キッチンにて子供用のエプロンを着けて椅子の上に立ち、水を張った御釜の中のお米をちっちゃな手でワシャワシャとかき混ぜる優樹ちゃん
そばで御釜を抑えてあげたり、水を捨ててあげたり、研ぐのに疲れると交代してあげたりするさゆみさん
お米が研ぎ終わり、御釜を炊飯器にセットするとさゆみさんに抱っこされて優樹ちゃんがスイッチをピッと押す

「炊き上がるまで待ってよーね」
「まーちゃんもうおねーしゃんだからまてるよ!」
「あら、すごーい…じゃあ、お姉さんは待ってる間におもちゃのお片付けできるかなー?」
「できるー!」

優樹ちゃんは元気に返事をするとリビングに散らかったおもちゃを片付け始める
いつもはなかなか進まないお片付けなのだが今日はあっという間に済ませ、
「ごはんまだかなー?」「まーちゃんもうできたとおもう!」「ハハー、あけてー」と炊飯器のそばをウロチョロしだした

「ちょっ、全然待ててないじゃん、炊けたらピーッて鳴るから」

さゆみさんは優樹ちゃんが炊飯器のそばに来ないようブロックしつつ、夕飯の支度をする
しぶしぶリビングに引っ込む優樹ちゃん
しばらくするとさゆみさんの言う通り、炊飯器からピーッ!と電子音が

「できたー!」

すっ飛んできた優樹ちゃんはピョンピョン跳ねて「ハハ!あけて!」と催促する
さゆみさんがまた抱っこして炊飯器の蓋を開けると、モワッと立ち込める湯気の中から綺麗に炊き上がった白米がキラキラと輝いていた

「はぁあ〜〜〜…」

初めて自分で研いで炊いたご飯を見て溜息を漏らす優樹ちゃん

「わぁ…美味しそうだね、優樹!」
「おいししょ〜〜!」
「チチが帰ってきたら食べようね」
「うん!チチ、はやくかえってこないかなぁ〜」
「ただーいまー」

噂をすれば何とやら、玄関かられいなクンの声が聞こえてきた
優樹ちゃんはさゆみさんの抱っこから降りると玄関に向かってダッシュする

「チチー!」
「おー優樹ぃ、ただいm…」
「まーちゃんね、まーちゃんね、はじめてごはんたいたよ〜ん!」

おかえりもなく真っ先に報告する娘の勢いに仰け反るれいなクン
しかし嬉しい報告に笑顔になる

「おおー!凄いやん!」
「まーちゃんはおねーしゃんだからね!」

優樹ちゃんはエッヘン!と胸を張る
娘の成長に胸がいっぱいになったれいなクンが優樹ちゃんの頭を撫でてあげるとくくすぐったそうにイヒヒと笑った
一緒にダイニングへ行くと夕飯の準備が進められていた
丁度、優樹ちゃんの好きなイクラが乗った器をテーブルに置いたさゆみさんへただいまのキスをする

「さゆ、ただいま」
「おかえり、早かったね」
「うん、優樹が初めてご飯を炊いたけん早く帰りって体が予知しとったっちゃろうね!プレミアムサタデーたい!」
「それフライデーだし始まるのも来週。どうせ吉澤さんの気まぐれでしょ」

ワッハッハと調子に乗るれいなクンに苦笑いしつつ、3人の茶碗を食器棚から取り出す

「それでは初めて優樹が炊いたご飯をこれからよそいます。二人とも座って下さーい」
「「はーい!」」

元気よく返事する父娘
子供用の椅子に優樹ちゃんを座らせてれいなクンも着席する
程なくして目の前にご飯が盛り付けられた茶碗が置かれていく
綺麗に炊きあがっているご飯を見たれいなクンは、おお〜〜…と感嘆の声をあげた

「美味そうやん!」
「優樹、頑張ったもんねー?」
「ねー!だってまーちゃんもうおねーしゃんだもん!」

再び大きく胸を張る優樹ちゃんが可愛くて仕方ないのだが先程から聞くある言葉にれいなクンは眉をひそめる
そんな父のことなど露知らず、優樹ちゃんとさゆみさんは手を合わせて「いただきます」と言うのでれいなクンも慌てて手を合わせた

「チチ、たべてたべて!」
「よーし食べるとよー」

優樹ちゃんから期待の眼差しを向けられる中、れいなクンはご飯を掬い口に運ぶ

「んんっ!美味い!」
「ハハ、おいしいってー!」
「よかったねぇ、優樹ぃ」
「優樹もさゆも食べり!」

れいなクンに促され優樹ちゃんとさゆみさんも続く

「ムグムグ…おいひぃー!」
「よかった、ちゃんと炊けてて。ちょっとお水多いかなと思ってたんだけど」
「いや、丁度いいとよ。美味い、美味い」

優樹ちゃんのお手伝いによって大幅に手順が変わったわけでもないが少し心配だったさゆみさん
しかし夫と娘が美味しそうに頬張る姿を見てホッと胸を撫で下ろした



ノc|*` ヮ´)<やっぱまさきは天才っちゃね!
(* ^_〉^)ふヒヒ

ノc|*` ヮ´)<さゆ、タッパをいっぱい出して!
川*- 。.-)<タッパ?そんなの持ってきてどうすんの?
ノc|*` ヮ´)<みんなンとこに持ってって自慢してやると!まさきがご飯炊きの天才やって!
       …よしざーさんにフクちゃんトコと香音ちゃんトコ、飯窪に小田と野中やろ…

川*- 。.-)< ……

ノc|*` ヮ´)<生田も鞘師も尾形も今ちょうど海外におるっちゃんね、かわいそうにタイミングの悪かごだぁバイ!
        まぁあいつらには帰ってきた時に食わせてやるとして、あとは石田にもあげないかんやろ!
        あっ、そう言えば最近また新しく引っ越してきたカップルにも引っ越しの挨拶のお返しに…

川*- 。.-)<…れーなそれやったら親バカってかただのバカ親だからね?ほんっとにやめてよね!
ノc|*` Д´)<なんでいかんとよぉ?せっかくまさきの炊いたご飯やのに!勿体無かぁ…

川*- 。.-)<…でも毎日キャベツばっかりかじっちょったあのれーなが
         娘の炊いたご飯に感動してこんな親バカ発言までするとはね〜、
         見た目は相変わらず高校生のくせに…笑



夕食後、リビングのソファーでまったりテレビを見ているれいなクンとさゆみさん
初めてのお手伝いにはしゃいだ優樹ちゃんはさゆみさんに抱っこされて眠っている
そろそろベッドに連れて行けるかな?とさゆみさんが様子を伺っていると隣に座っているれいなクンがさゆみさんを呼んだ

「なぁ、さゆ?俺に何か言うことあるんやない?」
「何かって何を?」
「え、いやほら…そのぉ、ねぇ…」

どことなくソワソワしながられいなクンが言葉を引き出そうとするのだが、さゆみさんは思い当たる節がないので首を傾げる
焦れたれいなクンは自分から話を切り出す

「あのさ、今日帰ってからずっと優樹が自分のこと“おねーしゃん”って言いよったやん。これってもしかして…」
「え?…ああ!違う違う!香音ちゃんとこ行った時にまりあちゃんよりお姉さんだから優しくしてあげてねって、
 よくさゆみ達が言うからそれの影響だよ」

れいなクンが言いたい事を察してさゆみさんは慌てて否定する
それを聞いてれいなクンはガックリと項垂れた

「な、なんだ…てっきり二人目が出来たんかと…」

優樹ちゃんには弟妹がいるわけでもないのだが、自分が大人だと言いたかったのだろう
優樹ちゃんくらいの子供によく見られる言動である
それをれいなクンはさゆみさんが二人目を授かったと思ったらしい
しかしあまりにもれいなクンが残念そうにしてるのでさゆみさんは罪悪感を感じてしまう

「なんか、ごめんね…」
「えっ、どうしてさゆが謝ると?ただれいなが勘違いしただけやん」
「まぁそうだけど…」

さゆみさんが暗い顔をするので今度はれいなクンが慌てた
んー…と首を摩りながら深く座り直す

「家族が増えると…その分、大変さとか楽しさとかが増えるやん」

ポツリ、ポツリと言葉を紡ぎながらさゆみさんと手を重ねる

「そんでそれはいつくるんやろうなってワクワクしてる今も楽しいとよ」

そして優樹ちゃんの柔らかな髪をゆったり撫でる

「遠回りして一緒になれたれいな達が優樹という宝物を授かって、その成長を感じとう今がめっちゃ幸せっちゃもん。
 別に急いで次の幸せを掴もうとしとらんけん、そんな顔せんで」

優しい声色にさゆみさんは顔を上げる
ニッコリ笑ったれいなクンが腕を広げるとさゆみさんは優樹ちゃんを起こさないようにコテンともたれかかった
れいなクンは腕を回して二人を包み込む

「ひょっとしたら二人目はれいな達にヤキモチ妬いてるのかもしれんね」
「…なにそれ」
「仲良すぎやん!俺、入る隙なくない!?って」
「ふふっ…男の子なんだ」
「ん、これはアドリブ」

二ヒヒと笑うれいなクンの声
スヤスヤと聞こえる優樹ちゃんの寝息
愛しい人の腕の中に包まれている自分とその腕の中で眠る愛しい娘
ああ、なんて幸せなんだろうと思うと同時に、れいなクンの言う通りかもしれないと笑う

「確かになかなか隙がないね、さゆみ達」
「二ヒヒ、そうやろぉ?」
「でもほら、ここらへん」

さゆみさんは優樹ちゃんを指差し円を描く
その身体はさゆみさんの胸から腹の辺りを覆ってしがみついている

「優樹が包んでくれてるさゆみのお腹の中にいつか赤ちゃんができるんだよ」

れいなクンは思わず「あっ!」と声を上げた

「ホントやん!あったぁ、隙間ぁー!」
「いや、隙間はないけどね」
「じゃあ別腹?」
「スイーツじゃないんだから」

じゃあ何よーと言うれいなクンにさゆみさんは笑って

「さゆみ達から新しい幸せが生まれるんでしょ」

その笑顔があまりにも眩しく、慈愛に満ちていてれいなクンは見惚れた
照れ臭くなったさゆみさんは頬を赤く染める

「ふはは、最高やね」
「やめて、ちょっとクサすぎた」
「いや今の言葉は最高にカッコよかったし、さゆは最高に可愛いとよ」
「っ!」

一番弱い言葉にさゆみさんは耳まで赤くなる
愛おしさがこみ上げたれいなクンは顔を覗き込み名前を呼ぶ
絡む視線
どちらからともなく重なる唇
ゆっくりとお互いの唇の柔らかさと愛を確かめるように口づけ合う

すると、さゆみさんに抱かれて眠っている優樹ちゃんが身動いだ
二人は起こしてしまったかとキスを中断する

「んんぅハハぁ」
「ごめんね、起こしちゃったね?ネンネしてていいんだよ」
「んん〜〜〜」

グズる優樹ちゃんの額にさゆみさんはキスを落とし、トントンとゆっくり背中を叩いてあげる
優樹ちゃんはうっすら開いた目をクシクシと擦りれいなクンを確認するとその手を彼へと伸ばした

「まーもチュー、す、ぅ」

が、力尽きて再び夢の世界へ飛び立ってしまった
二人は顔を見合わせ、優樹ちゃんが起きないように小さく笑い合う

「なん、今の、めっちゃ可愛いやんっ」
「ふふっ多分明日、またチューしてたでしょって言われちゃうな」
「言われるやろうね。あーホントに可愛かぁ」

れいなクンは二ヒヒと笑い、伸ばされた小さな手を握りその甲にキスを落とす

「明日起きよったらチチといっぱいチューしような、優樹」

その光景が愛おしくてさゆみさんは目を細める
しかし、

「親バカ」

言って優樹ちゃんを抱いて静かに立ち上がった

「さゆだって、いま優樹のおでこにしたやん」
「ただのおやすみのキスだもん」

言い切られたれいなクンも「くっそー」と言いながら立ち上がり、寝室のドアを開ける
すれ違いざまにチラリとれいなクンを見やるさゆみさん

「さゆみにはさっきのキスの続き、してくれるんでしょ?」

上目遣いでそう言われ、れいなクンはすぐに顔を綻ばせて「もちろん」と答えた
優樹ちゃんをベビーベッドに寝かせて、二人の熱い夜はこれから始まる
そしてれいなクン一家に新たな幸せが訪れるのかどうかはまだもう少し先のお話





田中家の日常 勘違いと幸せと編 おわり
 

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