BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   イクピル×シンビ(続き)       壱参弐様


武官にせよ役人にせよだ、とイクピルは思う。いずれにしてもシンビにその時が
来るのは遠くない。
チボクの噂話を小耳に挟んでからというもの、イクピルは毎日のようにそのことばかりを
考えていた。いや考えたくは無かったが、頭から追い出すことができないでいたのだ。

なにか楽しげなひと時があれば女をはべらせたがるのは男のさがで、手近なところで
揃えるのはごく自然な成り行きだ。だが女官はいくら頭数があっても手は付けられない。
宮に女といえば奴婢がいるが身なりもぱっとせず、それをはべらせようという
酔狂な連中は限られている。となれば残るは医女だ。
そもそも医女というものは、今は上が厳しく諌めているから酒席に伴わなれずに
済んでいるものの、ついこの間の成宗王の頃には妓生が鍼を施すのはよくあること
だったし、医女が酒をつぐのも特別なことではなかった。そして燕山君の時代には
女そのものが足りなくなり、女と見れば身分も老若も問わず、という乱痴気騒ぎが
繰り広げられていたという。もちろん医女などは、真っ先に爛れた両班どもの餌食と
なった後でのことだが。

自分はあの時代を直接には知らない。ただ、やはり医官だった親父が深酒をして遅くに
帰り、気が鎮まるまで酒を飲み直しながら母に嘆いていたのを隣室で聞いていたことが
よくあった。
思えば親父も堅物だった。同じ内医院の医女が慰み者にされるのを、歯噛みする思いで
見ていたのだろう。
自分も後に宮に入りその名に聞き覚えのある医女を初めて見た時、なんとも言えない
ざらついた感慨に耽ったものだった。親父が荒れた夜の数だけ、この方も辛い夜を
過ごされたのかと。
いや宮に残れただけまだマシなのかも知れない。孕まされても妾として囲われるのは
僅かで、多くは目障りだと田舎の診療所へ追いやられていったらしい。
しかしそれから歳月を経て自分より年が上の医女は既におらず、最近入った連中は
酒席に足を運ぶこともあるようだが、むしろ嬉々として着飾り出向く様を見かけると、
世の中は変わったな俺も歳をとったとまた違う意味での感慨に耽ってしまう。
だからシンビが中宗殿下の治世で医女として過ごせたことは、なによりの幸せだと
思っている。でなければ真っ先に。それが王だけならまだしも、そこいらの下っ端連中に
まで繰り返し慰み者にされただろう。

ただし問題は。イクピルは髭についた酒を人差し指で拭いながら思う。
未だにあのようなふしだらな行いが通じると思っている年寄りや、あるいは何人の女を
モノにしたなどというたわごとを親の武勇伝として聞かされてきたような連中がいる
ことだ。
あいつらはことあるごとに。
口実を設けては。
あるいは力づくででもとばかりに。
いずれにしてもシンビにその時が来るのは遠くはない。この前聞いた若い役人にしたって、
あの時はじゃれついただけだったからその場はやり過ごせたというだけで、本気で、
そして家の威光を後ろ盾にされたら彼女に逃げる術はないだろう。

そう、シンビが女になってしまう日が来るのだ。

徳利を傾ける手が早まったのに気付き、イクピルはまた思う。
親父と同じだな、今の俺は。自分が手塩にかけて育てた部下が、そして好ましく感じる
女が他の男の、しかも怖気立つような輩のおもちゃにされるのを黙って見ていなければ
ならないのか。そしてただ手酌に咽ぶしかないのか。

俺は親父とは違う。そして時代もまた違う。
このところまともに夕飯を取ることもできずにいた。
疲労続きの体に少しでも精をつけようと頼んだ肉鍋の残りをつつく。
久々に腹を満たしイクピルの苛立ちはやや軽くなった。

シンビ。医女が交代で鍼の修練を積む時に、少しだけその裸を見たことはある。それも
なにもまとわぬに近い姿をだ。もちろんそれは必要あっての事で、手足のツボなどある意味
大雑把だが首以下体幹の繊細な部分については僅かな間違いが命に関わる。だから医官の
厳しい監督の下で施術を覚えさせるのだ。
その時は教えるのに懸命だから、つまりそういう目で見ることは断じてない。だが普段
とは印象が違い、全体に割と肉付きも良くそして張りのある肌は、誰にも話したことは
ないが、記憶に留めてある。

イクピルは脳内にシンビの姿を浮かべた。
あの腿に自分の足を絡ませ、尻を。
股に手を差し入れ。
胸に自分の胸を重ね。
唇……
過日覚えた欲情を思い出し赤面する。
その気恥ずかしさを打ちのめすように、現実的な情景がまた頭を占めた。
俺じゃないんだ。そうするのは俺じゃなく、あの性根卑しいやつらなんだ!
聞いた名前はどいつもこいつも初物好きで、相手がとまどう様に興奮する変態野郎
ばかりだ。変態め!
イクピルは酒房のおかみに声をかけ、にごり酒を追加した。

その時シンビはどう感じるだろう?
もし俺ならば。妻もいて、女郎屋に出入りしたこともあった。女の扱いには、いやいや
扱いではない。思いやりだ。あの若造どもはシンビを妻や、せめて妾にとなど思っても
いないだろう。奴らにとってはひと時のおもちゃに過ぎないのだろう。
俺は。俺とは多少歳は離れているが、もしシンビさえうなづいてくれたならば、そばに置く
こともやぶさかではない。ずっとずっとだ。
イクピルは杯を傾けた。

しかしそれは。シンビなら俺よりマシな相手がいくらでもいるだろうさ。若い医官か
身持ちの確かな誰かと添い遂げてくれるなら。
けれど問題はそこではない。というか先のことをうだうだと考えるために酒の前にいるの
ではない。いずれ誰かとめおとになろうがなるまいが、そんなことはいい。そもそも
医女がそういうものだということは、娶ろうと思う相手は百も承知だろう。今のあの子に
必要なのは。少なくともあんな輩に無理やりされてしまう前に。
酒が深まるにつれ、イクピルの頭の中でシンビのその時ばかりが去来する。
酒につき合わされ
手足を押さえつけられ
あるいは縛られ
数人がかりということも
ああ俺はなんと馬鹿なことばかり。いくらなんでもそんな無体なことを俺は許さぬ。
まだ徳利に半分飲み残した酒をそのままに、イクピルは酒房を後にした。
だが許さぬと粋がってみても、どうしようがあるというのか。

  ただひとつあるかもしれない。

  俺が慈悲を。

足元をよろめかせながら夜道を宮に向かった。


今日は泊まり番だったから、呼びつけが無ければ仮眠をしている頃だ。

けれど俺の女郎屋通いといっても、抱きに行ったのではないのだよなあ。
父の没後頼りにしていた兄が大病をしその薬代が賄えなかったことがあって、どんな患者
でも朝晩駆けずり回って診察し、眠る暇さえなかったのを、見かねた医者の先輩に紹介
してもらったことがきっかけだった。
もちろん妓生相手の稼ぎなど胸を張って言えることではない。
親父に聞いた話しでは、経国大典が示されてしばらくはその御政道に則り、女を診た者は
穢らわしいと蔑まれ、宮に召されることは絶対になかった。が、それを墨守した挙句に
后妃を何人も死に至らしめ、また担当した医官も次々死罪となり。
そうして有能果敢な医官が乏しくなれば、ささいな傷さえ逃げ腰なヤブばかりはびこり。
さすがにこれじゃいかんと、中殿だかなんだかの進言があったと聞く。
それで自ずとそういう腕を持つものが求められるようになり、となれば女郎屋界隈を
出入りしていたのが一番経験も積んでいたから、そういうのが宮に入り込んでいった。
今やそのきまりは有名無実化し、むしろ秘かにその類の経験を積むことが奨励されている
といってもいい。
が、表向きは口を拭うのがふさわしい振る舞いというものだ。俺もこのことは誰にも話し
てはいない。

ところであそこは様々な相談事が多く、そして女の体の隅々まで見なければならず、その
分実入りがよかった。
診察をする時に女の体に触れてはならぬ、などと綺麗ごとはお上品な方々の、まあ寝言
だわな。当然その、中にも指というかこぶしというか、病によっては結局腕の半ば近くも
入れることもあったり。そんな人体の奇怪さに最初の頃こそ気持ち悪い思いもしたが、
なに、慣れてみるとそれぞれで。だから女についてはそこらの遊び人風情よりもよく
わかっているつもりだ。そういう連中はただ己の快楽をむやみやたら突き立てるだけで、
中の造りもろくに知らない。そしてまた奴らが吐き出した欲望の後始末など考えたことも
ないのだろう。
俺ら医者は女の全部を行為の前後含めじっくり診立てねばならぬのだ。
というか、そうやって実際のところを知らずして、御簾越しやら手首に巻きつけた糸を
伝っての脈診だけでどうやってわかれというのか。我が命まで懸けて、やんごとなき方の
世話ができるというのか。
あんなもん診ているふりだけ、というのは医官仲間だけが知ることで、女医もまさか
俺らが眉間にしわ寄せながら、実は御簾の合間から顔色やその……患部というか、その
あたりを少しでも窺い知ろうと目を凝らしていることは知るまい。

あれこれ思い出しながら歩いているうちに足元がもつれ、そばにあった木の枝に腕を
絡ませて支えた。
いかん、このような風体ではさすがに怪しまれる。しばらく腰を下ろして酔いを醒まそう。

まだ女郎屋に連れてこられて間もない小娘の中には、診察でも体を触られるのを嫌がる
子もいる。なにもせぬうちから体をこわばらせ、最初はこっちもおっかなびっくりなもの
だから余計痛がって泣き出したりと面倒だった。

それへの対処を先輩にさんざん酒を飲ませてようやく聞き出した。
いきなりひん剥いてがばと無理やり開くから向こうも怖がるのだ。ついでにお前の顔を
見れば普通の病の者でも怯えるぞ。だからそっとうつ伏せに寝かせ、服の上からまずは
腰あたりを診ながらさりげなくツボを刺激しろと。特に背中から尻の上のあたりは気持ち
を和らげ痛みを取り去り云々。
ここから先は得々とした自慢話に辟易させられることになる。

曰く病が治らぬふりで何度も通わされるはめになったとか。
治ったはずなのにまた呼ばれて何事かと駆けつけると奥の間には布団が並べてあってだな。
こんな話しは聞きたくも無いが、合間合間に秘法を伝授してくれるものだから、聞かない
わけにもいかなかった。

腰から尻をほぐした後は徐々に前に手を移動して、股の付け根あたりをどうするこうする
と。お前もせいぜい指先に気合を入れ、女の方から身をよじるくらいにならんとな。
けれど忘れるな、診ている時には絶対に変な気で女の部分に手を触れてはいけない。
妓生のように、連日体を粗末に扱われている連中だからこそ、丁寧に診てくれる医者が
神様のように思えるのも無理のないことで、治してやってありがたがられると舞い上がり
男としても惚れられたと自惚れてはいかん。
そもそも女郎屋に向かうのは誑しこむのが目当てではないし、それでは治療の名目も
立たん。まあそんな勘違い野郎は早晩追い払われることになるがな、医者と妓生とは
身分や立場が違うんだから距離を保て、医者の誇りを常に忘れるな、名医は慈愛の心で
体の隅々心の奥底まで開かせるのが極意、などと。
それからがまた長話だ。

礼がしたいからと誘われても断り、まあ中にはいろいろあって、つい情にほだされたこと
も二度や三度ではなく飯ぐらいいいかとご馳走になったり。あれ、先ほどの話しと違うの
ではと聞くと、いやすっかり直り時間も置いてそれでも俺に感謝したいというのならむげ
には断れない、それはかえって女に恥をかかせるしまた礼を尽くして据えられた膳を食わ
ぬというのは俺の沽券にも関わるからなと。
それで召し上がられたのはお料理だけで?と問うと口を濁す。まあ先輩は非道では
なかったし、時折小耳に挟んだ噂でも、かつての患者たちが未だに付け届けを贈っている
とかいうのだから、それなりに取り計らったのだろう。
その他にも思い返してみても赤面するような話があったが、努めて真面目に聞いた。

その頃俺には妻がいてそれで十分だったし、おいしい思いとやらをしようとは思わな
かったがしかし確かに効果てきめんで、以来生娘たちを無用に泣かせることはなくなった。
ただ、女郎屋に出向かなくなってからもう何年になるか。妻を亡くしてからというもの、
なんであれ女の体を見たり、真面目な治療とは言え女の声を耳にしたくなくて、自ずと
その界隈から足が遠のいた。

今でもあの感覚を思いだせるだろうか。いやいやどうあっても思い出さなくてはならない。
指先を眺めると爪が少々伸び気味で、けれどツボを押すにはむしろ好都合だ。
これならいいとイクピルはうなづき立ち上がりまた宮に向かう。

ほどなくして宮の前に着いた。服の紐や肩の位置を整えなおし袖についた細かな木の葉を
払い、それから護衛に声をかけた。医官が夜間出入りするのはよくあることだ。今夜も
俺の顔を見、なにを聞かれることもなくくぐり戸を開けてくれた。

内医院に入ると中は静かだった。
普段、医官は夜は家に帰る。念のため先に医務官室や仮眠用の部屋を確かめたが、やはり
誰もいない。
医女は普通、二三人一組で泊まりの勤務につくのだが、今日は他のものたちは休みや薬を
調達するために遠方に出向いており、シンビひとりでいるはずだ。
この機会を……と思う反面、臆病な気持ちももたげるのを感じた。もう少しゆっくり考え
るべきでは……。
もちろん医官と医女とが組んで泊まることもないこともない。たとえば季節の変わり目は
どうしても急な病が増えるから、医女だけでは間に合わないことも多い。その時期まで
待てば、俺とシンビが夜を過ごすこともできなくもない。また先だっての王のいとこの
時のように急に泊りが入ることもなくはないが、もちろん必要で待機している時には雑談
などする余裕も無い。
だからそんな悠長に待ってはいられない。いまそこにある危機を感じたからこそこうして
戻ってきたのだ。やはり今だ、今夜しかない。

何度目かの決心をしてシンビを探した。
シンビは真面目で、手が空くと調べものをしたり薬剤の調合をしたりして夜を過ごす。
少しは横になったらと医女長は言っているようだが、煎じ薬のそばで腰掛けるくらいだ。
だから今夜も薬房にいるだろう。
案の定だ。そしてこの前と同じように、薬湯はもう煎じ上がっている。これではいつ土鍋
が燃え上がるかわからん。頑張るのは結構だが強く戒めねば、と肩に手をかけかけた。
いかん、今夜の用向きはそういうことではない。
まず薬湯を火から下ろした。そして改めて湯を沸かす。
さてどうするか。シンビは上がり口に腰掛け柱に寄りかかってている。

俺の理屈としてはこうだ。お前に言い寄るけしからん輩がいて、遠くない先に手篭めに
されてしまうだろう。お前は確か今はいい人はいないと聞いておるし、患者に触った以外
は男にせよ女にせよ人肌に触れたこともなかろう。そんなお前が不憫でならぬ。さっさと
相手を見つけるなら俺はこのようなことはせん。けれどお前のことだから、色恋にうつつ
を抜かすよりもまず医術を学ぶことしか頭になかろう。でだ。俺に出来るのは、お前の
苦しみを少しでも和らげることだけだ。だから。
俺自身としてはちゃんと通る言い分だと思うんだが。わからないというのなら、それは
シンビが己の美貌としかし置かれた立場のその弱さ、そして男共のけだもののような欲望
と背後の権力を知らないからだ。

とはいえ、叩き起こして説得するのは難しかろうと、さすがに思う。
先輩は、どうしてもおとなしくならぬ場合は少しばかり薬を飲ませることもあると言って
いた。俺自身はそんな厄介な相手に出会ったことはなかったが、その処方は覚えている。
まあ言ってみれば軽い痺れ薬で、痛みを減らして気分を軽くするために使う。
そう言えば噂を聞きつけたあくどい連中が、その手のを調合してくれないかと頼んでくる
こともしばしばある。連中は酒のように記憶も無くすることを狙っているようだが、残念
ながらそのような効き目はなく、お前らの悪事はしっかり覚えられているぞといって追い
払うのが常だった。
まあ闇の医者がそういうのを高値で売りつけているとは聞いているから、悪巧みをした
ければ内医院などに来るなということだ。
湯も程よく沸いた。その薬草を煎じ、これは軽く煮出せばいいのですぐに出来上がる。
シンビを起こたら、まずは飲ませてやろう。



恥ずかしながら俺のは人よりやや、いやかなりぼってりしている。もちろんそうしている
時のを並べて比べてみたことはない。が、実は女郎屋でも女だけではなく店の男連中の
相談に乗ることも結構あったし、時によっては高官たちがお忍びで、女に会いに来るので
はなくて治療のために女郎屋の場所を借りることもあったのだ。なにせこういった下の話
はお抱えの医者にも恥ずかしいらしく、前だけでなく、奴らは年中座ってばかりだから
まあ後ろの方までいろいろ。またここで俺は人体の不思議に圧倒されることになる。
そして思い出すのは吏曹判書のことだ。誤診ということにされているが、俺にも言い分は
ある。あの方は以前俺が女郎屋の医者だった頃によく出入りされていてお互い若い頃は
俺も度々相談に乗っていた。
気立てよく、あまり客のつかない女もかわいがっていた。そういう女は顔色悪くどこか
体調というか挙動がおかしいことが多かったから、やめておけと言ったことも数度では
ない。
吏曹殿がどんどん出世し俺も内医院の医官となり、次に顔を合わせたのは数年前の
ことだった。ごく普通に風邪やらなんやらを見ていたのだ。けれどお互い立場が出来て、
昔みたいにざっくばらんに打ち明けてはくれなくなっていた。俺が見ればすぐ判った
だろうに……吏曹殿はそのころ新たな病として知られ始めた病で、発疹を伴う病をうつ
されていたのだ。だんだんわかってきたのだがこの病は女郎屋好きに多く、それは別に
恥ずかしいことではなかったが症状が面妖で、発疹が治まり直ったかと見える時期もあり、
ところがひどいのになると鼻や男のものまで腐り落ち、それが業病と称される病と似て
いることから非常に恐れられ、人に知られるのが嫌さに別の腕のよくない医者にこっそり
かかっていたと思われる。俺が診たときは最早手足の自由もままならず、けれど薄々事情
を知った親族から真相を告げることを阻まれ、まあどうしたところで結局医者のせいに
されちまうのは世の常だ。
とにかくそういうわけで宦官たちも含め、男の患者たちの普段目にはできない部分をいく
つも診てきた。
でまあそういう時にはいろんな形状のそれを眺めねばならぬことも……こっちはこれまた
見たくもないが相手は真剣そのものだし、数をこなすうちに女同様見慣れてくるもんだ。
ある時など結構名の知れた妓生相手に目の前でまぐわり初めて、先生ちょっと診ていた
だけませんかなどと言われ、あれにはさすがに驚いたというか、両班ともなればその時の
世話まで端女にさせるのが当たり前なのか、人前でも全然頓着がない。
こっちも下腹が膨張してくるのを悟られないようにするのが大変だったが、逃げるわけに
もいかず。なにせかなりの大金を弾んでくれるお方でむげにもできなかった。
まあ例のごとくのしかめっ面で通し、ご丁寧に白い残滓までとっくりと眺めて、これで
したら心配ないと思いますなどと言っておいた。
それがどう口伝てで広まったのか、それからは俺のは貧弱じゃないかとか、もっと女を
喜ばせたいから形を変えられないかとか妙な頼みをされることも多くなった。で、場合に
よってはそそり立つのを診なけりゃならなくなる。まあその内慣れてくるもんだが、俺の
口が堅いのをいいことに、本当に便利に使われてしまったものだと思う。まあその分
短い期間で多くの経験を積めたのは間違いない。
そんなこんなで俺は耳年増ならぬ目年増で、おかげでと言うかなんと言うか俺自身の
大きさについて自覚ができたのだ。
俺も普段の見た目はそれほど差はないが、その時になるとざっと倍くらいになり特に傘の
部分が下の方よりもぐんと張り出し、男はこれが当たり前かと思っていた。けれど見た
限りは俺より長いのはあったが太いのには出会ったことはなかった。

ところで妻をめとったのはそんなことを知らなかった頃だった。既に女はそこそこ見て
きていたから、妻のも特に変わったところはなく、見ため小さくても赤子すら通ると初夜
の晩、思えば前戯もそこそこにあてがい、慣れたものだと迷い無く貫いた。と、ところが
壁ができたかのように全然入っていかない。焦って無理に押し込めようとすると今度は
妻が堪えきれずに呻くのが聞こえた。痛いのかと聞くと、はいとうなづく。なんだこの
俺が、あれほど女のあれこれを知っていると自負していたはずが妻ひとりかわいがって
やれない。
恥ずかしくなり結局その夜は背を向けて寝てしまった。妻は申し訳なさげにしていたが、
申し訳ないのは俺の方だ。
で、それからは、女郎屋での経験がこんなことに役立つとは思わなかったが、腰を揉み
ツボを押したりして、妻も徐々に濡れもし。俺は目年増であったが実地経験にはうとく、
妻とする中で男として女を知ったようなものだ。
それでやっと一寸ほど埋めることができた。でもまたそこから先がどうしても入らず俺も
痛くて仕方ない。

さすがに困り果てしかし先輩に聞くのも気恥ずかしく、思い切って女郎屋の抱主にそっと
相談した。
まああれだ、俺はその手の場所で女を抱いたことがなくて、というか俺自身初めてだった
ので、それまで目の前の患者たちをこんなものかと診ていただけだが、考えてみれば
中には年端も行かぬ、普通は男と女の営みを知らぬような子供でも一人前に男の相手をし
ている。ということは、あの小さな体に受け入れていて、別に平気でいるのだ。
様子を見ても辛がることなく、まして殴られて無理無理されてもいないようだし。考えて
みればどうすればそんなことができるのか不思議な話だ。

抱主はでっぷりした腹に禿げ上がった頭のいかにもといった風体で、俺の真面目な問い
かけに最初は大笑いした。そりゃあ先生、ここでお見せしているのは男たちの理想郷でね。
皆が皆、そんなに簡単に女と楽しめるわけではないですよ、と。
その後は極めて真面目に答えてくれた。それはこんな話だった。
連れてきた子たちの多くはそれまで家でろくに飯も食えやしない。まずは一週間ほど、
たらふく食べさせてふかふかの布団で寝かせて毎日風呂にも入れてやる。で、ここが今ま
での暮らしよりもずっと居心地のよい所だと教える。最初は貧相な顔の子も、顔の色艶や
肉付きがぐんとよくなると自然と気分もほぐれてくるのだと。
そうしてからが仕込みの始まりで、まあ温かいおまんまをもっと食べたいという欲のある
子、あと家族を養いたい一心で最初からこういう商売に馴染もうとするのは手がかから
ない。あと生まれつき好きな子もいて素質があるというのか。ちょっと肩や尻を触った
反応でそういうのはすぐわかるから、この手のはそのまま客を取らせる。
通というか遊びなれた連中は妓生たちの内輪話を聞いているから、初物といっても既に
他の男、つまり儂の仕込み済みのではなく完全なまっさらを欲しがる。で、その方々に
うんといい値で買って貰い、後はその男好みに育て上げられるなりしてうまくいけば妾に
なることもある。まあそれは相性と女の努力次第だが。
普通の子はやはり怖がり、いきなり客に出すと粗相をすることまである。それもちょいと
なら目をつぶるが……緊張のあまり見るに耐えないものまでぶちまけてしまうのもいて後
の掃除が大変で。それでもいいというおかしな、といっては失礼だが変わったお方は別と
して嫌がられるし、汚れてしまった布団も使い物にならなくなる。
また緊張しすぎて痙攣まで起こして、娘もわんわん泣いて痛がるわ客のもどんどん締め
上げられて顔面蒼白になるわで、にっちもさっちもいかなくなることもある。
客のためばかりでもないんだぞ。娘にしてもある程度馴染ませておかないと腫れ上がった
り、ひどいのになると深く裂けたりして苦しみ抜くことになるんだ。儂のしているのは娘
にとっても慈悲で、だから儂が必要なのだ。
で、タダ飯を食わしている一週間ほどの間は表周りの掃除や洗濯の手伝いをさせたりする。
まだお座敷には入れないし、仲間の皆もそんな話は一切しない。廊下で会う度ニコニコし
た顔を向けられ、犬猫同然の暮らしをしてきた子にとっては天国のようなところだろう。
折を見てある日、女中頭が布団部屋で布団の整理をしろと命じその後で儂が部屋に入る。
布団部屋は外から鍵が掛けられ、儂が声を掛けるまでは開かない。で、そこの布団の山に
手を付いて、裾をからげろと命じる。もちろん主の命令を聞かぬわけにはいかないから、
わけもわからずおずおず捲り上げた尻や腿をまずとっくり眺める。しかるのち下着きを
さっと下ろしてやる。
この頃から異変に気付き、ガタガタ震えだすのもいるが気にしない。ここは大店、多い時
には一日に数人もしていかなければ間に合わないのだからな。で、むき出しになった尻を
広げ、色づきを調べ指で付き方を確かめる。付き方というのは上付きとかどうとかって
ことだ。先生も見てたらわかるだろう? あと、毛はまだ生え揃わないないのが多いが、
まあそれは儂の長年の経験と勘でどのあたりまでどうなるかってこともだいたい予想が
つく。これでこの娘の売り出し方、相応しい相手を頭に描いておく。
それから袂に忍ばせた軟膏をさっと塗り、自分の一物を軽くしごいてあてがう。この時
気をつけるのは、柔らかいままですることだ。儂のは人並みだが、それでも怒張すると
小娘には辛い。傷つけぬよう細心の注意を払うんだが、儂も若かりし頃は加減が出来ず、
つい血を垂らしてしまったこともたびたびで、それでは売値が下がる。
なにせ初物は三倍以上の値がつくんだがそれは初めて男を受け入れる恥じらいの涙や、
身を裂いた時に実のところは形ばかりではあるが流す血、そして己の体内に男の欲望が
染みこむ驚きの顔、そういうものを見たいからだ。とはいえ先ほど話したように汚物
まで浴びたいとは思わないしお互い無闇に痛い目もしたくないしさせたくもない。それで
は楽しめんからの。
儂らはそこらの道端で女を襲うような獣とは違う。こうやって店を構えお客に安心して
遊んでもらえる玩具を提供しているわけだ。だから水揚げにしたってまあ一種の様式美を
楽しむ大人の遊びというわけだ。
それにふさわしい商品を作り上げるのは、これはこれでなかなかの苦労ってやつで。

力を抜けと命じておいて途中まで持ち上がった儂のをゆっくり沈めていく。あれは意外と
柔らかに広がるもので、多少の抜き差し程度で破れることはない。客が初物相手でそう
なるのは、興奮して突っ張ったものを無理やり押し込み、これまた阿呆のように出し入れ
するからで、やさしくすればすぐに馴染み、娘も特に辛くはない。遊び慣れたお方も儂と
同じように、最初の何回かは血を見せることなく、その感触も含めて楽しんでくださる
ようだ。
もちろんこの程度でも涙を流し始める子もいるが、一切声は掛けない。体で儂を感じる
うちにこれが己の生きるすべだと悟っていくものだ。
中にはこらえ性のないのもいて部屋の中をどたどたと逃げ惑ったりすれば、まあまずは
部屋の外にいる女中頭が音を聞きつけて駆け寄り自分の部屋に連れ帰って因果を含める。
これで大抵は次の日には黙って儂に身を委ねる。それでも言うことをきかぬのは、しばら
くメシ抜きで放り込んでおく。体が弱れば逃げる力もなくなるし、一度食わせたメシの味
はそうそう忘れられるものではない。
これでも駄目ならもう無理やり。他の男連中の手を借り押さえつけ……。こういうのが
好みな酔狂なお方もいらっしゃるから、あらかじめ話しをつけておいてもらえれば、その
お方にお願いすることもある。もちろん助太刀をご用意するし、いやむしろそのお方の方
から生きのいいのを連れてくるから人手は無用とおっしゃることが多いな。まあ儂に逆ら
う奴に気づかうことはないから、他の妓生仲間や女中は顔を見せず男だけの中に放り込み、
あとは好きにしてくれと。
そういう時には離れをお貸しするのだが、一晩中ぎゃーぎゃー泣き叫ぶ声が届いて、他の
連中へのいい見せしめにもなる。次の朝にはぼろぼろの顔で泣きべそをかくのがおちだ。
とまあいろいろあるにせよ、いずれにしてもいつかは儂に従うことになるのはこの世界の
掟だ。

話しがそれたが、沈めたものを半分くらいまで入れまた抜いていく。これを丁寧に繰り返
して十回ほど。ここで儂も気を入れ少し大きくする。そしてまた何回か抜き差す。初日は
これで終わり部屋から出してやる。恥ずかしそうに皆と暮らす部屋に戻れば先からいる
妓生に様子を聞かれるだろう。で、皆そうだったのだと知って納得するだろう。
翌日から、一日置きに呼びつけやはり同じように入れてやる。やはり柔らかなまま入れ、
中で徐々に大きくしながら拡張してやる。仕込みの見極めは中で普通に怒張させ、だが
もう出し入れはせずにそのまま含ませておく。それでじわりじわりと潤滑液が染み出て
くるようになれば終わりということだ。
こんな一連の作業の中では決して全部をうずめない。その先はお客が楽しむ領域だ。ここ
まで教えたのでは初物の意味がなくなるからな。
そして絶対に、これは絶対にだが気をやらない。儂自身小便くさい娘は好まないし商売
道具を自分の慰み者にする気はない。また主が自分の体で気をやったとかいう思いは奴ら
に無用の自尊心を与えるからな。それはまずい。儂の仕事はお客の使いよいようにただ黙々
と道筋をつけることだけだ。
で、仕込みが始まれば年上の妓生たちもぼちぼち床の所作を話してくれるだろう。けれど
聞くと見るとは大違いだ。儂が施す子供じみたまぐわりではなく男が興奮した顔で体の上
にのしかかり腹の中を突き上げ、熱い放出を浴びせかける。女は抗う術もなくそれを体で
じかに受け止めさせられる。自分の体を何人もの男が通り過ぎ、その合間の熱情とだだ
残される空しい置き土産が女を磨き艶を出し、やがてはこの店の看板娘へと変えていく
のだ。

というわけで儂が仕込むのは長くても一月ほどで、あとは細かいことだが皆を集め並ば
せて順々に入れていくぐらいか。これは皆も同じということを知らしめるためと、そして
いずれはこの子たちもそれぞれが後始末などの世話に部屋に付くから、いちいち驚かない
ように見慣れさせておくくらいのことだ。
まあこうしてやっと店に出せるようになるのだが、やはりそれぞれ特長があってな、つま
り味わいが違う。ちょっとやるだけで感じ始めるのもいれば、まったく平気なのもいる。
このどちらも将来店を担ってくれる逸材だな。
また生まれ持っての名器ってのはあって。もうずいずい吸い込まれるような感覚で、しか
も苦しそうな気配がないのだ。儂は気が遠くなりながらつい全部を突き入れてしまうこと
もあるが、それをも体奥が楽しんでいる按配で。逆にこちらがよがりそうで自分を抑える
のに苦労し、白目を剥きながら儂は抱主の立場を思い起こしてなんとか最後だけは押し留
める。
その時の一物はいつまでもほんわかとし、次にその娘を抱くのが待ち遠しく仕込みを終え
るのが名残惜しい。そしていつかは儂のものにと思っていても、すぐに妾の声がかかって
しまうから、結局おあずけのままだな。ああいうのがもし儂の添い遂げる相手だったら、
互いに深く交わったまま心中してもいいかと思うくらいだ。

それでそうそう、奥方にどうしたらということだった。だから先生は奥方の体に感じ入
られて、血の気がありすぎなのではないかな。しばらく別のことを考えるとか。まあ愛い
お方の前では無理だろうが……その前に一回抜いておけとまでは言わないが、とにかく
男の方が気持ちを抑えるようにな。
硬くないまま入れるのはコツはいるさ。けれど右左に曲がる程度でも案外なんとかなる
もので、手なぞそえながら腰を押し込んでいくといい。場所さえ間違えなければ収まる
べきところに収まってくれる。それで抜き差しも我慢ししばらくそのままじっといる。
でないと動けばすぐまた大きくなるだろう? そうなったら奥方のがもちやせん。じっと
奥方のが広がるのを待つ。もちろんその間乳など揉んだりすればよいが、まあその辺りは
儂が伝授せずともご承知だと思う。
それで、しばらくしてゆっくり動いてみる。ここが先生の踏ん張りどころだ。たぶん
きつく締まり気持ちも昂りもぞもぞ動きたくなるが、となるとやはり奥方は苦しかろう。
もちろん先生も辛かろうが仲睦まじく過ごしていくには最初が肝心で、これを辛い苦しい
と思わせたらもうどうにもならぬ。奥方の方からしっぽりと受け入れてくれるまで、脂汗
を流しながら耐えに耐える。
少し締め付けが緩んできたと思ったらまたじんわりと腰を入れ、奥方の加減を見て……辛
そうだったらそこでやめる。儂とて半分を馴染ませるのに一月かけるのだから。
でまた二日ほどして同じようにする。次第にその感覚にも慣れ広がってもくるし感じ濡れ
てもくるだろう。そうなれば動いても和らげてくれるから。やっとお楽しみの始まりって
ことさ。
最後に抱主はニヤリと笑いながら言った。
先生、男が女を抱くんじゃなくって、本当は女にいいように抱かれるもんですぜ。

早速その晩妻を抱いた。はやる気を抑えるのに苦労し頼りないものを押し入れるのにも
苦労し、なんとか半分ほどは埋めることができた。けれどもうそこで俺のは大きさをどん
どん増して、強まる締め付けにこのままの放出を望んでしまうが、まだいかん。死ぬ思い
で耐え引き抜いてドクドク脈打つのを手で押さえつけた。

言われたように二日ほどしてまた試した。俺もこの感触に少しは慣れ半ばまで入れても弾
けることはなく、少しずつ奥へと突き進める。けれどまた、柔らかな尻の肉に俺のふぐり
が触れたとたん膨張を始めてしまう。うんうん呻きながらそのまま耐えようとしたが、
あまりの心地に思わず奥に差し入れた瞬間、暴発してしまった。
妻は黙って受け止めてくれたがこれでは。
まあしかし初めての気を、道半ばや腹の上にぶちまけるよりはましだったと、己を慰めた。
そんなこんなで何度も失敗はしたものの徐々にその感覚も掴み、膨れたままで動かしても
痛さもなくなったようで、中を存分に味わったりあちこちをつついたりして俺も楽しく、
そして妻の体もどんどん艶かしく変わり、女を磨くとはこういうことなのかと抱主の言葉
を思い起こしたりした。
ただしやはり最初のが辛いのは相変わらずのようで、妻の喜ぶ顔見たさについつい大きな
それを入れようとすると、俺としてはまわりのひだが包み込むようで気持ちいいのだが、
妻にしてみればめくり返されるような痛みが走るとのことで、上の突起を揉み、染み出て
くる液を馴染ませ傘の部分を使いひだを広げて塗りこめ、そうこうしているうちにやや
萎んだそれを、少しずつ沈めていかなくてはならなかった。


それで今からどうするか。
どうするもこうするもない。目覚めたシンビに薬湯を飲ませ、同じ過ちを繰り返すなと
言うとシンビは平伏し、しかしなぜお戻りですかと聞いてきた。少し用を思い出してと
答え、そして今晩はここで調べものをするからお前は仮眠を取れと言った。しかし案の定
シンビはこのまま他の薬湯を作ると言う。まあいい、そのうち薬も利いてくるだろう。
あの薬湯には、ほんの少々眠気を催す成分もあるがしかし熟睡するほどではない。俺は
寝ているに相手などという趣味はないし、なによりシンビ自身に自分がされていることを
しっかり覚えていて欲しかった。それが抱主の言葉によれば、己を悟るということなのだ。

やはりまたうとうとしだした。俺はその肩を抱き小上がりに布団を敷いて寝かせつけた。
衣類の紐を解き楽にしてやる。そうしてから体を裏返し裾を捲り上げると、あの目に焼き
付けた腿が現れた。
下着の合間を指で探る。全部を脱がせるつもりはない。必要なだけあればいい。なにせ俺
はこの子を慰み者にしようとするのではない。だから俺も軽く前をはだけただけで足袋も
そのままだ。
シンビの腰をもたげ下着をずらし、さて。大きく広げた方がこちらは楽だ。しかし足を
持ち上げたらさすがに気付くであろうし、それに女郎屋の抱主も言っていた。仕込みは
顔を見ず普段に近い格好で施すのが肝要だと。男は支配者であらねばならない。けれど
儂とて時にはうっとりしてしまうことがあるからな。それを見られたら女に舐められると。
ならこれはどうか。体をうつ伏せに変え足を閉じたままの尻の下に跨り尻の間だけ広げ、
俺のに油をなすりつけこの子にも油を塗る。それから手をそえてゆっくりと。この格好
ならシンビが尻を突き出さない限り奥まで届かず逆に好都合だ。うん、こうしよう。

ひだが押し広がり、傘が秘肉をかきわけていく。それだけで弾けそうになったが息を整え
てしのいだ。俺は犯すのではない。あの抱主と同じように、この子にこれから苦しみを味
あわせないための慈悲を施しているのだ。
また少しずつ腰を入れると、少し抵抗のある場所を感じた。何度も診察で見た膜だ。この
先に俺が入り込むのは心苦しいがしかし、隣室の親父の嘆きに聞き覚えた医女の、その方
の身を踏み躙った苦しみを少なくとも体で感じなくて済むように。それに俺はそっと通る
だけだから。
思いっきり深呼吸をする。幸い全部を脱がしていない分、目からの刺激が少なくて済み、
おかげでほどよく柔らかくなった。
また慎重に進む。

さすがに異変を感じたのか、シンビが目を開けた。しばらく状況が理解できなかったよう
で、あちこちを見たりしている。起き上がろうとするのを腿の裏側に腰を落として制止
した。
「どうして」
説明などいらない。説明してもわかってはくれないだろう。実際その時が来るまでは。
そして起きたのを幸い腰に力を入れた。
「おやめください」
抵抗する手には力が入らないらしく、放っておいても支障はなかった。
それはそれとして痛いのはここからだから、少しでも和らげるべくツボを押してやる。
腰の横もそうだが尻にかけての場所は痛みを取ると共に快楽を深めるのにも使われ、女自
身も楽しめるようになる。だが本格的には鍼も使うから誰も彼もが適当にやればいいと
いうのではない。妓生が先輩を頻々と招いたのも結局はこの施術をして欲しかったから
なのだろう。商売とは言え好む男ばかりが相手ではない。少しでも楽にと願うのは、苦界
に身を置く者たちの切実な思いなのだろう。俺もそれがわかってからは、先輩ほどでは
ないけれど、求めに応じて鍼を打ってやった。
そしてシンビの体も例外ではなかった。顔では嫌がるものの体はがほのかに熱っぽく
なっていく。
腰はようやく半分ほどにまで達した。抱主ならば、これで目的のひとつは遂げたことに
なる。
シンビはやめてくださいと小声で繰り返しているがどうせ誰にも聞こえやしない。あとは
このまま抜き差しすればそれでいい。もちろん硬くならないように我慢しなければ。
けれどどうにも様子がおかしい。ちっとも動いておらず、さすがの俺ももはや締め付け
程度では膨張しない自信があったのだが、半分ほどしか達していない俺のがまとわりつく
ような細かな感触に、入れただけの先だけが膨れていく。そして残る部分もそれを味わい
たいと俺の腰をせっつく。
俺が長らくなかったからこんなことに。先に自分で始末しておけばよかった。とにかく
やるべきこと、抜き差しをして終えよう。そう思いほんの少し引き抜き、そして突き入れ
たのだが。
抜くどころかどんどん吸い込まれてしまう。嘘ではない。勝手に中へ中へともぐりこんで
いくのだ。しかも傘の部分がくっきりと張り出しているのが自分でもわかる。抜こうにも
それがひっかかり身動きが取れない。
これが抱主の言っていた……吸い込まれるような感覚なのか。
シンビは顔を覆って泣きぬれている。
いや案ずるな、慰み者にするつもりはないと心の中で言う。
だがとにかく自分の意思とは無関係に、俺は懸命に腕を突っ張らせているのに遂には柔ら
かな尻に俺の下の毛がぴったりくっついてしまうありさまだった。
さすがに今動くわけにはいかない。だからそのままじっと体を沈め続けていた。ところが
また俺はなにもしていないのに、埋めたそれが勝手に揉みしだかれる。そして俺自身経験
のないほどに怒張した先が突き当たりにまで触れているのを感じた。その突き当たりが形
を変えて俺の先端をぐるりと包み、そしてその中に誘う。
さすがに堪らなくなり深呼吸を繰り返す。けれど頭の中、いや腰の先がもっと奥へとそれ
ばかりだ。
気が付くとこの子の腰を持ち上げていた。そして体の下半分を覆う衣類を剥ぎ取った。
俺は上も全部を脱ぎ捨てた。万一誰かが来たときにとりつくろえるよう着たままで、など
ということはどうでもよくなった。我ながら見苦しい毛むくじゃらな脛やらなんやらが
むき出しだ。
また尻をうんと持ち上げ、足をやや広げ気味にすると残る部分がにゅるにゅると引き込
まれた。シンビが呻くが痛がる気配はない。そして軽く揺すると潤滑液が出てきたのか
少し動けるようになった。

抜き差しを始める。これはもう慈悲ではなくて……この子の体が俺を飲み込んでしまった
からこうなっただけであるからして。
いや俺も味わいたいのはもちろん。
尻を掴んで腰を送る。ゆっくりと。結合が深まり傘全体が肉のかたまりでねぶられ、その
心地よさに俺は呻いた。
俺の手で快楽を与えるつもりがなかったから、今までどこにも触りはしなかったが、こう
なった以上順番が逆のように思うが、ちゃんと抱いてやらねばこの子にも悪いしつまらな
かろう。上着の合間から手を入れ、乳房を揉む。硬くしこっているのは怯えもあるのか、
とにかく手で暖め緊張をほぐしてやるが、ますます硬く縮み上がる。
それから腰の下から手を回し入れているすぐ下の突起をつばをつけた手でさすった。そこ
は既に熱っぽく、どことなく次の刺激を求めている気配すらあった。なら話しは早い。
「脱げ」
しかしもぞもぞと力なく動くだけだ。やむなく繋がったまま腰に残るものや上着も取り
去ってやる。これなら。まあつまらぬ話だが、もう逃げ出すことも叶わなかろう。そう
してやっと引き抜く。

いよいよだ。俺とシンビが本当に交わる時が。
突っ伏していた体を仰向けにし、足を開いて持ち上げた。シンビは目をただ見開いている。
「驚いたか。俺もこんなことはしたくなかった」
いやいやと首を振る。
「でもお前のためだ。任せろ」
犯しているわけじゃないと心の中で繰り返しながら広げた足の間に俺のをあてがい、柔ら
かなひだを傘の先でなぞると乾き始めている。突起を指で刺激するものの液はなかなか
出てこない。これでは入れたとて、またしばらくじっとしているしかないがそんな時間はない。
仕方ない例のものを。
これは女郎屋の抱主が奥様にどうぞとくれた軟膏で情欲を高める成分が入っているという。
処方を聞いても笑って答えてはくれなかったし、俺も結局妻に試す必要もなくて、置いて
いたのだが。で、男の側に塗って中に押し込めたり、あるいは女の敏感な部分に塗れば、
初めての女でも気をやるのだとか。
手に取り手のひらで柔らかくのばしシンビと、己の膨張にもたっぷり塗る。そしてまた
その中へ。ところが今度は途中でつっかえシンビも激しく抵抗する。ああまたあれか。
俺としたことが妻で何度も懲りているのに。もう一度軟膏を手に取りひだを広げその間に
もまた塗りこめ、そして俺は張りを減らすべく深く息をして。
ひだを指で大きく広げ、先端を押し付けていく。
やっと傘が埋まった。しかし油断は禁物だ。股のつけ根のツボを押して、痛みを和らげて
やる。けれどそれから先は案ずることはなく、というかまたさっきのように飲み込まれて
いく。入り口さえ通過すれば大丈夫なのか、俺が腰を進めても特段の突っかかりはない。
入れては少し戻しまた入れては戻す。徐々に深みを増し、最後はぐんと突き上げると、
シンビの腰が少し持ち上がった。腰同士を密着させたままで小刻みに揺する。
徐々になじんできたのか、あるいは諦めたのか。俺の動きに合わせて腰がくねるように
なった。もちろん中の締め付けは相変わらずで、俺はもう何度気をやりそうになったこと
だろう。そのたび、漏らすべからずとの主の言葉が頭に浮かぶ。ただ抱主にとって女は
商品だが、俺にとって、そして今は。
そんなことを考えながら敏感な部分をつまむ。先ほどよりやや厚ぼったくなっている。
覆う皮を指でむき出しにすると、とたんに強烈な締め付けで応えた。そして全体に
しっとりと汗ばみ、俺と繋がっている部分からも滑らかな液体があふれた。全く順番は逆
になってしまったが、改めてこの子の胸に顔を埋め乳の先端を吸うとそのたび戸惑いの
表情を浮かべる。
「シンビ。お前が襲われそうになったと聞いてな。いやあのことだけではない。他にも
お前をものにしようとしている連中は山ほどいる。
けれどどいつもこいつも、お前を妻にしようとは思っておらん。奴らの魂胆を俺はお前
以上によく知っている」
片足を抱えて角度に変化をつけた。同時に浮いた腰や背中のツボを刺激していく。
「だからな、お前に苦しみを味合わせたくはないと思ってな。俺は人には言ったことは
ないが、ちょっとしたことでこういう……ことの成り行きをよく知っている。
だからもしお前が、お前を付け狙う連中にむごいことをされたら、それこそもう立ち直る
のが難しいほどの苦しみを負う……そうされた人を何人も知っている」
すっかり滑らかに動くようになった律動が、尻との間でパンパンと音を立てた。
「不本意だろうが、俺はお前を抱くことにした。俺ならな、少なくとも苦痛は与えない。
そして一度男を知れば、もしそんなことがあっても……あって欲しくはないがあったと
しても。
いや……実のところ、お前を抱くつもりはなかった。ただ少しだけ望まぬ相手に奪われる
屈辱、痛みと共に与えられる絶望を減らしたかっただけなのだ」
小刻みな抽送を繰り返しながら続けた。
「ところがお前はなあ。自覚はないだろうが、恐らく稀に見るものの持ち主だ。俺は自分
を抑制できると思っていたが、お前の前ではかなわなかった。
俺はこんなことまでするつもりはなかった。これは本当の気持ちだ。だがな……今からは」
不快感は残ろうものの、やはりツボの効果は絶大のようで、こわばっていた尻まわりも
すっかり柔らかくなっている。そして接合部からはくちゅくちゅと滑らかな音まで聞こえて
くるようになった。
もう大丈夫だろう。大きく引いて傘の部分で入り口近くをこすり上げた。シンビの体の
たぶん膜の部分が傘に引っ掛かり、ぴろぴろまとわり付いてくる。今しか味わえない、
そうだな初物の味ってやつかな。それもとびきり上等のまっさらのを。
両手で尻をうんと持ち上げ足を支えてやや下方から攻めていく。当たる部分が変わり、
シンビは身を捩じらせて喘いだ。乳はすっかり尖り、舐めるといっそうつんと尖る。
「よくなってきたみたいだな。俺もたまらん」
今度はシンビの足ごと腿で挟みこみ、ちょうど尻同士をぶつけるような格好で、腹側の壁
を刺激してやる。吐息が喘ぎに変わっていく。
横や下をあちこち突いているといつのまにか手が俺の腰に添えられている。遠慮なく全部
の長さを用い抜き差しした。
喘ぐ声が強くなり、そして……もう出そうだ。

体勢を変えようと呻きながらなんとか引き抜くと名残惜しそうにシンビの体がうごめいた。
体からでたそれは見たことのないほどの充足を示しながらほんのり湯気を上げている。
立たせて柱に寄りかからせ、足を少し広げる。
「もっと気持ちよくしてやる」
割れ目の上下を傘でなぞると花びらがまとわりつき包み込もうとする。心地よさに、もう
張りを和らげることができずぐいぐい押し込むとまた細い場所で行き止った。少し突くと
シンビは体を上に逃し後ろ手で私の腹を押して抵抗する。痛いかと聞くとこくりと
うなづいた。
「俺はお前に傷をつけたくはないが……な、しかしお前を女に。だからここも俺が」
腰をつかみ渾身の力を込めてぐっと入れる。ふっと緊張が解けて、全部がずるりと滑り
込んでいった。シンビの体ががくんと揺れる。
「少しの辛抱だ。すぐに楽になる」
小刻みに揺らしてしばらくするとその部分から粘液がこぼれ、手に取ると少し赤く染まって
いる。
けれど既に体は馴染んでいたのだろう、それ以上痛がる様子もない。敏感な部分を揉み
さすると次第にシンビの息づかいが強くなってくる。
俺はそうしながらも、先端で体奥を探していた。ちょうど女郎屋で指先を使って女の体を
診ていた時のように。
絡み付く壁……ではなく奥の方の別の感触。腰を回して先端を集中的にその、子壷の入り
口と見当を付けた部分を小突く。俺はそれを指で触ったことがある。最初はぴたりと閉ざ
された肉がやさしく揉むと柔らかく広がり、すっぽりと指先をも包み込むことがあるのだ。
そしてここは女が立った状態の方が探しやすかった。だから俺は時々膝で立たせたりして
後ろから触診した。
もちろんそうそうする必要もないしできるものでもないが、その感触の妙珍さに、女には
いくつ口があるのかと驚いた覚えがある。で、その時治療に立ち会った女中頭によれば、
ここで男をくわえることができるのがいわゆる名器だと。そしてここを味わった男は、
どんなこわもても聖人君子も形無しに蕩け呆け女にありったけ貢ごうとする。
そして男がそこに気をやれば、ほぼ確実に……女も気をやる。もう互いに遊びじゃなく
なるんだよ。そんな二人にはややができるのもすぐで、それでお前さんが呼ばれることに
なるのだけどね、などと言っていたな。
そのときは聞き流していたが、さっきの傘をねぶられる感覚に俺はその極楽にたどり着け
るかもしれないという予感がした。しかしこの先どうすれば。
女中頭は、名器といっても生まれつきもいれば、当たった男の腕と情熱いかんで後でそう
なる子もいるみたいだけどとも言っていたっけか。もっとよく聞いておけばよかった。
でもそんな奥義を知った頃に妻の具合が芳しくなくなって、いろいろ試すどころか添い寝
するのがやっとだったし俺としても男女のまぐわいの技には興味が薄れていったから。
そんなことを思い出しながら腰を細かく揺さぶる。
ただ今は。俺が犯すのではなくこの子と本当にひとつになるためには。完全に結ばれる
必要がありそのためには絶対に。
すると先ほどよりもさらに入り口が大きくなったようで、ところどころ傘を包むような
加減になっている気もするし、ただその周りを滑っている時もある。そうこうするうちに
気分が高まってきた。爆発を堪えるために少し気を紛らせたい。
「前の月の障りはいつだ?」
「先月の半ばです」
「だいたいどれくらいで来る」
「月ごとです」
「じゃあちょうどいいな」
「なんのことですか」
「いやこちらの話だ」
そう言いながら慎重にその口を探ろうと、腰を回転するように動かした。次第にシンビも
俺も汗ばんできた。
急に無限に引き込まれる感覚を覚えた。
おお! これか?
なにかに先端を握られているようで、身動きが取れない。だから動ける範囲……とは言っ
ても尻にふぐりを押し付ける程度だったが……を繰り返す。
やはり違う。妻にも感じたことのないぬかるみの中に俺はいる。そして俺が動きもしない
のに、握り締められたり緩まったり。例えば指を使って無理やりされているかのような、
不思議な心地だった。
「入っているのがわかるか?」
「はい」
「いや、もっと奥にだ」
首を振る。それはそうだろうな。馬鹿なことを聞いたものだ。生まれて初めて男を受け
入れた女に、この感覚を感じろなんて無粋な話しだ。
このまま気をやってしまいたい誘惑に駆られ、しかしやはり体の上で果てたい。
ふぐりのつけ根をぎゅっと握り締めて抑えた。

「もうお許しください」
ふたたび布団の上に押し倒そうとした時シンビは言った。
「それはならん」
そうだ。男を知るということは男の生理を腹の中で受け止めるということだ。
だいたい宮には女どもがごろごろいるが、やつらは気位ばかり高いけれど一生女の喜びを
知らずに朽ち果てる。中には女同士で乳繰り合ったり尻を舐めたり自分で始末している
のは公然の秘密だが、俺に言わせればあんなものはままごとに過ぎぬ。女は男によって
磨かれるとは至言であり、だからお前はあいつらより幸せというものだ。その惨めさをまぎらわ
そうとあいつらはお前たちを呼びつけ、横柄に振る舞うのだ。まったく胸糞が悪く
なる。だがお前には女の幸せを感じさせてやるからな。
仰向けにしたシンビの足を両手で持ち上げ大きく広げる。薄桃色の泉が俺の腹の下に
あった。ああ、こうして眺めてみるとしみやくすみもなくて。そして小ぶりのひだが、
花びらのように愛らしく口を開けて待っている。俺はここでこの子とひとつになるんだ。
残っているであろう膜もあますところなく押し破る勢いで一気に貫く。
「俺の女になれ。手付きとわかれば、男が付きまとうことはあるまい。
そしてな、ずっと俺と続けろとは言わん。他に好きな奴ができれば引き下がる」
体の重みを乗せて打ちつける。シンビの力はすっかり抜け、今はされるままだ。
足を肩に乗せずんと深く差し込み、傘の下部でコリコリした部分を押さえつける。もう
これで十分一体感もあるが……いやまだ。立ってで後ろから攻めた時のあの感覚とは違う。
ここじゃない。このあたり? いや違う。全神経を集中し探し……既にあちこちから心地
よく締め付けられ快楽であるものの。
少し疲れ腰の力が抜ける。そのまま何気なく、惰性で突いた。
と。
すぽり、あるいはにゅるり、か。俺のがそこにはまり込んだ。
傘の下は締め付けられているが先端部分は桃源のぬかるみに解放されている。二つの絶妙
な感触に恥ずかしながら俺の乳首までビンビンに尖ってしまう。
「お前の一番奥に俺が」
もうしっかり咥えこまれたかのごとく吸い付かれている。数度腰を揺らすとシンビの腰も
俺とひとつになって揺れ動き、自在に抜き差しできる今までとは明らかに違う。
「わかるか」
体奥で異質な感覚が騒いているのだろう、シンビの目に狼狽の色が浮かび、体中から脂の
ようなじっとりとした汗が染み出す。
そして俺の腰はそこに埋まったままだ。背骨から腰が痺れ、とても振ることができない。
そしてまたシンビの呼吸するわずかな腹の上下動が伝わり俺をとろけさせてしまうのだ。
足を肩に乗せ支えていた両腕がガクガクする。震える手で足を下ろし、また震えながら
腰の左右に巻きつけた。多少身を引いても幸い先端の感覚は変わらない。どころか、どう
動いても吸い付く部分が付きまとい俺を揉みしだく。何度も気が遠くなり爆発しかけ、尻
の穴をすぼめて懸命にこらえた。
そしてああ。頑張っても頑張っても俺はだらしなく重みをシンビに預けていく。後は俺が
動いたのか、シンビが俺を犯したのか。ただ俺のものがシンビと深くつながり一体と
なっている。
この子は生まれ持ってのいわゆる名器か。それとも俺が開発したのか。単に相性か。
なら俺はシンビに俺の全てを。
いやそれもこれも。
普段の謹厳実直な俺、この子の師匠で今は上司、そして医局長としての立場。
ああそんなもの全部失ってもどうでもいい。
「中に出す。いいな!」
かぶりを振るが、その口で俺をきゅっと締め付けそそるのはお前じゃないか。そして腕も
また俺を抱いている。
止まらない。
ああ、もう。
緩く動かすだけで汗がしたたりぴたぴたと肌が密着する。

そして遂にその時。シンビから強い喘ぎが聞こえ棹全体、そして傘の部分にまとわり付く
肉がぎゅーっと包み込んだかと思うと急に弛緩し、俺は叫び声を上げて精を放った。


妻との時には少しでも中にと、放出したそれを押し込むようにすり入れたこともあった。
今はその必要もないほど、俺のは放った後もまだ握り締められ、何年ぶりかの濃い液の
最後の一滴をも搾ろうとするかのようにしごかれる。トクトク波打つ脈動が、俺の力も
命もこのつながりの中に吸い込まれていく。そしてそのたびに俺は呻き深く息をし、幸福
感を味わっていた。
俺には何も残っていない。
触れ合う肌はもう、汗でぐちょぐちょになっている。よだれがこの子の首筋に流れるほど
俺は弛緩しきった。

荒い息づかいのまま、シンビの唇を……いやこれだけは。彼女が俺を求めてくるまで俺
からは望まないことにしよう。

「医局長様」
まだ鎮まらない俺を体に挟み込んだまま、シンビが言った。
「すまん、俺はな」
体の中で俺への愛撫が続く。たまらずむくむくと起き上がるのを感じ、そしてまたシンビ
もそれを感じて恥じらい紅潮していくのを眺めた。髪の毛を撫でるとシンビはうっとりと
した目で応える。
「感じるだろ。またこんなにお前を欲しがっている。そしてお前も俺を欲しがっている」
体を起こし抽送を開始した。その動きは俺の放った精を更に奥へと送り込んでいく。それ
が染み渡ればこの体は……肌の色艶を増していくだろうな。そう思えばますます愛おしく、
初めてまぐわった後ろからの姿勢に変えてこころゆくまで味わう。シンビも俺の律動に
合わせて白い尻を前後に動かし始めた。
「そうだ。いいぞ」
少しずつ喘ぎが甘く変わり、そして俺を包む壁が柔らかく熱く張り出してきた。
「よし、準備ができたようだな。いくぞ」
俺の思いを乗せて放つ精をお前も心から受け入れてくれるなら、それは結晶となってお前
のこの胎内に新しい命を育むだろう。
激しく突き上げ、そして今度はあの口から少し外れた上あたりで二回目の気をやった。

なお抜くのが惜しくそのままにしていると、腰に触れる尻の柔らかさにまた誘われる。
シンビの表情はすっかり潤んでいる。
たがが外れたかのように腰を振り続け、俺のがまた張り出し出し入れがきつくなり、
そして一度も抜かず閉じ込められたままの俺の精とこの子の粘液が白くぐちょぐちょと
泡立ち染み出した。
体位を変えお互いに両手を後ろについて座った状態で足を広げ折り曲げる。シンビも自分
で腰の位置を工夫し、浅めに繋がったり時折深くぶつけてきたりして俺を味わっている。
そうこうするうちにまた俺のがシンビの奥の口に突き刺さった。シンビは信じられないと
いうように目を見開いている。
「そうだ、そこだ。わかるんだな?」
こくりとうなづいた。
「俺はここに来ると無茶苦茶気持ちいい。お前とひとつになれる気がする。もっとよくし
てくれ」
もぞもぞと動き、結合を深めようとするが思うようにいかないようだった。
「腹の力を抜いてな、俺と繋がる姿を思い浮かべるんだ……そう、そんな感じだ」
傘まで入り込むとあとは放っておいても体が勝手に吸い込まれていった。しばらく短い
抽送をしてシンビの中を楽しみ、シンビに俺の怒張を楽しませてやった。
深くつながりながら胸を吸うと、乳首が縮こまると同時に体奥もきゅっきゅと縮んだ。
一度コツを掴むと後はさほど思案することもなく、自在に子壷のうちそとを味わったり、
あるいは他の場所を刺激したり。もちろん合間合間に腿の付け根にあるツボや、そして
肩を揉んだ。

またシンビの喘ぎが色気を増していく。そして奥の口も厚ぼったくなりコリコリとした
弾力を俺に伝えている。
 んっ うっ
俺ももうこれで。
「いっぱい出すぞ」
腹の中を俺の思いで満たしてやる。
押し倒し広げた膝の裏を両手で固定し股を思いっきり広げる。そして先端をそこに慎重に
はめ込むと俺をまたしても愛撫しようとする肉にかまわず全部の体重をかけて奥の奥まで
突き入れ……その先は普通どこかに行き止まりがあるのだが今阻むものは何一つなく……
しかし俺を優しく抱擁する不思議な俺の居場所……に全てを吐き出していく。
「お…お前も…」
全てが飲み込まれていく。全てが包み込まれてしまう。
 おおぅっ おぅ うんっ
俺が放つたびにシンビの体もその衝撃にビクンビクンと跳ね上がった。三度目だという
のに俺の腰は短い間隔でぶるぶる振るえ、そしてシンビのそれも燃えるように熱くなり
何度も蠢き、その刹那刹那に頭の中が白くなる。

「よかったか?」
聞くまでもなく、既に体で答えていたのだが。いや言葉でも自分が感じているとことを
わからせることが必要に思えた。

これほどの快楽を与えてやれず子も成してやれなかった妻には申し訳ない。
ただ今は、シンビの存在が天の配剤ではないかと思うほど愛しい。
俺たちは結ばれるべくして結ばれたんだ……ずっとこのまま体ごとつながっていたい。

ようやく身を離すと、しばらくしてシンビから俺の白いのが、べとりとあふれた。
シンビは喜びに満ちた表情で俺の髭を撫でている。そして俺の顔を自分の方によせて、
あの唇を。シンビの全部が俺のもの……



「こうしていると父を思い出します」
耳元で囁く声がしたような気がした。
「ちょうどこのお髭のご様子が、父によく似ているのです」
髭を撫でられて……?



「シンビ…」
イクピルが目を開けるとシンビがびっくりしたような顔で立っていた。
「あれ? 俺はどうして」
「はい。お戻りになってすぐに薬を煎じていらっしゃったようですけれど、うとうと
されて。薬は煮詰まりかけていたので火から外しました」
「すまない」
「あまりにも気持ちよさそうにお眠りだったので、お声をかけそびれてしまいました。
私の方こそすみません」
「ああ。ところでシンビ。ひょっとして私の髭を撫でてはいなかったか?」
シンビはかすかに狼狽しつつ、戸惑ったような調子で答えた。
「あの、寝ていらっしゃって船を漕ぎ出されて、もう少しでお倒れになるのではないかと
つい手でお支えした時に触れてしまったのかもしれません」
とりあえず自らの行為が露呈しなかったことに内心安堵する一方、イクピルの口調が少し
嬉しげであるのをシンビもまた嬉しく感じていた。

「そうか。昔な、妻に同じように起こしてもらったことがよくあった。あの頃は昼も夜も
働きづめでいたからなあ。
俺は疲れているようだ。それで今寝ていた僅かな時に、いろいろ思い出していたのかも
しれない」
「ではもうお休みください。部屋を整えてまいります」
「いや。これを飲むから心配するな」
「何のお薬ですか」
「ちょっとした気付けというか酔い覚ましだ。これから徹夜で調べ物をしようと思ってな」
「どうぞ」

イクピルはシンビが差し出す薬湯を飲み干した。
書棚から持ち出した書類をめくるうち、体がほかほかし、また微かな眠気と、体奥には
高揚感まで……。



「医局長様、私ずっと先生のことが気になって…………本当は……好き……です……」
そんな声が聞こえたような気がした。



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