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今、俺は土下座をしている。
ガキの頃から大ッ嫌いだった、こいつの前で。

お袋の人生をメチャメチャにして、全くそのことに罪悪感すら無く、
誰もが知ってるでっかい会社の社長を平気な顔をしてやってるこいつに、
俺は一度も会いたいなんて思ったことなかった。

そう、つい昨日までは。

「ほう、どういう風の吹き回しかな? その変わりようは」
「だから…… お前の会社に入れてくれって…そう言ってるんだよ!」

「ふむ。発言の趣旨はわかるが、言い方がちょっと、おかしくはないか?」

「………」
「そんなことすら分からん年齢でもあるまい?」

「くっ…… お願いします。お父さんの会社で雇ってください」
覚悟を決めた俺はヒザをつき頭を下げた。

「わかった。喜んでおまえを雇おう。
 契約金がちょっと高すぎる気もするが、まぁいいだろ。
 約束の1000万円は明日お前の口座に振り込む。
 金の前ではさすがに宗旨替えをせざるを得なかったようだな」

「そ、それは」
屈辱の思いが一瞬わきあがる。ちがう! と叫びたかった。

「ん? 違うのか? それならやめておくか? 私はどっちでもいいんだぞ?」
「い、いえ。よろしくお願いします」
「そうか。じゃ、契約成立だな」

俺は立ち上がり、雇い主に頭を下げたあと、部屋から出て行こうと背を向けた。
その時だった。

「確か……吉岡彩……だったかな? 手術が必要な娘の名は」
「!?」
突然のオヤジの言葉に俺は思わず振り向く。

「驚かなくてもいい。私は知っているんだよ、全部、おまえの事は」

「いや、契約金をどのように使うかはおまえの勝手で、
 私があれこれ言うような問題じゃない。
 ただ、5日後にはチュニジアに行って貰うから、
 その前にすべてのプライベート部分をクリアしておいて欲しいんでね。
 おそらく3年ぐらいになると思う」

「わかっ……わかりました」
「じゃ、そういうことで」


吉岡彩。彼女はゼミの1年後輩。
今年の春までは同じ研究室で、毎日のようにそばにいた存在。
おそらく彼女にとって、俺は単なる親切な先輩の一人だったはず。

俺は彼女と一緒にいた一年間、ずっと彼女への思いを隠し続けていた。

始まりは彼女があの研究室に足を踏み入れた瞬間だった。
気付けば俺は一目ぼれをしていた。
その後も、明るく快活な彼女の仕草や言葉に、ボーッとしてしまうことも度々。
だがチキンな俺は告白する勇気すらなかった。

そして、ついこの間。
ゼミで一緒だった奴と飲む機会があって、彼女の病気のことを聞かされた。
難病であり、公費対象認定もなく、USAの特定病院でしか治療ができないこと。

発症の第一段階としての分泌異常が発見されただけで、今はなんの症状もないが、
このまま何もしなければ、2〜3年で100%に近い確率で死に至ること。

……そして治療には膨大な金がかかること。

その晩、俺は必死で考えた。
どんな手を使っても俺にはそんな巨額の金を手に入れることは不可能だった。
非合法なことでもしない限り……

少なくとも、金だけはいやって言うほど持ってるヤツの顔が頭に浮かんだ。
俺ができること。ただひとつ可能性があること。
そのために失われる俺のプライドなんて、ちっぽけなものだ。

彼女の命が救えるのなら。

俺はオヤジに電話を掛けた。


彼女は入院しているわけではなかった。
ゼミを休み、自宅で体調の変化がないか様子を見ているところだった。

突然会いに行くと電話を入れたときに彼女は驚いていた。
ただ、電話で話す用件でもなかったので、会ってから話すと伝えて電話を切る。


「で、お話……って?」

質素な応接間には俺と彼女しか居ない。
目の前のダージリンは、うっすらと白い湯気を薄茶色の表面に漂わせていた。

「彩ちゃんの病気のこと、聞いた」
「……そうですか」

うつむく彼女を見て、俺はいたたまれない気持ちになる。
……俺が知っては……いけないことだったのか?

いや、たとえ彼女が俺を嫌おうがどうしようか関係ない。
ともかく治療が先だ。それが俺の意思なんだから。
彼女が救えるかどうかが全てなんだ。話を続けろ! しっかりしろ、俺!

「治療のための金1000万を用意した。振込先を教えてくれ」
予想外の言葉に、彼女は目を見開き俺を見つめる。

「でも、なんで先輩がそこまで?」
「いや、そばに居る人が困ってたらやっぱり助けたいし」
「そ、それだけで…… それにそんな金額」

「心配要らない。これはオヤジに頭を下げて借りた金だ。
 素性のよくない金じゃあない」
「で、でも先輩、お父さんはいないって」
「あぁ、ちょっと複雑な家族関係でね。
 正直、あいつに頭は下げたくなかったんだけど、
 君の命が助かるなら安いもんだと思って、拝み倒して、で、なんとかね」

「でも、やっぱり」
「いいんだよ、俺のきまぐれ。そんだけだから」

押し問答が続いた。思いついて、彼女の母親を呼んでもらう。
おっかなびっくりの母親に事情を話す。俺の思い以外をすべて。

「今夜、ご両親でよく話し合ってください。
 どうせオヤジには前から会社に入るように言われていたので、
 こうなる運命だったのかもしれませんし。
 金だって、オヤジにとっては別になんともない額ですしね。
 ……あるいはオフクロと俺に対する罪滅ぼしかもしれませんが」

恐縮しまくる母親とうつむいたままの彼女を残し、俺は外に出た。
大丈夫。親ってのは子供が可愛いもんだ。


彼女の両親は、娘の命を救うことを選んだ。

その夜、俺の家に来て二人は土下座をした。
俺は二人の手をつかみ、起こす。そんなことしてもらってもこっちが困る。
俺はプライドを捨てたがそれは個人的な問題。

車で二人を送る。家に着くと玄関先には彼女が立っていた。
頭を深々と下げられた。

別に悔しそうな顔をしていたわけではないが、
しばらくの間……あるいはもしかしたらずっと……今日が最後で……
そう思うと、見慣れた可愛い笑顔をもう一度見たいと思ったが、
今は決してそんな場面ではないと気付く。あきらめるしかなかった。

バックミラー。頭を下げたままの三人の姿が小さくなる。
いいんだこれで。俺の出来ることをちゃんとやった。これでいいんだ。

結局、あいかわらず俺はチキンのままだった。


今日の昼、アパートの後始末も無事に終えた。今は空港に近いホテルに居る。
そういや、昨夜、荷物を詰め込んだ所で俺は思わず笑ってしまった。
つめこんだサムソナイトにかなりの隙間が出来てて。ありえない。

一週間前には予想もしなかったこと。
明日の朝のチュニジア行きの便に乗ったら、おそらく3年は戻ってこない。

手帳の後ろに入れた彼女の写真を取り出す。
ゼミの飲み会、デジカメで撮った写真。笑顔の彼女。
間違いなくしばらくは会えない。
一緒にいた時間の全てが、走馬灯のように脳裏をかけめぐる……

部屋のドアにノックの音がした。

「誰?」
「わたしです」

彼女の声だった……

ドアを開けると、花柄のワンピースの彼女がコートを手に持って立っていた。

絶句する俺を無視するように彼女は言う。
「部屋に入っていいですか?」
「あ、あぁ」

「結構広いんですね」
ベッドに腰掛けた彼女はそう言う。

……でもどうして?

「来週、アメリカに行きます。入院の予約もとれたから。
 それが報告したくて連絡取ろうとしたら繋がらなくて。
 大家さんとこに行って、やっとここがわかって」

「でも」

「あの、お、お礼、ちゃんと言ってなかったし」
「そ、そうか」
なるほどそういうことか。律儀な話だ。彼女らしいけど。

「ありがとうございました」
「あ、いや。うん」

目の前の彼女は、生きる希望を得たためなのだろう、光り輝いている。
その時、俺は自分のしたことが決して間違いでなかったことを確信した。


「あと……もしかしたら先輩に二度と会えないかもしれないから」
「そ、そんなことはない。あの病院はその病気の治療では世界一の」
「でも、患者が100%治癒してるわけではない……ですよね」

「もしダメだったら、借金もお返しできなくなっちゃいますから、
 だから……今、私に出来ること、しておかなきゃと思って」

その言葉と共に、彼女は立ち上がる。
そして、背中に手を回したあと、部屋にファスナーの音がした。
片腕ずつ袖から抜かれ、支えのなくなったワンピースが床に落ちる。
白い肌に薄いピンクのキャミ。その下のインナーも見えていて。

「今の私にできることは、これくらいしかないんです。
 だから、私を受け取って欲しいんです。お願いです」

恥ずかしさからか、頬を赤く染めながら彼女はそう言った。

「あ、でも、誤解しないでください。
 こんなこと、男の人とこんなことするの、わたし初めてです。
 先輩が最初の人なんです。だ、だから」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってくれ。
 俺はそんなことを望んじゃいないし、それに」

勢いよく抱きついてきた彼女のせいで、俺の言葉は中断した。
痩せてはいるがそれなりにある彼女の胸が柔らかくあたる。

「こんなやせっぽちで悪いとはおもうんですが」
「いや、そんなことは全然」
ちがうだろ、そんな正直な感想言ってる場合じゃないだろ、オレ!

というか、一気にズボンの中が俺の意思と関係なく盛り上がって、
なんか痛いくらいになってて。
空気読めよ、なにやってんだよ、静まれ!

そんな思いとは裏腹にそれはさらに硬くなり、彼女のおなかにもろに当たる。
やばい。

「えっ?!」
妙な感触に不思議な顔をした彼女は、ちょっと考えて事態に思い至ったのだろう。
上向きとなったその顔は、さっきよりさらに赤くなっていた。

「先輩、あの、これって……」
こっちが恥ずかしくなってきた。言わなくていいから。

「ちょっと、やってみますね」


ひざまずいた彼女は、おもむろにジッパーに手を掛けると一気に降ろした。
「ちょっ」
「大丈夫ですから。あ、痛かったら言ってください」

止める間もなく、ズボンもトランクスも降ろされ、彼女の目の前にそれが晒される。
自分に向かって突き出されたそれに、さすがに一瞬ぎょっとしたのが肩の動きでわかった。

「もう、いいから。気持ちはわかったから」

しかし俺は説得を続けることができなかった。彼女がその口で俺のものをくわえたからだ。

「アヒッ」
あまりの快感に悲鳴をあげた俺。

そのままの姿で、そう、俺のものを唇でくわえたまま、彼女は俺を見上げた。
不思議そうに首を横にかしげる。痛いのか…と?

「いや、痛くない。正直気持ちがよくて」
動転してありのままを告げる俺の答えに、彼女は満面の笑みをうかべた。
そして更に奥へとおれのものを飲み込み始める。


今、彼女の頭は激しく前後に動き、それと共に強烈な快感が俺にもたらされている。
もう……多分、もうちょっとで……

やばい、このままじゃ、口の中に出ちまうじゃないか!
あわてて彼女の頭をおさえる。

「で、出ちゃうから」
見上げた彼女にそう言う。
それを聞いた彼女はかすかにタテに首を振った。

えっ?

俺の手は取り払われ体の横に持っていかれた。
そして再び彼女の唇によるグラインドが始まる、情け容赦なく、もっと激しく。
舌先は尿道の辺りを刺激するという、同時攻撃!

あっという間だった。俺の快感は頂点を迎え、一気に射精が始まる。

「出る」
それだけ言うのがやっとだった。

動きを止めた彼女の唇の中で、俺のものが幾度も痙攣し、
激しく精液を噴出する。


出るものが出きった瞬間、俺は激しく後悔した。
なんで彼女にこんなことをさせたんだと……

急に俺のものを包んでいた温もりが消えた。見れば彼女が口を離していた。
あわててそばのティッシュ箱をとり、数枚とって彼女に渡す。

「ここに」

しかし返事は無く、部屋に響いたのは彼女がなにかを飲み込む音。
えっ?!

「飲んじゃいました。あんまり味はないんですね。
 このティッシュ借りますね」
そう言うと、彼女は俺のものを丁寧に拭き始めた。

なんか、後悔とか、してる場合じゃなくなってる……

「あれ〜 なんか、先輩のこれ、まだ元気あるんですけど〜」
彼女がそんなセリフを笑顔で言いながら、指先で左右につついて遊び始めた瞬間、
俺の中で何かがぶちきれた。

もういい! 渡した金の分、やりまくってやる!
だいたいこいつ、その気でここに来たんだから、問題あるわけないし。
俺は、けだものモードに突入した。

彼女を抱き上げ、ベッドに放り投げる。
突然の俺の変わりように、呆然としている。
おまえが言い出したんだ、俺は責任持てないからな!

スリップを脱がし、ブラをむしりとると、俺は乳首を口に含んだ。
フハッ。彼女の口からため息のような吐息が漏れる。
片手でもうひとつの乳房をつかむ。不定形に形を変える柔らかい塊。

肩、首筋と唇で愛撫して、たどりついたとこで彼女の顔を見つめる。
唇を彼女の唇にゆっくりと寄せても、目が開いたままだった。

「目を閉じてくれるかな」
「あっ、ハイ!」
気付いてなかったようだった。

ようやく唇を重ねると、彼女の腕が俺の背中に回された。
そして彼女は顔を左右に振るようにしながら、俺の唇をむさぼる。
当然のように俺のものは激しく勃起して、さっきから彼女のおなかを叩いてる。

唇を離し、下半身へと移動した。あわてて彼女が両手で股間を隠す。
ゆっくりと手をはがし、小さな布の両サイドに手をかける。
彼女はさりげなく腰を浮かした。


すべてを取り去ったとき、正直俺は感動していた。
女の裸って、こんなに綺麗なものなんだと。

「あの、恥ずかしいんですけど」
彼女がこちらを見ていた。
あわててベッドカバーをはぐって中に入れてやる。

気付くと、下半身は何も着けてないくせにワイシャツだけ着てる俺がいた。
急いで脱ぎ捨てると、開けっ放しのサムソナイトからコンドームを取り出す。

「あっちじゃ極薄は手に入りにくいから持ってけ」
と悪友から押し付けられた奴だ。余計な荷物とは思ったが、ここで役に立った。
ベッドに入る前にヘッドボードに置く。

素っ裸で抱き合う。触れ合うことがそれだけで気持ちいい。
流れのままに唇を重ねる。そして俺の手は彼女の下半身へと。

無理やり割り込んだ指先、極端に柔らかいものをかきわけると、
ヌルッとした感触に出会う。
彼女の口から「アッ!」と声が漏れた。

繰り返し上下に動かすと、腿と全身を強張らせながら喘ぎ声をもらし続ける。
その声を聞いているうちに俺の我慢は限界点を超えてしまう。

ベッドから半分乗り出し、ヘッドボードのコンドームを着け、再びベッドに。

「どうしたんですか?」
半開きの目のまま、こちらを向いて彼女が問いかける。エロい。
「コンドーム。妊娠したら君の治療が困難になる。だから」

答えはなかった。そのかわりに下から強く俺を抱きしめてきた。
肩が震えてる。そして俺の胸が濡れた。泣いているのか?
引き剥がしてみると、顔は涙でボロボロになっていた。

「わたし、先輩が初めてで、よかったと思ってます、心から」
いや、いかに据え膳とはいえ、結局金の力で君を買ったようなこの状態で、
そんな風に言われても……

「遠慮、いりませんから。気にせずに」
……どっちにしろ、俺にも自分が止められるわけがなかった。


彼女の両足の間に割り込む。片手で探りながら自分のを押し当てる。
力を入れると彼女の顔が苦痛でゆがんだ。かまわず奥にすすめる。
俺の胸に彼女の手が当てられ押し戻そうとする。多分無意識なんだろう。

なにかを無理やり押し切った感じと共に、俺の全てが受け入れられたのが分かった。
彼女が荒い息をくりかえす。相当に我慢をしていたようだった。

早く終わらせたほうがいいだろうと思い、腰を動かしてみた。
三往復したところであっけなく射精してしまう。予想外だ。

リスクを負うわけにはいかないので、
余韻のことは無視して、彼女の中から俺を抜いた。
始末をしてから彼女を腕枕しながら抱きしめる。

腕の中に温かさを感じながら俺は思っていた。
彼女には絶対に生きていて欲しい。
たとえこんな風に彼女を抱きしめる役が俺でなかったとしても、
それでも彼女には……

見れば、彼女は穏やかな寝息をたてていた。
彼女の髪をかきあげ額にキスをする。

必ず元気になって日本に帰って来るんだぞ!
いいか! 約束だぞ!

俺は寝たままの彼女にそう語りかけた。


チュニジアってとこは、アフリカにしてはやたら治安がいい。
日本からのODAも結構入ってて、かなりの親日的な雰囲気だ。
ある意味ヨーロッパの飛び地的な場所と言えるのかもしれない。
結構、観光が重要な産業だったりする、そんな変わった国。

とはいえ、ちょっと国境を越えると危険地帯。
顔なじみの駐在員は、隣国で誘拐寸前の経験があるって言ってた。


あの日、俺が夜中に目覚めたとき、俺の腕の中に彼女はいなかった。
そして書置きがテーブルの上にあった。

『必ず病気治します。絶対ですから』


こっちにきて俺は必死に働いた。
とりあえずフランス語ができたのがラッキーだった。
植民地時代の名残で、この国の人間は学校でフランス語を学んでるからだ。

考えてみれば、俺の雇い主はそのこともわかってて、
俺をここに寄越したのだとは思う。

様々な経験を重ね、気付けば3年が過ぎていた。
とりあえず足手まといじゃないくらいに仕事は出来るようになっていた。


彼女とはあの夜以降全く連絡をとっていない。

そりゃそうだろう。
金の力で彼女を助け、そして彼女はその金と引き換えに俺に抱かれた。
そんな成り行きの中、どのツラ下げて彼女の心配をすればいいんだろう。

ただ、なにかまずいことがあれば、オヤジは俺に言って来るだろう。
便りが無いのが良い便り。そう思って俺は毎日を過ごしてきた

そんな俺に日本に一週間ほど来るようにとの命令が飛んできた。
直々に社長からだ。
おかしい。上司に聞いたところでは、異動なら次はヨーロッパのはずだというし、
そもそも今回のは出張扱いだし。
微妙な胸騒ぎを抱えたまま、俺はチュニスを飛び立った。

トランジット込みで16時間。日付としては24時間にもなる長旅だった。
成田に着いた俺は正直ヘトヘトだった。

アライバルには社長が来てるはずだった。
会うのが恐かった。
そりゃそうだ。平社員の出迎えに社長が来る会社なんて無い。
歩きながらも悪い方向に妄想がふくらみ続ける。

「残念だったが、彼女はアメリカで……」
んなことはない! 絶対無い! 彼女に限って!

ゲートを抜けたところで、オヤジを見つけた。

「ただいま帰りました」
「ご苦労様」
その表情からは何も読み取れない。不安がさらに募る。

「で、いったい何の用で」
「いや、私は特におまえに用事はないんだが」
「どういうことですか! わざわざ16時間掛けて来て、そんな」
「待て! おまえに用があるのは、私ではなくこの人だ」

オヤジの影に隠れるように立っていた人物が前に出てきた。


彩。
目の前に彼女が立っていた。足もあるし。

「おかえりなさい」
あれほど聞きたかった声が今、耳にやさしく響く。

俺は呆然としたままオヤジを見た。

「治療は成功した。彼女はもう大丈夫だ、心配ない」
力の抜けた俺はその場に、ヘナヘナと座り込んでしまった。

「だらしがないな、最近の若いもんは。困ったもんだ」
そう言いながらオヤジは俺の手をつかんで立ち上がらせてくれた。

「積もる話もあるだろ。まぁ、こっちも忙しい身なんでこれで消えるが」

「あ、そうだ。来月になったら辞令出すから。
 おまえにはブリュッセルに行ってもらう。多分5年ぐらいだ。
 契約金の分は働いてもらわないとな」

「それからここでの一週間は休暇扱いだから、出社には及ばん。
 じゃ、そういうことで」

そう言ってオヤジは俺たちに背中を向けて歩み去っていく。

くやしかった。俺はオヤジに負けた。完敗だ。
でも、ちゃんと言っておかなきゃいけないことがある。今ここで。

「オヤジぃ〜」
俺の叫び声にオヤジの足が止まる。

「ありがとな〜」
むこう向きのまま右手をあげて人差し指を左右に振るオヤジ。
そしてそのまま人ごみの中に消えていった。

かっこつけすぎだろと俺がつぶやいてると背後から声がした。

「先輩。ここで抱きついてもいいですか?」
「え?」
「あぁ、もう、我慢できません!」

言葉と同時に俺の背中に衝撃が来た。
「会いたかった……ずっと…会いたかった……」

彼女の言葉は嬉しかったが、同時に周囲の視線もかなり痛かった。


平静を装い、しばらく好きなようにさせてから引き剥がし、こちらを向かせる。

「だってお前、あんとき」
「もう、先輩、全然わかってなかったんですね」
「お、お礼だって、そういうふうに」
「嘘に決まってるじゃないですか」

なにそれ……

「正直、治療が成功するかどうかわからない状態で、
 もしかしてそのまま死んじゃうかも知れないって思ったら、
 大好きな人に抱かれてからじゃなきゃイヤだって、わたし、そう思って」

えっ?! その大好きな人って、もしかして……

「もしかしなくても先輩です。やっぱりわかってなかったんだ。
 そうじゃなきゃあんなことまで……しませんよ」

最後のほうは、あの夜のことを思い出したのか、小さな声になっていた。

「あの夜、先輩に本心を言うのは出来なかったんです。
 死んじゃうかもしれないのに告白したって、
 結果として先輩を苦しめてしまうことになるって、わかってましたから」

彼女の瞳から涙が一筋こぼれた。
しかしすぐにその表情に笑顔が戻る。

「でも、もう、我慢しなくてもいいんですよね」
「あ、あぁ」

「先輩、大好きです」

「へへ、やっと言えた。すっきりしました」

泣き笑いのその顔を見て、俺が大事なものを失わずに済んだことに関し、
柄にもなく神に感謝したのは内緒だ。


イヤ待て。重要な問題が残っていた。

俺は一週間後にはチュニジアに戻り、そしてベルギーに行く。
当分帰って来られそうにもなくて、いったいこれからどうしたら……

「あ、そうだ。社長言ってませんでしたね、大事なこと。
 わたし、雇っていただいてるんです半年前から。
 で、来月ブリュッセル事務所に転勤になる予定です」

……やりやがったな、あいつ。
でも、なんか、会社を私物化してないか?

「なんか他には?」
まだありそうな気がして聞いてみた。

「あと……」
「あと?」
俺の問いかけに彩の顔が赤くなった。

「二人の社員を送り出したはずなのに、
 帰りの飛行機は三人分用意しなくちゃいけない事態もありうる。
 でもこれって、会社もちになるんだろうか……とか」

ろくでもないことを考える社長だ。

「でも、すごく楽しそうでしたよ、そう言ったときのおとうさん」

オヤジ……

「あと、ひとつ残ってた」
「え?」

「俺と一緒のベルギー駐在に関して、
 君のご両親にもちゃんと事情を説明しないといけないと思うんだ。
 いや、今後のことも含めてきちんと筋を通さないと」

「それは先週、社長がわざわざ家に来て両親と会ってくれて、OK貰ってます」
「そっか。え? でも……それって、俺のOKが……」
「……あ、そう言えばそうですね。あれ〜 誰もそのこと話題にもしてませんでしたね」

これだよ…… いや別に何の不満もないんだけどね。いいんだけどね。

気付けば目の前の彼女は、天使のような微笑を浮かべ俺を見上げていた。
俺のとるべき行動はたったひとつで、迷うはずもなかった。

彼女を抱きしめてキスをする。
人がいっぱい通る、成田の到着ロビーではあったけど……

  Fin


<番外オヤジ編 ttp://avec-toi.net/320/02.html *エロなし>
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