作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「木下杢太郎の詩から」[改訂版](作詩:木下杢太郎)

木下杢太郎の詩からキノシタモクタロウノシカラ指示速度調性拍子
1両国リョウゴクやや速く、力強く4分音符=約116ニ短調3/4
2こおろぎコオロギかなりおそく、静かに4分音符=約60ヘ短調2/4
3柑子コウジやや おそく、表情豊かに付点4分音符=約80ヘ長調6/8
4雪中の葬列セッチュウノソウレツおそく、重苦しく4分音符=約66イ短調4/4
5市場所見シジョウショケンやや速く、活気をもって4分音符=約104ホ短調2/4

作品データ

作品番号:T12:M12R
関西大学グリークラブによる委嘱

初演データ

初演団体:関西大学グリークラブ
初演指揮者:上田泰正
初演年月日:1983年11月3日
関西六大学合唱連盟定期演奏会(於フェスティバルホール)

作品について

4曲構成だった元の組曲の3曲目に「柑子」を加えて、既存の4曲も大幅に手を加えた改訂版。
詩との相違
『市場所見』の「七番」は「しちばん」と「ななばん」の読みが混在しているが、詩の原典に依ると「ななばん」が正しい。また楽譜では「海運橋から…」の表記であるが、原詩は「海運橋より…」になっている。
手書きの初版譜から「しちばん」「かいうんばしから」になっていた模様である(初演指揮者からの情報)。
メロス楽譜による出版譜では「ななばん」「かいうんばしより」が採用されている。
詩の出典
「柑子」……『木下杢太郎詩集』(第一書房、1930年)
「柑子」以外……『食後の唄』(アララギ発行所、1919年)

歌詩

兩國
兩國の橋の下へかかりや
大船は檣を倒すよ、
やあれそれ船頭が懸聲をするよ。
五月五日のしつとりと
肌に冷き河の風、
四ツ目から來る早船の緩かな艪拍子や、
牡丹を染めた袢纏の蝶蝶が波にもまるる。

灘の美酒、菊正宗、
薄玻璃の杯へなつかしい香を盛つて
西洋料理舗の二階から
ぼんやりとした入日空、
夢の國技館の圓屋根こえて
遠く飛ぶ鳥の、夕鳥の影を見れば
なぜか心のみだるる。
こほろぎ
こほろこほろと鳴く蟲の
秋の夜のさびしさよ。
日ごろわすれし愁さへ
思ひ出さるるはかなさに
袋戸棚かきさがし、
箱の塵はらひ落して、
棹もついて見たれども、
あはれ思へば、隣の人もきくやらむ、
つたなき音は立てじとて、その儘におく。
月はいよいよ冱えわたり
悲みいとど加はんぬ。
晝はかくれて夜は鳴く
蟋蟀の蟲のあはれさよ、
しばしとぎれてまた低く
こほろこほろと夜もすがら。
柑子
鷗の群れはゆるやかに
一つ二つと翔りゐぬ。
海に向かへる小丘には
圓き柑子が輝きぬ。
われはひそかに忍びより、
たわわの枝の赤き實を
一つ二つとかぞへしに、
兎のごとき少女來て、
一つはとまれ、二つとは
やらじと呼びて逃げ去んぬ。
おどろき見れば夢なりき。
鷗の群はゆるやかに
一つ二つと翔りゐぬ。
雪中の葬列
Djan……born…laarr……don
Djan……born……laar,r,r……
鐘の音がする。雪の降る日。
雪はちらちらと降つては積る。
中をまつ黒な一列の人力車。
そのあとに鐘が鳴る……
Djan……born……laar,r,r……

銀色とあの寂しい
薄紅と、蓮の花瓣……ゆられながら運ばれて行く。
放鳥籠の鳥と。

今銕橋の上に進んだ。都會の眞中の──
華やかな叫びも欲もさびれた雪の日の都會の──。
黒い無言の一列がひつそりと、ひつそりと……

雪は降る。雪は降る。
雪は降る。雪は降る。
Djan……born…laarr……don
Djan……born……laar,r,r……
市場所見
沖の暗いのに白帆が見える、
あれは紀の國蜜柑船。
蜜柑問屋に歳暮の荷の
著く忙しさ――冬の日は
惨憺として霜曇る市場の屋根を照したり。

街の柳もひつそりと枯葉を垂らし、
横町の「下村」の店、
赤暖簾さゆるぎもせず。

街角に男は立てり。
手を舉げて指を動かし
「七番、中一あり」と呼びたれば
兜町、現物店の門口に
丁稚また「中一あり」と傳へたり。

海運橋より眺むれば
雲にかくれし青き日は
陰惨として水底に重く沈みて聲もなし。
時しもあれや蜜柑船、
橋の下より罷りいづ。
そを見てあれば、すずろにも
昔の唄を思ひ出づ。

あれは紀の國蜜柑船。

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