Kiesel ◆nu123wJPbk ２８．５スレ目保守
ほんの気まぐれで始めた保守用の、あの兄弟の話です。
メ欄はその時々のツッコミとかだったり。
投下する際、トリとコテははずしています。
79 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/01/15(火) 04:40:19.98 ID:vmZowTAR
ふと目が覚める。
何か悪い夢を見た気がする。けれど、覚えてなどいない。
時計に目をやれば、まだ日が昇るにも時間があった。
さて、どうしたものか。思いつつ、何となく、枕元に置いていた本を取り上げた。
眠りを妨げず、しかし緊急時には素早く動ける程度に灯されたランプの灯りにうっすらと読み取れるタイトルは、
もうシリーズだったか単発タイトルだったかも忘れてしまった。
思い出せるのは、見せ場となるはずの要所要所で屁理屈のように小難しい化学式や物理法則をだらだらと語り続ける、
極めて空気の読めない主人公にうんざりしたこと。
なのになぜか手放せず、まるで護身符か何かのようにことあるごとに持ち歩いていた。
ぱらぱらとページをめくり、挿し絵を眺める。主人公の華奢な男や、華奢でなくとも細身の女が描かれている。
どう見ても、真っ当に戦うなどできまい。だが、これが流行りの登場人物だった。
萌えだの何だのには興味はなかった。エロスも不要。彼の好む、巧妙に仕組まれた世界観を期待して買ったのだが、
読み終えるには意地と根性、それと少しの忍耐力が必要だった。
けれど皮肉なことに、意地と根性だけで読みきったこの本が、彼と『向こう』を繋げている。
もう、本当の名前も忘れてしまった。ヴァナ・ディールで生きる『自分』の名前しか分からない。
なのにまだ、ほとんど覚えていないあの場所を求めている。
いつか戻れるのだろうか。戻れたとして、これまでと同じように暮らせるだろうか。
考えてもせんのないことをぼんやりと考え、本を閉じて思考を切る。
目を閉じて、眠って。また目を覚ませば、朝になる。夜は無粋なことを考えがちだ。
彼が『こちら』に来たのは、その眠って起きた朝のことだったと知らず、再び短い眠りについた。
181 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/01/23(水) 04:04:58.70 ID:KnkTa+T3
きゅ、と。白墨で『1000』の文字が黒板に記される。
そう言えば黒くないのに黒板と言うな。などと考えながら、教諭の言葉をぼんやりと聞いた。
「この1000という数字は、一見何の変哲もない数字に見える。しかし、実際には非常に難しい数字であることを、諸君は知らねばならない。
1000とは100の集合体であり10の集合体であり1の集合体である。100とは10の集合体であり1の集合体である。10とは1の集合体である」
もう訳が分からない。数学とは美学だと教わったが、分からないものは分かるはずがない。
ほとんどの学生が同じことを考えているらしく、多くが真面目に授業を受ける振りと見受けられた。
「しかし、この1そのものが上質でなければ、いかに1を10000集めようとも、10には到底及ばない。
そのために、我々はよりよき1たらんとするのである」
日本語でおｋ。
「そりゃあ要するに、『量より質』って言いたいんだろ」
彼のとっていた授業録のノートをめくりながら、銀髪の騎士がたった一言でまとめた。
「いくら『上質な1』を集めたって、ぶっちゃけ1がいくつあっても1は1なんだけどな。
それに数学的な考えと物理的な考えは違う。理屈と実戦が違うように」
ノートを机に放り投げ、
「タルタルは小さく非力だ。しかし、だからと言ってガルカに勝てないだろうか？」
「腕力では勝てなくとも、魔法戦に持ち込めば有利になると思います」
「然り。しかし、魔法戦において常にタルタルが勝つとも限らない。理屈と実戦の違いだな」
まあ、確かに1000に到達するのは難しいけどな。などと言いながら、銀髪の騎士は笑みを金髪の少年に向けた。
238 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/01/28(月) 16:04:26.30 ID:aGAvq67y
冒険者たちが決して万能ではないのは、システム側から制御された結果である。
彼らは本来いくつものジョブを使いこなし、いくつものアビリティを使いこなせる存在だ。
しかしそれは、現実には不可能である。ジョブはメイン・サポートの２種のみ、アビリティもそれに準じる。
そのシステムの制御から外れた存在こそが、本来の冒険者の姿ではないのか。
「そんな奴らがそうそういても困るわけだが」
「まあね」
書類を手に銀髪の騎士が言うと、金髪の友人はへらへら笑う。
「理屈上の話だからね。やろうと思えば、武器とか防具にアビリティや魔法を乗せることだって不可能じゃないでしょ」
「あー、エン系みたいにな。考えてみりゃあれもすごいよな、普通木製品とか燃えるんじゃね？」
「魔法の効果を武器に付与してるわけだしねぇ」
「リレ装備とかもよく分からんよな。つかむしろエンチャント装備の理屈が分からん」
「そこはほら、クリスタルの力ってことで」
「ほー、つまり手で作れないようなもんでもクリスタル合成なら不可能はないってことか」
「そうそう。だってさ、いくらなんでも鎧とかゴゴゴゴシュパーンで作れるわけないじゃん」
「すげー、クリスタル最強」
「でしょでしょ」
「・・・んなわけあるかっ！」
367 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/02/04(月) 20:53:55.25 ID:7KafVGC+
「米が食いたい」
ポツリとこぼした。
「は？」
「毎日毎食パンで飽きた。米が食いたい」
白パンを手持ち無沙汰に小さく千切っている黒髪の兄弟に、「お前何年この生活やってんだ」と言いそうになった。
が、ここはぐっと耐えて、モーグリにタルタルライスとアルザビライスを持ってくるように指示を出す。
その量、およそ５Ｄ。ちょっとしたどころではない量だ。
「米だ。食え」
「・・・生米を食えと言うのか」
「米が食いたいって言ったのは誰だ？」
シチューにパンを浸しながらの銀髪の兄弟の言葉に、黒髪の彼はぐぅ、と唸る。
ちなみに彼の料理スキルは素人以下だ。彼が得意とするのは、意外にも彫金だったりする。
しばらく生米の山を睨み付け、それから小さなリンクパールを取り出そうとするのを兄弟に羽交い絞めにされた。
「人に頼んでまでして米が食いたいかッ！！」
「馬鹿を言うな、食事は大勢のほうがいいだろう」
「馬鹿言ってんのはてめぇだろうが！！」
で、結局呼ばれた友人たちの手によって、その米はおにぎりとピラフになったとか何とか。
459 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/02/10(日) 21:36:44.31 ID:oxE8pktC
「ウィンダス産のいい葉っぱが入ってますよ」
そう言われて、買ってみた。
ほんのりと甘みのある香りが鼻腔をくすぐる。うん、確かにこれは上質。
だが。
「・・・いいんだが、普通に茶だな」
カップに口を付けながら唸る。
黒髪の兄弟はたっぷりとメープルシュガーをカップに落とし、
「お茶のなにが悪い」
「・・・いや、悪いとは言ってないだろ」
『いい葉っぱ』と言うから、変に期待してしまった。よく考えれば、煙草なんて軽々しく手に入るものではない。
まあ、嗜好品は得てして高級になりがちなものだが。
とは言え、やはり口寂しい。またノーグに『出張』しに行くか・・・
「煙草は駄目だ。体に悪い」
「へいへい」
やはりたっぷりとミルクをカップに注ぐ兄弟を見ながら、銀髪の彼は何となく腰に手をやる。
ちょうどその位置にある隠しには、オイルが切れて久しいライターが入っていた。
527 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/02/16(土) 21:03:53.23 ID:ssj9H1N2
バストゥークは苦手だ。
「パンが硬い・・・」
サンドリアの白パンに慣れていると、バストゥークの黒パンは食べる気が起きない。
黒パンですらそうなのだから、硬く焼きしめられたアイアンパンなどはもってのほかだ。
が、しかし、今はわがままを言えないので、せめて硬い外側をがりがりとナイフで削り取り、卵のスープにひたして柔らかくする。
ガルカってやつは、どうしてこう無骨なものを好むのだろう。つーかかてぇよ。
文句は尽きることがないのだが、あまり繰り返しても周囲の不況を買うのも得策ではない。
いかにも余所者だと言わんばかりの行動を取るのも、ある意味では彼の考えどおりだった。
鉱山労働者の屈強なガルカたちに混じる、背丈はあるが決して屈強ではないエルヴァーンの彼は、食堂でよく目立つ。
故に彼の待ち人も、山のような大男たちの中から容易に彼を見つけ出してみせた。
「サンドリアの騎士殿が、こんなところで食事を？」
「麗しい女性との待ち合わせには向いてなかったかな｣
「うまくもないお世辞だわ」
黒髪を結い上げたヒュームの女性の言葉に、彼は肩をすくめてみせた。そして、相手を待たせつつも目の前の食事を平らげる。
中座するのは、食事に対して失礼である。美味いかと訊かれれば、決して美味くはない。が、まあ、これも仕事のうちだ。
それに敵対心は、必要以上に集めてはいけない。いらないところで敵を増やすのも面白くない。
「あなたがひとりでバストゥークに来るなんて珍しいわね。用事があるなら領事館経由でもよかったんじゃない？」
領事館へ向かう途中に言われ、彼は銀髪をかき回す。歩くたびに目の前で揺れる黒髪は、誰かを思い出させた。
「苦手だとか嫌いだとか、そんな理由で遠ざけるのは嫌なんだ。こう見えて博愛主義でね」
あらそう、と、短く応えが返ってきた。
581 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/02/22(金) 14:24:41.38 ID:QSgLDanz
「ひなまつり？」
金髪の友人の唐突な言葉に手をとめる。
彼はちっちっち、と指を振り、
「なんかね、MHAUが何かをポストに送ってくるんだってさ」
「何かって何だよ。それにNHAUって？」
「違うよ、MNAU・・・あれ？」
そんな感じの名前だった気がするけど細かいことは気にしない。
「家具を送ってくるから楽しみにしてろってさ」
「家具ねぇ・・・」
ここしばらく、イベントで配布された家具はなかなか有用なものが多かった。今回も少しは期待してみようか。
「で、いつから配布だって？」
「えーと、確か昨日の夕方からかな」
「・・・昨日？」
昨晩も今朝もポストをチェックした。モーグリも何も言ってこなかった。
まさかまた、何か不手際があったのだろうか。不安を抱き友人を見ると、彼もまた肩をすくめて見せた。
「お察しの通り」
「・・・あーあ」
まあ、そのうち届くだろう。そもそもモーグリたちのイベントに人並みの期待をすること自体が間違っている。
「しかし、もう春も近いんだなぁ・・・」
ぽつりと呟き、ふと窓の外へ視線を投げた。
メ欄はその時々のツッコミとかだったり。
投下する際、トリとコテははずしています。
79 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/01/15(火) 04:40:19.98 ID:vmZowTAR
ふと目が覚める。
何か悪い夢を見た気がする。けれど、覚えてなどいない。
時計に目をやれば、まだ日が昇るにも時間があった。
さて、どうしたものか。思いつつ、何となく、枕元に置いていた本を取り上げた。
眠りを妨げず、しかし緊急時には素早く動ける程度に灯されたランプの灯りにうっすらと読み取れるタイトルは、
もうシリーズだったか単発タイトルだったかも忘れてしまった。
思い出せるのは、見せ場となるはずの要所要所で屁理屈のように小難しい化学式や物理法則をだらだらと語り続ける、
極めて空気の読めない主人公にうんざりしたこと。
なのになぜか手放せず、まるで護身符か何かのようにことあるごとに持ち歩いていた。
ぱらぱらとページをめくり、挿し絵を眺める。主人公の華奢な男や、華奢でなくとも細身の女が描かれている。
どう見ても、真っ当に戦うなどできまい。だが、これが流行りの登場人物だった。
萌えだの何だのには興味はなかった。エロスも不要。彼の好む、巧妙に仕組まれた世界観を期待して買ったのだが、
読み終えるには意地と根性、それと少しの忍耐力が必要だった。
けれど皮肉なことに、意地と根性だけで読みきったこの本が、彼と『向こう』を繋げている。
もう、本当の名前も忘れてしまった。ヴァナ・ディールで生きる『自分』の名前しか分からない。
なのにまだ、ほとんど覚えていないあの場所を求めている。
いつか戻れるのだろうか。戻れたとして、これまでと同じように暮らせるだろうか。
考えてもせんのないことをぼんやりと考え、本を閉じて思考を切る。
目を閉じて、眠って。また目を覚ませば、朝になる。夜は無粋なことを考えがちだ。
彼が『こちら』に来たのは、その眠って起きた朝のことだったと知らず、再び短い眠りについた。
181 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/01/23(水) 04:04:58.70 ID:KnkTa+T3
きゅ、と。白墨で『1000』の文字が黒板に記される。
そう言えば黒くないのに黒板と言うな。などと考えながら、教諭の言葉をぼんやりと聞いた。
「この1000という数字は、一見何の変哲もない数字に見える。しかし、実際には非常に難しい数字であることを、諸君は知らねばならない。
1000とは100の集合体であり10の集合体であり1の集合体である。100とは10の集合体であり1の集合体である。10とは1の集合体である」
もう訳が分からない。数学とは美学だと教わったが、分からないものは分かるはずがない。
ほとんどの学生が同じことを考えているらしく、多くが真面目に授業を受ける振りと見受けられた。
「しかし、この1そのものが上質でなければ、いかに1を10000集めようとも、10には到底及ばない。
そのために、我々はよりよき1たらんとするのである」
日本語でおｋ。
「そりゃあ要するに、『量より質』って言いたいんだろ」
彼のとっていた授業録のノートをめくりながら、銀髪の騎士がたった一言でまとめた。
「いくら『上質な1』を集めたって、ぶっちゃけ1がいくつあっても1は1なんだけどな。
それに数学的な考えと物理的な考えは違う。理屈と実戦が違うように」
ノートを机に放り投げ、
「タルタルは小さく非力だ。しかし、だからと言ってガルカに勝てないだろうか？」
「腕力では勝てなくとも、魔法戦に持ち込めば有利になると思います」
「然り。しかし、魔法戦において常にタルタルが勝つとも限らない。理屈と実戦の違いだな」
まあ、確かに1000に到達するのは難しいけどな。などと言いながら、銀髪の騎士は笑みを金髪の少年に向けた。
238 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/01/28(月) 16:04:26.30 ID:aGAvq67y
冒険者たちが決して万能ではないのは、システム側から制御された結果である。
彼らは本来いくつものジョブを使いこなし、いくつものアビリティを使いこなせる存在だ。
しかしそれは、現実には不可能である。ジョブはメイン・サポートの２種のみ、アビリティもそれに準じる。
そのシステムの制御から外れた存在こそが、本来の冒険者の姿ではないのか。
「そんな奴らがそうそういても困るわけだが」
「まあね」
書類を手に銀髪の騎士が言うと、金髪の友人はへらへら笑う。
「理屈上の話だからね。やろうと思えば、武器とか防具にアビリティや魔法を乗せることだって不可能じゃないでしょ」
「あー、エン系みたいにな。考えてみりゃあれもすごいよな、普通木製品とか燃えるんじゃね？」
「魔法の効果を武器に付与してるわけだしねぇ」
「リレ装備とかもよく分からんよな。つかむしろエンチャント装備の理屈が分からん」
「そこはほら、クリスタルの力ってことで」
「ほー、つまり手で作れないようなもんでもクリスタル合成なら不可能はないってことか」
「そうそう。だってさ、いくらなんでも鎧とかゴゴゴゴシュパーンで作れるわけないじゃん」
「すげー、クリスタル最強」
「でしょでしょ」
「・・・んなわけあるかっ！」
367 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/02/04(月) 20:53:55.25 ID:7KafVGC+
「米が食いたい」
ポツリとこぼした。
「は？」
「毎日毎食パンで飽きた。米が食いたい」
白パンを手持ち無沙汰に小さく千切っている黒髪の兄弟に、「お前何年この生活やってんだ」と言いそうになった。
が、ここはぐっと耐えて、モーグリにタルタルライスとアルザビライスを持ってくるように指示を出す。
その量、およそ５Ｄ。ちょっとしたどころではない量だ。
「米だ。食え」
「・・・生米を食えと言うのか」
「米が食いたいって言ったのは誰だ？」
シチューにパンを浸しながらの銀髪の兄弟の言葉に、黒髪の彼はぐぅ、と唸る。
ちなみに彼の料理スキルは素人以下だ。彼が得意とするのは、意外にも彫金だったりする。
しばらく生米の山を睨み付け、それから小さなリンクパールを取り出そうとするのを兄弟に羽交い絞めにされた。
「人に頼んでまでして米が食いたいかッ！！」
「馬鹿を言うな、食事は大勢のほうがいいだろう」
「馬鹿言ってんのはてめぇだろうが！！」
で、結局呼ばれた友人たちの手によって、その米はおにぎりとピラフになったとか何とか。
459 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/02/10(日) 21:36:44.31 ID:oxE8pktC
「ウィンダス産のいい葉っぱが入ってますよ」
そう言われて、買ってみた。
ほんのりと甘みのある香りが鼻腔をくすぐる。うん、確かにこれは上質。
だが。
「・・・いいんだが、普通に茶だな」
カップに口を付けながら唸る。
黒髪の兄弟はたっぷりとメープルシュガーをカップに落とし、
「お茶のなにが悪い」
「・・・いや、悪いとは言ってないだろ」
『いい葉っぱ』と言うから、変に期待してしまった。よく考えれば、煙草なんて軽々しく手に入るものではない。
まあ、嗜好品は得てして高級になりがちなものだが。
とは言え、やはり口寂しい。またノーグに『出張』しに行くか・・・
「煙草は駄目だ。体に悪い」
「へいへい」
やはりたっぷりとミルクをカップに注ぐ兄弟を見ながら、銀髪の彼は何となく腰に手をやる。
ちょうどその位置にある隠しには、オイルが切れて久しいライターが入っていた。
527 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/02/16(土) 21:03:53.23 ID:ssj9H1N2
バストゥークは苦手だ。
「パンが硬い・・・」
サンドリアの白パンに慣れていると、バストゥークの黒パンは食べる気が起きない。
黒パンですらそうなのだから、硬く焼きしめられたアイアンパンなどはもってのほかだ。
が、しかし、今はわがままを言えないので、せめて硬い外側をがりがりとナイフで削り取り、卵のスープにひたして柔らかくする。
ガルカってやつは、どうしてこう無骨なものを好むのだろう。つーかかてぇよ。
文句は尽きることがないのだが、あまり繰り返しても周囲の不況を買うのも得策ではない。
いかにも余所者だと言わんばかりの行動を取るのも、ある意味では彼の考えどおりだった。
鉱山労働者の屈強なガルカたちに混じる、背丈はあるが決して屈強ではないエルヴァーンの彼は、食堂でよく目立つ。
故に彼の待ち人も、山のような大男たちの中から容易に彼を見つけ出してみせた。
「サンドリアの騎士殿が、こんなところで食事を？」
「麗しい女性との待ち合わせには向いてなかったかな｣
「うまくもないお世辞だわ」
黒髪を結い上げたヒュームの女性の言葉に、彼は肩をすくめてみせた。そして、相手を待たせつつも目の前の食事を平らげる。
中座するのは、食事に対して失礼である。美味いかと訊かれれば、決して美味くはない。が、まあ、これも仕事のうちだ。
それに敵対心は、必要以上に集めてはいけない。いらないところで敵を増やすのも面白くない。
「あなたがひとりでバストゥークに来るなんて珍しいわね。用事があるなら領事館経由でもよかったんじゃない？」
領事館へ向かう途中に言われ、彼は銀髪をかき回す。歩くたびに目の前で揺れる黒髪は、誰かを思い出させた。
「苦手だとか嫌いだとか、そんな理由で遠ざけるのは嫌なんだ。こう見えて博愛主義でね」
あらそう、と、短く応えが返ってきた。
581 名前： 既にその名前は使われています 投稿日： 2008/02/22(金) 14:24:41.38 ID:QSgLDanz
「ひなまつり？」
金髪の友人の唐突な言葉に手をとめる。
彼はちっちっち、と指を振り、
「なんかね、MHAUが何かをポストに送ってくるんだってさ」
「何かって何だよ。それにNHAUって？」
「違うよ、MNAU・・・あれ？」
そんな感じの名前だった気がするけど細かいことは気にしない。
「家具を送ってくるから楽しみにしてろってさ」
「家具ねぇ・・・」
ここしばらく、イベントで配布された家具はなかなか有用なものが多かった。今回も少しは期待してみようか。
「で、いつから配布だって？」
「えーと、確か昨日の夕方からかな」
「・・・昨日？」
昨晩も今朝もポストをチェックした。モーグリも何も言ってこなかった。
まさかまた、何か不手際があったのだろうか。不安を抱き友人を見ると、彼もまた肩をすくめて見せた。
「お察しの通り」
「・・・あーあ」
まあ、そのうち届くだろう。そもそもモーグリたちのイベントに人並みの期待をすること自体が間違っている。
「しかし、もう春も近いんだなぁ・・・」
ぽつりと呟き、ふと窓の外へ視線を投げた。
2008年03月29日(土) 13:56:07 Modified by feathery_snow