(80-365)生田家の未来の日常 保健室の聖せんせー編
昼休みの保健室。
カーテンで周りを仕切られたベッドに座り、まーちゃんと片方ずつつけているイヤホンを外しながらカーテンの向こうの様子を伺う。
「あ、またかーちゃんが誤魔化してくれたっぽい。よかった…」
いつからか俺のファンを自称する女生徒達が現れた。
休み時間中も俺の後ろを付いて来るようになり、その人数もだんだん増えてきて正直ウザったい。
だからせめて昼休みは自分の母親でもある聖先生がいる保健室にまーちゃんと待ち合わせして二人だけの時間を過ごすようにしている。
今日も聖先生が上手く躱してくれたようだ。
世間に通用する顔はツライぜ…なんちってw
「そんなこと言ってホントはあの子たちのとこ行きたいんでしょ？」
ホッとしているとすぐそばで棘のある言葉が聞こえてくる。
振り返るとまーちゃんが不機嫌そうな顔をして爪をいじっていた。
「まーちゃんが嫉妬」
「違います」
「イテッ」
ペチッと腕をはたき、手の中にあるイヤホンを奪われた。
怒ってんな、こりゃ。
「もぉ〜…すーぐそうやって拗ねるぅ〜」
「拗ねてません」
目も合わせず、唇をへの字にさせてスマホのアプリを操作している姿はどう見ても拗ねている。
ついさっきまで一緒に笑って音楽を聴いていたはずなのになぁ…。
「拗ねてるよ。いてほしいならそう言えばいいじゃん」
「いてほしくないし」
「でも『行くな』って顔に書いてあるからね」
ズバリ当たったようで、まーちゃんは頬をゴシゴシ擦りながらさらに顔をしかめる。
いや、ホントに顔に書いてあるわけじゃないよw
彼女の不機嫌さは増していくのだが、そんな仕草と伏せられた睫毛、尖らせた唇が可愛らしくてこの現状に困りつつもその横顔に見惚れていた。
幼い頃からずっとそばにいてお互いの顔なんて飽きるほど見ているはずなのに、なんでだろ…。
もっと近くで見たくて顔を覗き込む。
チラリと一瞬だけ視線が合ったけどすぐに逸らされる。
構わず近付くと顔を背けられた。
その隙に片方のイヤホンを奪い返す。
「ちょっと触んないでよ」
「いつの間にかまーちゃんが使ってるけどこれ俺のイヤホンだかんね」
「むぅ…」
「はるかー！かーちゃん借りてくから留守番頼むぞー！」
イヤホンを付けようとしたら学校にはいないはずの父・衣梨奈の声が聞こえた。
妻である聖先生を連れ出して二人だけの世界に行くらしい。
「またかよー！」
ふてくされた声で叫んだけど昔からこんなことはしょっちゅうなので慣れっこだ。
現在も変わらずにラブラブなのは喜ばしいことだが、母親の職場が学校でその生徒でもある息子に教室の留守番をさせて自分たちはどこぞで愛を交わすというのは我が親ながら大分パンチが効いている。
「はぁ…結局ここにいなきゃいけなくなったか…」
「ほらやっぱりみんなのとこ行きたいんじゃん」
「別に行きたくないってば」
「だってここにいるのは今留守番任されたからでしょ？」
「それもあるけど…そもそも俺が《ここ》にいる理由はちっちゃい時から変わんないよ」
「…なにそれ」
「俺はまーちゃんがいる《ここ》にいたいの」
「……」
「わかってるくせに」
ーー恋くらい
ーー知ってて 当然
イヤホンから流れてくる歌詞に違う曲へ進んでしまったことに気付く。
軽快なリズムに乗って二人の少女が歌い上げる。
「………」
睨まれてるのか見つめられてるのか…。
冷静を装ってるつもりだけど上手く出来ているかはわからない。
そういえばこの少女デュオ、片方の歌声がまーちゃんと少し似ているかも。
「のわっ！」
歌の世界に意識を集中していたら急に視界が反転した。
目の前には天井とまーちゃんの黒い髪が見える。
驚いたけど身体に回された腕で抱きしめられている事に気付いてドキドキが勝る。
「なんだよもう…急に抱きつくとか反則……拗ねてたんじゃないの？」
「……イヒヒwもう拗ねてない」
「やっぱ拗ねてたんじゃん」
「イヒヒヒw」
不機嫌そうな顔はどこへ行ったのか…やっと目が合ったまーちゃんはケラケラと笑う。
これはさっきの言葉の真意が届いたのかな…？
「好き好きっすー キスをくーだーさーいー♪
好き好きっすー キスはコーションねー♪」
機嫌の直ったまーちゃんは二人の少女と一緒に歌う。
抱きつかれた拍子にイヤホンはどっかにすっ飛んでったけど、やっぱり歌声が似てると再確認する。
「好き好きっすー キスはひーとーりーじゃー♪
好き好きっすー 誰もでーきーまーせんー♪」
クセになる歌詞とメロディー、それを楽しそうに歌うまーちゃんが可愛くて綺麗な黒髪に手を伸ばした。
サラサラと指に通して流れる髪が気持ちいい。
小さい頃から振り回されてるけど、目を細めてくすぐったそうにしているこの子が愛おしいと思った。
「どぅー」
「ん？」
返事をしてすぐに、唇に柔らかな感触と離れて行くまーちゃんの顔。
えっ…？ちょっと待って、いま、口と口が…えっ？えっ？
「イヒヒヒw」
「はっ？ぇえっ……いま、キッ、キスッキ、ッス、した？」
「うん、ごめんなさいのキス」
「なんっ、なんで？え？…」
「だって、どぅーの顔に『キスをください』って書いてあったんだもん」
「えええっ！？」
キス自体は初めてじゃないけど突然の事でさすがに飛び起きた。
いや確かに愛おしさとちょっとそーゆー気持ちも持ちましたが、それホントに顔に出てた！？
「確かにキスは一人じゃできないもんね〜」
目を白黒している俺の首にまーちゃんは腕を絡めて悪戯っ子の笑みを浮かべる。
チクショウ…やっぱり可愛い…。
ぐぬぬ…ってる間にまーちゃんはチュッチュとキスの雨を降らす。
「あの、まーちゃん…ここ学校だよ？」
「知ってる」
「さっきまで拗ねてたのに甘えてくるの早くない？」
「それがまさだもん」
「でもやっぱり学校の保健室でこれはちょっと…」
「えー、うぃくたさんとふくぬらさんも同じことしてるじゃん」
……それもそうだけど。
「だからって」
「ねぇもういいからさ」
俺の言葉を遮り上目遣いで口を尖らせる。
「どぅーもしてよ」
ハイ、やられましたー。
「……それもっと反則だからね」
まーちゃんの頬に手を添えて顔を上げさせゆっくりと唇を寄せる。
大人のキスはまだしたことが無いから出来るのは触れることだけだけど、ありったけの気持ちを込めて口付ける。
満足してくれたのかニッコリ笑ったまーちゃんはさらに身体を密着させてきた。
なるべく意識しないようにしてたけどさっきから当たってたまーちゃんの柔らかい部分がさらに当たっているわけで。
ムクムクと頭をもたげたそーゆー気持ちに従って彼女の首筋にキスを落とす。
「ンフフッ…」
さっきとは違う、色っぽい声でくすぐったがるまーちゃん。
機嫌の悪い時は冷たく全てをシャットアウトし、機嫌の良い時はニコニコ笑って身体を擦り寄せてくる彼女はなんだか猫みたいだ。
猫……
猫といえばまーちゃんのチチさんも猫みたいだってまーちゃんもハハさんも言ってたからこの性格はチチさん譲りか…？
瞬間、俺の頭の中いっぱいに鬼の形相のチチさんが広がった。
「っ！！……うん、待ってまーちゃん、やっぱここまでにしよ。」
「えーっ！なんでよーーっ！」
あなたのお父上に頭ん中でど突き回されてるナウだからです。
「どぅーのケチ！いっつもここまでー！」
「ううぅ…わかってよまーちゃん…！」
「わかんない！いいもん、今日こそその気にさせてやるんだから！！」
言ってまーちゃんは再び俺を押し倒した。
これはヤバイ！
「ま、まーちゃん…！」
「どぅー…覚悟してよね」
馬乗りになったまーちゃんが俺の上で妖しく笑う。
実は追っかけの女の子達だけじゃなく、まーちゃんからの誘惑も今までなんとか躱してきたんだけど…。
流石に今日は危ないかもしれない…。
チチさん…ごめんなさい……。
つーか、かーちゃん！早く帰ってきて！！
Ifマンションの未来の日常 保健室のまーどぅー編 おわり
ノﾉ��> _l<）＜へくちっ
ﾉc|ﾒ ‘_ゝ‘)＜聖、寒いと？服着てそろそろ戻った方がいいかもしれんね
ノﾉ�鵝� _l‘）＜うん、遥も待ってるしね
ﾉc|*｀ ﾛ´)･∵＜ぶぇっくし
（０´ 〜｀）＜お前のくしゃみはいつも飛ばすNE
ﾉcl*´ ﾛ｀)＜う〜〜気を付けます…
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