ナココとルーク９
子供は大人に憧れるものです。私もそう。すっかり小さくなったランドセルを革製の黒い肩掛けのバッグに持ち替えて、
新品の制服を着て家の外に出ました。第一ボタンまできっちりしめたピシッとしたワイシャツの胸元には赤いリボン。
成長するからと言って買ったために手の甲が隠れてしまうブレザーの袖に膝下10cmになってしまっている野暮ったい紺のスカート。
そしてつやつやてかてかな革靴。
「それじゃ、『中学校』に行ってきまーす！」
私は嬉しく嬉しくて、元気いっぱいに家の外を飛び出しました。中学生になれた、大きくなれた。それが嬉しく嬉しくて仕方がなくてしょうがなかったんです。
だけど、それ以外にも嬉しいことがあるんです。
「おっはよう〜！見てみて〜私も今日から中学生だよ！おそろいだよ！」
私は去年辺りからぐっと大きくなったその人と会いました。大好きな大好きな人です。
「これからは毎日一緒に学校行けるね！」
私はその人と話せることが嬉しくてしょうがなくて、四月の眠気を誘う温かな日差しよりも眩しい笑顔をずっと彼に向け続けていたんです。
私はこの夢の中の出来事をどこか遠くから眺めていたのだけれども、同時に体験もしていました。
「こんな事がこれから毎日続くの？」
「おはようクポ。どんな事クポ？？」
「んーん、なんでもなーい」
最近毎日見る夢は、きっとニャミコさんを呼び寄せた別の世界の私が私に何かを伝えようとしているんでしょう。
だけど、それが何なのか私にはまだ分かりません・・・。
ま、考えても分からないもの考えても仕方ないか。私は私！今ここに私はいて、私の側にルークがいる。それでいい！
そしてルークを帰す！ルークの妹さんを探す！そしてニャミコさんのお姉さんも私が探す！
ルークが戻ってきてから戦闘ばかりだったので最近袖を通していない彼が作ってくれたウールタブレットを一度広げてみてから
ガラントアーマー一式に着替えてカンパニーソードとリッターシルトを身につけました。
ルークが帰ったら、また私を慰め続けてね。とウールタブレットに心の中で一声かけてからそれを折りたたみ、しまいました。
「よし！行ってくるね！一気に全部終わらせてくる！」
そうだ。今は悩んでいる場合じゃないんだ。ルークのために召喚獣を倒してルークのためにルークの妹を探して
ルークのために全てを終わらせるんだ！！
「終わらせるって何をです？」
「え！？」
突然背中から声をかけられギョッとして振り向くと昨日ニャミコさんが消えた場所にボーｯと眠たげな顔でニャミコさんが立っていました。
「ど、どうしてそこに？」
「えへ、学校お休みだから二度寝して会いに来ちゃいました」
嬉しげに無邪気な笑みを浮かべるニャミコさん。
「お手伝いできる事ならお手伝いさせてください。なんて言ったってナココさんはお姉ちゃんかも知れない人なんだから」
「えっと・・・その・・・じゃあ・・・」
どうしよう・・・ルークとニャミコさんを会わせちゃっても大丈夫なのかな？
ニャミコさんはいつのまに私の前に座り込み、尻尾をぶんばぶんばと嬉しそうに振りながらキラキラと星空のように輝く瞳に期待をいっぱい込めて
私の瞳をじいいいっと見つめていました。
・・・ルークが自分の世界で死ぬ事があるかもしれないということは、いつか分かる事かもしれません。
それならこの事が早く分かっていたほうが対策は取りやすいから早めにルークとニャミコさんを合わせるべきなのでしょう。
それに、戦闘面でも戦力アップはうれしいです。あと、二人の情報をあわせたら分かる事も多くありそうです。
色々と胸の内で計算高く考えている黒い私の心さえキラキラにするように彼女の瞳の輝きがさらに強くなり、尻尾の動きもさらに激しくなっていきます。
「ぜひぜひ！！私、きっとその人と同じ世界から来ているから力になれるよ！！！」
「う、うん、期待してる・・・」
「もうドンと期待してねお姉ちゃん！」
そういって胸を張って実際にドンと胸をたたくニャミコさんに圧倒される私。い、いったいどこからこのパワーが・・・。
「う、うん・・・よ、よろしくニャミコさん・・・」
「うん！！超任せて！！！」
もう一度胸を叩く彼女の表情が突然はにかんだような物になりました。その表情は一度も話したことの無い男性に突然告白をする女の子のような
恥ずかしくてたまらないけれど、それでも何かを伝えたいという不思議な力がある顔でした。
「ね・・・お姉ちゃんって呼んでいい？」
「え？」
そう言われてもニャミコさんの世界では妹なのかもしれないけれど、私の世界じゃ妹じゃないし何か抵抗があるような・・・。
「あ、だ、ダメですよねやっぱり。ううん、忘れてください」
そう言った彼女の表情があまりにも寂しげだったから、私の口は頭よりも先にこう動いていました。
「ううん、そんなことないよナミちゃん！好きに呼んでいいよ」
「！？」
彼女の丸い可愛らしい目が一瞬さらにまん丸になりました。
「あ、あのね、お姉ちゃん・・・もう一個ワガママいい？」
「どうぞ」
な、なんだか『お姉ちゃん』って呼ばれるとすっごくくすぐったいような照れるような・・・顔にカァアと血液が集まって熱くなってきます。
「お姉ちゃん、あたしのこと・・・ナミちゃんって呼んでくれる？」
「いいよ、ナミちゃん」
「ありがとう、お姉ちゃん」
なんだかよく分からないけれど、だんだん妙に恥ずかしくなってきた私はたまらなくなって玄関のほうへと向き直りました。
「そ、それじゃ。とにかく出発しようか」
「うん！お姉ちゃん！」
は、恥ずかしいからお姉ちゃんを連呼しないでぇ・・・。
私はこの世界に干渉をし続けていた。何故？そんなの分かっているでしょう？干渉することで私の目的が果たせるのだから。
私の世界なのに、この世界を思い通りにすることは骨が折れる。本当に疲れる。私の癖に生意気・・・。
にしても、ここまで疲れるだなんて世界の他に、彼にも直接干渉したからかしら？さすがに無茶をしすぎたかも・・・。
でも、彼に干渉しないと始まらなかったのだから我慢しなくちゃね。
まぁそんなことはこの際いいわ。彼女達は良くやってくれている。何故いるのか分からない彼女達だけど、利用できるならするだけ。
結果的に彼女達が自発的に私のために動いてくれたようだけど、
何もしなかったらさらに干渉するだけだったんだけどね、両方の世界で。
踊れ、踊れ、私の手の中で、踊って踊って踊って踊って疲れ果てて・・・そして倒れて、
そして私へとゆっくりともたれかかりなさい・・・。私が支えてあげるから・・・・・・
案の定、ナミちゃんを紹介するとルークは少なからず動揺したようでした。
そして、多分私がルークたちの世界の住人かもしれないと言う事にもです。
ただ、今まで手伝ってくれたＬＳのみんなが今日は参加できないので戦力アップは素直に喜ばれました。
「黒魔道士のニャミコです。姉、ナココと皆さんを元の世界に帰すお手伝いをさせてもらおうと思います。
あたしも多分みなさんと同じ世界から来たので力になれることは多いと思うのでよろしくお願いします」
ルークは彼女の言葉を聞くと目をぱちくりとさせて私のほうを見つめました。
「同じ世界から来たって・・・地球の人間なのか？」
「はい」
そう言って彼女は頷きました。チキュウ・・・それが本来私がいたかもしれない世界の名前・・・。
「ということは君も帰れなく・・・」
「いいえ、あたしはそんなことないんです。元の世界で眠りにつくとヴァナにいて、目が覚めるとヴァナから帰っている。
簡単に言ってしまえばこの世界を夢見ているような感じなんです」
そして少し舌をぺロリと出していたずらっぽく笑いました。
「えへへ、だから今は実はむこうではぐっすりねむっています」
「ふーん、随分とルークとは事情が違うんだな。あと、俺は君達の世界からきたわけじゃないぜ。えーと・・・ニャミコさん？」
ジェリダムが腕を組みいつになく真剣な表情で彼女にたずねました。
「ええ、私はお姉ちゃんからちょっと聞いただけなのでルークさんの置かれている状況を詳しくは知りませんが、
なんだか随分と違うようですね・・・」
「ああ、俺はあと七日後には地球の記憶が全部消えて帰れなくなるらしい」
「ええ、伺いました・・・。あの・・・ルークさん・・・ですよね？」
「ああ、俺がルークでこっちがジェリダムだ」
ナミちゃんが少しだけ困ったように口をもごもごさせて私を見下ろしました。多分、
彼がこのままだと眠りから覚めなくなる可能性があるということを言っていいものかどうか悩んでいるのでしょう。
大丈夫、今日、彼は私が絶対に帰すから。ただの杞憂になるだけです。私は彼女を見上げて小さく頷きました。
「最初に断っておきますが、今から言うことは私の予想です。実際は違う可能性もありますが、完全に否定も出来無いと思います。
だから心の片隅に置く程度でもいいので覚えていてください」
彼女はここが夢の世界である可能性、そして七日後におこるであろう事を簡潔に語り始めました。
「以上で私の話は終わりです。」
しばらく呆然としていたルークでしたが、しばらくすると静かに口を開きました。
「つまりだ、俺は記憶だけじゃなくて命さえも危ないわけだな」
「・・・はい」
ナミちゃんが辛そうに、声を絞り出すようにして答えました。
「でもルーク、安心して。私達が今日中にパパーッと残りの召喚獣を倒しちゃうからね！」
「ああ、ナココの言うとおりだ。心配する必要はまったくないぜ？」
私とジェリダムの声が聞こえないのか彼はしばらくあごの下に右手を当てて何かを考え込んでいるようでした。
「・・・・・・・・・あ？」
ボーっとした顔で私とジェリダムの顔をワンテンポ遅れてルークが見つめるとすかさずジェリダムがヘッドロックをしかけます。
「おーまーえーなぁ・・・」
そして拳で頭のてっぺんをグリグリ。
「悪い！ちょっと考えるとこがあって！いてぇ！マジいてぇ！！悪かった！！マジ痛てぇっての！！」
「そりゃ痛くしてるからな」
ニヤニヤしながら最後に拳をグイッと彼の頭に押し付けた後、彼を放すジェリダム。ちょっと羨ましい・・・。
「っててて・・・ああ、ごめん。ニャミコさん、ちょっとだけいい？少しだけ尋ねたいことがあるんだ」
「ええ、もちろんですよ。なんですか？」
ナミちゃんが得意げに胸をはるとルークがチラリと私とジェリダムに視線を走らせました。
「その、ちょっと二人きりで話したいんだけどいいか？」
「え゛」
私が思わず喉の奥から濁った声を漏らした瞬間、私の体がひょいと持ち上げられました。
「いいなーいいなールーク君はいいなーミスラと二人きりでいいなーこっちはナココと二人きりなのにいいなー
ミスラとなんていいなー俺もミスラと二人きりになりたいなーいいなーいいなー」
「ジェ・・・ジェリダム・・・」
ルークが真剣に困った顔になり、ナミちゃんが頬を染めます。
「そ、そのあたし急にそんな・・・」
「ちょっとぉ！！ナミちゃん！！！！」
首根っこの辺りをジェリダムに掴まれている事も忘れて思わず大声で叫ぶとジェリダムの大きな手がギュッと私の口を押さえました。
「モゴッ！モガガガガ！！モゲモゴモガガガガガーー！！！」
「うは、おもしれ。んまぁそんなわけだからゆっくり話しておけ。俺とナココはしばらく部屋で休んでるわ」
ジェリダム！本当に苦しいから！ていうかこの光景はガードを呼ばれてもおかしくないよ！どう見ても誘拐だよ！
「あ、えーと・・・ニャミコさん。そういうことじゃなくて真剣な、向こうの世界の話だから誤解しないで」
必死なルークの声と愉快そうなジェリダムの鼻歌を聴きながら私は彼のモグハウスへとさらわれました。
新品の制服を着て家の外に出ました。第一ボタンまできっちりしめたピシッとしたワイシャツの胸元には赤いリボン。
成長するからと言って買ったために手の甲が隠れてしまうブレザーの袖に膝下10cmになってしまっている野暮ったい紺のスカート。
そしてつやつやてかてかな革靴。
「それじゃ、『中学校』に行ってきまーす！」
私は嬉しく嬉しくて、元気いっぱいに家の外を飛び出しました。中学生になれた、大きくなれた。それが嬉しく嬉しくて仕方がなくてしょうがなかったんです。
だけど、それ以外にも嬉しいことがあるんです。
「おっはよう〜！見てみて〜私も今日から中学生だよ！おそろいだよ！」
私は去年辺りからぐっと大きくなったその人と会いました。大好きな大好きな人です。
「これからは毎日一緒に学校行けるね！」
私はその人と話せることが嬉しくてしょうがなくて、四月の眠気を誘う温かな日差しよりも眩しい笑顔をずっと彼に向け続けていたんです。
私はこの夢の中の出来事をどこか遠くから眺めていたのだけれども、同時に体験もしていました。
- 上手く言えないけれどもこうとしか言い様がないんです。自分が演じている演劇を同時に自分が見ているような
「こんな事がこれから毎日続くの？」
「おはようクポ。どんな事クポ？？」
「んーん、なんでもなーい」
最近毎日見る夢は、きっとニャミコさんを呼び寄せた別の世界の私が私に何かを伝えようとしているんでしょう。
だけど、それが何なのか私にはまだ分かりません・・・。
ま、考えても分からないもの考えても仕方ないか。私は私！今ここに私はいて、私の側にルークがいる。それでいい！
そしてルークを帰す！ルークの妹さんを探す！そしてニャミコさんのお姉さんも私が探す！
ルークが戻ってきてから戦闘ばかりだったので最近袖を通していない彼が作ってくれたウールタブレットを一度広げてみてから
ガラントアーマー一式に着替えてカンパニーソードとリッターシルトを身につけました。
ルークが帰ったら、また私を慰め続けてね。とウールタブレットに心の中で一声かけてからそれを折りたたみ、しまいました。
「よし！行ってくるね！一気に全部終わらせてくる！」
そうだ。今は悩んでいる場合じゃないんだ。ルークのために召喚獣を倒してルークのためにルークの妹を探して
ルークのために全てを終わらせるんだ！！
「終わらせるって何をです？」
「え！？」
突然背中から声をかけられギョッとして振り向くと昨日ニャミコさんが消えた場所にボーｯと眠たげな顔でニャミコさんが立っていました。
「ど、どうしてそこに？」
「えへ、学校お休みだから二度寝して会いに来ちゃいました」
嬉しげに無邪気な笑みを浮かべるニャミコさん。
「お手伝いできる事ならお手伝いさせてください。なんて言ったってナココさんはお姉ちゃんかも知れない人なんだから」
「えっと・・・その・・・じゃあ・・・」
どうしよう・・・ルークとニャミコさんを会わせちゃっても大丈夫なのかな？
ニャミコさんはいつのまに私の前に座り込み、尻尾をぶんばぶんばと嬉しそうに振りながらキラキラと星空のように輝く瞳に期待をいっぱい込めて
私の瞳をじいいいっと見つめていました。
・・・ルークが自分の世界で死ぬ事があるかもしれないということは、いつか分かる事かもしれません。
それならこの事が早く分かっていたほうが対策は取りやすいから早めにルークとニャミコさんを合わせるべきなのでしょう。
それに、戦闘面でも戦力アップはうれしいです。あと、二人の情報をあわせたら分かる事も多くありそうです。
- 私についてのことも。
色々と胸の内で計算高く考えている黒い私の心さえキラキラにするように彼女の瞳の輝きがさらに強くなり、尻尾の動きもさらに激しくなっていきます。
「ぜひぜひ！！私、きっとその人と同じ世界から来ているから力になれるよ！！！」
「う、うん、期待してる・・・」
「もうドンと期待してねお姉ちゃん！」
そういって胸を張って実際にドンと胸をたたくニャミコさんに圧倒される私。い、いったいどこからこのパワーが・・・。
「う、うん・・・よ、よろしくニャミコさん・・・」
「うん！！超任せて！！！」
もう一度胸を叩く彼女の表情が突然はにかんだような物になりました。その表情は一度も話したことの無い男性に突然告白をする女の子のような
恥ずかしくてたまらないけれど、それでも何かを伝えたいという不思議な力がある顔でした。
「ね・・・お姉ちゃんって呼んでいい？」
「え？」
そう言われてもニャミコさんの世界では妹なのかもしれないけれど、私の世界じゃ妹じゃないし何か抵抗があるような・・・。
「あ、だ、ダメですよねやっぱり。ううん、忘れてください」
そう言った彼女の表情があまりにも寂しげだったから、私の口は頭よりも先にこう動いていました。
「ううん、そんなことないよナミちゃん！好きに呼んでいいよ」
「！？」
彼女の丸い可愛らしい目が一瞬さらにまん丸になりました。
「あ、あのね、お姉ちゃん・・・もう一個ワガママいい？」
「どうぞ」
な、なんだか『お姉ちゃん』って呼ばれるとすっごくくすぐったいような照れるような・・・顔にカァアと血液が集まって熱くなってきます。
「お姉ちゃん、あたしのこと・・・ナミちゃんって呼んでくれる？」
「いいよ、ナミちゃん」
「ありがとう、お姉ちゃん」
なんだかよく分からないけれど、だんだん妙に恥ずかしくなってきた私はたまらなくなって玄関のほうへと向き直りました。
「そ、それじゃ。とにかく出発しようか」
「うん！お姉ちゃん！」
は、恥ずかしいからお姉ちゃんを連呼しないでぇ・・・。
私はこの世界に干渉をし続けていた。何故？そんなの分かっているでしょう？干渉することで私の目的が果たせるのだから。
私の世界なのに、この世界を思い通りにすることは骨が折れる。本当に疲れる。私の癖に生意気・・・。
にしても、ここまで疲れるだなんて世界の他に、彼にも直接干渉したからかしら？さすがに無茶をしすぎたかも・・・。
でも、彼に干渉しないと始まらなかったのだから我慢しなくちゃね。
まぁそんなことはこの際いいわ。彼女達は良くやってくれている。何故いるのか分からない彼女達だけど、利用できるならするだけ。
結果的に彼女達が自発的に私のために動いてくれたようだけど、
何もしなかったらさらに干渉するだけだったんだけどね、両方の世界で。
踊れ、踊れ、私の手の中で、踊って踊って踊って踊って疲れ果てて・・・そして倒れて、
そして私へとゆっくりともたれかかりなさい・・・。私が支えてあげるから・・・・・・
******
案の定、ナミちゃんを紹介するとルークは少なからず動揺したようでした。
そして、多分私がルークたちの世界の住人かもしれないと言う事にもです。
ただ、今まで手伝ってくれたＬＳのみんなが今日は参加できないので戦力アップは素直に喜ばれました。
「黒魔道士のニャミコです。姉、ナココと皆さんを元の世界に帰すお手伝いをさせてもらおうと思います。
あたしも多分みなさんと同じ世界から来たので力になれることは多いと思うのでよろしくお願いします」
ルークは彼女の言葉を聞くと目をぱちくりとさせて私のほうを見つめました。
「同じ世界から来たって・・・地球の人間なのか？」
「はい」
そう言って彼女は頷きました。チキュウ・・・それが本来私がいたかもしれない世界の名前・・・。
「ということは君も帰れなく・・・」
「いいえ、あたしはそんなことないんです。元の世界で眠りにつくとヴァナにいて、目が覚めるとヴァナから帰っている。
簡単に言ってしまえばこの世界を夢見ているような感じなんです」
そして少し舌をぺロリと出していたずらっぽく笑いました。
「えへへ、だから今は実はむこうではぐっすりねむっています」
「ふーん、随分とルークとは事情が違うんだな。あと、俺は君達の世界からきたわけじゃないぜ。えーと・・・ニャミコさん？」
ジェリダムが腕を組みいつになく真剣な表情で彼女にたずねました。
「ええ、私はお姉ちゃんからちょっと聞いただけなのでルークさんの置かれている状況を詳しくは知りませんが、
なんだか随分と違うようですね・・・」
「ああ、俺はあと七日後には地球の記憶が全部消えて帰れなくなるらしい」
「ええ、伺いました・・・。あの・・・ルークさん・・・ですよね？」
「ああ、俺がルークでこっちがジェリダムだ」
ナミちゃんが少しだけ困ったように口をもごもごさせて私を見下ろしました。多分、
彼がこのままだと眠りから覚めなくなる可能性があるということを言っていいものかどうか悩んでいるのでしょう。
大丈夫、今日、彼は私が絶対に帰すから。ただの杞憂になるだけです。私は彼女を見上げて小さく頷きました。
「最初に断っておきますが、今から言うことは私の予想です。実際は違う可能性もありますが、完全に否定も出来無いと思います。
だから心の片隅に置く程度でもいいので覚えていてください」
彼女はここが夢の世界である可能性、そして七日後におこるであろう事を簡潔に語り始めました。
「以上で私の話は終わりです。」
しばらく呆然としていたルークでしたが、しばらくすると静かに口を開きました。
「つまりだ、俺は記憶だけじゃなくて命さえも危ないわけだな」
「・・・はい」
ナミちゃんが辛そうに、声を絞り出すようにして答えました。
「でもルーク、安心して。私達が今日中にパパーッと残りの召喚獣を倒しちゃうからね！」
「ああ、ナココの言うとおりだ。心配する必要はまったくないぜ？」
私とジェリダムの声が聞こえないのか彼はしばらくあごの下に右手を当てて何かを考え込んでいるようでした。
「・・・・・・・・・あ？」
ボーっとした顔で私とジェリダムの顔をワンテンポ遅れてルークが見つめるとすかさずジェリダムがヘッドロックをしかけます。
「おーまーえーなぁ・・・」
そして拳で頭のてっぺんをグリグリ。
「悪い！ちょっと考えるとこがあって！いてぇ！マジいてぇ！！悪かった！！マジ痛てぇっての！！」
「そりゃ痛くしてるからな」
ニヤニヤしながら最後に拳をグイッと彼の頭に押し付けた後、彼を放すジェリダム。ちょっと羨ましい・・・。
「っててて・・・ああ、ごめん。ニャミコさん、ちょっとだけいい？少しだけ尋ねたいことがあるんだ」
「ええ、もちろんですよ。なんですか？」
ナミちゃんが得意げに胸をはるとルークがチラリと私とジェリダムに視線を走らせました。
「その、ちょっと二人きりで話したいんだけどいいか？」
「え゛」
私が思わず喉の奥から濁った声を漏らした瞬間、私の体がひょいと持ち上げられました。
「いいなーいいなールーク君はいいなーミスラと二人きりでいいなーこっちはナココと二人きりなのにいいなー
ミスラとなんていいなー俺もミスラと二人きりになりたいなーいいなーいいなー」
「ジェ・・・ジェリダム・・・」
ルークが真剣に困った顔になり、ナミちゃんが頬を染めます。
「そ、そのあたし急にそんな・・・」
「ちょっとぉ！！ナミちゃん！！！！」
首根っこの辺りをジェリダムに掴まれている事も忘れて思わず大声で叫ぶとジェリダムの大きな手がギュッと私の口を押さえました。
「モゴッ！モガガガガ！！モゲモゴモガガガガガーー！！！」
「うは、おもしれ。んまぁそんなわけだからゆっくり話しておけ。俺とナココはしばらく部屋で休んでるわ」
ジェリダム！本当に苦しいから！ていうかこの光景はガードを呼ばれてもおかしくないよ！どう見ても誘拐だよ！
「あ、えーと・・・ニャミコさん。そういうことじゃなくて真剣な、向こうの世界の話だから誤解しないで」
必死なルークの声と愉快そうなジェリダムの鼻歌を聴きながら私は彼のモグハウスへとさらわれました。
2008年01月10日(木) 22:40:59 Modified by nacoco2007