「ねぇ、れーな」

「なん?」

放課後の教室。
さゆみとれいなは所在なさげな表情を何も書いていない黒板に向け、
教務室に呼び出された絵里の帰りを待っていた。

「暇なの」とさゆみ。

「じゃぁ、しりとりでもする?」

「うわぁ、高校生になってまでしりとりとかないわ。センス無(な)」

「じゃぁ、さゆは何かセンスあること思いつくと?」

「もちろん! さゆみは生まれてこの方、センスと見た目でしか生きてきてないの」

「さりげなく見た目も入れてくる辺りがセンスないと思うっちゃけどね」

「うるさい、ポークビッツ。黙れ、おやつカルパス」

「な…………」

「あ、そうだ。れーな、10回クイズって知ってる?」

「………………」

「ねぇ、れーな、さゆみ聞いてるんだけど?」

「…………ぐすん」

「えぇ!? 泣いてるの? 今さら、そんなことで傷つかないと思ってたのに」

「こないだ絵里に『なんか手応え……いや、膣応えがないんだよな』って言われたと」

「そのワードセンスは面白いけど、たしかに地味に傷つくね……」

「さゆも、小さいのは嫌いと???(うるうる)」

「や、そんな一昔前のCMのチワワみたいな感じで見つめないでよ///」

「ねぇ、嫌い???(うるうる、うるうる)」

「ど、どうする……? さゆみん……?」


時計の針は午後5時を回っている。
相変わらず、さゆみとれいなは2人並んで黒板を眺めていた。

黒板って本当は緑色なのに何で「黒」板って言うんだろう?

などと、もう何千回と思い浮かべて来た感想を繰り返しながら。


「ねぇ、さゆ」

「なに?」

「ヒマ」とれいな。

「だから、さっき10回クイズやろ、って言ったじゃん」

「10回クイズってなん?」

「えぇ!? れーな、知らないの? さゆみ的にはしりとりより今さら感強いんだけど」

「だ、誰にだって知らないことの1つや2つくらいあるやろ///」

「え、ほんとにやったことも聞いたこともないの?」

「ないとよ」

「へぇ。今時そんな子もいるんだね。
 ま、いいや。じゃ、れーな、シャンデリアって10回言ってみて?」

「なんで」

「や、そんなキレ気味で言われても。それが10回クイズのシステムだから」

「はぁ、10回クイズってそんな面倒なシステムと? ゆとり世代には荷が重すぎやろ」

「どんだけゆとってんの……とりあえず、ほら、シャンデリアって10回言って」

「はぁ……シャンデリア、シャンデリア、シャンデリア………………」

「はい、じゃぁ、毒リンゴを食べたのは?」

「シンデレラ!」

「ブブー。残念。正解は白雪姫でした」

「え? 毒リンゴ食べたのは……あ、そうったい! 白雪姫やん!
 え、なんで、れーなシンデレラって答えてしまったと!?
 あ、そうか! シャンデリアって言ってたから、それに引っ張られて……
 うわっ! なにこのクイズ! ちょー面白いっちゃけど!!
 ねぇ! さゆ! もっと出して! もっと! もっと!」

「えぇ……今どき10回クイズでここまではしゃげるとか。ちょっと引くんですけど」

「ねぇ! さゆ! もっと!」

「ま、なんか、これはこれで可愛いし、退屈しのぎにはなるか。
 はい、じゃぁ、れーな。ピザって10回言って?」

「ピザ、ピザ、ピザ、ピザ………………」

「じゃぁ、ここは?」

「ひざ!!!
 ……じゃぁ、ないっ!!! ひじ、やったとぉ!!! また、引っ掛かったぁ!!!
 はい、さゆ! 次!!!」

「クリームって10回言って?」

「クリーム、クリーム、クリーム………………」

「じゃぁ、ボディチェンジでカエルと入れ替わったのは?」

「リクーム!!!」

「ブブー。残念。正解はギニュー隊長でした」

「あぁ!! そうったい! でも、隊長ってことはわかってたとよ!?
 ただ、クリームっていうのに引っ張られて……って、そういうクイズやったと!!」

「はい、じゃぁ、プランクトンって10回言って?」

「プランクトン、プランクトン、プランクトン………………」

「じゃぁ、ツェッペリンのギタリストは?」

「エリック・クラプトン!!!」

「ブブー。残念。正解はジミー・ペイジでした」

「うわぁ!! また間違えたと!!
 確かに、プランクトンとクラプトンって何か似てるな、って日頃から思ってたと!
 って、ん? いや、ちょっと待って、さゆ。もしかして、今回の問題って、まさか……
 うわ、すご! 一個前のクリームの問題が、間接的にクラプトンに繋がってる!!!」

「や、それは完全なる副産物だし、繋がってたからってなんの意味もないでしょ」

「いやぁ、奥が深いっちゃねぇ、10回クイズ。
 ねぇ、もう1問出して、さゆ?」

「はぁ、じゃぁ、これが最後の問題ね」

「(わくわく)」

「最後は大人の10回クイズです」

「お、大人の10回クイズ??(わくわく、わくわく)」

「葉っぱ、って10回言って?」

「葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ、葉っぱ………………」

「じゃぁ、セックスの体位の総数は?」

「64!!! いや、69!!!」

「ブブー。残念。正解は48手でした。てか、ほんと学ばないね、れーなは」

「あぁ!!! 葉っぱに引っ張られたとぉ!!
 ギリギリのところで69にシフトしたけど、
 でも、それも6っていう数字に引っ張られてしまっていたっちゃね……
 もし、64の4の方に引っ張られてたら、48、いけたかもしんないのに……

「葉っぱに引っ張られるのはわかるけど、
 その数字に引っ張られる感覚、さゆみにはわかんないわ」

「てか、69それ自体が、もう48手の中の一つやもんね。
 あーあ、結局、1問も正解できなかったと」

「正式には48手の中では、69じゃなくて『二つ巴(ふたつどもえ)』ね」

「フタツドモエ?」

「うん。やっぱ、れーなは馬鹿可愛いの」

「にししww バカ可愛いって、バリ可愛い、みたいな感じやろww」

「うん、そうだよ」


さゆみが優しい目でれいなを見つめていると、「おっまたせぇーい!!!」と絵里が教室に飛び込んできた。
が、さゆとれいなが2人並んで座っているのを見て、あっという間に眉間に皺が寄る。


「2人で何してたの!?」と絵里。

「何もしてないの」

「10回クイズしてたと」

「10回クイズ?」絵里は首を傾げる。

「え? 絵里は10回クイズも知らないと?(にやにや)」

「だ、誰にだって知らないことの1つや2つくらいあるでしょ///」

「ねぇ、さゆ。絵里にも出してみてよ、10回クイズ!」

「れーなもやり方はもうわかったでしょ。自分で出しなよ」

「やり方、忘れたと」

「さぁ、さゆ! 遠慮はいりませんよ! かかって来なさい!!」

「はぁ、ほんと馬鹿可愛いと阿保可愛いに挟まれて、さゆみは幸せものなの。
 はい、じゃぁ、いくよ。シャンデリアって10回言って?」

「なんで」

「そういうシステムなんやって(にやにや、にやにや)」

「えぇ? そんな面倒なシステム、ゆとり世代には荷が重すぎ――…………


静かな校舎に笑い声が響き渡り、今日もまた同じように陽は暮れていく。





馬鹿と阿保と10回クイズ 完
 

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