ユリフィナ_19 ◆/GKRtxSDWQ 1スレ目本編��
そんなバカなと思うかもしれないけれど、
朝起きたら寝る前にほどいている髪の毛が、なぜか最初から髪の毛がポニーテールになっていた。
私、昨日寝る前にこんな髪型にしたっけ？そもそもお風呂から出てからは大抵、ドライヤーを当ててから
軽くとかすくらいしかやらないし・・・。
そもそもポニーテールなんて小学生以来やっていないし。まぁいいや。
それよりもなんだろう・・・なんか頭が重い・・・。
「ふぁ・・・ねむ・・・っきゃ！」
寝ぼけまなこでベッドから這い出る際に派手にこけてしまった。
手をつこうと思ったのに、手より先に顔が地面にぶつかった・・・。
痛い・・・これは本当に痛い・・・。眠気なんてあっという間にどっかにいってしまう。
それにしても、心なしかものすごく手足が短くなったような・・・。
「ご主人様、体調でも悪いクポ？」
白いふさふさの毛にボンボンが生えた空とぶぬいぐるみが私に向かって話しかけてくる。
カワイイなぁ。今日の夢はメルヘンだなぁ。
そこまで考えて私はふと何かが冷めていくのを感じた。
「はぁ、夢か・・・。つまんないの。」
さて、そんな馬鹿なと思うかもしれないけれど、どうやら自分の姿、周りのふいんき(なぜか変換できない)から察するに
どうやら私はヴァナディールにいるらしい。そして自分はタルタル♀のF5B・・・つまり、
茶色い髪をポニーテールにしているタルタル族の女の子になっているみたいだ。
格好は白と赤い三角模様がカワイイ白魔道士のアーティファクトにリラコサージュという
モニター越しにすっかり見慣れた格好だ。
左手には重たいホーリーシールドに腰には臼の証ダークモール＋１もある。
一時期鬼のようにレベル上げに熱中していた時期は 夢の中でもレベルを上げていたこともあったけれど、
自分自身がヴァナディールのキャラになって、ヴァナディールを歩き回る夢は初めてみた。
何なの？このいやな感じなリアリティ。私はウィンダスのモグハウスに備え付けてある小さな滝の
オブジェの中に全部投げ捨てモグハウスを後にした。
「ご、ご主人様？何もいわずにどこに行くクポ？」
生きたヌイグルミのモーグリが無言で家を出ようとする私にちょっと驚きながら声をかけた。
あ、何もいわないで家を出るのはちょっといけないよね。
私はあわててくるりと振り返り、モーグリさんにニコッと微笑んだ。
「ちょっと競売にいってくる。」
「わかったクポ〜いってらっしゃいクポ〜。」
元気よく手を振るモーグリさんに私も手を振り返して競売への道へと向かった。
モグハウスを出たらすぐに森の区とかに出ると思っていたけれど実際は違うみたいだ。
考えてみたらモグハウスがある区間をまとめて居住区って呼んでたしね。
私のモグハウスだけがある場所でもないし。
さすが夢、都合のいいことに私はしっかりとはるか昔に子ミスラちゃんに教えてもらっていた、
居住区から石の区への抜け道を覚えていて、迷うことなくウィンダスの居住区入り口の石のトンネルに到着した。
そこからはもうモニター越しに何度も歩いた道だ。迷うことなくまっすぐ競売にいって料理を買った。
かった料理は今はお寿司に取って代わられてしまいちょっぴり影が薄いけれど、
私がヴァナディールで一番お世話になったと思われる料理、ミスラ風山の幸串焼きを買ってみる。
白魔道士だけど、そろでは山串食べてたし。
しかし山串は今残り１Dしか売っていなかった。つまり、ぼったくり価格で出品されている可能性が高い。
ていうかぼったくられた。だけど、山串は一度食べてみたかったの。
夢は大抵いいところでさめるものだし、一秒も無駄にはしたくはなかった。
コカトリスの肉にも興味があるし、マウラのニンニクも食べてみたかった。
幸い、ヴァナディールの私にはル・ルデの 庭から大量のギルを「恵みの雨だ貧民共がーー！」
とばら撒いても問題なさそうなくらい大金持ちだ。・・・ノーブルチュニックは買えないけれど。
多少山串ごときにぼったくられても財布は痛くもかゆくもない！
でも、心は痛くなった。山串はカビていた。夢のくせにすごいガッカリ砲だ。
狩人弱体も、横ダマ廃止も真っ青のガッカリ砲だ。
何ヶ月ぼったくり価格で競売とポストを往復させたんだよ出品者！！
私はかびた串をピピラ達のために石の区の池に投げ捨てた。
長い夢だなぁ。日をまたいじゃったよ。
ヴァナディールでは食べ物が高いこととかお風呂がないから水浴びするしかないことを除けば
それほど悪くはないみたい。ほとんど家具がない殺風景なモグハウスだけどパジャマもあるし
毛布とかもちゃんと備えつけられているし、けっこうかわいい私服なんかもあった。
それに普段はできない喜びのひとつ、大量のお金をニヤニヤしながら数えるということは本当に楽しい。
月末にお札の数をしょんぼりと数えてため息をつくことは何度もあったのだけど、
こんなにたくさんのお金を持つなんて生まれて初めてだった。
でも、いくらギルがあるからとはいえ、こう食べてばかりで、
どんなにリッチでもそのうちお金は尽きてしまう・・・、
虎 牙
ふと頭にこんな言葉が浮かんだ・・・ううん、コレは相当効率悪い・・・。
あれがおいしかった時期と比べて物価が変わりすぎているもの・・・。
とりあえず、西アルテパの蜘蛛から網でもいただこうか。そう決意をして外に出た。
白タル70歳。食費を稼ぐためにアルテパまで行くことを決意。
ターゲットは西アルテパの蜘蛛！
闇杖、ダークモール、光杖にホーリーシールド。
すっかりなじんできた白AFを着てモグハからいざ出発!
考えてみたら豪華なお菓子がちょっとモンスターいびるだけで買えてしまうなんて結国素敵じゃない？
森の区モグハ前でおいしそうなにおいを出しているバザーを見かけてふっとそう思った。
・・・でも、現実はそう甘くはないものだったorz
テレポルテを唱えてみる。フワッと体が浮いたかと思うと
気がつくと砂っぽい風が吹き荒れるアルテパ砂漠についていた。
・・・暑い・・・。とにかく暑い！！
なんていうか肌の水分が一気に蒸発してカラカラになってしまいそう・・・。
こんなところで蜘蛛を相手にできるのかなぁ・・・
とりあえずプロシェルリレイズ、効果があるのか分からないけどバファイラ・・・
あ、ちょっと涼しくなった。
東西アルテパをつなげる洞穴で涼みながら休憩をして、
ストンスキンをかけて、うん！準備はカンペキ！
トンネルを抜けるとそこは一面の砂漠地帯でした・・・。
蜘蛛は・・・わらわらいるいる！
よく見なくても自分より大きな蜘蛛って不気味だなぁ・・・
自分よりはるかに弱いのはわかっているけれど迫力に負けそう・・・
/echo 自分よりあいつは弱い、自分よりあいつは弱い・・・
私はやれば出来る子私はやれば出来る子・・・。
ちょっと自信もついたところで大きな白いボールのようなおなかをした
蜘蛛に向かってパライズを放つ！
効いてるみたいだけど移動する時にまるでしびれている感じがしないからちょっと不安・・・
なんでこいつこんなに機敏なのさ！
さて、いざ戦ってみて驚いたことがある。
それは自分の体が想像以上に動くこと。
運動オンチだからちょっと戦闘には自身がなかったのだけれども、
自然と重い棍棒を振り回せるし、相手の鋭い爪も盾で抑え込めるし、
万が一あたっても服の上で止まってくれる。
ストンスキン・・・すごく・・・便利です・・・。
蜘蛛をガンガンなぐっている間に少しずつ力がみｗなｗぎｗっｗてｗきｗたｗぜｗｗｗｗｗｗｗ
全身が流れるように動き、蜘蛛の体に6回棍棒が打ち付けられる！
ヘキサストライクだって使おうと思えばつかえるじゃないｗ
力なくその場に崩れ落ちる蜘蛛・・・の後ろにまた蜘蛛・・・
リンクしてる・・・orz 一体いつの間に・・・。
考えていてもしょうがないのでもう一度棍棒を抜き、殴りかかる！
ふと、盾を持っている左手の感覚が消えた。・・・左肩を見ると深々と刺さった血にぬれた黒い前足、
そして止まらない血・・・。今まで経験したことのない大怪我に思わずクラッと意識が飛びそうになった・・・。
きっとこの程度では死ぬようなことはないんだろう・・・。
それにケアルをすればすぐに治る怪我だっただろうし。
でも・・・でも・・・やっぱり怪我に慣れていない現代っ子にはちょっと刺激が・・・強すぎる・・・
逃げなくちゃ・・・！頭がそう思うよりも先に私の体はラバオに向かって走り出していた。
背中に走る激痛、獲物にきがついた他の蜘蛛がどこからともなくワラワラと走りよってくる・・・。
お前ら本当は共食いとかする生き物だろ！なんなのよこの団結力はーーーっ！？
背中、わき腹、肩・・・なんども砂に足をとられながらもラバオに逃げ込んだ時には
全身が激痛のために思うように動かなかった。
痛い・・・痛い・・・ラバオで座り込んでいると、少しずつ体が楽になってきた・・・。
やばっ・・・私ここで死ぬんだ・・・。死んだら目が覚めるのかな？
それともジュノにいつの間にかたっているのかな？
痛い・・・痛い・・・？あれ？・・・治ってる・・・。
その時、私はふっと気づいた。
座る≒ヒーリング≒回復
・・・わ、便利。
しばらく黙想をしていると傷も治りきって頭もどんどん冴えてきた。
その頃には私の頭の中にはある考えが固まっていた。
「戦闘はせずに合成でまったりとヴァナライフを満喫しよう・・・」
結局アルテパでは、蜘蛛を見たら逃げ出しそうなくらいひどいトラウマを残す羽目になっただけで、何も得られなかった。
これは、中の人(？)のスキルをあげるためにも上がっていないジョブを使って最初から練習した方がいいかも・・・。
何故中の人のスキルをあげようと思ったかというと、いくらなんでも覚めなさ過ぎる夢に少々不安を感じ始めていたからだ。
なんていうんだろう、まるでヴァナディールの中に迷い込んでしまったかのような・・・。
まさか、そんなはずはないだろうけど・・・。
ただ、ちょっと気にかかることと言ったら昨日の夜に2chで見たあのスレッド「朝起きたら自キャラになってた。」という奴だ。
あのスレッドでは>>1さんがネタでミスラになって何者かに襲われているっぽいことを書いていた。
もしもあれがヴァナディールから>>1さんのSOSサインで、
あれを読んだ人はヴァナディールに呼び込まれるとかそういうことがあったとしたら・・・。
そこまで考えて私は私自身をハッとあざ笑う。いくらなんでも漫画の読みすぎ。
私はラバオからデジョンをすると、ウィンダスのマイモグハの前に立っていた。HPはどうやらモグハみたい。
モグハウスに入った瞬間、ふと、モグハウスが殺風景なのが気になったので、
私はモグハのリフォームを始めた。思ったが吉日、何かを言っているモーグリさんを無視して私は競売へと
走っていった。
もしかしたら相当長い間ヴァナディールにいることになるかもしれないのだから、少しでもいい部屋に住みたかった。
３０分後、水瓶と魔法練習セットとアンジェリカのくれた絵(名前忘れた)しかなかった殺風景な部屋も、
ブロンズベッドと種を植えた植木鉢、
そして文机や食器セットを配置して、 少しは生活しやすく。・・・さすがにこれでちょっぴりお財布が軽くなった。
さてとりあえずは、安定した収入！パティシエの魂のこもった素敵なケーキ！！
そんなものを目標に生活してみるかな。
ミシンで親指を本返しぬいした裁縫職人の私も、
ヴァナではそれなりに色々な服を作れる可憐な一流デザイナーだ。
それにヴァナでは個人のブランドだって持っている！！
とりあえず、絹糸を布にしてその利益で生活しよう。これを定期的にやればいいや。
モーグリさんに競売に行くと一言いって、再び私は競売へ向かって走っていった。
数分後、値切りに値切って絹糸を８本ｹﾞｯﾄ！後は土クリ・・・
(絹糸、あと一本欲しいなぁ・・・)
頭の中でもう一人の私がこうささやく・・・
（土クリを買うのもなんかもったいないよなぁ・・・）
外に出れば簡単に土クリなんて・・・。そう、簡単に手に入る・・・。
それにサルタバルタならあの蜘蛛みたいに本当に凶悪って生き物もいないよねぇ・・・。
私はベッドに腰掛けてふわふわ浮いているモーグリさんにこう言った。
「ねえ、モグタン。レベル低いジョブって何があったっけ？」
心は外になんてあんまりでない現代っ子でも体が冒険者だからか、
なんだかんだ言って私は戦いたいのかもしれない。
「モグタン？モグのことクポ？」
ちょっぴりモーグリさんは驚きながら自分自身を指差したので
私はコクンと彼に頷く。
「モーグリさん、とかモーグリ、って呼ぶとなんだか個性ないじゃない？
それにそう呼ぶよりもかわいいでしょ？こう呼んでもいい？」
そう言うと、彼、今からモグタンはうれしそうにくるくると回転を始めた。
ジョブチェンジのときとかにやるあの回転するモグダンスだ。
「クポポポポ〜！ご主人様に素敵な名前をつけてもらったクポ〜！」
本当に嬉しそうに踊るので私まで嬉しくなってくる。
「ふふ、喜んでくれてよかった。それで、低レベルのジョブはなにあるの？」
私が再び聞きなおすと彼は回転を止めて私のほうに向き直った。
「ご主人様、モグはご主人様のジョブLVを全部覚えているクポ。
だからそんな質問には10秒で答えられちゃうクポ」
・・・その、今のながーい余計なお返事で10秒なんて軽く超えているように思うんですが。
「LV１０までのジョブなら侍と暗黒がLV1であるクポー」
「うん、わかったありがとう。」
また微妙な(メインジョブにしてる方ごめんなさい)ものが残っているなぁ・・・。
「侍をするなら刀が魔法練習セットの杖と一緒にしまってあるからもっていくといいクポ」
「あ、侍はクエストでもらった刀があるんだ！」
「今度は侍やるクポ？」
「うん、ちょっと絹糸一本と土クリ何個か集めにね」
「それじゃ、ジョブチェンジ開始クポー」
「侍サポ白でお願いね〜」
モグタンがフヨフヨとこっちに飛んでくる。そしてヒーラーブリオーの両端をつかむ。
「それじゃ今の装備は脱ぐクポー」
モグタンが服を胸の辺りまで脱がしかけたところで思わずモーグリにシールドバッシュ！
ベッドの上ではだけた服の女とその近くで倒れる男・・・(タルとモグだけど)。
どう見ても痴情のもつれです。本当にありがとうございました。
「自分で脱ぐからあっち向け！！！」
ふらふらしながらヨロヨロとこちらに飛んでくるモグタン・・・。
「痛いクポー・・・DBクポー・・・いつもモグが着替えさせてたのに何でクポー？」
マジデ・・・。うわー、モーグリがエロ生物だなんてちょっとショック・・・。
ていうかモグタンがいるところじゃ安心して寝れそうにないよ・・・。
「って、モグタン。いつもはその場でクルクルまわってジョブチェンジさせてなかった？」
「たまには脱がせたいこともあるクポ」
誰か、誰かこのエロ豚なんとかしてください。
なぜか妙に疲れたけれど無事に侍にジョブチェンジ。
緑の服に赤いスカーフのおなじみの初期装備は妙にしっくり来る。
森の区のモグハ前のバザーを冷やかしながらサルタバルタへの道をのんびりと歩いてゆく。
暖かい気持ちのいい空気。すぅっと澄んだ信じられないくらい綺麗な空を見上げていると、
人工的な、人の手で作られた理想の世界なんだとかえって感じてしまう。
でも、いくらなんでもリアル過ぎる。夢だって考えづらいくらいにリアルだ。
噴水前に着く。ひたすら堀フナと格闘するヒゲの釣り士に、
数歩歩きながら地面に座って矢羽をつくっている裁縫職人。
そしてバレリアーノ一座。他にもたくさんの冒険者がせわしなく噴水の前を駆け抜けてゆく。
なんだろう、こんなに人がいるのを見ると私以外にもヴァナディールに迷い込んでしまった人がいるような気がしてくるな。
そう考えてからふと思った。やっぱり、私はヴァナディールに迷い込んだんだろうなって。
「シグネットをかけてやろう。」
この台詞も、改めて耳で聞くとなんだか不思議と新鮮な感じ。
「ありがとう」と一言いって、とてつもなく大きな石の門をくぐり抜けた。
門を抜けたとたん海の匂いをさせた湿った風が私の髪を優しくゆらす。
それにあわせて地面一面に生えている草もそよそよと踊りだす。
目の前をヨチヨチと不安げに歩くタイニーマンドラゴラ。
土の香りと海の香り、そして草の香りと・・・生臭い血の匂い。
この匂いはヒトのものなのか、それとも魔物や獣人のものなのか・・・。
(やっぱり・・・素直にクリスタルも糸も買えばよかったかな・・・)
ふと、頭の中に左肩にめり込んだ黒い前足がよぎる・・・。
ううん。こんなままじゃ駄目！
このまま帰れなかったらどうしても戦わないといけない場面が出てくるだろうから・・・。
体はLV70でもうほとんど問題はないから、あとは中身を何とかしないと！
私は目の前でチョウチョを追いかけ始めたマンドラゴラに狙いをつけ、
腰の刀をスゥッと抜く・・・。あ、マンドラがこけた・・・
かーわーいーいーーー！！
無理！こんなかわいい生き物は切れない！！
かわいそう過ぎる・・・ていうか動物虐待だよこれ！！
刀を納め、もうちょっと回りを見回してみる。蜂・・・。でも蜂は風クリ・・・
ううん、土は少しレベルが上がったらブッサイクなあのウサギで集めればいいや！
そう思い、私は蜂に向かって刀を振り上げ走りよった。
ブンッ！と豪快に空を切る刀。ブブブブブと不快な羽音を立て目の前を飛び回る巨大蜂・・・。
そのタルタルの手と同じくらいの大きさがある二つの複眼に私の顔が冷たく映っている。
「クッ！」
刀を高ｦなおしもう一度切りかかる！
蜂はものすごいスピードでこちらに向かって飛んでくる。
ガンッ！と鈍い音と右腕の激痛。
そして振り下ろした刀ごしに伝わる確かな手ごたえ
本当はまず、地面に叩き落とされた蜂を見るべきだったんだろう。
でも、その前に思わず右腕に視線が行く。
右腕の部分の生地に直径５ｃｍほどの黒いしみが出来ている。
血・・・
ブブブという音にはっとして私は蜂の方に向き直った。
そこには、さっきよりも怒りに満ちた目でこちらを凝視する
前足が折れた蜂が飛んでいた。
刀の腹の部分で殴ったのだろうか・・・？
どちらにしろまだまだ刀はまともに扱えそうにないなぁ・・・。
そんな風に思いながら目の前の蜂とにらみあう。
右腕は痛いけれど、力が入らないなんて事はないから大丈夫・・・。
そんなことを思っている間に、蜂は私を見つめたまま鋭い針を突き出してすごい勢いでこちらにつっこんできた。
黒い針がギラリと鈍く光る。
(やっぱり痛いのはイヤだなぁ・・・)
とりあえずはよけることに専念しよう。
つっこんでくる蜂をぎりぎりまで引き寄せてから左に軽く跳躍して一撃をよける！
攻撃に失敗した蜂は、勢いを殺すために急ブレーキをかけてくるりと私のほうに向き直る。
(隙だらけっ！)
完全に動きが止まっている蜂がこちらに向き直る前に私は思いっきり刀をたたきつけた！！
本当は刀って切りつけるものだけどこの際キニシナイ！
地面に激突する頭が砕けた蜂。砕けた蜂の殻が私のホホを掠めたが、
そこに躊躇せずにさらにもう一発刀の一撃を叩き込む！
ピクピクと痙攣する完全に頭がつぶれた蜂・・・。
折れた羽は使い物になりそうにないし、蜂蜜なんかももっていそうにない。
戦利品は・・・怪我と経験値だけ・・・。
慣れるまで・・・精神的にもきついかも・・・。
もはや全く動かなくなった蜂の死骸を見つめながら、私は少し暗い気分になっていた・・・
ごめんね
結局こんな時間までひたすら蜂と戦うことになっていた。
ウィンダスの門の側で巨大な月を見上げながら、
随分と長い間戦っていたんだなぁと思いながら休憩をとる。
そして、マンドラゴラは・・・かわいくて殴れません。
途中、チョコボに乗って走ってきた黒魔道士の方がフレアをして満足げにウィンダスへと歩いていった。
メラメラと燃えながら地面をのた打ち回るマンドラゴラを見ると・・・はぁ・・・鬱orz
私もバルガでBCなどをやった帰りに目に付くモンスターに手当たり次第バニシュやホーリーを撃ち込んでいたけれど、
もうそんな無意味なことはやめよう・・・。
かばんの中には１Dの風のクリスタル、5枚の虫の羽。
金策目的ではじめた蜂狩だったけれど、気がつくと、戦いそのものを楽しんでいる自分がいた。
うーん・・・何でだろう・・・？
刀でやっと対象に切り傷を負わせた時はとてもうれしかったし、
自分の成長を戦いを通して楽しんでいるのかな？
もし、元の世界に帰れたら剣道はじめようかしら。
相手の動きもよく見れるようになってきたし、
レベルで言うと４くらいにはなったのかな？
そろそろ、蜂を卒業して燕飛を習得するためにも少し強い相手・・・
ウサギあたりを相手にしてみよう。
少し北へ向かって歩くと丁度よさそうな、
だけど攻撃が当てずらそうなウサギが跳ねていた。夜なのに元気ねぇ・・・。
私は正直ちょっと眠くなり始めたのに・・・。
でも、とりあえず、燕飛を覚えるまでは帰らない！
だってWSがないと侍の意味がないもの。
青白い月光を反射させる刀を抜き、
すっかり冷たくなった海風を背にウサギに問答無用で切りかかる！
こちらを振り向かずにウサギはぴょんと軽々私の斬撃をかわす。
振り下ろした刃はとまらない！
(だめ、隙だらけ！)
ザクッ！と地面に突き刺さる刀を慌てて引き抜きウサギに向き直ろうとする、
が目の端にはすでに体当たりをしようと高ｦているウサギがうつっていた。
(当たるっ！)
そう思うよりも先に私はその場から後ろに飛びのいていた。
刀から手を離して・・・。
スタンと上手に着地したウサギはじっとぎょろりとした目でこちらを見つめている・・・。
たぶん、隙をうかがっているんだ・・・
(とりあえずは、刀を拾わないと・・・。さて、どう拾おうか・・・)
実際に戦ってみた感じでは、ウサギは蜂より瞬発力がある。
たぶん、武器を拾おうとしたたら拾う瞬間に蹴られる。
ううん、知らないけどきっとそう。
それなら・・・ワザと隙を見せて攻撃を誘いからぶらせる。
その隙に武器を拾って体勢をたてなおうそう！
・・・問題は、よけられるかどうか。・・・考えたって仕方ないよ私！覚悟きめなくちゃ！！
私は、ジワジワとウサギとの距離を詰めていきました。
体勢を低くし始めて両脚にタメを作るウサギ。そろそろ来る！跳び上がるウサギ
私は刀の方へ向かって軽く跳躍し、相手から目を離さずに刀の方へと走りよｔｔ・・・え？
目に痛いほど輝く満月に負けてぼんやりとした星がちりばめられた夜空。
そして太ももに走る鈍い痛み。・・・ウサギは？ウサギはっ！！
私は慌てて立ち上がり、ウサギを探す。
右足がズキンと痛んだ。距離をつめたのは刀を取るための誘いだと読まれていた・・・。
だから、私が見たのは移動のためのジャンプだったんだ。
そして、刀へ向かって一直線に走ってゆく無防備な私に体当たりをお見舞いしたんだ。
ウサギは、どこ？背中を下から上になで上げるような感覚に振り向くと
刀の傍らで身高ｦているウサギが・・・。
背中を何か熱いものが流れる感覚・・・。焼けるような感触・・・激痛・・・。
(また、大怪我？)
「ねぇ、ウサギ君・・・その刀かえしてくれないかな？」
ちょっと涙目になりながらそう訴えたけれど、
もちろん小動物には伝わるわけもなく遠慮無しに跳びかかってくる！
(これ以上いたいのは勘弁してよ！)
ヒッ！と情けない悲鳴を漏らしながらその一撃をよける。
ズサッ！とちょっとかっこよく土煙を巻き上げながら、
ウサギは着地！そしてまた体当たり！
今度の一撃は軽くおなかの辺りをかすめ、思わず気持ちが悪くなる。
(また来るっ！)
意外と鋭い爪をむき出しにしたウサギの一撃をまたよけ損ない左腕に切り傷。
これは・・・HPでいうともう15くらいしか残っていないのでは・・・
(逃げるしかないかな・・・？)
逃げれるのだろうか？なんだか腫れ始めた右腿をさすりながら後ずさる・・・。
その時、腰になにか当たった。刀。
(よけている間にいつの間に！)
私は地面に突き刺さった刀を引き抜きウサギを睨み付けた。
「よくも散々いたぶってくれたわねぇ・・・？」
正直、刀があるからといって不利なのは変わらないのだけれども・・・。
どう見ても強がりです。本当にありがとうございました。
刀を持っていてもウサギそんなことキニシナイ。
たとえ武器を持っていても相手はボロボロ。
恐れることはないのだろう・・・
爪を振り上げとどめとなる一撃を加えに飛び掛ってきたウサギ。
(よけない！負けないんだから！！)
キィンと澄んだ音が月夜に響く、爪を受け止めた刀が鈍く輝く。
その刀は受け流した爪を流れるようになぎ払い飛ばす。
ササッと音をたて草むらに落ちる爪、思わず耳をふさぎたくなる嫌な悲鳴。
「このおおおおぉぉおお！」
ひるまない。この突きで絶対に倒す！絶対に・・・！
ほほにこびり付いた紫の返り血、悲鳴を上げる暇もなく息絶えた串刺しのウサギ・・・。
勝てた・・・。へなへなとその場に座り込む私。
安心したとたん、全身が痛み始めた・・・。
しばらく座っていれば治るはずだけれども、激痛に頭がガンガンしてきた。
すっかり重たくなった体を引きずりながらモグハウスへと向かい始めた。
「ご主人様、お帰りクポー。怪我ならケアルで治療すればよかったのにクポ」
ああああああああああああああ！！！！！！！！私サポ白ぉぉおおおおおおおおおおおおおおお！！！！！！！！！！！！！！
さぁぁぁと止まることなく落ち続ける水の音。
ヴァナディールに着てもう何日目なんだろうか・・・？
この水音が目覚まし代わりになるのが当然の様になってきていて少し怖い。
「ご主人様、おはようクポ〜」
「おはよう、モグタン」
モーグリだと個性が無いからモグタンって呼んでいい？と言うと
『ご主人様に素敵な名前を付けてもらえたクポー』とクルクル回りながら
大喜びをしてくれた、いつも無駄に元気な彼。
そんなモグタンと朝の挨拶も、もはや当然な感じがしてくる。
「クポポ？ご主人様、なんだか元気がないクポ・・・」
・・・けっこうこの哺乳類鋭いな。ムリヤリ笑顔を作りながらまだ眠いんだと言って、
私はゆっくりと起き上がった。
夢を見た・・・。お母さんが春休みだからといって寝すぎだ！と言って私の布団をはぐ。
寒いと駄々をこねる私。いいから妹の由佳を起こしてこいと言われむくれながら起こしに行く。
目頭がジンと熱くなり、涙がひとりでに落ちてゆく。
夢の中で夢を見るはずは無い。よく知らないけれどそんな話聞いたことが無い。
この前から起こっていたことは何だか分からないけど現実で、
私は朝起きたら自キャラになっていて、今、私はヴァナディールの一人のタルタルとなっている。
「ご、ご主人様？」
はずかしいな、嗚咽が止まらない・・・。そんな心配そうな顔で覗き込まないでよ。
思わず顔を信じられないくらい小さくなった手で覆った。
私は今まで何をやっていたのかな・・・？
何をおもいっきりヴァナライフを楽しんで・・・。
家族とか友達とかの事を全く考えないで・・・。
「ご主人様〜、あんまり泣かないで欲しいクポ〜・・・モグまで悲しくなってくるクポ〜・・・」
「・・・ごめんね」
私がここでやるべきことは生活費を稼ぐことでも、冒険でもなかった。
元の世界に帰る・・・。これなんだ！
少しだけ落ち着いてきた。帰るために今のところ私が出来ること・・・。
少しでも手がかりを見つけるために情報収集かな？
「モグタン、心配かけてごめんね。リンクパールとってくれないかな？」
今作れる、精一杯の笑顔でモグタンに私はたずねた。
「ご主人様が元気になってくれればモグは満足クポ〜♪」
うれしいことを言ってくれるな哺乳類。
「ところで、ご主人様はパールを持ってなかったはずクポ。」
さらりとショッキングなことを言ってくれるな哺乳類。・・・え？
「えぇ！！そんなはずないよ！絶対あるはず！そんなわけ無いよ！！」
「でも、でも、ご主人様は一度もパールを持っていたことなんて無かったクポ！」
私はベッドから飛び降り、自分のかばんをあさり始めた。
「そんなはずないの・・・そんなはずは・・・」
始めてレベル上げに誘われたのはLV9の時。その時のPTのリーダーがくれたパール。
それ以来、一度も外したことのない水色のパールが無い？
外したことのないパール
外していないのだから私がヴァナディールに来たときにももちろん装備されていたはずだ。
そして、装備されているなら誰かがログインした時に私に気がついて挨拶をするはず・・・。
たぶん、モグタンの言っていることは本当なんだ。
その証拠に、ここ数日間LSのメンバーやフレと話した記憶が無い・・・。
このヴァナディールはたぶん私がいたサーバーじゃない。
じゃあ、一体どこだろうか・・・。なんにしろ、情報収集は必要だろう。
「モグタン、パールはいいや。とりあえず水の区に行くから白サポシに着替えるね。」
「本当にちょっと今日のご主人様は変クポ・・・。それじゃ、クポポポポー！」
回転するモグにあわせて私の周りを水色の光が飛び回る。
光がなぞった後に現れる白AF。そして背中には闇杖と
頭にチョコンと乗ったリラコサージュ。
どうでもいい話だけれども、ヒーラーパンタロンってタイツと巨大ルーズソックスが
合体したような形だから・・・なんというかある意味タイツだけしか
はいていないというか・・・うん、まぁその、ちょっと恥ずかしかったり・・・。
ほんと、そんなどうでもいいことは置いておこう。まずは情報収集！
「それじゃ、いってきまーす！」
私はドアを開けて居住区のきれいに区分けされた道を水の区に向かって歩き始めた。
不思議な甘い花の香りと桜の花びらを含んだ風が私のポニーテールをなびかせた。
居住区の入り口の階段を小走り気味に降りてゆく。
ポカポカとしたウィンダスの気候は自然と心を楽しくしてくれる。
ついさっきまでないていたなんてまるでウソのよう。
晴れ晴れとしたこの空のように私の心をしてくれる。
さて、居住区入り口の階段に座り込んでいるバザーはいるし、人通りもそれなり。
ちゃんとプレイヤーらしき人もいることがわかって少し安心したせいもあるのかもしれない。
だって、プレイヤーがいるということはもしかしたら誰か知り合いがいることもありえるでしょ？
居住区前の広場に出た時に視界の左端にちょっとした人だかりが映りこんだ。
Rendezvous Point
そういえばフェローは、シャントット先生そっくりのリポケケはどうしているのだろう。
かばんをガサゴソと漁ってシグナルパールを取り出す。
透明なパールの中には『1/1 0:00/[20:00:00, 0:30]』という文字。うん、使えそうだ。
さて、ランデブーポイントでみんなはどうやってフェローを呼んでいるのだろうか？
丁度よく、鼻歌を歌いながらランデブーポイントへ向かうヒゲがやってきた。
右手にはパール。ヒゲはパールを口元に持ってきて上機嫌につぶやいた。
「ユファファちゃーん、水の区きて〜♪」
デジョンをしてあらわれた私と全く同じ茶色い髪をポニーテールにしているタル娘。
装備は・・・スコピオハーネスと白サブリガ・・・羞恥プレイ？
「おまたせっ！何かな？」
ヒゲで半分ほど見えないがどうやら紅く染まっているらしいヒゲほっぺ。
「ユファファちゃんと話したくなっちゃったｗ」
「やだー、Higehigeoyajiったら何言ってるのよっ！」
Higehigeoyaji・・・まんまじゃないロリヒゲ親父。ユファファも私と同じ顔で照れないでよ・・・
「そうそう、このまえ帽子屋で耳のついてるフードを見つけたの！」
え？もしかして導師フード！？なら欲しいな・・・
「ユファファちゃんに似合いそうじゃない？ていうかなんでも似合いそうだよｗｗｗ」
こ、このヒゲに不意打ちヘキサをぶち込んでやりたい・・・鳥肌が・・・
「あれも売り物なのかなぁ？」
あ、ヒゲスルーされてる。
「売り物なら僕が買ってあげたいんだけどね。そうだ、今度一緒に帽子屋を見に行かない？」
おっさんおっさん、それ貢ぐっていうんですよ！
「うん、楽しそうだね。そうだ！ヒゲが暇なら今から行かない？」
「お、いいね。行こうか！」
・・・貢ぎにいくのねヒゲオヤジ。あぁ・・・なんかいろいろと気分が悪くなるものを見た気分。
ひぃ！私の顔と声で手をつないで楽しげに歩かないで！！
少しまた嫌な気分になったけれど、気を取り直して・・・。
私もパールを取り出して口に近づける。
「リポケケさん、水の区で待ってますね。」
来るかな・・・？そう思った時、紫の光が目の前で歪みながら現れてそして歪みながら消えた。
「おまたせ〜。な〜に？リポケケさん、だなんてあらたまっちゃって〜」
よかった・・・きた・・・。
「えーとね、ちょっとリポケケと話したくなってね。」
「わ！偶然、私も丁度Yurifinaにお話したいことがあったんだよ〜！」
・・・Yurifina・・・自キャラの名前をものすごく久しぶりに聞いた気がする・・・。
考えてみたらモグタンは私のことを『ご主人様』としか呼ばないし。
「あのねあのね、レストランに新メニューだって！詳しい話はよく知らないんだけど一緒に食べに行かない？」
レストランには週刊魔法パラダイス記者もいるし人も集まるから最初から行くつもりだった。
特に断る理由もないので私は即OKと返事。それに、朝ごはん食べてないし
「よかった〜、あたし、レストランに一人で入るのって苦手だからずーっと困ってたんだ。
それじゃ、ちょっと遅い朝ごはんにしよ〜！」
シャントット先生の顔でにっこりと微笑むリポケケ。素直に、無垢に私になついてくれている彼女。
少し話しただけなのになんだかとても落ち着いてくる。
この、少し子供っぽいしゃべり方とかが妹に似ているからかな？
でも・・・この人は本当の私を知らない・・・。リポケケの知っている私はちょっと臼気味の元気印な
タルっコ白魔道士Yurifina。私だけど私じゃない・・・。私との接点は全く無い・・・。
それに、彼女は作り物の世界の作り物の人間。実在なんて・・・しない・・・
「ユーリーフィーナー！置いてくよ〜？」
その声でわれにかえる私。いけない！リポケケをほっといて考え込んじゃった・・・
「ごめんごめん、すぐ行くー！」
私は転ばないように注意しながら小走りで彼女に駆け寄った。
すぐ側まで私が来ると彼女は一人ぼっちになっていた私の手を取る。
その瞬間つないだ手から伝わる確かな体温が私に教えてくれた。リポケケは今目の前に実在している、と。
なぜか、また涙がこぼれそうになった。
「ね、リポケケ」
「な〜に？」
私はポツリとつぶやいた。
「しばらく甘えさせてね。」
「え？なんていったの？」
「ふふ、なんでもない」
朝起きたら寝る前にほどいている髪の毛が、なぜか最初から髪の毛がポニーテールになっていた。
私、昨日寝る前にこんな髪型にしたっけ？そもそもお風呂から出てからは大抵、ドライヤーを当ててから
軽くとかすくらいしかやらないし・・・。
そもそもポニーテールなんて小学生以来やっていないし。まぁいいや。
それよりもなんだろう・・・なんか頭が重い・・・。
「ふぁ・・・ねむ・・・っきゃ！」
寝ぼけまなこでベッドから這い出る際に派手にこけてしまった。
手をつこうと思ったのに、手より先に顔が地面にぶつかった・・・。
痛い・・・これは本当に痛い・・・。眠気なんてあっという間にどっかにいってしまう。
それにしても、心なしかものすごく手足が短くなったような・・・。
「ご主人様、体調でも悪いクポ？」
白いふさふさの毛にボンボンが生えた空とぶぬいぐるみが私に向かって話しかけてくる。
カワイイなぁ。今日の夢はメルヘンだなぁ。
そこまで考えて私はふと何かが冷めていくのを感じた。
「はぁ、夢か・・・。つまんないの。」
さて、そんな馬鹿なと思うかもしれないけれど、どうやら自分の姿、周りのふいんき(なぜか変換できない)から察するに
どうやら私はヴァナディールにいるらしい。そして自分はタルタル♀のF5B・・・つまり、
茶色い髪をポニーテールにしているタルタル族の女の子になっているみたいだ。
格好は白と赤い三角模様がカワイイ白魔道士のアーティファクトにリラコサージュという
モニター越しにすっかり見慣れた格好だ。
左手には重たいホーリーシールドに腰には臼の証ダークモール＋１もある。
一時期鬼のようにレベル上げに熱中していた時期は 夢の中でもレベルを上げていたこともあったけれど、
自分自身がヴァナディールのキャラになって、ヴァナディールを歩き回る夢は初めてみた。
- 夢なのだけど・・・おなかがすいた・・・。
- ・・・・・・倉庫の中には何ヶ月前のものだか分からないタコスが3個、
何なの？このいやな感じなリアリティ。私はウィンダスのモグハウスに備え付けてある小さな滝の
オブジェの中に全部投げ捨てモグハウスを後にした。
「ご、ご主人様？何もいわずにどこに行くクポ？」
生きたヌイグルミのモーグリが無言で家を出ようとする私にちょっと驚きながら声をかけた。
あ、何もいわないで家を出るのはちょっといけないよね。
私はあわててくるりと振り返り、モーグリさんにニコッと微笑んだ。
「ちょっと競売にいってくる。」
「わかったクポ〜いってらっしゃいクポ〜。」
元気よく手を振るモーグリさんに私も手を振り返して競売への道へと向かった。
モグハウスを出たらすぐに森の区とかに出ると思っていたけれど実際は違うみたいだ。
考えてみたらモグハウスがある区間をまとめて居住区って呼んでたしね。
私のモグハウスだけがある場所でもないし。
さすが夢、都合のいいことに私はしっかりとはるか昔に子ミスラちゃんに教えてもらっていた、
居住区から石の区への抜け道を覚えていて、迷うことなくウィンダスの居住区入り口の石のトンネルに到着した。
そこからはもうモニター越しに何度も歩いた道だ。迷うことなくまっすぐ競売にいって料理を買った。
かった料理は今はお寿司に取って代わられてしまいちょっぴり影が薄いけれど、
私がヴァナディールで一番お世話になったと思われる料理、ミスラ風山の幸串焼きを買ってみる。
白魔道士だけど、そろでは山串食べてたし。
しかし山串は今残り１Dしか売っていなかった。つまり、ぼったくり価格で出品されている可能性が高い。
ていうかぼったくられた。だけど、山串は一度食べてみたかったの。
夢は大抵いいところでさめるものだし、一秒も無駄にはしたくはなかった。
コカトリスの肉にも興味があるし、マウラのニンニクも食べてみたかった。
幸い、ヴァナディールの私にはル・ルデの 庭から大量のギルを「恵みの雨だ貧民共がーー！」
とばら撒いても問題なさそうなくらい大金持ちだ。・・・ノーブルチュニックは買えないけれど。
多少山串ごときにぼったくられても財布は痛くもかゆくもない！
でも、心は痛くなった。山串はカビていた。夢のくせにすごいガッカリ砲だ。
狩人弱体も、横ダマ廃止も真っ青のガッカリ砲だ。
何ヶ月ぼったくり価格で競売とポストを往復させたんだよ出品者！！
私はかびた串をピピラ達のために石の区の池に投げ捨てた。
長い夢だなぁ。日をまたいじゃったよ。
ヴァナディールでは食べ物が高いこととかお風呂がないから水浴びするしかないことを除けば
それほど悪くはないみたい。ほとんど家具がない殺風景なモグハウスだけどパジャマもあるし
毛布とかもちゃんと備えつけられているし、けっこうかわいい私服なんかもあった。
それに普段はできない喜びのひとつ、大量のお金をニヤニヤしながら数えるということは本当に楽しい。
月末にお札の数をしょんぼりと数えてため息をつくことは何度もあったのだけど、
こんなにたくさんのお金を持つなんて生まれて初めてだった。
でも、いくらギルがあるからとはいえ、こう食べてばかりで、
どんなにリッチでもそのうちお金は尽きてしまう・・・、
虎 牙
ふと頭にこんな言葉が浮かんだ・・・ううん、コレは相当効率悪い・・・。
あれがおいしかった時期と比べて物価が変わりすぎているもの・・・。
とりあえず、西アルテパの蜘蛛から網でもいただこうか。そう決意をして外に出た。
白タル70歳。食費を稼ぐためにアルテパまで行くことを決意。
ターゲットは西アルテパの蜘蛛！
闇杖、ダークモール、光杖にホーリーシールド。
すっかりなじんできた白AFを着てモグハからいざ出発!
考えてみたら豪華なお菓子がちょっとモンスターいびるだけで買えてしまうなんて結国素敵じゃない？
森の区モグハ前でおいしそうなにおいを出しているバザーを見かけてふっとそう思った。
・・・でも、現実はそう甘くはないものだったorz
テレポルテを唱えてみる。フワッと体が浮いたかと思うと
気がつくと砂っぽい風が吹き荒れるアルテパ砂漠についていた。
・・・暑い・・・。とにかく暑い！！
なんていうか肌の水分が一気に蒸発してカラカラになってしまいそう・・・。
こんなところで蜘蛛を相手にできるのかなぁ・・・
とりあえずプロシェルリレイズ、効果があるのか分からないけどバファイラ・・・
あ、ちょっと涼しくなった。
東西アルテパをつなげる洞穴で涼みながら休憩をして、
ストンスキンをかけて、うん！準備はカンペキ！
トンネルを抜けるとそこは一面の砂漠地帯でした・・・。
蜘蛛は・・・わらわらいるいる！
よく見なくても自分より大きな蜘蛛って不気味だなぁ・・・
自分よりはるかに弱いのはわかっているけれど迫力に負けそう・・・
/echo 自分よりあいつは弱い、自分よりあいつは弱い・・・
私はやれば出来る子私はやれば出来る子・・・。
ちょっと自信もついたところで大きな白いボールのようなおなかをした
蜘蛛に向かってパライズを放つ！
効いてるみたいだけど移動する時にまるでしびれている感じがしないからちょっと不安・・・
なんでこいつこんなに機敏なのさ！
さて、いざ戦ってみて驚いたことがある。
それは自分の体が想像以上に動くこと。
運動オンチだからちょっと戦闘には自身がなかったのだけれども、
自然と重い棍棒を振り回せるし、相手の鋭い爪も盾で抑え込めるし、
万が一あたっても服の上で止まってくれる。
ストンスキン・・・すごく・・・便利です・・・。
蜘蛛をガンガンなぐっている間に少しずつ力がみｗなｗぎｗっｗてｗきｗたｗぜｗｗｗｗｗｗｗ
全身が流れるように動き、蜘蛛の体に6回棍棒が打ち付けられる！
ヘキサストライクだって使おうと思えばつかえるじゃないｗ
力なくその場に崩れ落ちる蜘蛛・・・の後ろにまた蜘蛛・・・
リンクしてる・・・orz 一体いつの間に・・・。
考えていてもしょうがないのでもう一度棍棒を抜き、殴りかかる！
ふと、盾を持っている左手の感覚が消えた。・・・左肩を見ると深々と刺さった血にぬれた黒い前足、
そして止まらない血・・・。今まで経験したことのない大怪我に思わずクラッと意識が飛びそうになった・・・。
きっとこの程度では死ぬようなことはないんだろう・・・。
それにケアルをすればすぐに治る怪我だっただろうし。
でも・・・でも・・・やっぱり怪我に慣れていない現代っ子にはちょっと刺激が・・・強すぎる・・・
逃げなくちゃ・・・！頭がそう思うよりも先に私の体はラバオに向かって走り出していた。
背中に走る激痛、獲物にきがついた他の蜘蛛がどこからともなくワラワラと走りよってくる・・・。
お前ら本当は共食いとかする生き物だろ！なんなのよこの団結力はーーーっ！？
背中、わき腹、肩・・・なんども砂に足をとられながらもラバオに逃げ込んだ時には
全身が激痛のために思うように動かなかった。
痛い・・・痛い・・・ラバオで座り込んでいると、少しずつ体が楽になってきた・・・。
やばっ・・・私ここで死ぬんだ・・・。死んだら目が覚めるのかな？
それともジュノにいつの間にかたっているのかな？
痛い・・・痛い・・・？あれ？・・・治ってる・・・。
その時、私はふっと気づいた。
座る≒ヒーリング≒回復
・・・わ、便利。
しばらく黙想をしていると傷も治りきって頭もどんどん冴えてきた。
その頃には私の頭の中にはある考えが固まっていた。
「戦闘はせずに合成でまったりとヴァナライフを満喫しよう・・・」
結局アルテパでは、蜘蛛を見たら逃げ出しそうなくらいひどいトラウマを残す羽目になっただけで、何も得られなかった。
これは、中の人(？)のスキルをあげるためにも上がっていないジョブを使って最初から練習した方がいいかも・・・。
何故中の人のスキルをあげようと思ったかというと、いくらなんでも覚めなさ過ぎる夢に少々不安を感じ始めていたからだ。
なんていうんだろう、まるでヴァナディールの中に迷い込んでしまったかのような・・・。
まさか、そんなはずはないだろうけど・・・。
ただ、ちょっと気にかかることと言ったら昨日の夜に2chで見たあのスレッド「朝起きたら自キャラになってた。」という奴だ。
あのスレッドでは>>1さんがネタでミスラになって何者かに襲われているっぽいことを書いていた。
もしもあれがヴァナディールから>>1さんのSOSサインで、
あれを読んだ人はヴァナディールに呼び込まれるとかそういうことがあったとしたら・・・。
そこまで考えて私は私自身をハッとあざ笑う。いくらなんでも漫画の読みすぎ。
私はラバオからデジョンをすると、ウィンダスのマイモグハの前に立っていた。HPはどうやらモグハみたい。
モグハウスに入った瞬間、ふと、モグハウスが殺風景なのが気になったので、
私はモグハのリフォームを始めた。思ったが吉日、何かを言っているモーグリさんを無視して私は競売へと
走っていった。
もしかしたら相当長い間ヴァナディールにいることになるかもしれないのだから、少しでもいい部屋に住みたかった。
３０分後、水瓶と魔法練習セットとアンジェリカのくれた絵(名前忘れた)しかなかった殺風景な部屋も、
ブロンズベッドと種を植えた植木鉢、
そして文机や食器セットを配置して、 少しは生活しやすく。・・・さすがにこれでちょっぴりお財布が軽くなった。
さてとりあえずは、安定した収入！パティシエの魂のこもった素敵なケーキ！！
そんなものを目標に生活してみるかな。
ミシンで親指を本返しぬいした裁縫職人の私も、
ヴァナではそれなりに色々な服を作れる可憐な一流デザイナーだ。
それにヴァナでは個人のブランドだって持っている！！
- ただの銘入りクリだろ、とか野暮な突っ込みはこのさい無しの方向で。
とりあえず、絹糸を布にしてその利益で生活しよう。これを定期的にやればいいや。
モーグリさんに競売に行くと一言いって、再び私は競売へ向かって走っていった。
数分後、値切りに値切って絹糸を８本ｹﾞｯﾄ！後は土クリ・・・
(絹糸、あと一本欲しいなぁ・・・)
頭の中でもう一人の私がこうささやく・・・
（土クリを買うのもなんかもったいないよなぁ・・・）
外に出れば簡単に土クリなんて・・・。そう、簡単に手に入る・・・。
それにサルタバルタならあの蜘蛛みたいに本当に凶悪って生き物もいないよねぇ・・・。
私はベッドに腰掛けてふわふわ浮いているモーグリさんにこう言った。
「ねえ、モグタン。レベル低いジョブって何があったっけ？」
心は外になんてあんまりでない現代っ子でも体が冒険者だからか、
なんだかんだ言って私は戦いたいのかもしれない。
「モグタン？モグのことクポ？」
ちょっぴりモーグリさんは驚きながら自分自身を指差したので
私はコクンと彼に頷く。
「モーグリさん、とかモーグリ、って呼ぶとなんだか個性ないじゃない？
それにそう呼ぶよりもかわいいでしょ？こう呼んでもいい？」
そう言うと、彼、今からモグタンはうれしそうにくるくると回転を始めた。
ジョブチェンジのときとかにやるあの回転するモグダンスだ。
「クポポポポ〜！ご主人様に素敵な名前をつけてもらったクポ〜！」
本当に嬉しそうに踊るので私まで嬉しくなってくる。
「ふふ、喜んでくれてよかった。それで、低レベルのジョブはなにあるの？」
私が再び聞きなおすと彼は回転を止めて私のほうに向き直った。
「ご主人様、モグはご主人様のジョブLVを全部覚えているクポ。
だからそんな質問には10秒で答えられちゃうクポ」
・・・その、今のながーい余計なお返事で10秒なんて軽く超えているように思うんですが。
「LV１０までのジョブなら侍と暗黒がLV1であるクポー」
「うん、わかったありがとう。」
また微妙な(メインジョブにしてる方ごめんなさい)ものが残っているなぁ・・・。
「侍をするなら刀が魔法練習セットの杖と一緒にしまってあるからもっていくといいクポ」
「あ、侍はクエストでもらった刀があるんだ！」
「今度は侍やるクポ？」
「うん、ちょっと絹糸一本と土クリ何個か集めにね」
「それじゃ、ジョブチェンジ開始クポー」
「侍サポ白でお願いね〜」
モグタンがフヨフヨとこっちに飛んでくる。そしてヒーラーブリオーの両端をつかむ。
「それじゃ今の装備は脱ぐクポー」
- は？
モグタンが服を胸の辺りまで脱がしかけたところで思わずモーグリにシールドバッシュ！
ベッドの上ではだけた服の女とその近くで倒れる男・・・(タルとモグだけど)。
どう見ても痴情のもつれです。本当にありがとうございました。
「自分で脱ぐからあっち向け！！！」
ふらふらしながらヨロヨロとこちらに飛んでくるモグタン・・・。
「痛いクポー・・・DBクポー・・・いつもモグが着替えさせてたのに何でクポー？」
マジデ・・・。うわー、モーグリがエロ生物だなんてちょっとショック・・・。
ていうかモグタンがいるところじゃ安心して寝れそうにないよ・・・。
「って、モグタン。いつもはその場でクルクルまわってジョブチェンジさせてなかった？」
「たまには脱がせたいこともあるクポ」
誰か、誰かこのエロ豚なんとかしてください。
なぜか妙に疲れたけれど無事に侍にジョブチェンジ。
緑の服に赤いスカーフのおなじみの初期装備は妙にしっくり来る。
森の区のモグハ前のバザーを冷やかしながらサルタバルタへの道をのんびりと歩いてゆく。
暖かい気持ちのいい空気。すぅっと澄んだ信じられないくらい綺麗な空を見上げていると、
人工的な、人の手で作られた理想の世界なんだとかえって感じてしまう。
でも、いくらなんでもリアル過ぎる。夢だって考えづらいくらいにリアルだ。
噴水前に着く。ひたすら堀フナと格闘するヒゲの釣り士に、
数歩歩きながら地面に座って矢羽をつくっている裁縫職人。
そしてバレリアーノ一座。他にもたくさんの冒険者がせわしなく噴水の前を駆け抜けてゆく。
なんだろう、こんなに人がいるのを見ると私以外にもヴァナディールに迷い込んでしまった人がいるような気がしてくるな。
そう考えてからふと思った。やっぱり、私はヴァナディールに迷い込んだんだろうなって。
「シグネットをかけてやろう。」
この台詞も、改めて耳で聞くとなんだか不思議と新鮮な感じ。
「ありがとう」と一言いって、とてつもなく大きな石の門をくぐり抜けた。
門を抜けたとたん海の匂いをさせた湿った風が私の髪を優しくゆらす。
それにあわせて地面一面に生えている草もそよそよと踊りだす。
目の前をヨチヨチと不安げに歩くタイニーマンドラゴラ。
土の香りと海の香り、そして草の香りと・・・生臭い血の匂い。
この匂いはヒトのものなのか、それとも魔物や獣人のものなのか・・・。
(やっぱり・・・素直にクリスタルも糸も買えばよかったかな・・・)
ふと、頭の中に左肩にめり込んだ黒い前足がよぎる・・・。
ううん。こんなままじゃ駄目！
このまま帰れなかったらどうしても戦わないといけない場面が出てくるだろうから・・・。
体はLV70でもうほとんど問題はないから、あとは中身を何とかしないと！
私は目の前でチョウチョを追いかけ始めたマンドラゴラに狙いをつけ、
腰の刀をスゥッと抜く・・・。あ、マンドラがこけた・・・
かーわーいーいーーー！！
無理！こんなかわいい生き物は切れない！！
かわいそう過ぎる・・・ていうか動物虐待だよこれ！！
刀を納め、もうちょっと回りを見回してみる。蜂・・・。でも蜂は風クリ・・・
ううん、土は少しレベルが上がったらブッサイクなあのウサギで集めればいいや！
そう思い、私は蜂に向かって刀を振り上げ走りよった。
ブンッ！と豪快に空を切る刀。ブブブブブと不快な羽音を立て目の前を飛び回る巨大蜂・・・。
そのタルタルの手と同じくらいの大きさがある二つの複眼に私の顔が冷たく映っている。
「クッ！」
刀を高ｦなおしもう一度切りかかる！
蜂はものすごいスピードでこちらに向かって飛んでくる。
ガンッ！と鈍い音と右腕の激痛。
そして振り下ろした刀ごしに伝わる確かな手ごたえ
本当はまず、地面に叩き落とされた蜂を見るべきだったんだろう。
でも、その前に思わず右腕に視線が行く。
右腕の部分の生地に直径５ｃｍほどの黒いしみが出来ている。
血・・・
ブブブという音にはっとして私は蜂の方に向き直った。
そこには、さっきよりも怒りに満ちた目でこちらを凝視する
前足が折れた蜂が飛んでいた。
刀の腹の部分で殴ったのだろうか・・・？
どちらにしろまだまだ刀はまともに扱えそうにないなぁ・・・。
そんな風に思いながら目の前の蜂とにらみあう。
右腕は痛いけれど、力が入らないなんて事はないから大丈夫・・・。
そんなことを思っている間に、蜂は私を見つめたまま鋭い針を突き出してすごい勢いでこちらにつっこんできた。
黒い針がギラリと鈍く光る。
(やっぱり痛いのはイヤだなぁ・・・)
とりあえずはよけることに専念しよう。
つっこんでくる蜂をぎりぎりまで引き寄せてから左に軽く跳躍して一撃をよける！
攻撃に失敗した蜂は、勢いを殺すために急ブレーキをかけてくるりと私のほうに向き直る。
(隙だらけっ！)
完全に動きが止まっている蜂がこちらに向き直る前に私は思いっきり刀をたたきつけた！！
本当は刀って切りつけるものだけどこの際キニシナイ！
地面に激突する頭が砕けた蜂。砕けた蜂の殻が私のホホを掠めたが、
そこに躊躇せずにさらにもう一発刀の一撃を叩き込む！
ピクピクと痙攣する完全に頭がつぶれた蜂・・・。
折れた羽は使い物になりそうにないし、蜂蜜なんかももっていそうにない。
戦利品は・・・怪我と経験値だけ・・・。
慣れるまで・・・精神的にもきついかも・・・。
もはや全く動かなくなった蜂の死骸を見つめながら、私は少し暗い気分になっていた・・・
ごめんね
結局こんな時間までひたすら蜂と戦うことになっていた。
ウィンダスの門の側で巨大な月を見上げながら、
随分と長い間戦っていたんだなぁと思いながら休憩をとる。
そして、マンドラゴラは・・・かわいくて殴れません。
途中、チョコボに乗って走ってきた黒魔道士の方がフレアをして満足げにウィンダスへと歩いていった。
メラメラと燃えながら地面をのた打ち回るマンドラゴラを見ると・・・はぁ・・・鬱orz
私もバルガでBCなどをやった帰りに目に付くモンスターに手当たり次第バニシュやホーリーを撃ち込んでいたけれど、
もうそんな無意味なことはやめよう・・・。
かばんの中には１Dの風のクリスタル、5枚の虫の羽。
金策目的ではじめた蜂狩だったけれど、気がつくと、戦いそのものを楽しんでいる自分がいた。
うーん・・・何でだろう・・・？
刀でやっと対象に切り傷を負わせた時はとてもうれしかったし、
自分の成長を戦いを通して楽しんでいるのかな？
もし、元の世界に帰れたら剣道はじめようかしら。
相手の動きもよく見れるようになってきたし、
レベルで言うと４くらいにはなったのかな？
そろそろ、蜂を卒業して燕飛を習得するためにも少し強い相手・・・
ウサギあたりを相手にしてみよう。
少し北へ向かって歩くと丁度よさそうな、
だけど攻撃が当てずらそうなウサギが跳ねていた。夜なのに元気ねぇ・・・。
私は正直ちょっと眠くなり始めたのに・・・。
でも、とりあえず、燕飛を覚えるまでは帰らない！
だってWSがないと侍の意味がないもの。
青白い月光を反射させる刀を抜き、
すっかり冷たくなった海風を背にウサギに問答無用で切りかかる！
こちらを振り向かずにウサギはぴょんと軽々私の斬撃をかわす。
振り下ろした刃はとまらない！
(だめ、隙だらけ！)
ザクッ！と地面に突き刺さる刀を慌てて引き抜きウサギに向き直ろうとする、
が目の端にはすでに体当たりをしようと高ｦているウサギがうつっていた。
(当たるっ！)
そう思うよりも先に私はその場から後ろに飛びのいていた。
刀から手を離して・・・。
スタンと上手に着地したウサギはじっとぎょろりとした目でこちらを見つめている・・・。
たぶん、隙をうかがっているんだ・・・
(とりあえずは、刀を拾わないと・・・。さて、どう拾おうか・・・)
実際に戦ってみた感じでは、ウサギは蜂より瞬発力がある。
たぶん、武器を拾おうとしたたら拾う瞬間に蹴られる。
ううん、知らないけどきっとそう。
それなら・・・ワザと隙を見せて攻撃を誘いからぶらせる。
その隙に武器を拾って体勢をたてなおうそう！
・・・問題は、よけられるかどうか。・・・考えたって仕方ないよ私！覚悟きめなくちゃ！！
私は、ジワジワとウサギとの距離を詰めていきました。
体勢を低くし始めて両脚にタメを作るウサギ。そろそろ来る！跳び上がるウサギ
私は刀の方へ向かって軽く跳躍し、相手から目を離さずに刀の方へと走りよｔｔ・・・え？
目に痛いほど輝く満月に負けてぼんやりとした星がちりばめられた夜空。
そして太ももに走る鈍い痛み。・・・ウサギは？ウサギはっ！！
私は慌てて立ち上がり、ウサギを探す。
右足がズキンと痛んだ。距離をつめたのは刀を取るための誘いだと読まれていた・・・。
だから、私が見たのは移動のためのジャンプだったんだ。
そして、刀へ向かって一直線に走ってゆく無防備な私に体当たりをお見舞いしたんだ。
ウサギは、どこ？背中を下から上になで上げるような感覚に振り向くと
刀の傍らで身高ｦているウサギが・・・。
背中を何か熱いものが流れる感覚・・・。焼けるような感触・・・激痛・・・。
(また、大怪我？)
「ねぇ、ウサギ君・・・その刀かえしてくれないかな？」
ちょっと涙目になりながらそう訴えたけれど、
もちろん小動物には伝わるわけもなく遠慮無しに跳びかかってくる！
(これ以上いたいのは勘弁してよ！)
ヒッ！と情けない悲鳴を漏らしながらその一撃をよける。
ズサッ！とちょっとかっこよく土煙を巻き上げながら、
ウサギは着地！そしてまた体当たり！
今度の一撃は軽くおなかの辺りをかすめ、思わず気持ちが悪くなる。
(また来るっ！)
意外と鋭い爪をむき出しにしたウサギの一撃をまたよけ損ない左腕に切り傷。
これは・・・HPでいうともう15くらいしか残っていないのでは・・・
(逃げるしかないかな・・・？)
逃げれるのだろうか？なんだか腫れ始めた右腿をさすりながら後ずさる・・・。
その時、腰になにか当たった。刀。
(よけている間にいつの間に！)
私は地面に突き刺さった刀を引き抜きウサギを睨み付けた。
「よくも散々いたぶってくれたわねぇ・・・？」
正直、刀があるからといって不利なのは変わらないのだけれども・・・。
どう見ても強がりです。本当にありがとうございました。
刀を持っていてもウサギそんなことキニシナイ。
たとえ武器を持っていても相手はボロボロ。
恐れることはないのだろう・・・
爪を振り上げとどめとなる一撃を加えに飛び掛ってきたウサギ。
(よけない！負けないんだから！！)
キィンと澄んだ音が月夜に響く、爪を受け止めた刀が鈍く輝く。
その刀は受け流した爪を流れるようになぎ払い飛ばす。
ササッと音をたて草むらに落ちる爪、思わず耳をふさぎたくなる嫌な悲鳴。
「このおおおおぉぉおお！」
ひるまない。この突きで絶対に倒す！絶対に・・・！
ほほにこびり付いた紫の返り血、悲鳴を上げる暇もなく息絶えた串刺しのウサギ・・・。
勝てた・・・。へなへなとその場に座り込む私。
安心したとたん、全身が痛み始めた・・・。
しばらく座っていれば治るはずだけれども、激痛に頭がガンガンしてきた。
- 今日は燕飛をあきらめて。ゆっくりと眠ろう。
すっかり重たくなった体を引きずりながらモグハウスへと向かい始めた。
「ご主人様、お帰りクポー。怪我ならケアルで治療すればよかったのにクポ」
ああああああああああああああ！！！！！！！！私サポ白ぉぉおおおおおおおおおおおおおおお！！！！！！！！！！！！！！
さぁぁぁと止まることなく落ち続ける水の音。
ヴァナディールに着てもう何日目なんだろうか・・・？
この水音が目覚まし代わりになるのが当然の様になってきていて少し怖い。
「ご主人様、おはようクポ〜」
「おはよう、モグタン」
モーグリだと個性が無いからモグタンって呼んでいい？と言うと
『ご主人様に素敵な名前を付けてもらえたクポー』とクルクル回りながら
大喜びをしてくれた、いつも無駄に元気な彼。
そんなモグタンと朝の挨拶も、もはや当然な感じがしてくる。
「クポポ？ご主人様、なんだか元気がないクポ・・・」
・・・けっこうこの哺乳類鋭いな。ムリヤリ笑顔を作りながらまだ眠いんだと言って、
私はゆっくりと起き上がった。
夢を見た・・・。お母さんが春休みだからといって寝すぎだ！と言って私の布団をはぐ。
寒いと駄々をこねる私。いいから妹の由佳を起こしてこいと言われむくれながら起こしに行く。
目頭がジンと熱くなり、涙がひとりでに落ちてゆく。
夢の中で夢を見るはずは無い。よく知らないけれどそんな話聞いたことが無い。
この前から起こっていたことは何だか分からないけど現実で、
私は朝起きたら自キャラになっていて、今、私はヴァナディールの一人のタルタルとなっている。
「ご、ご主人様？」
はずかしいな、嗚咽が止まらない・・・。そんな心配そうな顔で覗き込まないでよ。
思わず顔を信じられないくらい小さくなった手で覆った。
私は今まで何をやっていたのかな・・・？
何をおもいっきりヴァナライフを楽しんで・・・。
家族とか友達とかの事を全く考えないで・・・。
「ご主人様〜、あんまり泣かないで欲しいクポ〜・・・モグまで悲しくなってくるクポ〜・・・」
「・・・ごめんね」
私がここでやるべきことは生活費を稼ぐことでも、冒険でもなかった。
元の世界に帰る・・・。これなんだ！
少しだけ落ち着いてきた。帰るために今のところ私が出来ること・・・。
少しでも手がかりを見つけるために情報収集かな？
「モグタン、心配かけてごめんね。リンクパールとってくれないかな？」
今作れる、精一杯の笑顔でモグタンに私はたずねた。
「ご主人様が元気になってくれればモグは満足クポ〜♪」
うれしいことを言ってくれるな哺乳類。
「ところで、ご主人様はパールを持ってなかったはずクポ。」
さらりとショッキングなことを言ってくれるな哺乳類。・・・え？
「えぇ！！そんなはずないよ！絶対あるはず！そんなわけ無いよ！！」
「でも、でも、ご主人様は一度もパールを持っていたことなんて無かったクポ！」
私はベッドから飛び降り、自分のかばんをあさり始めた。
「そんなはずないの・・・そんなはずは・・・」
始めてレベル上げに誘われたのはLV9の時。その時のPTのリーダーがくれたパール。
それ以来、一度も外したことのない水色のパールが無い？
外したことのないパール
外していないのだから私がヴァナディールに来たときにももちろん装備されていたはずだ。
そして、装備されているなら誰かがログインした時に私に気がついて挨拶をするはず・・・。
たぶん、モグタンの言っていることは本当なんだ。
その証拠に、ここ数日間LSのメンバーやフレと話した記憶が無い・・・。
このヴァナディールはたぶん私がいたサーバーじゃない。
じゃあ、一体どこだろうか・・・。なんにしろ、情報収集は必要だろう。
「モグタン、パールはいいや。とりあえず水の区に行くから白サポシに着替えるね。」
「本当にちょっと今日のご主人様は変クポ・・・。それじゃ、クポポポポー！」
回転するモグにあわせて私の周りを水色の光が飛び回る。
光がなぞった後に現れる白AF。そして背中には闇杖と
頭にチョコンと乗ったリラコサージュ。
どうでもいい話だけれども、ヒーラーパンタロンってタイツと巨大ルーズソックスが
合体したような形だから・・・なんというかある意味タイツだけしか
はいていないというか・・・うん、まぁその、ちょっと恥ずかしかったり・・・。
ほんと、そんなどうでもいいことは置いておこう。まずは情報収集！
「それじゃ、いってきまーす！」
私はドアを開けて居住区のきれいに区分けされた道を水の区に向かって歩き始めた。
不思議な甘い花の香りと桜の花びらを含んだ風が私のポニーテールをなびかせた。
居住区の入り口の階段を小走り気味に降りてゆく。
ポカポカとしたウィンダスの気候は自然と心を楽しくしてくれる。
ついさっきまでないていたなんてまるでウソのよう。
晴れ晴れとしたこの空のように私の心をしてくれる。
さて、居住区入り口の階段に座り込んでいるバザーはいるし、人通りもそれなり。
ちゃんとプレイヤーらしき人もいることがわかって少し安心したせいもあるのかもしれない。
だって、プレイヤーがいるということはもしかしたら誰か知り合いがいることもありえるでしょ？
居住区前の広場に出た時に視界の左端にちょっとした人だかりが映りこんだ。
Rendezvous Point
そういえばフェローは、シャントット先生そっくりのリポケケはどうしているのだろう。
かばんをガサゴソと漁ってシグナルパールを取り出す。
透明なパールの中には『1/1 0:00/[20:00:00, 0:30]』という文字。うん、使えそうだ。
さて、ランデブーポイントでみんなはどうやってフェローを呼んでいるのだろうか？
丁度よく、鼻歌を歌いながらランデブーポイントへ向かうヒゲがやってきた。
右手にはパール。ヒゲはパールを口元に持ってきて上機嫌につぶやいた。
「ユファファちゃーん、水の区きて〜♪」
デジョンをしてあらわれた私と全く同じ茶色い髪をポニーテールにしているタル娘。
装備は・・・スコピオハーネスと白サブリガ・・・羞恥プレイ？
「おまたせっ！何かな？」
ヒゲで半分ほど見えないがどうやら紅く染まっているらしいヒゲほっぺ。
「ユファファちゃんと話したくなっちゃったｗ」
「やだー、Higehigeoyajiったら何言ってるのよっ！」
Higehigeoyaji・・・まんまじゃないロリヒゲ親父。ユファファも私と同じ顔で照れないでよ・・・
「そうそう、このまえ帽子屋で耳のついてるフードを見つけたの！」
え？もしかして導師フード！？なら欲しいな・・・
「ユファファちゃんに似合いそうじゃない？ていうかなんでも似合いそうだよｗｗｗ」
こ、このヒゲに不意打ちヘキサをぶち込んでやりたい・・・鳥肌が・・・
「あれも売り物なのかなぁ？」
あ、ヒゲスルーされてる。
「売り物なら僕が買ってあげたいんだけどね。そうだ、今度一緒に帽子屋を見に行かない？」
おっさんおっさん、それ貢ぐっていうんですよ！
「うん、楽しそうだね。そうだ！ヒゲが暇なら今から行かない？」
「お、いいね。行こうか！」
・・・貢ぎにいくのねヒゲオヤジ。あぁ・・・なんかいろいろと気分が悪くなるものを見た気分。
ひぃ！私の顔と声で手をつないで楽しげに歩かないで！！
少しまた嫌な気分になったけれど、気を取り直して・・・。
私もパールを取り出して口に近づける。
「リポケケさん、水の区で待ってますね。」
来るかな・・・？そう思った時、紫の光が目の前で歪みながら現れてそして歪みながら消えた。
「おまたせ〜。な〜に？リポケケさん、だなんてあらたまっちゃって〜」
よかった・・・きた・・・。
「えーとね、ちょっとリポケケと話したくなってね。」
「わ！偶然、私も丁度Yurifinaにお話したいことがあったんだよ〜！」
・・・Yurifina・・・自キャラの名前をものすごく久しぶりに聞いた気がする・・・。
考えてみたらモグタンは私のことを『ご主人様』としか呼ばないし。
「あのねあのね、レストランに新メニューだって！詳しい話はよく知らないんだけど一緒に食べに行かない？」
レストランには週刊魔法パラダイス記者もいるし人も集まるから最初から行くつもりだった。
特に断る理由もないので私は即OKと返事。それに、朝ごはん食べてないし
「よかった〜、あたし、レストランに一人で入るのって苦手だからずーっと困ってたんだ。
それじゃ、ちょっと遅い朝ごはんにしよ〜！」
シャントット先生の顔でにっこりと微笑むリポケケ。素直に、無垢に私になついてくれている彼女。
少し話しただけなのになんだかとても落ち着いてくる。
この、少し子供っぽいしゃべり方とかが妹に似ているからかな？
でも・・・この人は本当の私を知らない・・・。リポケケの知っている私はちょっと臼気味の元気印な
タルっコ白魔道士Yurifina。私だけど私じゃない・・・。私との接点は全く無い・・・。
それに、彼女は作り物の世界の作り物の人間。実在なんて・・・しない・・・
「ユーリーフィーナー！置いてくよ〜？」
その声でわれにかえる私。いけない！リポケケをほっといて考え込んじゃった・・・
「ごめんごめん、すぐ行くー！」
私は転ばないように注意しながら小走りで彼女に駆け寄った。
すぐ側まで私が来ると彼女は一人ぼっちになっていた私の手を取る。
その瞬間つないだ手から伝わる確かな体温が私に教えてくれた。リポケケは今目の前に実在している、と。
なぜか、また涙がこぼれそうになった。
「ね、リポケケ」
「な〜に？」
私はポツリとつぶやいた。
「しばらく甘えさせてね。」
「え？なんていったの？」
「ふふ、なんでもない」
2006年06月17日(土) 10:46:41 Modified by yurifina0108