最終更新:ID:KfLzJHT1hw 2013年01月27日(日) 21:06:51履歴
■
「朝です起きてください。寝坊助さん?
ぺちぺち……、人を起こす時はこれで合ってますよね?」
ぺちぺち、ぺちぺち。
頬撫でるように優しく叩かれる感触に心地よさと暖かさを感じながら俺は
意識を取り戻した。
瞼をゆっくり開けて瞳が始めに写したの、まるで母親のように慈しんだ瞳で微笑む少女だった。
「君は……、誰?」
「……おバカなのは分かってましたが、ここまでとは。
あなたは自分の右手に『お前は誰だ?』と問い掛けたことがありますか?」
■
周りを見渡すとここはいつもの【自室】であることは理解した。だが違和感が拭えない。日常が感じられないのだ。
そして俺はこの感覚を知っている。
レンと共にリンドウさんの精神の中に入った時に訪れた虚構の【アナグラ】。あの時の既視感、それが違和感の正体なんだ。
そして、俺をジッと俺を見詰めるこの赤い瞳の少女。
彼女から醸し出される雰囲気には何故か懐かしさを感じさせられた。
この何もかも見通した瞳は間違えようもなく――。
「レン……、――あだだ!抓らないで!?」
「どうやらまだ寝ぼけているようです。人間はホントに面倒くさいですね?
もういいです、これには穏健派の私もプッツンします。怒りました」
プイ、と拗ねたように顔を逸らしながらゴソゴソし始めた。
そして目の前に一本の缶を差し出しながらこう言った。
「もう一度チャンスを上げます。
だだし二回も間違うようなら、この【初恋ジュース】をあなたの口へ無理矢理ねじ込みます」
そう言って彼女は十からカウントダウンを始めた。
俺はそんな彼女を苦笑いを浮かべながら観察した。
レンを中性的で大人びている少年と表現するなら、この子は年相応に幼い女の子と言った所か。
感情をあまり表に出さなかったレンと違い、普通に拗ねるし怒るようだ。
だがそれが俺に安心を与え、何より愛しさを感じさせる。
答えなど、頭で考えるより早くわかっていたのだ。だって彼女は。
「君は……俺の、たった一つの神機」
「……気付くのが遅いです。未熟者」
■
「簡潔に言えば、あなたは現在極めて危険な状況です。
こうして私とあなたの精神が繋がり、対話出来る状態まで神機と人体が融合してしまいました」
「神機と融合……リンドウさんの時のようなアラガミ化とは違うのか?」
似て非なるものです、とゴクゴクと彼女は初恋ジュースを平気で飲み干した。
……レンの時もそうだったが一体どんな材料で構成されてるのだろうか。みんな初めて飲んだ時は噴き出していたものだ。
「わかりやすく言えば現在あなたは私の一部――というか神機の一部に取り込まれ、このままでは世界初の人型神機のオブジェが出来ます」
「……すごく、嫌な響きだ。オブジェ?」
そこから彼女は俺の現状を詳しく話始めた。
新人の新型神機使い二人に隊長である俺が同行して長期任務に出たこと。
任務をこなしたあと接触禁忌種のアラガミ複数と遭遇してしまったこと。
新人達の撤退には成功したが肝心の自分は足止めに失敗して致命傷を負ったこと。
本来死亡寸前まで身体が弱体化したことで適合率が下がり【オラクル細胞】が制御できなくなりアラガミ化する。
だがどういうわけか俺は逆に適合率が更に上昇して神機が俺の身体を【神機の一部】と認識し、乗っ取り始めていること。
俺の未熟さと不甲斐なさを目の前の彼女は何の遠慮もなく連ねていった。
■
それから色んなことを話した気がする。
初めて神機を握った日のこと。
生まれて初めて戦場に降り立った日のこと。
初陣で小型アラガミに威嚇されて腰を抜かしてしまった日のこと。
そんな俺が第一部隊を率いる隊長に就任した日のこと。
終末捕食を止める為に、シオを救う為に仲間達と共に支部長へ戦いを挑んだ日のこと。
リンドウさんを救う為に極東支部の皆で奔走した日のこと。
リンドウさんの神機を使って戦った日のこと。
話題が尽きないくらい彼女と話をした。
途中で『あれはどう考えても浮気です。私は所詮キープちゃんですか。そうですか』と涙目で拗ねてしまい宥めることになったりもした。
「あの程度の一撃で倒れ伏すなんて、ホントに弱っちい人ですね。
いつまで経っても未熟極まりないです」
「はは、ぐうの音も出ないよ……。そういえば新人達は無事だったかな?
上手くソーマ達の陣営に撤退出来ていればいいんだけど」
「…………」
ジト、とした目で睨んできた。
何か癇に障ることを言ってしまっただろうか?
「あの仲間達がそんなに大切ですか?
世界の人々を守るのがそんなに重要ですか?
自分の命は秤にも掛からないほど軽いものなんですか?」
悲しそうな言葉と瞳で俺に問い掛けた。
「私は……、あなたに、
自分が死なない為に戦って欲しいです。
――私の願いはそれだけなんです」
「あなたを死なせない為なら、自分を大切だと思ってくれたなら、
私はどんなことだって……、」
■
彼女はずっと誰よりも近くで俺を見ていた。
俺の傍でずっと戦ってきてくれた。
だからもう俺が何と答えるかわかっているのだろう。
わかっていて聞いてくれたのだ。
「ごめん、本当に……ごめんな」
「……お互いこれでは何を言っても平行線ですね。
それにもう時間のようです」
目の前の空間に亀裂が生まれた。
そこから誰かが俺を呼んでいる気がした。
そしてこの感覚はアリサやレンと触れた時に起こった感応現象に酷似していた。
「あなたと心を一つにするのはまだまだ出来そうにありません。
なので私は私で勝手にやらせていただきます」
「…………」
「あなたが世界と仲間を守るなら、私があなたを守ります。
文句は言わないで下さいね。あなたが私のお願いを無視するからいけないんです」
「そっか……、えっと。君の名前は……」
「そういえば伝えてませんでしたね。私の名前。
一度しか言いませんからよく聞いて下さいね?私の名前は……――」
「ありがとう、■■。きっとまた会おう」
「会うも何もずっと一緒ですよ、寝坊助さん」
「朝です起きてください。寝坊助さん?
ぺちぺち……、人を起こす時はこれで合ってますよね?」
ぺちぺち、ぺちぺち。
頬撫でるように優しく叩かれる感触に心地よさと暖かさを感じながら俺は
意識を取り戻した。
瞼をゆっくり開けて瞳が始めに写したの、まるで母親のように慈しんだ瞳で微笑む少女だった。
「君は……、誰?」
「……おバカなのは分かってましたが、ここまでとは。
あなたは自分の右手に『お前は誰だ?』と問い掛けたことがありますか?」
■
周りを見渡すとここはいつもの【自室】であることは理解した。だが違和感が拭えない。日常が感じられないのだ。
そして俺はこの感覚を知っている。
レンと共にリンドウさんの精神の中に入った時に訪れた虚構の【アナグラ】。あの時の既視感、それが違和感の正体なんだ。
そして、俺をジッと俺を見詰めるこの赤い瞳の少女。
彼女から醸し出される雰囲気には何故か懐かしさを感じさせられた。
この何もかも見通した瞳は間違えようもなく――。
「レン……、――あだだ!抓らないで!?」
「どうやらまだ寝ぼけているようです。人間はホントに面倒くさいですね?
もういいです、これには穏健派の私もプッツンします。怒りました」
プイ、と拗ねたように顔を逸らしながらゴソゴソし始めた。
そして目の前に一本の缶を差し出しながらこう言った。
「もう一度チャンスを上げます。
だだし二回も間違うようなら、この【初恋ジュース】をあなたの口へ無理矢理ねじ込みます」
そう言って彼女は十からカウントダウンを始めた。
俺はそんな彼女を苦笑いを浮かべながら観察した。
レンを中性的で大人びている少年と表現するなら、この子は年相応に幼い女の子と言った所か。
感情をあまり表に出さなかったレンと違い、普通に拗ねるし怒るようだ。
だがそれが俺に安心を与え、何より愛しさを感じさせる。
答えなど、頭で考えるより早くわかっていたのだ。だって彼女は。
「君は……俺の、たった一つの神機」
「……気付くのが遅いです。未熟者」
■
「簡潔に言えば、あなたは現在極めて危険な状況です。
こうして私とあなたの精神が繋がり、対話出来る状態まで神機と人体が融合してしまいました」
「神機と融合……リンドウさんの時のようなアラガミ化とは違うのか?」
似て非なるものです、とゴクゴクと彼女は初恋ジュースを平気で飲み干した。
……レンの時もそうだったが一体どんな材料で構成されてるのだろうか。みんな初めて飲んだ時は噴き出していたものだ。
「わかりやすく言えば現在あなたは私の一部――というか神機の一部に取り込まれ、このままでは世界初の人型神機のオブジェが出来ます」
「……すごく、嫌な響きだ。オブジェ?」
そこから彼女は俺の現状を詳しく話始めた。
新人の新型神機使い二人に隊長である俺が同行して長期任務に出たこと。
任務をこなしたあと接触禁忌種のアラガミ複数と遭遇してしまったこと。
新人達の撤退には成功したが肝心の自分は足止めに失敗して致命傷を負ったこと。
本来死亡寸前まで身体が弱体化したことで適合率が下がり【オラクル細胞】が制御できなくなりアラガミ化する。
だがどういうわけか俺は逆に適合率が更に上昇して神機が俺の身体を【神機の一部】と認識し、乗っ取り始めていること。
俺の未熟さと不甲斐なさを目の前の彼女は何の遠慮もなく連ねていった。
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それから色んなことを話した気がする。
初めて神機を握った日のこと。
生まれて初めて戦場に降り立った日のこと。
初陣で小型アラガミに威嚇されて腰を抜かしてしまった日のこと。
そんな俺が第一部隊を率いる隊長に就任した日のこと。
終末捕食を止める為に、シオを救う為に仲間達と共に支部長へ戦いを挑んだ日のこと。
リンドウさんを救う為に極東支部の皆で奔走した日のこと。
リンドウさんの神機を使って戦った日のこと。
話題が尽きないくらい彼女と話をした。
途中で『あれはどう考えても浮気です。私は所詮キープちゃんですか。そうですか』と涙目で拗ねてしまい宥めることになったりもした。
「あの程度の一撃で倒れ伏すなんて、ホントに弱っちい人ですね。
いつまで経っても未熟極まりないです」
「はは、ぐうの音も出ないよ……。そういえば新人達は無事だったかな?
上手くソーマ達の陣営に撤退出来ていればいいんだけど」
「…………」
ジト、とした目で睨んできた。
何か癇に障ることを言ってしまっただろうか?
「あの仲間達がそんなに大切ですか?
世界の人々を守るのがそんなに重要ですか?
自分の命は秤にも掛からないほど軽いものなんですか?」
悲しそうな言葉と瞳で俺に問い掛けた。
「私は……、あなたに、
自分が死なない為に戦って欲しいです。
――私の願いはそれだけなんです」
「あなたを死なせない為なら、自分を大切だと思ってくれたなら、
私はどんなことだって……、」
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彼女はずっと誰よりも近くで俺を見ていた。
俺の傍でずっと戦ってきてくれた。
だからもう俺が何と答えるかわかっているのだろう。
わかっていて聞いてくれたのだ。
「ごめん、本当に……ごめんな」
「……お互いこれでは何を言っても平行線ですね。
それにもう時間のようです」
目の前の空間に亀裂が生まれた。
そこから誰かが俺を呼んでいる気がした。
そしてこの感覚はアリサやレンと触れた時に起こった感応現象に酷似していた。
「あなたと心を一つにするのはまだまだ出来そうにありません。
なので私は私で勝手にやらせていただきます」
「…………」
「あなたが世界と仲間を守るなら、私があなたを守ります。
文句は言わないで下さいね。あなたが私のお願いを無視するからいけないんです」
「そっか……、えっと。君の名前は……」
「そういえば伝えてませんでしたね。私の名前。
一度しか言いませんからよく聞いて下さいね?私の名前は……――」
「ありがとう、■■。きっとまた会おう」
「会うも何もずっと一緒ですよ、寝坊助さん」
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いいですね。と僕はキメ顔でそう言った
なんかいい。。。感動