疲れたる胃袋よ、
雨の中にはとほく聞け、
やさしいやさしい唇を。
     *
煉瓦の色の憔心の
見え匿れする雨の空。
賢い少女の黒髪と、
慈父の首と懐かしい……
海は、お天気の日には
海は、お天気の日には、
綺麗だ。
海は、お天気の日には、
金や銀だ。

それなのに、雨の降る日は、
海は、怖い。
海は、雨の降る日は、
呑まれるやうに、怖い。

ああ私の心にも雨の日と、お天気の日と、
その両方があるのです。

その交代のはげしさに、
心は休まる暇もなく
風雨
雨の音のはげしきことよ
風吹けばひとしほまさり
風やめば つと和みつつ

雨風のあわただしさよ、
――悲しみに呆けし我に、
雨風のあわただし音よ

悲しみに呆けし我の
思ひ出のかそけきことよ
それににて巷も家も
雨風にかすみてみゆる

そがかすむ風情の中に、
ふと浮むわがありし日よ
風の音にうちまぎれつつ
ふとあざむわがありし日よ
暗い公園
雨を含んだ暗い空の中に
大きいポプラは聳り立ち、
その天頂は殆んど空に消え入つてゐた。

六月の宵、風暖く、
公園の中に人気はなかつた。
私はその日、なほ少年であつた。

ポプラは暗い空に聳り立ち、
その黒々と見える葉は風にハタハタと鳴つてゐた。
仰ぐにつけても、私の胸に、希望は鳴つた。

今宵も私は故郷の、その樹の下に立つてゐる。
其の後十年、その樹にも私にも、
お話する程の変りはない。

けれど、あゝ、何か、何か……変つたと思つてゐる。
雨が、降るぞえ
 ――病棟挽歌

雨が、降るぞえ、雨が、降る。
今宵は、雨が、降るぞえ、な。
俺はかうして、病院に、
しがねえ、暮しをしては、ゐる。

雨が、降るぞえ、雨が、降る。
今宵は、雨が、降るぞえ、な。
たんたら、らららら、らららら、ら、
今宵は、雨が、降るぞえ、な。

人の、声さへ、もうしない、
まつくらくらの、冬の、宵。
隣りの、牛も、もう寝たか、
ちつとも、藁のさ、音もせぬ。

と、何号かの病室で、
硝子戸、開ける、音が、する。
空気を、換へると、いふぢやんか、
それとも、庭でも、見るぢやんか。

いや、そんなこと、分るけえ。
いづれ、侘しい、患者の、こと、
たゞ、気まぐれと、いはば気まぐれ、
庭でも、見ると、いはばいふまで。

たんたら、らららら、雨が、降る。
たんたら、らららら、雨が、降る。
牛も、寝たよな、病院の、宵、
たんたら、らららら、雨が、降る。

リンク

初演ステージ参加者募集案内(作曲者のメッセージあり)

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