2月1日。ワシと香音ちゃんが一緒に夕食を摂っている途中、香音ちゃんがハシを皿に置いた。

「香音ちゃん、どうしたんじゃ?」
「うーん……なんか、お腹が痛いんだよね」
「またか? ここ最近多いのぉ」

ワシが不安気に言うと、肩をすくめて、

「勿体ないけれど、ご飯は残すんだろうね。ね、里保ちゃん、今日も悪いんだけど……」
「夕飯の後片付けじゃろ。ちゃんとやっておくから、香音ちゃんは休んでくれぃ」
「うん。ごめんね」

香音ちゃんが寝室に行くのを確認して、ベッドで横になる音を聞いてから。
ワシは香音ちゃんが半分残したカレイのムニエルを一口で頬張った。

「香音ちゃん大丈夫かのお……」

呑気に食べているように見えながら、自分の声音は心配そのものだった。


食器を洗い、体調の良くない香音ちゃんを慮って、リビングでテレビもつけずに静かに雑誌を読んでいると。

「……ん?」

寝室からなにか話し声が聞こえた。
もしかして香音ちゃん、フクちゃんとでも電話しているのか? 安静にしていないといけないのに……、そうやきもきして。
その約10分後。

「あっはっは♪」

何故か笑いながら香音ちゃんが寝室から出てきた。

「ど、どうしたんじゃ?」

雑誌を置いて、戸惑いを隠せずに立ち上がると、

「里保ちゃん。あのね、」
「うん」
「さっき破水しちゃった」

あっけらかんと答えられて一瞬意味が分からなかった。
しばらくして。

「……どええっ!?」

ワシは大いに驚いた。

「え? 破水? ってことはもう産まれるのか!?」

オロオロしながら変な動きをするワシを余所に、香音ちゃんは至って冷静で。

「落ち着いてよ里保ちゃん。さっき病院に電話して、破水しました、って言ったら、すぐに来てください、って」
「あ、あ、当たり前じゃけぇ!」

思わず叫びに近いツッコミを入れる。

「と、取り敢えず車で送るわい、えっと、えっと、最初に車のキー……あれ、どこにいった?」

ワシの慌てふためきようを見て、香音ちゃんは呆れたように、

「タクシーを呼ぶから、里保ちゃんは落ち着いてから来るんだろうね」

そう言って、タクシー会社に電話をかける。
電話は簡単に終わり、用意しておいた出産入院用のグッズを詰めたカバンを手にする香音ちゃん。
それから破水で汚れたシーツを取り替えようとしたので、少し乱暴気味にそれを香音ちゃんの手から奪う。

「そんなもんワシがやるけぇ、香音ちゃんはソファで楽な姿勢になっとるんじゃ」
「そう? お願いするね」

ワシが下手なベッドメイキングをしていると、タクシーが来たらしい。
香音ちゃんに、ワシも直ぐ追い掛けるけぇの、と言ったら、

「里保ちゃん、大通りを左に曲がってしばらく進むとある産婦人科だからね。右に曲がってすぐにある総合病院じゃないからね」

念のため、のように言ってから、

「じゃあ行ってくるね」

と、カバンを片手に部屋を出ようとする。
未だ動揺気味のワシを見て、香音ちゃんはゆっくり近づいて来た。
そして、頬を優しく包まれ、控えめなキスを一つだけされる。

「 ̄ ̄ ̄ ̄今度帰ってくるときは、赤ちゃんと一緒だよ。ね、パパ」

恥ずかしそうにそれだけ言って、香音ちゃんは家から出た。


ワシは。
大急ぎでシーツを洗濯乾燥機に投げ入れ、コートを羽織ると、車のキーを部屋中探し、結局30分ほど経ってから、羽織ったコートのポケットにキーを見つけることが出来た。
法定速度をギリギリ遵守する速度で車を走らせ、香音ちゃんが言った通り大通りを左に曲がった先にある産婦人科に到着する。
もどかしい気持ちで駐車場に車を停めて、走りながら院内に入る。
夜間受付にいた病院スタッフに、鞘師香音の旦那です、と告げると、香音ちゃんは本陣痛を向かえていて。
先ほど、予約していた、陣痛室と分娩室、それに回復室が一つになった、LDR室に、もう入っていたらしかった。
急ぎ足で部屋に向かうと、LDR室に入ろうとしていた助産師さんに、

「産まれるまで半日はかかりますよ」

と言われたが、

「香音ちゃんと一秒でも長く一緒にいたいんですじゃ!」

ワシの強固な一声で、入ることを許可された。
中に入ると、

「鞘師さん、全身の力を抜いて。息を吐くことに集中を」

と言う助産師さんの言葉と、鼻から息を吸って口で吐く、いわゆるヒッ・ヒッ・フー、と呼吸している香音ちゃんがいた。

「香音ちゃん!」

思わず駆け寄ると、助産師さんがワシに気付き、

「あ、旦那さんですか? 奥さんの腰をさすってあげてください」

と言われる。
手を差し入れ、少しでも痛みが緩和するように願いながら、腰をさすると。
それまで目を閉じていた香音ちゃんが、ゆっくりと目を開けた。

「里保、ちゃ……ん」
「香音ちゃん辛い、じゃろうな……ワシが変わってあげたいくらいじゃ」
「大丈、夫……側にいてくれるだけで、心強いから……」

腰をさすったり、ミネラルウォーターのペットボトルに曲がるストローを刺して、香音ちゃんに飲ませたり……と、ワシは自分ができる限りのことをやった。



どれだけの時間、そうしていたのだろう、 ̄ ̄ ̄ ̄。ただ、日付けが変わったことだけは、ぼんやりと分かった。

担当の女医先生が香音ちゃんの脚の間を見て、

「子宮口が全開大になりましたね。鞘師さん、もういきんでも良いですよ。なるべくリラックスしてくださいね」

そう言われ、香音ちゃんは片手は分娩台に固定されている、掴まる棒を、もう片手は、 ̄ ̄ ̄ ̄ワシの手を強く掴んだ。ワシも強く握り返す。

「んうーっ!」

陣痛の波に合わせて、香音ちゃんはいきみ始める。アゴを引いて、強くいきむ。
時折、助産師さんからいきみストップの合図があり、香音ちゃんは、その間は力を抜いて短促呼吸に切り替える。

「香音ちゃん頑張るんじゃ!」

手を握り、声援を送ることしかできない自分をもどかしく思いながらも、ワシは香音ちゃんを見守る。
 ̄ ̄ ̄ ̄強くいきんで、短足呼吸をして、の繰り返しで。
その姿はとても痛そうで、辛そうで。
ワシはいつの間にか涙目で香音ちゃんを見ていた。

「り、ほ……ちゃん」

握っている手に、より強い力が込もった。

「なま、え……名前……」

苦しそうに息を吐きながら言うので、

「香音ちゃん、ワシはおるぞい香音ちゃんっ」

エールも込めて名前を呼ぶと、フルフル、首を横に振られた。
香音ちゃんは、閉じていたその大きな瞳を開き、ひた、とワシを見る。

「……考えていた、と言ってたよね……。赤ちゃんの、名前……ああっ! うーっ! …………ね、教えて?」

辛そうに話すその姿に。ワシは浮かんだ涙を乱暴に擦って、香音ちゃんと見つめ合う。

「 ̄ ̄ ̄ ̄まりあ、じゃ。真莉愛、と書くけぇ。……世界で共通して、沢山の人に愛される子になってほしい、
  ̄ ̄ ̄ ̄。……そんな想いを込めたんじゃが、どうじゃ……?」

はっはっ、と激しく呼吸しながら、

「真莉愛……。良い名前だね。 ̄ ̄ ̄ ̄真莉愛、もう少しあたしと一緒に頑張ろうね……。ううーっ!」

再び目を閉じて、香音ちゃんはいきむ。
長い時間、強く握り合っていたので、手は汗ばんでいたけれど、それでも互いに離そうとしない。
ワシは香音ちゃんの手を両手で包んで、

「頑張るんじゃぞ、香音ちゃん!」

と、力強くエールを送る。 ̄ ̄ ̄ ̄それはまるで祈りの姿のようだった。
否、実際にワシは祈っていた。 ̄ ̄ ̄ ̄香音ちゃんと真莉愛が無事でありますように、と。



1時間? 2時間? どれだけの時間が経ったのか、ワシには分からなかった、 ̄ ̄ ̄ ̄。

「赤ちゃんの頭が出てきましたよ」

とか、

「鞘師さん、あと少しですよ!」

とか助産師さんが遠くで言っていた気がする。
ワシの意識がハッキリしたのは、部屋中に響いた、

「おぎゃー!!」

という泣き声だった。

「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」

助産師さんの明るい声を掻き消すように響き渡る、赤ちゃん、 ̄ ̄ ̄ ̄真莉愛の泣き声。
長く続いていた緊張が解け、脱力しそうになるが、なんとか顔じゅう汗だらけの香音ちゃんと顔を合わせる。

「……よく頑張ったの、香音ちゃん」

それだけしか言えず、優しく香音ちゃんの顔の汗をタオルで拭いた。

この後、後産期といって胎盤が出る時期があるらしい。
香音ちゃんは抜け殻のようにぼーっとしており、助産師さんたちはテキパキと動いている。

少ししてから、女医先生が、

「母子共に安定していますね、赤ちゃんを抱っこできますよ」

その言葉に、香音ちゃんはハッとして、

「赤ちゃん……抱かせてください」

と頼んだ。

へその緒が切られ、綺麗に拭かれた我が子に、小さく手を伸ばして助産師さんから受け取る香音ちゃん。
赤ちゃんは、ほぎゃほぎゃ泣いていたけれど、香音ちゃんに抱かれたら、

「ぱぴ・ぱぴ」

と直ぐに落ち着いた声になる。

「真莉愛……あたしと里保ちゃんとの子として産まれてきてくれて、ありがとう」

そう言って、微笑みながら静かに真莉愛の頭を撫でる香音ちゃん。

 ̄ ̄ ̄ ̄ワシにとって。その光景は、どんなに有名な画家が描いた絵画よりも神々しい、聖母画に思えた、 ̄ ̄ ̄ ̄。

「わ、ワシも抱かせてもらえんかのぉ?」
遠慮がちに言うと、香音ちゃんはクスリと笑った。





〜おまけ〜

香音ちゃんは真莉愛を産んだ翌日には個室の入院室に移っていた。
ワシはシーズン前をいいことに、一日中病院にいて、香音ちゃんと新生児室にいる真莉愛を見守っていた。

入院室に移ったその日の昼、病室のドアをノックされたので、香音ちゃんは真莉愛に母乳をあげて戻ってきた直後なので、ワシが「はーい」と返事した。
入ってきたのは、勤め先の制服に身を包んだ小田ちゃんと石田。

「なんじゃ、仕事サボってデートか?」
「「違います!」」

ワシの軽い冗談に、二人が綺麗にハモって否定する。

「今はお昼休憩なんです。それと配達先がここから近いので、香音さんに出産のお祝いを、と思いまして」
「腹が立つけれど……コイツと同じ理由で僕もやって来ました」
「……病院の玄関口でアンタとかち合った私の最悪な気持ちが分かります?」
「うわ、嫌味な女だな」

火花を散らしながら睨み合う二人に、

「まあまあ。お茶でも飲む?」

香音ちゃんがノンビリした声で、冷蔵庫からペットボトルの緑茶を出す。

「あ・いえいえ、お構いなく。今日の私はヤ◯ト運輸じゃなくて小田運輸の宅配人ですから」

そう言って小田ちゃんは、持っていた緩くギフトラッピングされた物を香音ちゃんに渡す。
受け取った香音ちゃんは、

「開けていい?」

と聞いて、小田ちゃんが頷くのを見てから包装を開いた。

「うわ……きれーい」

ラッピングの中身は、白いフリージアをメインに薄ピンクの小さなバラが散りばめられたウッドバスケット。

「2月2日の誕生花は白のフリージアだそうですので、それを花屋さんに伝えて作ってもらいました」
「嬉しい。早速飾るね」

香音ちゃんは嬉々とした声でサイドテーブルにウッドバスケットを置いた。

「僕も今は佐◯急便じゃなくて石田急便です。ちょっと重たいですから鞘師さんが受け取ってください」

そう言ってワシにラッピングもクソもない段ボールを渡す。……確かに少しずっしりとしている。
それもサイドテーブルに置いて、香音ちゃんがガムテープを開封する。
中身は……。

「……アンタ、出産祝いにコレはどうなのよ?」

小田ちゃんが心底呆れた声を出す。
これには石田、

「なんだよ、出産って体力すごく使うんだろ? だから食べて回復する意味もあるんだよ。食えない花なんかよりも、よっぽど実用的だろ!?」

負けじと力説する。

「だからって……お米を贈るバカは初めて見ましたよ」

そう、中身は5kgの米袋。香音ちゃんも、正直どうリアクションすればいいか困っているようだ。

「まあこれは香音ちゃんが退院したら家族で食べるわい」

ワシも微妙なフォローをする。

「バカは放っておいて。香音さん、宜しければ赤ちゃん見せてもらっても良いですか?」

小田ちゃんは、石田からクルリと振り返って、香音ちゃんに笑顔で尋ねる。

「うん、いいよ」

快諾して、全員で新生児室へと向かう。
大きなガラス張りになった新生児室の前まで来ると、中にいた看護師さんがワシらに気付いて、
見せやすいように、と真莉愛をベッドごと目の前まで移動させてくれる。

「うわー可愛い!」

小田ちゃんが黄色い声を上げる。

「どちらかと言うとママ似ですかね」

冷静な反応の石田。
4人であれこれ言っていると、廊下を歩いてやって来た看護師さんが、

「あら鞘師さん。……と、お友だちのご夫婦ですか?」

そう声をかけてきたので、

「「誰がコイツなんかと夫婦ですか!」」

小田ちゃんと石田の声がまた綺麗にハモった。



15時を少し回って、ワシがトイレから戻ると、香音ちゃんの入院室の前でバッタリえりぽんとフクちゃんに出会った。

「なんじゃ、二人も来てくれたんかい」

ワシがドアを開けるとフクちゃんを先に、二人も入る。

「聖ちゃんとえりちゃん!」

香音ちゃんが嬉しそうな声を出す。

「香音ちゃん、出産おめでとう。よく頑張ったね」

フクちゃんは優しく笑いながらベッドに近付く。

「はい、これ。ささやかだけれどお祝いね」

フクちゃんは小さな紙箱を差し出す。その箱を受け取った香音ちゃんは、

「あ! これ超有名なお店のマカロンだ! マカロン大好きだから、すっごい嬉しい!」

ニコニコしているので、ワシも幸せな気持ちになる。

「前に香音ちゃんがマカロンが好き、って言ってたからね。えりぽんに買ってきてもらったの」

フクちゃんが言うと、えりぽんは偉そうに、

「香音ちゃん感謝するっちゃよ〜。俺、それを買う為に行列に3時間並んだけんね」
「フクちゃんに言われたからじゃろ。えりぽんは使いパシリがお似合いじゃあ」

ワシが返事すると、

「なんじゃと里保」

ワシとえりぽん、軽い火花を散らす。
すると。ワシもえりぽんもポカリと互いのパートナーに頭を軽く殴られる。

「もー、えりぽんケンカ腰にならないの」
「里保ちゃんも。せっかくえりちゃんが並んで買ってきてくれたのに」

お互い無理矢理「ごめんなさい」をさせられた。

「ね・香音ちゃん、赤ちゃん見せてくれるかな?」

フクちゃんがサラリと話題を変えたので、再び4人で新生児室に行くことになる。
今度も新生児室にいる看護師さんがワシらの前に真莉愛を連れて来てくれた。

「あ〜、可愛い!」

フクちゃんが歓声を上げる。

「なんで赤ちゃんって見てるだけで心が和むんだろう〜」

フクちゃんの言葉にワシと香音ちゃんはウンウンと相づちを打つ。
すると、今まで黙っていたえりぽんが、スルリとフクちゃんの腰に手を回す。

「なら聖ぃ……俺らも、もう一人くらい作らんと?」
「やだ……えりぽん……」

赤い顔でえりぽんを見つめるフクちゃん。
…………おい。そういうのは、二人きりのときにやってくれんか?




あと30分で夕飯じゃな、そう思っている時間。
ドアがノックされ、今度は香音ちゃんが「はーい」と元気良く返事する。
入ってきたのは……吉澤さんと田中さんとさゆみさんと、あと最近仲良くなったはるなん。

「香音さん、ご出産おめでとうございます!」

はるなんが高い声で祝辞を言う。

「おーっす、仕事終わったから来たぞー」

吉澤さんが頭をポリポリ掻いてずんずん室内に入る。

「それぞれ出産祝いを持ってきたと」

田中さんが言って、さゆみさんが、

「香音ちゃん、おめでとう」

の声と一緒に包装紙に包まれた箱を香音ちゃんに渡す。

「みなさんわざわざ……なんだかすみません」

頭を下げる香音ちゃんに、

「いいから。開けてみてくれる? 気に入ってくれるといいけど」

さゆみさんが促す。
はい、と返事して包装紙を開ける香音ちゃん。
中に入っていたのは。

「わっ! 可愛い!」

ピンクのベビー服と水色のベビー靴下のセットだった。

「真莉愛に似合いそうじゃのう」

ワシも感想を述べると、

「なん、もう名前が決まっとると?」

と田中さん。

「はい。産まれる前から里保ちゃんが考えてくれていて」
「おー微笑ましいねぇ」

吉澤さんが茶々を入れる。

「私からはこれです」

はるなんが差し出したのは、全体的に薄い黄色(ハニー色とでも呼ぶんじゃろうか?)でデコレーションされた、おむつケーキ。

「やっぱり実用的なものが良いかな、と思いまして」

さすが現役の保育士じゃのう、と感心する。

「見た目も可愛いし一石二鳥で嬉しいよ、はるなん」

香音ちゃんも気に入った様子だった。

「よしざーからはこれね」

サイドテーブルにドン、と置かれたそれは。

「……こしのかんばい……」

香音ちゃんが化粧箱に書かれた文字を読む。

「あの……これ、日本酒ですよね?」

思わずワシも聞き返す。

「祝い事には酒だろ、やっぱ」

……香音ちゃんは母乳育児をするから、お酒は飲めませんよ。
……そうツッコミたかったけれど、吉澤さんの迫力が何も言わせられない。
…………ワシが少しずつ呑むか。

そう腹を括ったところで、全員で真莉愛を見に行くことになり、今度は6人でわちゃわちゃと見に行った。




全員が帰ると、部屋は一気に静かになる。
サイドテーブルには、みんなからの出産祝いが溢れんばかりに上に乗っている。

「香音ちゃん、今日は疲れたじゃろ?」
「ううん、そんなことないよ。みんながお祝いに来てくれたんだし」

香音ちゃんは、サイドテーブルに乗っている物を、目を細めて見る。

「みんなが、あたしを……そして真莉愛をお祝いしに来てくれたんだもの」

視線をサイドテーブルからワシに移動させて、

「本当に、里保ちゃんの想い通りの子になったね」
「へ?」

意味が分からずマヌケな声を出すワシに、香音ちゃんは眩しい笑顔を見せてくれた。

「 ̄ ̄ ̄ ̄真莉愛。沢山の人に愛される子になるように、って想いが、さ」

香音ちゃんの笑顔につられて、ワシも頬が緩む。

「そうじゃの……。産まれて1日で、こんなにも愛されとるのぉ」

二人で笑顔になって、見つめ合う。

「里保ちゃん、 ̄ ̄ ̄ ̄ありがとう」





ありがとう fin.
 

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