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ゴールデン・デイズ

ハートのリミットの続きです。



小鳥遊宗太は走っていた。
短距離競走でもしているかと思うくらい全力で、がむしゃらに。
まだ明るいはずの時間帯であるにも関わらず、外は薄暗い。
厚い雲が空を覆い尽くし、日の光の侵入を阻んでいる。
天気予報によれば大型の低気圧が発達してきているらしい。
台風なみの強風に加え、雪もかなり積もるとのことだった。
雪が降り出すのは明朝以降という話ではあったが、既に空模様は怪しい。  
これは大雪になりそうだ。そう感じたが、小鳥遊は構わず走り続けた。

    • 伊波さんに会ったら・・・
思うと、色々な気持ちが頭を巡る。
小鳥遊自身、まだ自分の言葉を整理できていなかった。
ただ、まずはとにかく謝りたい。それだけを胸に、ひたすら走った。

電柱に書かれた地名が白藤の用意したメモと一致する。
足を止め、周辺を見回すとまもなく『○○町内会』と書かれた看板を見つけた。
地図によるとどうやらすぐ近くのようだ。
気付けば、既にひらひらと雪が降り出していた。
ここの所の冷え込みの原因であった寒気団を巻き込んでいるそうで
吹く風もずいぶんと冷たい。

雪が地面に落ち、染みていく様子を目にして
不意に昨日の伊波の涙が思い出される。
自責、後悔の念が噴き出し、胸が締め付けられた。
そして、伊波に謝罪すら拒絶されてしまったら・・・という恐怖が背筋を寒くする。

ズキン、と白藤に殴られた頬が痛む。
そう、結局のところ自分はそれが怖くて逃げ出そうとしていたのだ。
いまさら怖気づくものか。
気合を入れるように自分で左頬を小突く。
    • 痛い。
当たり前の事を再確認して、小鳥遊は足を前に進めた。

 ***

伊波まひるは真っ白になっていた。

伊波は自宅の居間で乾いた洗濯物をたたんでいたが、
ときおり急に手が止まったかと思えば
魂が抜け出たかのように完全停止する。
そして一定時間経つとはっと気がついて
びっくりしたように辺りをきょろきょろと見回す。

えーと、ああそうか。
洗濯物たたんでたんだっけ。全然進んでいないや。
駄目だなぁ、昨日の事があってからずっとこんな調子だ。
昨日の事、、、昨日の事、きのうのこと、きのうのコト、キノウノコト、、、

ぷしゅー。

再び思考停止。
昨晩の出来事でテンパリゲージを振り切って以来、伊波はこんな調子だった。


ピンポーン

家のチャイムが鳴る。
誰だろう。困ったな、いまお母さんいないから男の人だったら出られないかも・・・

ピンポーン

二度目のチャイム。
いけない。考えている場合じゃない、とりあえず出なきゃ。
そう思いインターホンのボタンを押す。
 
スピーカーからは、聞きなれた声が飛び込んできた。
「まひるさんと同じバイト先の小鳥遊宗太と申しますが、まひるさんはご在宅ですか?」
「た、たたたたたたたかなしくん!?」

飛び出すように伊波が玄関を開けると、確かに、小鳥遊はそこにいた。

「伊波さんにお話がありまして、、、突然押しかけてすみません」
「小鳥遊くん!?どうしたのその顔!!」
顔?と聞き返そうとして、白藤が殴った顔の事を言っている事に気付く。
小鳥遊自身は確認はできないが、頬は青黒く変色してしていて見るに痛々しい。

伊波は驚いて手を伸ばそうとしたが、すぐに引っ込めてしまう。
伊波の表情が暗く沈む。
想い人に触れるどころか、近づくことすらできない。
その現実が、彼女の心を締め付けた。
小鳥遊にも伊波が男性恐怖症のせいでまた心を痛めているのが伝わり、
強いもどかしさを感じる。

ゴウッッ・・・!!!

強風が家の中に吹き込む。雪も強くなってきているようだった。
「と、とりあえず入って!」
家に上がるつもりはなかった小鳥遊だが
こんな風が吹く中、玄関先で話し込むわけにもいかない。
伊波に促されるままに家の中に入った。

「タオル持ってきたけど・・・どうしよう、いまお母さんいなくて・・・」
「あ、大丈夫です。念のため『コレ』も持ってきていますから。」

差し出されたタオルを折りたたみ式のマジックハンド(¥1980)で受け取り
軽く頭を吹く。思ったよりは濡れていないようだった。

伊波は小鳥遊を居間に通そうと思ったが、
そこにはたたんでいる途中の洗濯物が散乱している事を思い出す。
散らかった状態ということもあるが
部屋着や下着を小鳥遊に見られるのは恥ずかしい。

「えーと、えーと・・・」
しばし逡巡するが、やがて意を決する。
「こっち!私の部屋に来て!!」

伊波の言葉に流石の小鳥遊もどぎまぎする。
『お母さんはいない』・・確か父親は単身赴任だったはず。
『私の部屋』・・伊波さんの部屋ってことだよな?
小鳥遊にしてみれば、自分でも意外なくらいに動揺していたが
どうにかして落ち着こうと頭を整理しながら
伊波の後ろについて階段を登る。


「あ!!!」

自室のドアを前にして伊波が叫び声を上げる。
「ちょ、ちょちょちょちょっと、ここで待ってて!」
伊波は小鳥遊を制止したまま部屋に飛び込んでいった。
何か見られたくないものでもあるのだろうか、との疑問が頭に浮かぶ
しかし、他人の部屋のことだ、詮索すまい。と思い直し深く考えないことにした。

ほどなくして、再びドアが開く。
「ど、どうぞ・・・」
おずおずとドアの隙間から伊波が顔を出す。
「・・おじゃまします」
小鳥遊も伊波に誘われ、伊波の部屋に入る。
ちょこん、とベッドのしたの床に座り込む伊波。
釣られて小鳥遊も床に座るが、何故か正座だった。

「で、その顔は・・・どうしちゃったの?」
あくまで伊波は顔のアザが気になるようだった。
早く本題に入りたい気持ちはあったが、答えを返す。

「えーとですね、バイトを辞めたいという話をしたら店長にぶん殴られまして・・・」
「えっ・・・」
しまった。余計な事を言った、と思ったが既に遅い。
伊波の表情に見る見るうちに曇る。
「たかなしくん・・・辞めちゃう・・・の・・・?」
言いつつ、伊波の声は消え入りそうに小さくなっていった。
またこんな顔をさせてしまった。頬以上にズキズキと心が痛む。

「いえ、辞めませんよ!辞めるわけ無いじゃないですか!
話の流れでそうなっただけで・・・」
「・・ほんと?」
「本当です!」
「よかった・・・」

伊波の表情が明るさを取り戻し、小鳥遊も胸をなで下ろす。
そして、ふぅ、と軽く息を整え今度こそ本題へと入り始める。

「今日はですね、伊波さんに謝りに来たんです。」
「あやまる・・・?」
「いきなり、あんなことをしてすいませんでした。と」
「あんなこと・・・・・・あっ」
呟くように復唱して、それが昨夜のキスの事だと思い当たると
伊波の顔が一気に真っ赤になる。
その様子に、小鳥遊もどうしようもない恥ずかしさを覚える。

「俺は最低です、伊波さんが男性恐怖症だということもわかっていながら、あんな・・・」
「ちょ、ちょっと待って!」
謝罪を続ける小鳥遊を伊波が制止する。

「それを言うなら私の方こそ・・・
あの・・・私が仮眠していた時のこと覚えている・・・よね?」

    • やっぱり、仮眠していたときの記憶はあったんだよな。そりゃそうだ。
伊波の言葉で小鳥遊は何だかホッとするような感覚を覚える。


「・・・・」
「・・・・」

急に言葉が続かなくなる。
昨夜の一件だけでなく、ごまかし続けていた1回目のキスも
事実として2人の間に横たわったことで
急に恥ずかしさや気まずさが沸き出してきた。
色々と言いたいこと、言うべきことがあるはずなのに言葉が出ない。
沈黙が二人の間を支配する。

「・・・あの、」

伊波が何かを言いかけた瞬間、

ブツッ

「きゃぁ!」
ガタン、ガラガラ・・・

突如、部屋の電気が消えて暗闇に包まれる。
悲鳴を上げた伊波はその場で腰から飛び上がり、
何かが床に落ちる音がした。

「停電…?」
「強風か、雪かで、電線が切れたんでしょうか」

「それより、大丈夫ですか!?
何かにぶつかったような音がしましたけど
怪我とかしてないですか!?」

「うん・・・どこも痛くはない・・・んだけど」

伊波が飛び退いた拍子で
小鳥遊が伊波の肩を抱くような姿勢になっていた。

「小鳥遊くん、、、ゆっくり私から離れて。」

そう言われて、小鳥遊は自分の中に
得体の知れない感情が頭に渦巻くのを感じた。
この手を離したくない。間違いなくそう思っていた。

伊波の肩が小さく震えているのに気付く。
それは男性恐怖症によるもののようにも思えたが、
少し様子が違う。

そういえば、この人は人一倍怖がりだったっけ。
自分自身が不安で一杯であろうに、
こんな状況で俺の事を気遣っているだなんて。
そんな伊波に対して、小鳥遊は、

「この人を守りたい。」
心の底からそう思っていることに自覚した。

ああそうか。
簡単なことじゃないか。
俺は伊波さんの事が――

なんだ、まだ気づいていなかったのか。冷静な自分が鼻で笑う。
アホだな、俺は。ああ、本当にアホだ。大アホだ。

だけど、わかってしまえばこっちのものだ。
もう自分の気持ちに振り回されたりしない。

「言い訳を、させて下さい」
「いいわけ・・?」
半ば唐突な言葉に、伊波も思わず聞き返す。
「キス、、、だけじゃなくてですね。」
「俺は、伊波さんが寝ぼけていたとはいえ
伊波さんに触れることができて、嬉しかったんです。
だから・・・夢にしたくなかった。」

「俺は・・・!伊波さんが好きです!!」

突然の告白に、伊波は言葉を失った。
嬉しくないわけがなかった。当然である。
笑顔を向けられれば胸が高鳴った。
1cmでも近くに寄れれば、幸せだった。
きっかけは自分のために父親に怒ってくれたこと。
でもそれだけじゃない。
さりげない優しさや強さ、そしてごく稀に見せる弱さ。
こんな私を避けずに向き合い、怒ってくれる、唯一の男性。
きっとお父さんの事がなくても、私はこの人に恋をしただろう。
    • だけど。私が近づくと、小鳥遊くんを傷つけてしまう。

呪いのような、自分の体質。その呪縛が心を凍らせる。

「でも、でも、私は、小鳥遊くんを、殴っちゃう。。。」
話すうちに、泣き出しそうになってくる。

「もう、もう限界なの・・・お願い、離れて!!」

しかし、小鳥遊は、宣言するかのように大きく声を上げた。

「嫌です!」

「俺はどんなに殴られても伊波さんの傍を離れません!
これは俺のエゴです!伊波さんが俺を殴りたくなくて、
殴ってしまって自分を責めてしまうとしても、
それでも俺は伊波さんに近づきます!何度でも!」

そう言うと、小鳥遊は伊波を思い切り抱き寄せた。

伊波の心拍数が跳ね上がる。
血が逆流するかのような感覚を覚える。
殴ってしまう、その衝動を抑えようと強く目をつぶる。
      • ・・

とくん、とくん、とくん

小鳥遊の心臓の音が聞こえた。
伊波ほどではなかったが、小鳥遊の鼓動も早まっていた。
小鳥遊の鼓動、体温、吐息。
暗闇の中、伊波は小鳥遊の存在だけを感じることができた。
    • あたたかい。
早鐘を打っていた伊波の心臓が落ち着きを取り戻す。
二人の鼓動が重なり始める。
気付けば、伊波の心を長い間支配していた男性への恐怖感が薄れている。
伊波の殴り癖は身を守らなければ、という強迫観念である。
    • 怖くない。小鳥遊くんなら、怖くない。
ごまかしではなく、そう思えていた。

チカ、チカ、チカ、
ブゥゥーーン

電気がつく。
急な光に目がなれずにチカチカする。
目が合うと、気恥ずかしさから目を逸らしてしまう。
が、何かとても勿体ないことをしたような気持ちになり
再び小鳥遊の顔を見た。
小鳥遊は照れくさそうに、それでも優しく、微笑んでいた

「た、たかなしくん。あのね・・」
返事をしなきゃ、伊波はそう思うのだが上手く言葉が出ない。
こんなに幸せに満たされているのに。
焦る心がさらに言葉を乱す。

「いいですよ伊波さん。何も言わなくても俺にはわかりました」

伊波さんの行動はわけがわからない?
違うだろう。俺が鈍感過ぎただけなのだ。

その証拠は、伊波の部屋の床に落ちていた。
停電に驚いた伊波が机にぶつかった際に床に落ちた物。
本来であれば机の上に大事に飾られていた伊波の宝物。
先程、小鳥遊を部屋に入れる直前に伊波が裏返らせておいた、写真立て。

そこには、伊波の想い人の写真が飾られていた。

「あう・・あう・・・」
伊波は再び言葉を失い、
茹ってしまわないか心配なくらいに真っ赤になる。

「こんな俺を、好きになってくれてありがとうございます。」

「・・・自意識過剰じゃない、ですよね?」
ほんの少し不安になって、照れくさげに訪ねる。
「ちがい・・・ます。じゃなくて、違うのは自意識過剰、って方でね」
「そう、違わないの。」
伊波も支離滅裂になりながらも、精一杯の言葉を紡いだ。
「私も・・・小鳥遊くんが好きです」
小鳥遊の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめる。

「べ、別にね?」
「はい?」
「強引なのが嫌なわけじゃないの」
「あの時、涙が出たのは・・・びっくりしたのと、むしろ嬉しかったかも」

    • 伊波さん、それは反則だ。
愛しさが止まらなくなる。

「・・・伊波さん。俺は男なんですよ」
「うん・・・知ってる」
「男は狼なんです。ご存知でしょう。」
「うん・・・知ってる」
「でも・・・こんな優しい狼なら怖くないよ」

視線が絡み合い、時間が止まる。
世界が溶け合い、境界線が曖昧になる。
どちらともなく求め合い、、、唇を重ねた。
夢ではない。衝動に任せた不意打ちでもない、本当のキス。
今度こそ、やっと見つけたお互いの存在を確かめあった。


 ***

またある日のワグナリア。
いつもどおりの光景がそこにあった。

「きゃー!」
ばきぃっ!

小鳥遊が伊波に殴られているという、いつもの日常。
「うぇーん!小鳥遊くんごめんなさいー!!」
「いえ、いまのは死角にいた俺が悪いんです」
「本当にごめんね、いま絆創膏とってくるね・・・」

しょげた様子でパタパタと走り去っていく伊波を横目に佐藤が小鳥遊に尋ねる。

「お前ら付き合ってるんじゃなかったのか?何でまだ殴られているんだ」
小鳥遊と伊波が付き合い始めたことは
何故かあっという間に周知の事実となっていた。
犯人、と書いてそうまと読む、原因は分かり切っていたが、
もはや深く追及はしないことにしていた。

「染み付いたものはなかなか直らないようで・・・まぁスキンシップということで」
伊波に殴られても怒らなくなった小鳥遊も気持ちが悪い。
「とりあえず鼻血を止めてくれ」
呆れた口調でティッシュを差し出す佐藤。

「あ。でも殴られない時もあるんですよ。ある法則を見つけたんです」
ティッシュを鼻に詰めながら、嬉しそうに話す小鳥遊。
「ほう?」
「なになに?僕にも教えてよ!」
「すごいね!さすが伊波ちゃんのプロ!」
端でやり取りを見ていた相馬と種島も会話に加わってくる。

「実はですね・・・」
「うんうん」

「キスをするときと、してからしばらくは殴られないんです!」

さらりととんでもない事を暴露する小鳥遊。
 
「・・・・」
絶句する一同。

「ふしだらだ!かたなしくんがふしだらだ!」
「俺、、、頭痛くなってきたわ」
「僕の負けだよ小鳥遊くん・・・こんな話、流石に人に言う気にはなれない」

「あ!でも真似しちゃ駄目ですからね!!」
「しねーよ!!!!」×2


――嵐が過ぎ去っても、ワグナリアは変わらず騒がしかった。



==おわり==
2010年06月05日(土) 00:44:40 Modified by kakakagefun




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