Lead_161 ◆zmxSLEadCU 第05話02
「･･･っ！」
アルドが小さく悲鳴をあげた。
「ダメ･･･っ･･･あっ」
逃げようとして左右に暴れるのを、俺は無理矢理、力でねじ伏せようとした。
緊張と興奮で、手に汗をかいている。
「おとなしくするなら、乱暴にはしない」
そう言いつつも、俺の腕にはさらに力がこもった。
「そんな･･･言ってるコトとちが･･･っ！ あ･･･ダメ･･･ダメだよ･･･っ！」
バキン！
釣り竿が折れた。これで２本目だ。
とられた釣り餌は、軽く３ダースを超える。
「やっぱり、俺には無理だ」
俺は深いため息をついた。リアルでも船釣りなんて経験はない。
「力じゃなくて、タイミングだよ。竿の動きを、魚に合わせるの」
なかなか、師匠は厳しい。
アルドの足元に置いた桶には、もう何匹も魚が泳いでいた。俺のほうは、言うまでもない。
「最初からでっかい一本釣りの竿だもん。初心者用の竿、選んであげる」
あぁ･･･金が飛んでいく･･･。
俺とアルドは、午後の日差しが照らす甲板で釣りを楽しんだ。
いや、あいかわらず俺は四苦八苦していたが、なんとなくコツが掴めてきた気がする。
マウラでの夕食には、自分で釣ったうまい魚を食べてやろう･･･。
そんな目論見とはうらはらに、俺が３本目の竿と４ダース目の釣餌を浪費した頃。
それまで明るかった青空が、急に暗く曇りだした。
「雨、降るのかな？」
空を見上げたアルド。さらさらの金髪を、生暖かい風が揺らす。
「海の天気は変わりやすいのかもしれないな」
俺は竿をしまいこんだ。
これから大漁になるはずだったのに、残念だ。
「おやつ食べよ？ ぼく、クッキー持ってるんだ」
他の釣り人たちは、まだ釣りを続けるようで、甲板から動く気配はない。
俺たちは船釣りをちょっと楽しもう、と思っただけの人間だ。
雨に濡れても仕方がない。
俺たちは荷物が置いてある船倉に降りて、おやつを食べることにした。
アルドが帆布鞄からクッキーの包みを取り出す。
シナモンのいい香りが、俺の鼻をくすぐった。
「うまそうだね」
クッキーなんてリアルでもふだん食べないものだから、余計においしそうに見える。
「ママの手作りなんだ。すごくおいしいんだよ」
自慢げに言いながら、アルドは鞄をごそごそやっている。
「ちょっと待ってね。お茶淹れるね」
取り出したのは、お茶セットと蒸留水のボトル、小指の先くらいの緋色のクリスタル。
アルドは目の前にボトルを置くと、クリスタルを両手に包み込んだ。
祈るように、目を閉じる。
コポッ･･･コポポッ･･･。
目の前で、ボトルの水が沸騰した。
俺は目を見張った。
これが、ヴァナの世界か。
子供でも、クリスタルの力を引き出す方法を身につけている･･･。
甘いシナモンクッキーと不思議な風味の紅茶が、二人の体を温めてくれた。
「どうしたの？」
不思議そうに、アルドが俺を見た。
「あ、いや、炎のクリスタルかな？ うまいもんだな、と思って」
「冒険者になるなら、クリスタルも使えるようにならないといけないんでしょ？」
「じゃぁ、俺は落第だな。全然、そういう事ができないんだ」
何かの冗談だと思ったんだろう。
アルドはカップを両手に包んで、微笑む。
お茶の湯気を透かして見る、その笑顔。
天使がいるなら、こんな笑顔をするのかもしれない。
不意に、一度だけ船が大きく揺らいだ。
「おっと」
俺は転げそうになったアルドの体を抱き寄せた。
「どうしたんだろう？」
アルドが不安そうに、天井でふらつくランタンを見上げる。
俺の本能がささやく。
何かがおかしい。
「甲板に見に行ってみよう」
船は相変わらず、のんびりと航路を進んでいるように思う。
だが気配が違うというか、何かが変だ。
俺たちはおやつとお茶セットを片付けて、船倉を出た。
潮のにおいに混じって、なにか腐臭が漂っているようだ。
「あれ？ 売店の人がいないよ？」
アルドの言う通り、竿や釣り具を売っていたカウンターに人の姿がない。
いぶかしみながら、俺とアルドは階段を上がった。
腐臭が、いっそう強くなる。
ガチャッと、外に出る扉を開けた。
甲板にひしめく骸骨の群れが、一斉にこちらを振り返る。
俺は無言で扉を閉じた。
Lead_161 ◆zmxSLEadCU 第05話03
Lead_161 ◆zmxSLEadCU まとめ
アルドが小さく悲鳴をあげた。
「ダメ･･･っ･･･あっ」
逃げようとして左右に暴れるのを、俺は無理矢理、力でねじ伏せようとした。
緊張と興奮で、手に汗をかいている。
「おとなしくするなら、乱暴にはしない」
そう言いつつも、俺の腕にはさらに力がこもった。
「そんな･･･言ってるコトとちが･･･っ！ あ･･･ダメ･･･ダメだよ･･･っ！」
バキン！
釣り竿が折れた。これで２本目だ。
とられた釣り餌は、軽く３ダースを超える。
「やっぱり、俺には無理だ」
俺は深いため息をついた。リアルでも船釣りなんて経験はない。
「力じゃなくて、タイミングだよ。竿の動きを、魚に合わせるの」
なかなか、師匠は厳しい。
アルドの足元に置いた桶には、もう何匹も魚が泳いでいた。俺のほうは、言うまでもない。
「最初からでっかい一本釣りの竿だもん。初心者用の竿、選んであげる」
あぁ･･･金が飛んでいく･･･。
俺とアルドは、午後の日差しが照らす甲板で釣りを楽しんだ。
いや、あいかわらず俺は四苦八苦していたが、なんとなくコツが掴めてきた気がする。
マウラでの夕食には、自分で釣ったうまい魚を食べてやろう･･･。
そんな目論見とはうらはらに、俺が３本目の竿と４ダース目の釣餌を浪費した頃。
それまで明るかった青空が、急に暗く曇りだした。
「雨、降るのかな？」
空を見上げたアルド。さらさらの金髪を、生暖かい風が揺らす。
「海の天気は変わりやすいのかもしれないな」
俺は竿をしまいこんだ。
これから大漁になるはずだったのに、残念だ。
「おやつ食べよ？ ぼく、クッキー持ってるんだ」
他の釣り人たちは、まだ釣りを続けるようで、甲板から動く気配はない。
俺たちは船釣りをちょっと楽しもう、と思っただけの人間だ。
雨に濡れても仕方がない。
俺たちは荷物が置いてある船倉に降りて、おやつを食べることにした。
アルドが帆布鞄からクッキーの包みを取り出す。
シナモンのいい香りが、俺の鼻をくすぐった。
「うまそうだね」
クッキーなんてリアルでもふだん食べないものだから、余計においしそうに見える。
「ママの手作りなんだ。すごくおいしいんだよ」
自慢げに言いながら、アルドは鞄をごそごそやっている。
「ちょっと待ってね。お茶淹れるね」
取り出したのは、お茶セットと蒸留水のボトル、小指の先くらいの緋色のクリスタル。
アルドは目の前にボトルを置くと、クリスタルを両手に包み込んだ。
祈るように、目を閉じる。
コポッ･･･コポポッ･･･。
目の前で、ボトルの水が沸騰した。
俺は目を見張った。
これが、ヴァナの世界か。
子供でも、クリスタルの力を引き出す方法を身につけている･･･。
甘いシナモンクッキーと不思議な風味の紅茶が、二人の体を温めてくれた。
「どうしたの？」
不思議そうに、アルドが俺を見た。
「あ、いや、炎のクリスタルかな？ うまいもんだな、と思って」
「冒険者になるなら、クリスタルも使えるようにならないといけないんでしょ？」
「じゃぁ、俺は落第だな。全然、そういう事ができないんだ」
何かの冗談だと思ったんだろう。
アルドはカップを両手に包んで、微笑む。
お茶の湯気を透かして見る、その笑顔。
天使がいるなら、こんな笑顔をするのかもしれない。
不意に、一度だけ船が大きく揺らいだ。
「おっと」
俺は転げそうになったアルドの体を抱き寄せた。
「どうしたんだろう？」
アルドが不安そうに、天井でふらつくランタンを見上げる。
俺の本能がささやく。
何かがおかしい。
「甲板に見に行ってみよう」
船は相変わらず、のんびりと航路を進んでいるように思う。
だが気配が違うというか、何かが変だ。
俺たちはおやつとお茶セットを片付けて、船倉を出た。
潮のにおいに混じって、なにか腐臭が漂っているようだ。
「あれ？ 売店の人がいないよ？」
アルドの言う通り、竿や釣り具を売っていたカウンターに人の姿がない。
いぶかしみながら、俺とアルドは階段を上がった。
腐臭が、いっそう強くなる。
ガチャッと、外に出る扉を開けた。
甲板にひしめく骸骨の群れが、一斉にこちらを振り返る。
俺は無言で扉を閉じた。
Lead_161 ◆zmxSLEadCU 第05話03
Lead_161 ◆zmxSLEadCU まとめ
2007年03月21日(水) 17:24:45 Modified by zmxsleadcu