作曲家・多田武彦〔通称・タダタケ〕のデータベース。

男声合唱組曲「柳河風俗詩・第二」(作詩:北原白秋)

柳河風俗詩・第二ヤナガワフウゾクシ・ダイニ指示速度調性拍子備考
1水路スイロやや早く,幻想的に4分音符=約120ニ短調4/4
2ナシおそく,しみじみと4分音符=約72ハ短調3/4
3立秋リッシュウやや早く,淡々と4分音符=約104ヘ長調4/4T. Solo
4あひびきアイビキ極めて早く,やや粗野に4分音符=約160ト短調4/4
5散歩サンポややおそく,さわやかに4分音符=約84ト長調4/4
6みなし児ミナシゴややおそく,律動的に,しかし哀感をこめて4分音符=約76ニ短調2/4

作品データ

作品番号:T65:M53n
作曲年月日:1992年9月?日
西南シャントゥールによる委嘱

初演データ

初演団体:西南シャントゥール
初演指揮者:内海敬三
初演年月日:1994年11月11日
西南シャントゥール創立40周年記念'94定期演奏会(第17回)(於福岡サンパレス)

楽譜・音源データ

作品について

初演時のタイトルは「思ひ出」。
『水路』は合唱名曲シリーズNo.32(H15)にM4として収録された。
詩との相違
『あひびき』において、「きつねのろうそく」の語句は後に北原白秋によって「きつねのてうちん」に置き換えられている。現在でも「きつねのてうちん」に置き換えられたという改訂は聞かない。
詩の出典
『思ひ出』(東雲堂書店、1911年)

歌詩

水路
ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
しとやかな柳河の水路を、
定紋つけた古い提灯が、ぼんやりと、
その舟の芝居もどりの家族を眠らす。

ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
あるかない月の夜に鳴く虫のこゑ、
向ひあつた白壁の薄あかりに、
何かしら燐のやうなおそれがむせぶ。

ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
草のにほひのする低い土橋を、
いくつか棹をかがめて通りすぎ、
ひそひそと話してる町の方へ。

ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
とある家のひたひたと光る汲水場に
ほんのり立つた女の素肌
何を見てゐるのか、ふけた夜のこころに。
ひと日なり、夏の朝凉、
濁酒売る家の爺と
その爺の車に乗りて、
市場へと。――途にねむりぬ。

山の街、――珍ら物見の
子ごころも夢にわすれぬ。
さなり、また、玉名少女が
ゆきずりの笑も知らじな。

その帰さ、木々のみどりに
眼醒むれば、鴬啼けり。
山路なり、ふと掌に見しは
梨なりき。清しかりし日。
立秋
柳河のたつたひとつの公園に
秋が来た。
古い懐月楼の三階へ
きりきりと繰り上ぐる氷水の硝子杯、
薄茶に、雪に、しらたま、
紅い雪洞も消えさうに。

柳河のたったひとつの遊女屋に
薊が生え、
住む人もないがらんどうの三階から、
きりきりと繰り下ぐる氷水の硝子杯、
お代りに、ラムネに、サイホン、
こほろぎも欄干に。

柳河のたったひとりの NOSKAI は
しよんぼりと、
月の出の橋に擬宝珠に手を凭せ、
きりきりと音のかなしい薄あかり、
けふもなほ水のながれに身を映す。

「氷、氷、氷、氷…………」 
  * 遊女、方言。
あひびき
きつねのろうそく見つけた、
蘇鉄のかげの黒土に、
黄いろなろうそく見つけた、
昼も昼なかおどおどと、
男かへしたそのあとで、
お池のふちの黒土に、
きつねのろうそく見つけた。
  * 毒茸の一種、方言、色赤く黄し。
散歩
過ぎし日のおもひでに
植物園を歩行けば、
霜白く、薄黄水仙の芽も青く、
鳴く鳥すらもほのかなれや、仏蘭西の赤靴……

骨牌のこころもちに
クロウバのうへをゆけば、
朝はやく、あるかなきかの香も痒く、
鳴く虫すらもほのかなれや、仏蘭西の赤靴……

かの蒼白き年増を
恐れて、そっと歩めば、
日は光り、いまだ茴香の露も苦く、
鳴くこころすらもほのかなれや、仏蘭西の赤靴……
みなし児
あかい夕日のてる坂で
われと泣くよならつぱぶし……

あかい夕日のてるなかに
ひとりあやつる商人のほそい指さき、舌のさき、
糸に吊られて、譜につれて、
手足顫はせのぼりゆく紙の人形のひとおどり。

あかい夕日のてる坂で
やるせないぞへ、らつぱぶし、
笛が泣くのか、あやつりか、なにかわかねど、ひとすぢに
糸に吊られて、音につれて、
手足顫はせのぼりゆく戲け人形のひとおどり。

なにかわかねど、ひとすぢに
見れど輪廻が泣いしやくる。
たよるすべなき孤児のけふ日の寒さ、身のつらさ、
思ふ人には見棄てられ、商人の手にや弾かれて、
糸に吊られて、譜につれて、
手足顫はせのぼりゆく紙の人形のひとおどり。

あかい夕日のてる坂で
消えも入るよならつぱぶし……

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