謀略組織・ネスツの改造人間アンヘルは今日も組織からの指令で外界へ出向いていた。普段は気ままに時を過ごしている身分だが、組織に属している以上は命令は絶対だ。
改造を受けたことによって向上した身体能力を生かし、組織の障害となる人物を何人も消してきた。今日の指令は組織の障害となるであろう格闘家を再起不能にすること・・いつもやっている単純な内容だ。だがアンヘルはあまり気乗りでなかった。
「ホント、弱っちいヤツばっかだし〜」
改造を受けている上に日々実戦を続けている彼女の戦闘能力は彼女自身が思っている以上に高いものとなっていた。多くの格闘家をあっさりと沈めてきたことから自信を持つと同時に好敵手がいない事実に退屈する日々・・。それでも彼女は戦いを命ぜられる。
本日のターゲットはサウスタウンのテリー・ボガードだった。KOFにも参加していた格闘家の中でも特に強いとされている人物だ。アンヘルが受け取った写真は金髪の青年との2ショット。「こっちのイケメンも強いらしいけど・・まあ今日はこっち。うんっ」アンヘルは早速テリーの探索を開始し、彼がひとりになるタイミングを見計らう。
「おぉう。サスガ有名人。もう見つけちゃった」
金髪に茶色のジャケット。写真通りの出で立ちに断定するのは容易かった。特に住まいを持っていないという情報通りか、街を歩き回り続けるテリー。勝負を申し込むタイミングを見計らう内にテリーは路地裏へと入っていった。対峙するチャンスだ。
「よっし、いざアタック!」
嫌々受けた指令も戦いが近いとなると胸が躍る。アンヘルは卓越した跳躍でテリーを飛び越し、路地裏のど真ん中に着地した。

「えーと、あたしはネスツから来たアンヘル!テリー・ボガード、正々堂々と勝負しろ〜!」
一方的で間の抜けた挑戦状にたじろぐテリー。しかしネスツという名は前々から耳に入っていた。無視出来る状況でもない。「ずいぶん可愛らしい挑戦者だが・・ネスツってとこは物騒って聞いたぜ。つまりは・・そういうことだな?お穣ちゃん。」警戒しての対応。冗談と受け流せない空気がその場には漂っていた。
「んまっ、あたしはただヤレって言われただけだし〜。物騒とかそんなのは周りが決めることっしょ?」屈伸しながら軽口を返すアンヘル。筋肉が良い感じに火照ってきた。心地よい戦いの前触れだ。
「オーケィ。・・人もいないことだし、さっさと用件終わらせてほしいもんだね」
ジャケットを脱ぎ棄て、戦闘態勢になるテリー。未だ現役の格闘家に油断はない。
「う〜ん、出来ればゆっくりお話したいカンジ?んじゃイクよ〜っと」
気の抜けるような返しが聴こえた瞬間。ガンッと金属音がした。そしてテリーの視界には路地の向こうが急に映った。
(「上かッ」)
強靭なバネから繰り出される跳躍は凄まじいスピードを生み、テリーへと襲いかかる。
改造と鍛錬の掛け合わせで生まれた肉体はテリーのそれを遥かに凌駕していた。
「シッ!」
空を切るテリーのジャブ。迎撃を狙っての一撃だが、手ごたえはない。懐に潜り込んできたアンヘルの白髪が視界に入る。反射でのけぞり、顎を引く。同時に黒い塊がテリーの顎の前をギリギリ抜けていく。
「あ〜れ〜・・はずしちゃった」
恐ろしく速い蹴り。顎に当たれば一撃で沈んでいただろう。テリーは戦慄した。

「こいつは・・嫌な予感がしてきたな」
「あ、待ったナシだから」
思い出したようにアンヘルが呟いたと同時にテリーの足に激痛が走った。
アンヘルがカカトでテリーの右足を踏みつけていたからだ。
「ぐっ・・」
痛くないわけがない。そして動きが封じられることが何よりの痛手だった。
「本日一発目〜!」
大ぶりのボディーブロー。先ほどの蹴りに等しい速度でテリーの腹筋へと叩きこまれる。
ズムッ・・と鈍い音が鳴ると同時にアンヘルの拳に肉の感覚が染みわたる。
「おぉ・・うッ・・!!」
細身の腕からは考えられない重さ。鍛え抜かれたテリーの腹筋が意味をなさずに打ち抜かれた。手首まで埋まったアンヘルの右手が内臓をかき回す。
「ヒューッ・・良い腹筋してるねェ」  久々に活きのいいエモノに出会い、“ボコリ甲斐”を感じたアンヘル。こうなれば彼女の欲望は止まらない。
「今夜はあたしの愛を受け取ってねェ〜、餓えた狼さんッ♪」
右わき腹に食い込むアンヘルの左拳。鈍い音が再び鳴り、テリーの内臓が悲鳴を上げる。
「ぐはっ!・・が・・」
ふざけた容姿に見合わぬ闇を感じたテリーは逃げるように身を引いた。逃げられないことを体で理解しつつも、どうにか距離を保つことはできた。しかし、それはアンヘルがまだ潰しにかかってきていないからということはわかっていた。
「ハハッ・・こいつはすごいプレゼントだ・・俺なんかにゃあ勿体ないぜ・・」
「んも〜、謙遜しちゃってェ。遠慮せずドーゾッ♪」
見えない。神速の拳。頬を打ち抜かれたと認識した瞬間、鼻血が噴出していた。
(「こいつは本当に・・ヤバイッ・・!」)
人間サンドバッグとはまさに今の状況だった。ふらついた瞬間また打ち抜かれる恐怖。
一撃をくらうたびに周りがスローになる。反撃しようにも一撃に持っていかれる体力と子心へのダメージが大きすぎる。
倒れそうになったら打ちこまれる腹への一撃。アンヘルにもたれかかるようにうなだれるテリー。細身の女子の拳が大柄な男をいいようにしている。矛盾した状況だ。
「どーよ?19歳のチョー美少女にボコられる気分は?新境地開拓って感じ?」

軽口を聴く余裕などなかった。ただ屈辱だった。実力を認めつつも、年齢差のある、それも女に一方的に負かされることなどこれまでなかったからだ。自分でも初めて感じた特殊な屈辱だった。憤慨して絞り出す気力、そしてそこから放つ攻撃も全てかわされる。
「ボディーはこう打つんだってば」
腹筋を容赦なく破壊する一撃。メキメキと不快な音を立てて、全身を熱くする。またもアンヘルに寄りかかるように倒れ込んでしまう。
「げはっ・・ごほっ・・」
胃液も逆流し出している。内臓はズタボロだ。憔悴した顔には豊満すぎる胸が当たっている。
「おネンネはまだ早くない?」
膝が腹へと打ちこまれる。不意の一撃。鳩尾に砲弾が撃ち込まれたようなものだ。
「げぼォッ!オォ・・ゴボッ・・げほ・・」
盛大に嘔吐するテリー。膝をつき、道にはいつくばるように苦しむ姿はサウスタウンで通っているイメージとはま逆のものだった。
「はぁ・・ハァ・・」
「さっ、続きしよーよ〜」
しゃがみ込み、セクシーなポーズで挑発するアンヘル。汗も呼吸の乱れもない。彼女にとっては遊びでしかないのだ。
よろめいて、立ち上がるテリー。逃げる機会を窺いながら、精一杯ガードしてアンヘルの拳を耐える。だがガードしている腕が既に限界を迎えつつあった。
「いつまでもつか試してみるぅ?」
軽快なリズムで叩きこまれる鈍重な拳。壁に追い込まれて一方的に打たれ続けている。
このまま反撃できずに沈んだとしても、それがもっとも楽に解放される道なのではないか?テリーの脳裏には諦めのビジョンが浮かんできた。
「んも〜、ガードばっかで飽きてきたにゃ〜」
急に止む拳の雨。腕がしびれて動かないテリーをまじまじと眺めつつ、アンヘルの遊び方を考える時間がやってきた。フラついたテリーは足を動かすことすら苦痛だった。
「ハァッ・・はぁ・・」
肩で息をするしか出来ない。こんな無力感今までに感じただろうか?絶望を感じる前にまずは逃げるべきだが、そう思った時はすでに遅かった。
「よっ」
軽々と繰り出される鋼鉄のヒジ。深々と鳩尾に突き刺さる。
「おごぉっ・・!」
胃液も今日とった食事も全て吐き出した。生々しい音が路地裏に響き渡る。
「ん〜、やっぱボディに限るねー」
腹への乱打。拳のマシンガンがテリーの腹筋が容赦なく壊していく。

肋骨が折れた。内臓は潰された。乾いた音だけが響くようになってくる。

ずむッ、ドスッ、ずぼォッ・・

聴いたことのないような鈍い音が繰り返される。
「フィニ〜ッシュ♪」
顎を打ち抜くアッパー。きれいな音が響き、テリーの意識が一気に吹き飛んだ。
(「・・これで・・解放されるなら・・」)
薄れていく意識の中、これで終わりと確信したテリーは屈辱の裏で安心もしていた。
しかし、悪夢は終わらない。アンヘルの遊びはまだまだ続く。

耳元で何か声が聞こえる。先ほど出会い、自分をたたきのめした女の声だ。
「ま〜た弱っちい相手だったんですけど〜?まあ、ボコっといたよん。」
弱っちいなんて言われたことはどれくらい久しぶりのことだろう?しゃがみこんで、不機嫌そうに携帯電話で連絡しているアンヘルを薄めで見上げた。眩しく、とても強い存在にはとても感じなかった。だが強かった。自分の手が届かないくらいに。
「あ、お目覚め?ごきげんいかが〜?」
嬉しそうに話しかけるアンヘル。血で汚れた頬をきれいな指でつつく。少し触れられるだけで激痛が伴う。テリーの体はまだまだ満身創痍だ。
「さっ、デザートの時間だよ〜ん」
言うが早いか、腹に再び打ちこまれる拳。仰向けになったテリーの体はビクンと痙攣し、手首まで拳が腹筋へと沈んでいく。
「ゴボッ・・」
再び胃液が逆流し、痙攣が激しくなる。
「オニーサンの腹筋、気に入っちゃった♪良い感じに鍛えてあって、打ち心地がサイコーだよっ?」
かき回される拳。すり鉢のように砕かれていく腹筋。鈍すぎる痛みがテリーの全身を支配していた。
「あぁ・・ぇ・・ぁ・・」
虫の息とはまさにこのことだった。満足に声も上げられない。
「あ、次のターゲットが決まってさー。オニーサンと一緒にいる金髪のハンサム君なんだよね。ロックって名前だっけ?あの子もボコっちゃうんだけど・・なんか言っておきたいことある?」
「ロック・・だ・・と・・!?」
ロックが危ない。日々共にしていた家族ともいえるような存在が今傷つけられようとしている。テリーの力に少しだけ力が蘇ってきた。
「手を出させは・・しない・・」
アンヘルの手を掴むほどの力を振り絞る。しかしよわよわしい力にすぎなかった。
「も〜、そんな必死になっちゃうなんて、妬けちゃうにゃー」
包み込むようにテリーの震える手を握ったかと思うと、恐ろしい力がそこに加わった。
人の手くらいなら簡単に握りつぶせる握力で力ない手を完全に砕いてしまったのだ。
「がっ・・・」
壊れてしまった右手。ぺたんと地面に落ちて、そのまま動かなくなった。
「こっちも仲良く壊しておかないとネ」
左手も同様に優しく包み込む。そして似合わぬ怪力で破壊が行われた。
格闘家として大事な武器が2つとも破壊されてしまった。
無力だった。今、親友に魔の手が伸びていることをわかりつつも、圧倒的な力の前に自分は屈した・・テリーの頭に後悔や恐怖が入り乱れ、涙となって浮かび上がってくる。
「泣くことないって。ボコった後はここに運んで、二人で寝かせてアゲるから・・ネ?」
優しくテリーに口づけしたかと思うと、振りかぶった一撃を腹へと沈める。
ビクン、と大きく痙攣してテリーの体は糸が切れたように動かなくなった。
腹筋を打ち抜いたことにより、暖かくなった拳。
拳に口づけし、エモノの苦しみを想像して、身震いする。
「気持ちよかったにゃ・・次のハンサム君はどうイジメてあげよっかな〜・・」
早速次のターゲットのもとへと行くことを決めたアンヘル。破壊の女神がゆっくりと腰を上げ、サウスタウンの闇へと消えていった。

続く。

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