受難

生き別れの姉と再会して、早数日…
テリーはいまだ距離を保ちつつだが、パーティーになじみつつあった。
それもこれもすべては気立てのいい姉のおかげである。
テリーはミレーユに感謝しつつ、床に付いた。

…しかし、どうも眠れない。
ミレーユと再開した翌日は長年の緊張の糸が緩んだせいか
ぐっすり眠れたものだが。
「夜風に当たるか…」

眠れなかったのは自分だけではないらしい。姉と同室だったバーバラも外に出ていた。
物思いにふけっているのか。邪魔をすまいとテリーは早々に部屋に戻った。
自室の隣の姉の部屋を通り過ぎた、その時。

「バーバラはどうした?」
姉の部屋から、ハッサンの声が聞こえた。
「…気を利かせてくれたみたい。シャワー浴びてくるわ。」

テリーは動揺していた。姉さんが?…「あの」ハッサンと?
ガチャリ。扉が開いた。
「…テリー?」
「あ…ね、姉さん」
ミレーユは寝巻き姿だった。こんな時間にこんな姿で懇意の男以外を部屋に招き入れるはずが無い。
「…聞こえてた?」
「あ…いや…盗み聞きするつもりは」
ミレーユは少し羞恥に頬を染め、目を伏せた。
「隣が少しうるさくなるかも知れないけど…早く寝てね。」
姉の言葉で、テリーは今から起こる事を確信した。
しかし同意の上でなら、「弟」には何も言えない。
「……おやすみ、姉さん。」
テリーは部屋に戻り、着替えもせずに布団に潜った。

眠れない。
胸の中に泥を流しこまれたような気分だった。
やがて、隣の部屋から「声」が漏れ聞こえてきた。
ギシッ…ギシッ…
「あ…あっ…」
ギシッ…ギシッ…
「アアン…」
ギシッ…
「…っく…ミレーユ……」
「…ッあ、……」

壁の向こうで姉があの筋肉隆々とした野獣のような男に抱かれている。
隣の部屋で起こっている行為がリアルに想像できてしまい、テリーは本当に気分が悪くなった。

朝食時、しばらくこの町付近を散策する…との話がレックからあった。
「まあ今日は骨休めもかねて自由行動なー。」
昨夜あまり眠れなかったテリーにとってはありがたい申し出だった。
今日は…少し一人になりたい。

「おはよう…みんな。」
ギクリ、とテリーの動きが止まった。
…姉さん。
「おはよう、ミレーユ。」
「うふふ、おはようレック。…みんな早いわね。」
ミレーユは朝だというのに妙に疲労が顔に出ていた。
テリーは彼女の目が見れなかった。

…昨夜、ハッサンに散々求められ、喘がされたミレーユ。
辛そうな声。快楽にむせぶ声。
テリーの知らぬ「女」としてのミレーユがそこにいた。

なんだってあんな野獣のような男と…
テリーにはそこが理解できなかった。いや、理解したくないというべきか…

「よう、おはようさん!シケた顔してんなテリー!」

テリーが今一番顔を合わせたくない男が、そこにいた。
妙にさっぱりした顔しやがって…
悪態のひとつも言ってやりたかったが、無言で部屋を出る。
ハッサンは気にも留めずにミレーユに話しかける。
「のど渇いてるだろミレーユ、昨日からアモールの水冷やしてあるぜ!」
「まあ…ありがとうハッサン、気が利くわね。」
とても、親しそうな会話。笑い声がテリーの背中から聞こえた。

ズカズカと足音荒くテリーは廊下を歩く。
「お客さん、おはようございま…ヒエッ!」
宿屋の主人がのけぞって道を開ける。
青い閃光と呼ばれた彼の顔は、今や怒りで真紅に染まっていた…
2013年05月23日(木) 23:23:24 Modified by moulinglacia




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