作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「眠りの誘ひ」(作詩:立原道造)

眠りの誘ひネムリノサソイ指示速度調性拍子
1薄明ハクメイ
2甘たるく感傷的な歌アマタルクカンショウテキナウタ
3のちのおもひにノチノオモイニ
4溢れひたす闇にアフレヒタスヤミニ
5眠りの誘ひネムリノサソイLento付点4分音符=ca.54ヘ長調6/8

作品データ

作品番号:T101:M83n

初演データ

初演団体:アルマ・マータ・クワイア
初演指揮者:上床博久
初演年月日:2012年12月9日
アルマ・マータ・クワイア第51回定期演奏会(於いずみホール)

楽譜・音源データ

作品について

2004年に単品として発表された表題曲「眠りの誘ひ」を含む組曲。
詩の出典
「眠りの誘ひ」「溢れひたす闇に」……『暁と夕の歌』(風信子詩社、1937年)
「薄明」「甘たるく感傷的な歌」……『優しき歌』(角川書店の第三次『立原道造全集』編纂にあたって復元されたもの。1947年に角川書店から出版された同名詩集とは別)
「のちのおもいひ」……『萱草に寄す』(私家、1937年)

歌詩

眠りの誘ひ
おやすみ やさしい顏した娘たち
おやすみ やはらかな鉐を編んで
おまへらの枕もとに胡桃色にともされた燭臺のまはりには
快活な何かが宿つてゐる(世界中はさらさらと粉の雪)

私はいつまでもうたつてゐてあげよう
私はくらい窓の外に さうして窓のうちに
それから 眠りのうちに おまへらの夢のおくに
それから くりかへしくりかへして うたつてゐてあげよう

ともし火のやうに
風のやうに 星のやうに
私の聲はひとふしにあちらこちらと……
するとおまへらは 林檎の白い花が咲き
ちいさい僂燐蕕魴襪咫,修譴快い速さで赤く熟れるのを
短い間に 眠りながら 見たりするであらう
薄明
音楽がよくきこえる
だれも聞いてゐないのに
ちひさなフーガが 花のあひだを
草の葉のあひだを 染めてながれる

窓をひらいて 窓にもたれればいい
土の上に影があるのを 眺めればいい
ああ 何もかも美しい! 私の身体の
外に 私を囲んで暖かく香よくにほふひと

私は ささやく おまへにまた一度
― はかなさよ ああ このひとときとともにとどまれ
うつろふものよ 美しさとともに滅びゆけ!

やまない音楽のなかなのに
小鳥も果実も高い空で眠りに就き
影は長く 消えてしまふ ― そして 別れる
甘たるく感傷的な歌
その日は 明るい野の花であつた
まつむし草 桔梗 ぎぼうしゆ をみなへしと
名を呼びながら摘んでゐた
私たちの大きな腕の輪に

また或るときは名を知らない花ばかりの
花束を私はおまへにつくつてあげた
それが何かのしるしのやうに
おまへはそれを胸に抱いた

その日はすぎた あの道はこの道と
この道はあの道と 告げる人も もう
おまへではなくなつた!

私の今の悲しみのやうに 叢には
一むらの花もつけない草の葉が
さびしく 曇つて そよいでゐる
のちのおもいに
夢はいつもかへつて行つた 山の麓のさびしい村に
水引草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しづまりかへつた午さがりの林道を

うららかに青い空には陽がてり 火山は眠つてゐた
――そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれもきいてゐないと知りながら 語りつづけた……

夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには

夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥のなかに
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう
溢れひたす闇に
美しいものになら ほほゑむがよい
涙よ いつまでも かわらずにあれ
陽は 大きな景色のあちらに沈みゆき
あのものがなしい 月が燃え立つた

つめたい! 光にかがやかされて
さまよひ歩くかよわい生き者たちよ
己は どこに住むのだらう……答へておくれ
夜に それとも晝に またうすらあかりに?

己は 嘗てだれであつたのだらう?
(誰でもなく 誰でもいい 誰か……)
己は 戀する人の影を失つたきりだ

ふみくだかれてもあれ 己のやさしかつた望み
己はただ眠るであらう 眠りのなかに
遺された一つ憧憬に溶けいるために

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