多田武彦〔タダタケ〕データベース - 海豹と雲

男声合唱組曲「海豹と雲」(作詩:北原白秋)

海豹と雲カイヒョウトクモ指示速度調性拍子
1猟夫リョウフAllegretto4分音符=ca.108ハ短調4/4
2アサAndante4分音符=ca.69ト長調4/4
3青野アオノAllegro assai4分音符=ca.144ニ短調3/4
4曇り日のオホーツク海クモリビノオホーツクカイGrave2分音符=ca.42ト短調2/2
5風を祭るカゼヲマツルAllegro assai8分音符=ca.144ト長調6/8
6冬の夜フユノヨルAllegro4分音符=ca.138ト短調4/4

作品データ

作品番号:T75:M62n
作曲年月日:200?年?月?日
第1回東京都男声合唱フェスティバル開催を記念して、東京都合唱連盟より委嘱

初演データ

初演団体:東京都男声合唱フェスティバル合同
初演指揮者:岸信介
初演年月日:2002年11月10日
第2回東京都男声合唱フェスティバル(於文京シビック大ホール)

2001年、第1回東京都男声合唱フェスティバルにて偶数楽章にあたる3曲のみを初演。翌年、全曲初演。

楽譜・音源データ


男声合唱組曲「海豹と雲」

作品について

組曲のタイトルは、詩の出典となった詩集『海豹と雲』より。
「海豹」は「あざらし」とも読めるが、原典を紐解くと「かいひょう」の読みが正しいようである。
『朝』には“トラピスト修道院”の副題あり。
詩の出典
『海豹と雲』(アルス、1929年)

歌詩

猟夫
神神、
いざ、起たせ、
照り満つ蘇枋の実の、
こよなし、よく染みぬ。

神神、
みそなはせ、
はららぐ鷲の羽の、
こよなし、よく飛びぬ。

神神、
ああ、神神、
吾も起つ、向剥矢の、
こよなし、よく鳴りぬ。

神神、
ああ、神神、
この恋の、鳴り鏑の、
こよなし、よく鳴りぬ。
揺りいづる鐸のかずの
六つあまり、七つか、八つ。

夜はあけぬ、麺麭種の
粉かとも花は咲きて。

露ながら、人はあり、
いのりつつ、野に刈りつつ。

しづけさや、よき寺や、
カトリコの朝弥撤や。

鷹のごと光るもの
山の気に吹きながれて、

美しき八月や、
翼ただ海を指しぬ。
青野
さわさわや、ひきまとふ
我が荒絹、
 鴉の、青鴉の
 後に蹤きて。

雑草や、行き行けば、
雲立ち立つ、
 曠野の、鳴る沢の
 音ひそめて。

はえなさや、しづけさや、
風、小嵐。
 こもらふ神神の
 素足見せて。

昼や、げに、息はずむ
毛の柔物、
 少女よ、ひと飛びに
 飛びかくれぬ。
曇り日のオホーツク海
光なし、燻し空には
日の在処、ただ明るのみ。

かがやかず、秀に明るのみ、
オホーツクの黒きさざなみ。

影は無し、通風筒の
帆の綱が辺に揺るるのみ。

眺めやり、うち見やるのみ、
海豹のうかぶ潮漚。

寒しとし、暑しとし、ただ、
霧と風、過がひ舞うのみ。

われは誰ぞ、あるかなきのみ、
酔はむとも、醒めむとも、まだ。

燻し空、かがやかぬ波、
見はるかす円き涯のみ。
風を祭る
風を祭る、
太陽の光に祭る。

風を祭る、
草と木の緑に祭る。

風を祭る、
蒼空の玻璃宮に祭る。

風を祭る、
新潮のとよみに祭る。

風を祭る、
川と州の魚鱗に祭る。

風を祭る、
菜園の斜面に祭る。

風を祭る、
海港のブイに祭る。

風を祭る、
浴泉のフラフに祭る。

風を祭る、
鉄鋼の腕に祭る。

風を祭る、
軽羅の女体に祭る。

風を祭る、
ありとある花に祭る。
冬の夜
浪の音だ。まさしく、
ざざんさと寄せてる。
ねむれよ、ねむれよと。

ねむれよ、息づかひも、
毛帽子のをさな児、
耳たぶの紅さ見せて。

深めよ、日のまぼろし、
冬はただ寂びるを、
また、風よ光よと。

ああ、それに月の蟹、
菜の花も白かつたに、
父と子が観てたに。

潮ぐもちの燻しが
さむざむと満ちる、これから、
蜆いろの沖にも。

過ぎたよ、星の座に、
照りはえた火の渦、
昨夜のうつくしい野火も。

ねむれよ、円きくるぶし、
ちいさな毛のくつした、
腕椅子の揺り床。

浪の音だ。まさしく、
ざざんさと寄せてる。
ねむれよ、ねむれよと。
  註 西の国にては、月面の影をば蟹と観る習俗あり。

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解説
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