BBSPINKちゃんねる内で発表されたチャングムの誓いのSS(二次小説)を収集した保管庫です

   チャングム×チョンホ   ベタでgo       第一部281様


ミン・ジョンホは心地よい薫風に鬢を撫でられ、唇を綻ばせた。
常時寒風吹きすさんでばかりのドラマ的日常において想像しえなかったほどの好天に恵まれ、王様ご一行様は都から馬で半日ほどの森にて楽しい狩猟の真っ最中である。

チョンホは馬の足を緩め、気を引き締めてあたりを見回した。
文官から武官まで総当たり的になんでもこなせるご都合主…いや優秀な彼は今日もどういう命令系統が交錯した成果か王の警護の任についている。
(もうすぐ昼食だな。チャングムさんはさぞ忙しくしていることだろう)
チョンホの唇に再び微笑が浮かんだ。
脳裏に水刺間の女官、ソ・ジャングムのひたむきな美しい顔がよぎるたび、彼は微笑まずにはいられない。
王様の食事を整えるため随従してきた者たちの中にチャングムがいる事はわかっていた。
任務の最中であるから直接話をする暇などないものの、共に王宮を離れ、この野趣に満ちた風景の中彼女の近くにいるというだけでチョンホは幸福を感じている。純情な男である。

「む?」
目の端に違和感を覚え、チョンホは頬を引き締めた。
鹿にしては小さな影が立ち木の影で動いたような気がした。
そろそろと弓に手をのばしつつ、馬の足並みをさらに落とす。
するりと鞍から滑りおり、チョンホはさしかわした下生えを踏みつけぬよう心を配りながら近づいた。
「あ!チョンホ様!」
「チャ…チャングムさん?」
茂みを越えた彼が目にしたのは、なぜか半べそ状態の、今は調理で忙しいはずの女官チャングムであった。
「一体こんなところで、なにを…」
見ると、彼女の傍らに菜籠が置いてある。なにか飾り物でも摘みに出たものか。
「チョンホ様、困っているんです。お願い、助けて!」
「どうしました」
チャングムがせっぱつまった泣き声をあげるのでチョンホは急いで近づいた。
彼女は首をぐっと前に傾け、タンギで結んだ束髪を見せた。
「あの、く、蜘蛛、蜘蛛がいませんか?」
見るとつややかな黒髪の端に、褪せた色のかなり大きい蜘蛛がいる。チョンホは律儀に報告した。
「ええ、いますね。大きいです」
「いやだ!さっき巣に触れてしまったんです。と、とってください、チョンホ様!お願いします!」
チャングムは悲鳴をあげ、身を震わせた。
「わかりました」
蜘蛛が怖いなんて可愛いなぁチャングムさん、などと少しでれでれしつつチョンホは手をのばした。
「…あ、しまった」
じっとしていた蜘蛛は危険が迫ったのを察知したのか、さっとタンギの影にかくれた。
「ど、どうしたのですか?」
チャングムがびくっとした。
「いえ、大丈夫。じっとして」
遠慮しながらタンギをもう片手で持ち上げようとした瞬間、蜘蛛は目に求まらぬ素早さで襟元に飛び込んでしまった。

「き、きゃっ!!!い、今、まさかっ」
小さな悲鳴をあげたチャングムを、チョンホは申し訳なさそうに見た。
「すみません、取り逃がしました」
「え、でも、それって、いま」
「はい。襟の内側に」
「いやあっ」
チャングムは地団駄を踏み、チョンホにすり寄った。
「ど、どのあたり?どこにいますか?」
「さあ、どこと言っても…」
なにげなく覗き込もうとしてはたとチョンホは動きを止めた。いけない。女性の襟の中など覗いては。
「あっ、あっ、今…!」
チャングムが身悶えし、訴えてくる。
「い、いま首の廻りにいるわ。今ならとれます、はやく、はやく」
せっつかれながらチョンホは仕方なくほっそりとした首廻りを、目をあまり開かないようにして観察した。
真面目な男なのである。

不吉な染みのように、首の付け根あたりで休んでいる蜘蛛を彼は発見した。
「あ、いました」
「はやくはやく」
「待ってくださいよ。えー、失礼します、チャングムさん」
チョンホは失敗を繰り返さないよう、断りをいれてわずかにチャングムの襟を指で引いた。
面積を増した白い肌からえもいえぬふんわりとした匂いがたちのぼり、チョンホの鼻孔を直撃した。
「う」
くらりとしてのけぞったチョンホに、チャングムが不安そうな澄んだ瞳を向けた。
「どうなさいました?もしやまた…」
「い、いえ」
頭をふり、チョンホは彼女に気付かれぬよう、急に気になりはじめた唾をのみこむ。
「大丈夫です。いいですか、じっとして…」
だが蜘蛛は、形勢危うしと見たのかまたもや回り込んで襟のさらに内側にとびすさった。
チャングムはまた悲鳴をあげ、チョンホはまたもや謝った。
すっかり隠れているわけではなく、わずかに見えているだけにたちが悪い。

数分後、チャングムの襟元はすっかり緩み、チョンホは彼女を抱きかかえるようにしてどこかに隠れた蜘蛛を探していた。
身を預けたチャングムはもはや悲鳴をあげる元気もなくなってきたのか切な気な吐息をついている。
なめらかな細めの鎖骨にはりつく透き通った肌に見蕩れている事にはっと気付き、チョンホは顔をあげた。
「チョ、チョンホ様、まだ見つかりませんか…?」
チャングムの吐息が熱い湿気を帯びて戎服の繊維を通し、チョンホの鼓動を昂らせた。
ごくりと喉仏を動かし、彼はようやく握りしめていた蜘蛛を後ろの叢に指先ではねとばした。
「あ、あと…少しです」
「ああいや。お願い、はやくとってください」
チャングムはかぶりをふり、さらにチョンホに躯をこすりつけた。
その柔らかさが彼の胸板を刺激する。
「はい。ですが、チャングムさん、申し訳ありませんが…」
チャングムは涙をためた目で彼を見上げた。
「なんですか」
「もう少し……その…緩めれば、確実に…」
もはや純情でも真面目でもなく本能に魂を売り渡した男、ミン・ジョンホ。

だがチャングムはチョンホがにじり寄りよった危険な理由に気付かなかった。
物心ついた頃からトックおじさんくらいしか男性については知らぬのだから無理もない。
「はい。きっととってくださいますね」
「は、はい。もちろん責任はとり、あ、いえ、最後まで、責任を持って」

チャングムは八本脚のおぞましい怪物さえいなくなるならばと思い定めた様子であった。
ぎゅっと目を閉じ、一気に襟をくつろげる。
さすがに頬が隠しきれずに染まっている風情がよけいに扇情的で、チョンホはまたもや唾を呑み込んだ。
くつろげたとはいっても膨らみの大半は隠れたままだったが、日に晒したことのない、抜けるような肌の美しさ。
「さ、はやく」
促されるまでもなく、なにも考えずその処女地に掌を滑らせる。
もう片腕で細い背中を抱いて引き寄せた。
「あっ?」
身を竦めてチャングムがとまどったような声を潜らせた。
「チョンホ様?」
「しっ」
彼は囁いた。囁かれた耳朶が染まり、目元が染まり、チャングムは不審げな表情でチョンホを見上げた。
「く、蜘蛛は…」
「もっと奥に潜っていってしまいました」
すらすらと嘘をつき、彼は真面目な顔でチャングムを見た。
「ええっ」
チャングムの眉がよった。彼女は衣服の中で激しく身悶えした。
「いやだわ。もう、どうしよう」
「もっと緩めて」
さすがにチャングムは動きをとめた。そっと上目遣いにチョンホの顔を見た。
「あの、でも…」
「こればかりは仕方のない事です。大丈夫、誰にも口外いたしません」
「でも……あの、わたし、恥ずかしいのです、チョンホ様は男の方だし…」
「目を瞑っていますから」
チョンホがしっかりと目を閉じたのをみて、チャングムは身を震わせる。
まだ蜘蛛がいると信じているのだから無理もない。
「…すみません。わかりました、…お、お願い…します」

さらに数分後。

「チャングムさんがいけないのです。男の前で肌を見せるから」
むちゃくちゃな事をいいながら、チョンホは腕の中の躯を揺さぶっている。
襟は落ち、からげあげた裾を彼の腕に巻き付けたまま、チャングムは混乱状態できょろきょろしていた。
「え、でも、なんで…あの、あの、蜘蛛はっ」
「そんなもの、もういません」
「ええっ」
やっとチャングムにも騙されたことが理解できたようで、彼女は美貌を怒りに染めた。
「嘘をついたのですね、チョンホ様。そんな、許せません」
「許していただかなくても結構です。ああ、チャングムさん。チャングムさん」
チョンホは片手で自分の下裳をまさぐりはじめた。
「いや、やめてください。許してください」
躯をのけぞらすチャングムを地面に押し倒し、チョンホは熱に浮かされたような声をあげた。
「あなたを抱きます。責任はとります。一緒にどこかに逃げましょう」
チャングムはかぶりをふった。
「いやです。わたし、宮中からはなれるわけにはいきません」
「では隠し通せばいい。望まないなら、あなたを二度と抱けなくてもいい」
襟から胸乳を握り出しながらチョンホが言う。
ふくらみを揉み込まれ、チャングムの唇から悲鳴だけではない不安そうな喘ぎが漏れた。
「あ、いや…」
「一度だけ。どうかお願いです、チャングムさん」
吸い付いて転がすと、柔らかな先端は男の口の中で慎ましやかに固まった。
「いや…あ、あっ、やめっ……!」
「チャングムさん…!」
下腹の熱い塊をとりだそうとしてチョンホは焦った。下裳の紐が絡まってなかなかほどけない。
「私の想いを、あなたに知っていただきたいのです、チャングムさん…!!す、す、好きなのです!!」



「…なのです!!」
絶叫して飛び起きたミン・ジョンホの前で、チャングムが驚いたように目を見開いた。
手に綺麗な布で包んだ箱を持っている。
「ど、どうなさいましたか、チョンホ様?」
「…え。あ」

狂おしくあたりを見回し、チョンホは電光のように己のいる場所を悟った。
見慣れた宮中の殺風景な詰め所だ。
もちろん森の中ではなく、きりりとした表情のチャングムの襟はきっちりと閉じている。

これが現実である。

「チョンホ様?」
心配げに見下ろすチャングムの視線から目を逸らしつつ、彼は無理矢理に笑った。
「………ゆ、夢を…見て…おりました」
言葉にするとあまりにも虚しかった。
切なかった。
そしていつものように、罪悪感が強烈にわいてきた。
「また、『いつもの夢』ですか?」
チャングムは心配げに微笑した。
「とても怖い寝顔でしたから…あの、ほんとに、なにか悪い夢じゃないんですか?」
「いえ、あなたを心配させるような事では…」
(ああ、今日も私はあなたにひどい事をしようとしていたのですよ、チャングムさん)
「きっと怖い夢なのですね。ああ、起こしてさしあげてよかったわ」
(残念です、チャングムさん、もう少し遅…あ、いや…!!!私はなんということを…!)
動揺しまくるチョンホに、チャングムは輝く笑顔で包みを差し出した。
「はい、これ。今日の差し入れです。お仕事、お疲れでしょうから…」
「いつもありがとうございます」
受け取った包みを開くと、なかからはうまそうな蒸し物がでてきた。
「今日もね、いつもお忙しいチョンホ様に精力をつけていただこうと思って。ニンジンと、それからヤマイモと…」
たのしげに説明をはじめるチャングムから視線を逸らしつつ、チョンホは溜め息をついた。

チャングムの手料理が食べられるのは嬉しい。
わざわざ差し入れてくれるのは本当に嬉しい。
だがこの料理の傾向はどうにかならないものだろうか。

(まだ私は若いんですよ、チャングムさん…)
夢ならともかく現実ではいつでも純情で真面目な男、ミン・ジョンホは優しい笑顔を彼女に向けつつ、心中重い吐息をついた。
あの夢はできればあまり見たくない。
だが自分からは言えない。
この幸福を自ら断つなどということは、絶対に。


誰かにチャングムの夢枕にたち、ひたむきな彼女をいさめてほしい彼であった。




おわり



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