前作「
柳河風俗詩」で清水脩から受けた「ダイナミックさに欠ける」との指摘を踏まえ、ダイナミックな作品を目指して作曲された。そのため、当時のアマチュア合唱団の技術水準では難易度が高く、しばらくはあまり取り上げられなかった。多田作品の中でもずばぬけてスタミナを要する作品である。
余談ながら、組曲「富士山」が作曲された5年後に清水脩は、4曲から成る男声合唱組曲「富士山の詩」を作曲。うち、3曲は多田も付曲している詩(「作品第壹」「作品第捨陸」「作品第拾捌」)。しばらくして混声合唱版もでき、カワイ楽譜から刊行された。
1990年代初頭に『作品第壹』終盤“花を”の主旋律が改訂された。改訂理由は、それまでの旋律が「鼻緒くわえて」に聞こえるためといわれている。
『作品第肆』は平成元年度のNHK全国学校音楽コンクール高等学校の部において、課題曲Cに選出されている。曲中“両掌(リョウテ)のなかに”の読みは当初(リョウタナゴコロ)であったが、作詩者からの指摘を受けて現在の歌詞に訂正された。
『作品第貳拾壹』は、原題「
宇宙線富士」が示すとおり、夕焼けの中に在る富士山を詠んだ詩である。“雨雲屏風”“降り注ぐ…大驟雨”などの語句に誘導されて雨の風景を想像しないよう注意。
なお、「草野心平詩全景」を参照すると、『3.作品第拾陸』として作曲された詩は『作品第拾捌』に、『4.作品第拾捌』として作曲された詩は『作品第貳拾』に、『5.作品第貳拾壹』として作曲された詩は『作品第貳拾参』というタイトルで収録されている。
これは作曲者がテクストの底本とした詩集において、「草野心平詩全景」で『作品第拾』および『作品第拾弐』と名づけられている作品を除いた形でナンバリングされているためである。
1993年、「
柳河風俗詩」とともに、
全日本合唱センターが選定した「
日本の合唱作品100選」に選ばれた。タイトルと歌詞が英訳(「
Mt. Fuji for men's chorus a cappella」)され、世界合唱センター(ベルギーのナミュール市)に寄贈されている。
2000年8月13日に合唱団よしだが富士山頂公演の中で
「富士山」を全曲演奏。富士山頂初演と思われる。