BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   チャングム×チョンホ  漢拏山 (前編)       第一部364様


チャングムがチョンホの体を抱きしめると、氷の様に冷たくなっていたチョンホの体は、少しずつ温もりを取り戻していった。
最初はチョンホの体の冷たさを我慢していたが、チョンホの体に温もりが伝わっている事が解り、チャングムは安心した。
(良かった!体が温もりを取り戻しているわ!もう少し……もう少し、このままでいれば……)
チャングムは、あと少しだけチョンホに温もりを与えるつもりだったが、緊張から開放されたチャングムは、疲れからなのか?
知らず知らずのうちに眠りに落ちていった――――。

「う…うぅ……」―――肩に痛みを感じる……やはり、あの男にやられてしまったのだな……それにしても、温かい……

永い夢から覚めた様に、少しだけ熱の引いたミン・ジョンホは目を開いた。

(ん、、ん、、うぅん、、あ、あ、、アア――ッ!!こ、、これは?チャングムさんーーーっ!!!)

ミン・ジョンホは、辛うじて声を抑えた……自分の体の上にいる半裸のチャングムに驚きはしたが……
目を覚ましたチョンホは、自分が雨に打たれて発熱している事が解った。
そして、この岩屋へ来た時、耐えられない程の寒さを感じていた事も思い出した

(そうか……私を温める為に、自分の体を……それじゃ、、、まさか、、、薬を飲んだ時も?)

あの柔らかい感触……それは、紛れも無くチャングムの唇だったのだろうか?
嬉しい……いや、申し訳ない事してしまった……そう思って、視線を自分の胸元にいるチャングムに向けた。
自分の胸にピタリと重ねられた、チャングムの豊かな乳房……そして、白く透き通る様な肌……艶やかな髪……
美しい横顔を見せたまま、チャングムはぐっすりと眠っていた。
ミン・ジョンホにとっては、どれもこれも総てが、勿論嬉しくはあるが、かなり目のやり場に困るものだった。

ふと……両方の腕をチャングムの背中に回してみたくなる―――いや…そんな事をすれば、チャングムが目を覚ますかもしれない。
目を覚ませば、きっと恥ずかしい思いをするだろう……そう思ったチョンホは、チャングムの背中に手を回す事は諦め、
代わりに、自分の掌に触れている土と石とを握り締めてしまった。
それでも、心のどこかで諦めきれずに、自分の唇をそっとチャングムの髪の毛に寄せ、口づけた……
ただ、それだけの動作だったのだが、チャングムの髪に触れただけで、当然の『反応』が己自身の下半身で起こった事を感じた。
 
(しまった!!―――私とした事が……こんな事がチャングムさんに知れたら……恥知らずな男だと思われてしまう!!!)

チョンホは、チャングムを起こさない様に注意して、下半身を少しずつチャングムの体からずらしていった。
流石に、早鐘を打つ様な心臓の音は抑えられなかったが――――

(眠ろう、、、とにかく、、、チャングムさんに気づかれたらおしまいだ!!)

眠る事を試みたが……ミン・ジョンホは、全く眠る事が出来なかった。

(やはり、眠れない……無理だ……とても……)

ミン・ジョンホは眠る事を諦め、そのまま、体の上にいるチャングムを見つめていた。
それは、永い……永い、時間だった―――(これほど近くにいる機会など、もう無いだろう……)

愛しさは募り、チャングムの肌を直に感じながらも、自分の指一本さえ触れさせる事に躊躇う……
チョンホにとって、チャングムは『聖域』の様な存在だった。
軽々しく、邪(よこしま)な気持ちで触れる事は絶対に出来ない―――自分の気持ちが許さない。
だが、辛い……無防備なチャングムの寝顔を、壊す様な振る舞いをしそうになる……白い肌に……柔らかな乳房に惑いそうになる……
今の辛さに比べれば、先程の倭寇達との事など、些細な出来事の様に感じられる。
ミン・ジョンホは、静かに目を閉じ、心を空白にし、自分の感覚の総てを閉じ込める事にした――チャングムの為に。

「ん、、うーぅん、、いつの間に眠ってしまったのかしら……」

(チャングムさん……目を……)チャングムが目を覚ました事を知ったミン・ジョンホは、慌てて瞼を閉じた。

「チョンホ様?……良かった!まだ、眠っていらっしゃる。熱は下がったのかしら?」

チャングムは半裸のまま、ゴソゴソとチョンホの額めがけて体を移動させた。額にそっと手を当ててみる―――

(熱は下がっている様だわ……それにしても、チョンホ様は、何故こんなおかしな格好で眠っているの?)

真直ぐに寝ていた筈のチョンホの姿勢は、何故か腰の辺りで、ひどく不自然に曲がっている。

(私の寝相が悪かったのかしら?……)

チャングムは自分の額に手を当てている様だが――――何をしているのだろう?
そう思って、チョンホは薄っすらと目を開いて見た・・・・そして、見てしまった・・・

(ああぁーーーっ!!!なんだこれわあぁぁーーー!!!)

自分の目の前に広がっているのは、チャングムの白い豊かな乳房――――

(な、、なぜ?、、、私が寝ていると思ってるのか?チャングムさんわあぁぁ〜〜)

チョンホは、慌てて固く目を閉じた!

(なぜ、この人は、こうも無防備なんだ?、、、せっかく心を静めても、、、これじゃ、、同じ事、、、こんな事が続けば、、、
 間違いを犯さぬ内に、、、私はこの場で死ぬしかない!!!)

熱は下がっている……心音はどうかしら?―――チャングムは、脈診をせずにチョンホの胸に耳を当てた。

(変だわ……心音は正常だったはず……なぜ、こうも早鐘を打つ様な音がしているのかしら?)
(離れてくれ!、、、頼むから、、、チャングムさあぁぁん!!、、、)
(熱は下がっているから、心の臓が早いのは、何か理由があるのかしら?)

「ん、、ゴホッ、、んんん」―――なかなか離れてくれないチャングムに、チョンホは、わざとらしい咳をしてみせた。

(いけない!!目を覚ましそう!!早く、服を着なければ!!!)

チャングムはチョンホに背中を向けると、急いで衣を身につけた。
チャングムが服を着たかどうかを確かめる為に、チョンホは、再び薄っすらと目を開けた。
チョンホの目の前に広がるのは―――チャングムの白い滑らかな背中だけだった……

(もうダメだ!、、、余りに強い刺激だ、、、私はこのまま死ぬだろう、、、)

当然、ミン・ジョンホが、チャングムを残して死ぬ事などありえない・・・・

チャングムは衣を身に着けると、チョンホの方を振り向いた。
チャングムが衣を身に着けた様だと思ったチョンホは、今初めて気づいたかのごとく、ゆっくりと目を開けた。
「チョンホ様?気がつきました?」「チャングムさん……私は?……」
「雨に打たれて、お熱が……もう、大丈夫でございますか?」
「え、、ええ、、もう、大丈夫です。心配をおかけしました、チャングムさん。ありがとう……」
「いいえ、お礼を言わなければならないのは、私の方でございます。チョンホ様をこんな目に遭わせてしまって……」
「そんな……気にしないで下さい。あなたが無事で本当に良かった」

雨は上がり、陽は少しずつ西に傾いていた――――
「雨……上がりましたね……そろそろ戻りましょうか?チャンドクさんが、心配するでしょう」
「そうですね。歩けますか?チョンホ様」
「ええ……熱も随分下がりましたから」―――チョンホは、そう言うと立ち上がった。
「あっ?・・・」「何ですか?私が、何か変ですか?」「チョンホ様。そのお手は、どうなさったのですか?」
「ああっ!!」―――チャングムの背中に手を回す事を諦めた時に、握り締めた土と石……チョンホの両手は黒く汚れていた。
「ああ、、、なんでもありませんよ。きっと戦った時に……」
チョンホは、先程の事を思い出し、妄想を振り払うかの様に両手を拭った。

「行きましょうか?チャングムさん」「ええ、チョンホ様……」―――二人は、岩屋の外へ出た。
先程までの嵐が嘘の様に、森は静かになり、陽射しは木の葉に残る雨粒を照らし、木々は皆輝いている―――

「あっ・・・」―――チョンホは、チャングムの片手を強く握り締めた。そして、チャングムを見つめ、にっこりと微笑んだ。
「急ぎましょう。暗くなる前に……」「そ……そうですね……」

いきなり繋がれた手に、チャングムは戸惑った―――戸惑いながらも、手を離してくれとは言えずにいた。
チャングムは、チョンホの片手を同じ様に握り締め、チョンホの繋ぐ手に導かれてハルラの森を抜けた。
二人は手を繋いだまま、ひと言も言葉を交わす事無く、山道を下って行った。

里の家々が見えて来た時、チャングムは黙って、繋がれていた手を解いた。
「チャングムさん?」「チョンホ様……」「何故、手を離すのです?」
「いけません……チョンホ様……誰かに見られたら……チョンホ様のお立場が……里の人達は、口が軽く……」
チョンホは立ち止まって、チャングムを見つめた――――
「私は構いません……誰に見られても……見られても構わない」
「チョンホ様……お願いです……私の言う事を聞いてください……」
「チャングムさん……」

他人になんと言われようとも構わない―――だが、自分の気持ちを押し通せば、逆にチャングムを苦しめる事になる。
チョンホは、もう何も言わずに黙って歩き続けた。チャングムは来た時と同じ様に、チョンホの僅か後ろに従った。
繋いでいた手は離してしまったが、心はまだ繋がっている―――ミン・ジョンホは、そう信じたかった。

「チョンホ様、私はここで……」
「ここで良いのですか?チャンドクさんの所まで、お送りしましょうか?」
「いいえ……すぐ、そこですから。チョンホ様、傷はまだ、痛みますか?熱は?」
「ええ、すっかり……傷は、まだ痛みますが。チャングムさんのおかげです」
「あとで、他のお医者様に診せた方が良いと思います。私はまだ、見習いですから」
「解りました。帰りにウンベク先生の所へ寄って行きます」
「ええ、そうなさって下さい」

二人は向かい合ったまま、うつむいていた……お互いに、何か言葉を伝えようと思ったが、上手く言葉に出来ない。

「チャングムさん……早く戻らなければ、また、チャンドクさんのお叱りを受けますよ」
「そうですね……」
 
チャングムを引き止めたい―――チョンホは、想いとは裏腹な言葉を口にするしかなかった。

「それじゃ、チャングムさん。また……」「さようなら、チョンホ様……」

チャングムは、立ち止まったまま、ミン・ジョンホの背中を追っていた。
チョンホは、何度もチャングムの方を振り返り……振り返り……そして、チャングムの姿が見えなくなる場所で立ち止まると、
にっこりと微笑んで、片手を軽く上げた。
チョンホの姿が夕日の向こう側に見えなくなると、たった今、別れたばかりのチョンホの笑顔を胸に、チャングムは漸く家路についた。

「まあ、チャングム、遅かったのね!何をしていたの?」
「お師匠様、ただいま帰りました。遅くなって、申し訳ありません」
「おまえ!その、服の血はどうしたの?何があったの?」
「あっ・・・」―――チャングムの衣には、ミン・ジョンホと倭寇の血糊が滲んでいた。それはどす黒く変色していた。

(どうりで……すれ違う人達が変な顔をすると思った……血の事は、すっかり忘れていたわ)

「何かあったのね!何があったの?」「お師匠様、実は……」―――チャングムは、一部始終をチャンドクに話した。
「それで……ミン・ジョンホ様は、おまえの所為でお怪我をなさったのね」
「はい……私と別れてから、そのままウンベク先生の所へ向かわれました」
「チャングム……おまえ……私の話しをよく聞いていなかったのね?何故、そんな危険な状況で山へ行ったの!
 云いつけたのは私だけど、急を要する患者で無い事は、おまえも知っていたでしょう?
 おまえは、ひとりの患者を救おうとして、別の人を危険に晒してしまったのよ!
 ミン・ジョンホ様が生きて帰られたから良かったものの、もし、死んでしまったらどうするつもりだったの!」
「お師匠様……申し訳ありません」
「そんな甘い判断しか出来ない様では、医女失格ね。正しい判断も出来ない様では、医女になる事は諦めなさい!」
「申し訳ありません……」――――『医女失格』……返す言葉は、何も無かった。

「もういいわ、、、まったく、おまえときたら、、、それで、ミン・ジョンホ様には、どんな手当てをしたの?」
「えっ!―――」「どんな手当てをしたか、聞いているのよ」
「はい、、、あの、、、止血をして、、頂いた傷薬を塗って、、、それから、お熱を出されたので、、、熱を、、、」
「熱ですって?それで、熱をどうしたの?」
「はい、、、熱を、、、熱を冷まそうと、、、薬草を探して、、、」「それから?」「はい、あのう、、、」
「はっきり言いなさい!」「はい、熱を冷ます薬草を与えて、、、」「それから?どうしたの?」
「お体が雨に濡れて、、、熱はあるのに、、、体は氷の様に冷たく、、、それで、、温めようと、、、」
「体はどうやって温めたの?」「はい、、、はい、、、ですから、、、」

(言えない―――どうやって、温めかなんて……言えるわけが無い……)

「何故、はっきり言わないの?おまえらしくないわね……」「ですから、、、、」

赤い顔をして俯くチャングムを見た時、チャンドクは、チャングムが何やら『特別な治療』をしたらしい事は理解した。
それはきっと、チャングムが赤くなる様な事なのでは―――?
「もういいわ……はっきりしない子ね。まあ、おまえも最近上達したから、その治療に間違いが無かったと信じましょう。
 ウンベク先生の所へ行かれたのなら、安心ね。それに、ミン・ジョンホ様には……私やウンベク先生よりも……」
「お師匠様やウンベク先生よりも?何でしょうか?」
チャンドクは、チャングムの顔をじっと見つめると、ニヤリと笑った。

「そうね……私やウンベク先生が治療するよりも、おまえの治療の方が良く効きそうだもの。フフフ……」
「お、、お師匠さまぁっ!!!」

チャンドクの言葉を聞いたチャングムは、チャンドクの叱責が、いつの間にか自分への《からかい》に変わっている事に気づいた。
「あの・・・」―――チャングムは、チャンドクに何か言い返そうと思ったが、何かを見透かした様なチャンドクの視線に、
何も言い返す事が出来なかった。

「さあ、じっとしていないで、せっかく命を掛けて採ってきた薬草でしょう。早く、あちらへ持って行きなさい」
「はい……お師匠様」

チャングムは、採ってきた薬草を手に部屋を出て行こうとした。
背中を向けたチャングムに、チャンドクは、再び口を開いた。

「チャングム。患者の事を第一に考える、おまえは正しいわ。でもね、チャングム。よく覚えておくのよ。
 他人の命を大事に思う様に、自分の命も大切にしなければ―――命を失ってしまったら、医女にもなれないわよ」
「はい、お師匠様。もう、無茶な事は致しません」

チャングムは、黙って部屋を出て行った。
チャングムが出て行った後―――チャンドクは、もう堪らないといった様子で大笑いした。

「アハハハ、、、アハハハ、、、ああ、可笑しい!!あの子ったら!!」

なんでも完璧に、そして生真面目に遣り遂げるチャングム―――とんだ、弱点があったものだ。
いつものチャングムなら、どんな治療をしたかと問えば、完璧に答えるに違いない……非の打ち所が無い位に。
ミン・ジョンホ様……誰が見たって、チョンホ様のお気持ちは手に取るように解る。
まさか、あの子もそうだとは………まあ、チャングムの事だから、何の間違いも無かったと思うけど。
それにしても、思い出しても可笑しいチャングムのうろたえよう……意地悪しすぎたかしら?

チャンドクは、部屋の前を通る者達が呆れる程に笑い続けた。
チャンドクの笑い声は、珍しい―――部屋の前を通る誰もが、そう思った。

=宮中=

チャングムとシンビは、女官の呼び出しを受け、後宮に向っていた。
「まったく……毎日、毎日、病気でも無いのに、こうも呼び出しを受けるなんて……たまらないわ」
シンビの心は沈んでいた―――「これじゃ、せっかく宮中に配属されても意味が無いわ。地方にいた方が、まだマシよ」
「シンビ……」
「チャングム。あなたは平気なの?年下の女官達に、いいように使われて?あなただって、もとは女官でしょ?
 あの人達は、私達に意地の悪い難題を突きつける事で、宮仕えの憂さを晴らしているのよ」
「あなたに何と言ったらいいのか、解らないわ……」
「こんな事をやっていても、医女の修行にはならないわ。そうよ、意味は無いわ!
 足を揉めだの、肌の手入れをしろだの……私は、耐えられない!」
「シンビ……私も最初は戸惑ったわ。でもね、今は平気よ。耐えられない事じゃないわ」
「あなたは強いわね、チャングム。あなたと一緒で良かった!私ひとりじゃ……とても……」

真面目なシンビが落ち込む気持ちは、よく解る。
それでも、耐えられない程の事じゃ無い――――母やハン尚宮様を失った事に比べれば……
そして、あの人を失いそうになったあの時を思い出せば……。

シンビと一緒に後宮に向うチャングムを、ミン・ジョンホは遠くから見つめていた。
朋輩と一緒にいるチャングムに、声をかけるのは躊躇われる。
このまま、そっとしておいた方がいいだろう………。

ミン・ジョンホは、目の前を横切って行くチャングムを追った。
一瞬、―――チョンホの目に映る、チャングムの美しい横顔と豊かな胸の膨らみ……
医女の服を通して、あの日、岩屋の中で見たチャングムの肌の白さが蘇る様だ――チョンホは、そんな錯覚に陥った。

「あなたを失う事など、とても考えられません」―――チャングムは、あの時、確かにそう言ってくれた。
そして、自分も同じ気持ちだった―――チャングムのいない人生など、とても考えられない。耐える事は出来ない。

チャングムの姿が見えなくなると、ミン・ジョンホは静かに背中を向けて歩き出した。
ハルラ山の山道を下った時、繋いでいた手は離してしまったけれど、チョンホの心の中では、チャングムとの手は繋がれている。
そして、心の中で手を繋いだまま、いつもチャングムを見守っている。
いつまでも、離れる事は無いのだと―――。

終わり


  *前編


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