ある夜の話。
れいなが作ってくれたおいしいパスタをいただき、後片付けを終えたさゆみ達はいつも通り親子三人ソファーに並んだ。
テレビを見たり、ゲームをしたり、スマホやタブレットをいじったり、仕事の話をしたり、幼稚園のことを聞いたり、
そうやって三者三様くっついて好きなように過ごすのが田中家の定番で。

「え〜ウソぉ、それ本当の話?」
「マジマジw よしざーさんがカノジョさんに真っ逆さまに落とされ…」
「ふぁ〜…」
「ん、優樹おねむ?」
「うぅん…」

タブレットで曲を作って遊んでいた優樹が小さなあくびをした。
まだ眠くない〜と首を横に振るが目は開いていない。

「チチが抱っこしてやるけん、こっちきんしゃい。」

手を広げるれいなに擦り寄っていった優樹は、れいなの左腕を枕にして寝息を立て始めた。
普段は気分屋でマイペースで騒がしいと感じる時もあるのに、いざ眠りに入ると本当に天使みたい。
娘の寝顔を夫婦で眺めて夫婦で微笑みあう、なんか幸せってこういう些細なことなのかも。
その愛しい寝顔の邪魔をしないようにリモコンでテレビの音量を下げる。

「ベッドに寝かせる?」
「いや、もうちょっと抱っこしてたか。」
「そう。」

起こさぬように優樹の前髪を直して天使の寝顔と一緒に自撮りするれいな。
後でその写真をさゆみのスマホに送ってもらおっと。



―それから少しして、テレビに飽きてスマホを見ていたら…。

「いでっ!」

さゆみがショーパンなのを良いことに勝手に太ももを撫でたれいなの右手を強めに摘む。

「親しき仲にも礼儀あり、って言葉知ってる?」
「ただのスキンシップやん、ケチ!」
「ケチで結構なの。」

さゆみがバッサリ斬り捨てたせいで口を数字の 3 みたいにして膨れるれいな。
いつまでも子供みたいでワガママで、そういうところは学生時代から変わらないなと思う。
そして、摘まれて赤くなったれいなの手の甲を何気なく見ていたら、さゆみはあることに気付いた。

「れーなって指輪右手にしちょったっけ?」

優樹の誕生日。そして結婚記念日でもあるアノ日に貰った、れいながデザインしてくれた婚約指輪。
さゆみは当然ずっと左手の薬指にしてるんだけど、れいなは何故か右手の薬指にしていてた。

「んー?あぁ、そうやね。」
「前は左手にしてたでしょ?」
「うんしてた。でもそんな深い意味はないんよ?たださぁ…」
「?」
「この前気付いたんやけど、れーなってさゆの左側におること多くない?って。」

一瞬その言葉の意味を理解できなかったけど、よくよく考えれば今もれいなは左側に座ってた。

「そうすると自然とさゆと手繋ぐときは、れーなが右手でさゆが左手になるやろ?」
「うん。」
「で、手繋ぐとれーなはさゆの指輪をいつも感じとるんよ。」
「そう。」
「なんかこう…さゆと一緒になれた、っていまだに確認しとるというか。」
「ふーん…。」
「いやまぁ確認せんでも手繋いどうから隣におるんやけどw」

さゆみは料理をする前に手を洗うときや指輪のお手入れをするとき以外は肌身離さず付けているから、
ほぼ付けてる感覚もなくなっていて…れーなはそう思ってたんだ。

「だかられーなは右手につけて………さゆにも感じて欲しかったんかもしれんと。」
「…」

れいなは、「右手の薬指は恋人の証って言うし…」と、照れ笑いを浮かべた。
エヘヘって笑うと猫みたいに目がなくなるのよね〜。

それにしても…結婚して、夫婦になって、優樹が生まれて、親になっても恋人…か。


「じゃあ、手繋ご?」
「いいと?さっきダメって…」
「さゆみが良いって言っちょるんやから良いの。」

さゆみが左手を差し出すと、れいなは指一本一本を絡めて恋人繋ぎにする。
小っちゃくて白くて細いれいなの手。本当に女の子の手みたい。

「どう?さゆは指輪感じとう?」
「…感じるよ。」

二人で繋いだ手を目線まで上げて、絡み合った指をまじまじと見つめる。

「指輪同士でキスしちょるみたい…」
「あっ、れーなも同じこと思ってたっちゃん。」
「本当に?」
「ホントのホント!やっぱりさゆとれーなは心も通じとるんやね〜。」
「調子の良いこと言って…」
「えー信じて欲しかぁー」

口が悪くて素直じゃないさゆみはついれーなには意地悪したくなっちゃうのよね。
昔は片想いしてたくせに、自分でも嫌な女だなぁって思うんだけど…。

「もし本当に心が通じてたらさゆみもれーなの考えが分かるはずよね?」
「そうっちゃん。」
「じゃあれーなは今したいことを考えて?さゆみがそれを読み取るから。」
「おっいいね、やるやる。」

目を瞑りながらムゥ…と考え込むれいなを横目に、しっかり繋がれた手と指輪を見つめるさゆみ。

「…分かった。」
「おっ!分かった?なになに?」
「正解は…『さゆとキスしたい』…でしょ?」
「えー?なんで分かったとー?さゆマジで心読めると?エスパーなん?」
「なわけないでしょ。本当は全然れーなの心なんか読んでませーん。」
「え?じゃあなんで?」

頭の周りに?マークを何個も浮かべてるれいな。
アホアホで間抜けだけど…そこがれーなの可愛いトコロ。大好きなトコロ。


「…さゆみがキスしたいから。それだけ…」


れいなの目を見つめながら静かにそう言って、さゆみの方からゆっくり唇を奪ってやった。
いつもはれーなの方からするのが定番だから少し驚いてるみたい。
唇と唇を優しく重ねて、じっくり角度を変えながら食んでから、れいなの唇の先に吸いつく。
さゆみにされるがままでポワワンとしてるれいなは、柔らかい唇を差し出してキスに夢中になってる。
半開きになった口に舌を差し込んで歯列やはぐきをなぞってからベロを捕まえる。
ヨダレが溢れそうになるのも気にせず激しく舌を絡ませると、「んっ…」とれいなが小さく鳴いた。
よっぽど気持ちいいんだろうな。子猫みたいでカワイイ。

そのままジュルジュル、ネチャネチャと下品で卑猥な音を立てながら、時間も忘れてれいなを求めた。
そして、やっと気が済んださゆみはれいなの唇を解放してあげた。
力が抜けハァ、ハァ…と荒い息を溢すれいなの横で、どうだ参ったかと口を拭う。

「さゆさぁ…キスうますぎやない?」
「そう?」

よくれいなはさゆみのカラダを開発したって自慢してるけど、さゆみだってれーなを開発してるんだからね?

「うん、ヤバかった…」
「いつもされてる仕返しなの。」
「こんな仕返しなら毎日でも良いっちゃけどねw ニシシw」
「んふふっw」

楽しくて繋いだ手をギュっと握ったら、さゆみも緊張してたのか結構な手汗をかいてたことに気付いた。
これが手でするキスのヨダレかな?なんてジョークを思いついたけど、オヤジ化したれいなみたいだから止めておく。

「さて、攻守交替やと!」
「えーさゆみのコールド勝ちで良くない?」
「いや!れーなが必ず逆転サヨナラホームランを打ってやると。」
「ふーん、随分自信満々ね。じゃ、やれるならやってもらいましょ?w」
「後悔しても知らんとよ?w 観念するっちゃ、さゆ…。」

二人でお得意の悪ノリをしながら、また唇を近づけていく。
すると、


「ブゥー!!」

「「へ?」」

「またチチとハハだけチューするですかー!」

さゆみでなければれいなでもない声、それは当然…。

「ま、優樹起きてたの?」
「おきてたぁ!」
「いつからやと?」
「1かいめのチューするときからぁ!」
「まーた見られてたっちゃか…」

気まずそうにするれいなは良いとして、明らかに不機嫌な態度の優樹。
さゆみとれいな二人だけの世界に入るとよく嫉妬しちゃうんだよね。

「ごめんね優樹、別に優樹のことを忘れてたわけじゃないからね?」
「そうったい。チチとハハは優樹のこと一瞬も忘れてなか。」
「………わ」
「「ん?」」

何かを呟く優樹。

「どうしたの?」
「…ゆびわ」
「指輪?」
「うん…まさもほしい…」

そんな寂しそうな顔しないで、と思わず抱きしめたくなる。

「そっか…でも、優樹も将来大人になったらきっと貰えるよ?」
「チチから?」
「ううん、チチとハハ以外の、優樹の大好きな人から。」
「まさのだいすき…?」

う〜ん、と顎に手を当て考え込む優樹。

「………浮かんだ?」
「…うん。」
「それなら、その大好きな人から指輪が貰えるように優樹は女を磨かなきゃね?」
「まさ おんなみがくー!」
「いや女とか、そういうのはちょっと早いんやない?」
「れーなは黙ってて。」
「ねぇハハ!おねがいがあるの!」
「なに?」


……………


ヘックシ!!

「あら寒い?」
「ハナがムズムズしただけー」

〜♪

「あれっこんな時間に…さゆみさん?…はい、みずk…」

『どぅー!!!ゆびわちょーだーーーーい!!!』

「キャッ!」
「うわぁ!まーちゃん!?」


……………


「やっぱり優樹は遥くんが良いみたいだよ?w」
「ふんっ、面白くなか…!」

膨れたれいなのほっぺを、繋いでいない右人差し指で押したらプスッと空気が抜けた。





田中家の日常 右手につけたリングの意味編 おわり (改訂版)
 

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