Kiesel ◆nu123wJPbk ２５スレ目本編
113 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/08(土) 14:06:58.68 ID:tFWO/wgM
歌うような旋律が余韻を残すまま、奇妙な浮遊感に感覚が迷う。
しっかりと意識する頃には、私は乾いた大地を眺めていた。
遠くに見えるキリンは、ゆっくりと木の向こうへと歩いていく。不器用な仕草でそのそばを通るのは黒い毛皮をまとったヒト。
違う。あれはヒトだけどヒトじゃない。
時折立ち止まって巡らせるその顔は鳥のそれで、毛皮に見えたのは羽毛だ。
「ヤグード・・・」
獣人だ。初めて見た。
私の溜息を聞いたシオンが、わずかに眉を寄せる。
「放っておいても近寄ってはこない。力の差を理解するくらいはできる」
「・・・ん、うん」
私がそばに寄ったらどうなるんだろう。私にもある程度は力があるんだろうか。クロウジュポンの襟に軽く触れて思う。
確か、冒険者の着るものには力が込められていて、相応しいだけの力がないと、その力に負けてしまう。
力って何だろ。魔力？多分そんな感じのものだと思う。よく分かんないけど。
ということは、私はクロウ装備を着れるだけの力があることになる。そう言えばエラントも着れたっけ。
でも。魔法も使えないし合成もできない。WSやアビはどうだろう。使ったことがないから分からない。
もしいざ使わなければならなくなったら、使えるんだろうか。・・・本当に私は来訪者なんだろうか。
もしかしたら、異世界から来た人々の話をどこかで読んで、私はそれが自分だと信じているのかも知れない。
だって私が来訪者だと証明するものはない。
特殊な力も、特殊なアイテムも、リアルから持ち込んだものも。
114 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/08(土) 14:08:50.14 ID:tFWO/wgM
『リアル』。リアルにあってヴァナにないものを思い出せるだろうか。思い出せれば、それは私が来訪者である証拠になるだろうか。
そうとは限らない。だって、見たことはなくても知っている記憶なんていくらでもある。
「シオン」
チョコボの手綱を引きキーゼルが私を呼ぶ。
「チョコボには乗れますか？」
「コンシュで乗ったよ」
ひとりでじゃないし、むしろ相乗りって言うかそんな感じだったけど。
って、またチョコボに乗るの？
「・・・うへぇ」
初心者でも安心なチョコボに振り落とされた、コンシュの悪夢を思い出す。小さくて視界の邪魔にならないとか言われた気もするし。
うんざりと視線を動かすと、シオンたちはチョコガールのお姉さんと交渉している最中だった。
フィグが騎乗を拒否しているらしく、縄でくくって引きずっても安全か、なんて不穏な言葉が聞こえてきた。
「難しいなら、ガルカ用のチョコボに縛り付けておけばいいか」
「シオン、あなた何を言っているか分かっているんですか！？」
「たかがチョコボに乗るだけだろうが。カイ、サイレスとパライズをかけておけ。ミガイフォングは縄を」
「嫌ああああああああああああ！！！！」
うん・・・聞かなかったことにしよう。
て言うか、私も拒否したら実力行使に出られそうだ。だったらはじめからダメ元で乗る意志を見せて、乗れないほうがいい。
キーゼルが私のそばにチョコボを寄せて、興味深そうに私を見た。乗る勇気はあるか、そう問うかのように。
むぅ・・・やればいいんでしょ、やれば。
115 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/08(土) 14:15:13.96 ID:tFWO/wgM
チョコボの首筋を撫でてやり、それからためらう間を自分に与えず一息に乗る。
続く衝撃に警戒して息を呑むけれど、チョコボは私を乗せたまま大人しくキーゼルに手綱を引かれていた。
飛んでいく鳥やヤグードが吹く笛の音にわずかに首を動かすくらいで、暴れようとする意志は見えない。
うん・・・大丈夫。これは大丈夫だ。
「今度は乗れますね」
微笑み、キーゼルはふいと手綱を放してシオンたちのほうへ行ってしまう。ああ・・・本当にフィグが縄で縛り付けられて・・・
っと、手綱を持っていないと何かあったら大変だ。ちゃんとした乗馬なんてしたことないから、何かあっても何もできないけど。
いや・・・それってかなり問題だよな。もし本当に何かあったらどうするんだ？
あーいやあれだ、ここはいわゆる『体が覚えてる』ってやつだ。多分どうにかなるさ。こう見えて一応冒険者だし。多分。
結局。
最後まで拒否していたフィグは、ミガイフォングと同乗することで問題を回避した。っていうかさせられた。
チョコボにくくりつけられるよりはマシな選択だと思ったらしい。だけど、チョコボがちょっと動くだけでも大騒ぎだ。
「絶対！！絶対静かに走らせて！！」
「・・・あなたがまず静かにしてくれませんか？」
「やっ・・・揺れたあああ！？」
可哀想なのはどっちなのか、考えないことにした。・・・一番可哀想なのはチョコボか。
何も起きていないのに、すごく・・・賑やかです・・・
116 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/08(土) 14:20:44.12 ID:tFWO/wgM
意味もなく私がチョコボを歩かせていると、カイがとっとっとチョコボを操って来る。
さすがに慣れたものらしく、チョコボも騎手も動じることなく落ち着いたものだった。
そしてそのチョコボが私のそばまで来ると、・・・なんかすごいでかい気がするんですが気のせいですか？
「今度は、大人しく乗せてくれたんですね」
くすりと笑いながらの言葉に、私はふっと手綱を握って引く。チョコボは翼を広げ、ある仕草をして見せた。
見覚えのある、しかし見るはずのないそれにカイは眉をひそめて、それから少し心配そうに言う。
「早駆け・・・ウィンダスまで競争ですか？」
「うん」
短い応えにカイはそっと自分の唇に触れ、何かを考えるように視線をそらせる。
それからふとうつむき、次に顔をあげた。
「・・・分かりました、付き合います」
微笑み、手綱を握りなおす。
駆け出したのは、どちらが先とも言えない。
キーゼルとシオンが気付いて顔をあげるよりも早く、私とカイは互いのチョコボにタロンギの乾いた大地を蹴らせていた。
「気をつけて」
そんな言葉が聞こえた気もした。
130 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/09(日) 17:16:56.77 ID:lqOKvnnv
何か賭けますか？」
「何がいいかな？」
「そうだな・・・ぼくが勝ったら、何か話を」
「じゃあ、こっちはお菓子を作ってもらおうかな」
提案に、くすくす笑う。
「カザムパインのカスタードタルト？」
「それ、ずっと食べていないな」
「あれからいろいろ研究したんです。きっと気に入りますよ」
「じゃ、何としても勝たないとな」
言って、私はチョコボと一緒に崖の上から駆けおりた。
風になったようでとても気持ちがいい。ほんの少しの手綱のさばきでチョコボは思うとおりに動いてくれる。
なぜコンシュタットでは拒否されたのだろう。あのチョコボが特別だったんだろうか。それとも、このチョコボが？
考えるのは後にした。
その思考が、私のものかそれとも違う誰かのものかが分からなくなっていたから。
久しぶりにチョコボに乗って駆ける感覚を楽しんでいるのは、私じゃない。
カザムパインの甘酸っぱい味を思い出しているのは私じゃない。
それは私の記憶じゃない。
なのに私は、はっきりとそれを覚えていた。
131 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/09(日) 17:21:41.43 ID:lqOKvnnv
どこのチョコボも、自分の戻るべき場所を知っている。
デムの岩まで駆けていくチョコボを見送り、私とカイは何も言わずに立ち尽くしていた。
キーゼルたちはまだ来ない。多分、フィグに手こずっているんだろう。
ゲートの前に立つミスラが時々こちらを気にしていたけれど、それでも、私とカイは立ち尽くしていた。
「キーゼルさん」
不意に私を呼ぶ。
「あなたは、誰なんですか？」
その問いに、私は応えなかった。私にだって分かるはずがない。応えがないと知りながら、カイは私に問う。
「来訪者って、何なんですか？・・・ぼくは、誰なんですか？」
泣きそうに震える声。その理由を私は知っている。自分を見失う恐怖。
私はチョコボが駆けていった果てを見つめて、それから応えた。
「私は私。来訪者は、ここじゃない場所から来た人。あなたは、」
カイ。そう言えば、シオンはなぜカイにこだわるんだろう。何か特別な理由があるんだろうか。
バストゥークのミスラの赤魔道士と、ウィンダスのエルヴァーンの白魔道士。
「ぼくは・・・誰なんだろう」
ぽつりと。
ようやく視線を逸らし顔をあげると、カイは途方に暮れた迷子のように、虚ろな瞳で遠くを見ていた。
「ぼくは、サンドリアに生まれて、兄様たちと一緒に育って、キーゼルさんやカイン兄様、ケイン兄様と一緒に騎士団の仕事をして・・・
でも、違う・・・違うの、だって、兄なんていない。うちは姉貴と弟がいて、そうだよ、私たちは姉弟でやってるんだ・・・」
132 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Kiesel":Katana◎,Chakra,Kugutsu●] 投稿日： 2007/09/09(日) 17:36:19.68 ID:lqOKvnnv
一瞬。
音もなく波が打ち寄せるように、存在しない色彩が満ちていく幻視。
「『欠片』なら、主を守れ。奴らはまだ知らない」
「欠片・・・？」
「来訪者の『欠片』」
では、彼の主とは？
「そばにいるじゃないか」
言うと、戸惑う彼の瞳にある感情が浮かんだ。黒にも似た茶の瞳は、まっすぐに見つめる。
その瞳に映る俺は、・・・ああ、そうか。あいつと同じ表情をしている。悪い癖だ。
「・・・主って、」
「カイ？」
柔らかな声が名を呼んだ。
反射的にそちらを見る彼の瞳はどこか頼りない空の青で、俺はふっと息を吐く。
「フィグ・・・大丈夫だった？」
「大丈夫も何も！！二度とチョコボには乗りません！！」
拳を握りしめて力説する彼女の後ろで、ぐったりと倒れ込むミガイフォングと彼をいたわるキーゼルとシオンが見えた。
南無・・・
歌うような旋律が余韻を残すまま、奇妙な浮遊感に感覚が迷う。
しっかりと意識する頃には、私は乾いた大地を眺めていた。
遠くに見えるキリンは、ゆっくりと木の向こうへと歩いていく。不器用な仕草でそのそばを通るのは黒い毛皮をまとったヒト。
違う。あれはヒトだけどヒトじゃない。
時折立ち止まって巡らせるその顔は鳥のそれで、毛皮に見えたのは羽毛だ。
「ヤグード・・・」
獣人だ。初めて見た。
私の溜息を聞いたシオンが、わずかに眉を寄せる。
「放っておいても近寄ってはこない。力の差を理解するくらいはできる」
「・・・ん、うん」
私がそばに寄ったらどうなるんだろう。私にもある程度は力があるんだろうか。クロウジュポンの襟に軽く触れて思う。
確か、冒険者の着るものには力が込められていて、相応しいだけの力がないと、その力に負けてしまう。
力って何だろ。魔力？多分そんな感じのものだと思う。よく分かんないけど。
ということは、私はクロウ装備を着れるだけの力があることになる。そう言えばエラントも着れたっけ。
でも。魔法も使えないし合成もできない。WSやアビはどうだろう。使ったことがないから分からない。
もしいざ使わなければならなくなったら、使えるんだろうか。・・・本当に私は来訪者なんだろうか。
もしかしたら、異世界から来た人々の話をどこかで読んで、私はそれが自分だと信じているのかも知れない。
だって私が来訪者だと証明するものはない。
特殊な力も、特殊なアイテムも、リアルから持ち込んだものも。
114 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/08(土) 14:08:50.14 ID:tFWO/wgM
『リアル』。リアルにあってヴァナにないものを思い出せるだろうか。思い出せれば、それは私が来訪者である証拠になるだろうか。
そうとは限らない。だって、見たことはなくても知っている記憶なんていくらでもある。
「シオン」
チョコボの手綱を引きキーゼルが私を呼ぶ。
「チョコボには乗れますか？」
「コンシュで乗ったよ」
ひとりでじゃないし、むしろ相乗りって言うかそんな感じだったけど。
って、またチョコボに乗るの？
「・・・うへぇ」
初心者でも安心なチョコボに振り落とされた、コンシュの悪夢を思い出す。小さくて視界の邪魔にならないとか言われた気もするし。
うんざりと視線を動かすと、シオンたちはチョコガールのお姉さんと交渉している最中だった。
フィグが騎乗を拒否しているらしく、縄でくくって引きずっても安全か、なんて不穏な言葉が聞こえてきた。
「難しいなら、ガルカ用のチョコボに縛り付けておけばいいか」
「シオン、あなた何を言っているか分かっているんですか！？」
「たかがチョコボに乗るだけだろうが。カイ、サイレスとパライズをかけておけ。ミガイフォングは縄を」
「嫌ああああああああああああ！！！！」
うん・・・聞かなかったことにしよう。
て言うか、私も拒否したら実力行使に出られそうだ。だったらはじめからダメ元で乗る意志を見せて、乗れないほうがいい。
キーゼルが私のそばにチョコボを寄せて、興味深そうに私を見た。乗る勇気はあるか、そう問うかのように。
むぅ・・・やればいいんでしょ、やれば。
115 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/08(土) 14:15:13.96 ID:tFWO/wgM
チョコボの首筋を撫でてやり、それからためらう間を自分に与えず一息に乗る。
続く衝撃に警戒して息を呑むけれど、チョコボは私を乗せたまま大人しくキーゼルに手綱を引かれていた。
飛んでいく鳥やヤグードが吹く笛の音にわずかに首を動かすくらいで、暴れようとする意志は見えない。
うん・・・大丈夫。これは大丈夫だ。
「今度は乗れますね」
微笑み、キーゼルはふいと手綱を放してシオンたちのほうへ行ってしまう。ああ・・・本当にフィグが縄で縛り付けられて・・・
っと、手綱を持っていないと何かあったら大変だ。ちゃんとした乗馬なんてしたことないから、何かあっても何もできないけど。
いや・・・それってかなり問題だよな。もし本当に何かあったらどうするんだ？
あーいやあれだ、ここはいわゆる『体が覚えてる』ってやつだ。多分どうにかなるさ。こう見えて一応冒険者だし。多分。
結局。
最後まで拒否していたフィグは、ミガイフォングと同乗することで問題を回避した。っていうかさせられた。
チョコボにくくりつけられるよりはマシな選択だと思ったらしい。だけど、チョコボがちょっと動くだけでも大騒ぎだ。
「絶対！！絶対静かに走らせて！！」
「・・・あなたがまず静かにしてくれませんか？」
「やっ・・・揺れたあああ！？」
可哀想なのはどっちなのか、考えないことにした。・・・一番可哀想なのはチョコボか。
何も起きていないのに、すごく・・・賑やかです・・・
116 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/08(土) 14:20:44.12 ID:tFWO/wgM
意味もなく私がチョコボを歩かせていると、カイがとっとっとチョコボを操って来る。
さすがに慣れたものらしく、チョコボも騎手も動じることなく落ち着いたものだった。
そしてそのチョコボが私のそばまで来ると、・・・なんかすごいでかい気がするんですが気のせいですか？
「今度は、大人しく乗せてくれたんですね」
くすりと笑いながらの言葉に、私はふっと手綱を握って引く。チョコボは翼を広げ、ある仕草をして見せた。
見覚えのある、しかし見るはずのないそれにカイは眉をひそめて、それから少し心配そうに言う。
「早駆け・・・ウィンダスまで競争ですか？」
「うん」
短い応えにカイはそっと自分の唇に触れ、何かを考えるように視線をそらせる。
それからふとうつむき、次に顔をあげた。
「・・・分かりました、付き合います」
微笑み、手綱を握りなおす。
駆け出したのは、どちらが先とも言えない。
キーゼルとシオンが気付いて顔をあげるよりも早く、私とカイは互いのチョコボにタロンギの乾いた大地を蹴らせていた。
「気をつけて」
そんな言葉が聞こえた気もした。
130 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/09(日) 17:16:56.77 ID:lqOKvnnv
何か賭けますか？」
「何がいいかな？」
「そうだな・・・ぼくが勝ったら、何か話を」
「じゃあ、こっちはお菓子を作ってもらおうかな」
提案に、くすくす笑う。
「カザムパインのカスタードタルト？」
「それ、ずっと食べていないな」
「あれからいろいろ研究したんです。きっと気に入りますよ」
「じゃ、何としても勝たないとな」
言って、私はチョコボと一緒に崖の上から駆けおりた。
風になったようでとても気持ちがいい。ほんの少しの手綱のさばきでチョコボは思うとおりに動いてくれる。
なぜコンシュタットでは拒否されたのだろう。あのチョコボが特別だったんだろうか。それとも、このチョコボが？
考えるのは後にした。
その思考が、私のものかそれとも違う誰かのものかが分からなくなっていたから。
久しぶりにチョコボに乗って駆ける感覚を楽しんでいるのは、私じゃない。
カザムパインの甘酸っぱい味を思い出しているのは私じゃない。
それは私の記憶じゃない。
なのに私は、はっきりとそれを覚えていた。
131 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Me":Manikin◎,Vasara,Hiruko●] 投稿日： 2007/09/09(日) 17:21:41.43 ID:lqOKvnnv
どこのチョコボも、自分の戻るべき場所を知っている。
デムの岩まで駆けていくチョコボを見送り、私とカイは何も言わずに立ち尽くしていた。
キーゼルたちはまだ来ない。多分、フィグに手こずっているんだろう。
ゲートの前に立つミスラが時々こちらを気にしていたけれど、それでも、私とカイは立ち尽くしていた。
「キーゼルさん」
不意に私を呼ぶ。
「あなたは、誰なんですか？」
その問いに、私は応えなかった。私にだって分かるはずがない。応えがないと知りながら、カイは私に問う。
「来訪者って、何なんですか？・・・ぼくは、誰なんですか？」
泣きそうに震える声。その理由を私は知っている。自分を見失う恐怖。
私はチョコボが駆けていった果てを見つめて、それから応えた。
「私は私。来訪者は、ここじゃない場所から来た人。あなたは、」
カイ。そう言えば、シオンはなぜカイにこだわるんだろう。何か特別な理由があるんだろうか。
バストゥークのミスラの赤魔道士と、ウィンダスのエルヴァーンの白魔道士。
「ぼくは・・・誰なんだろう」
ぽつりと。
ようやく視線を逸らし顔をあげると、カイは途方に暮れた迷子のように、虚ろな瞳で遠くを見ていた。
「ぼくは、サンドリアに生まれて、兄様たちと一緒に育って、キーゼルさんやカイン兄様、ケイン兄様と一緒に騎士団の仕事をして・・・
でも、違う・・・違うの、だって、兄なんていない。うちは姉貴と弟がいて、そうだよ、私たちは姉弟でやってるんだ・・・」
132 名前： Kiesel ◆nu123wJPbk ["Kiesel":Katana◎,Chakra,Kugutsu●] 投稿日： 2007/09/09(日) 17:36:19.68 ID:lqOKvnnv
一瞬。
音もなく波が打ち寄せるように、存在しない色彩が満ちていく幻視。
「『欠片』なら、主を守れ。奴らはまだ知らない」
「欠片・・・？」
「来訪者の『欠片』」
では、彼の主とは？
「そばにいるじゃないか」
言うと、戸惑う彼の瞳にある感情が浮かんだ。黒にも似た茶の瞳は、まっすぐに見つめる。
その瞳に映る俺は、・・・ああ、そうか。あいつと同じ表情をしている。悪い癖だ。
「・・・主って、」
「カイ？」
柔らかな声が名を呼んだ。
反射的にそちらを見る彼の瞳はどこか頼りない空の青で、俺はふっと息を吐く。
「フィグ・・・大丈夫だった？」
「大丈夫も何も！！二度とチョコボには乗りません！！」
拳を握りしめて力説する彼女の後ろで、ぐったりと倒れ込むミガイフォングと彼をいたわるキーゼルとシオンが見えた。
南無・・・
2007年09月15日(土) 14:15:53 Modified by ID:RYJjn8iKHg