IF1・A LOVE may develop into all kinds

670 名前:369で411で519、たまに579 :03/12/23 21:06 ID:dacLqGqP

 それは偶然、眼に入った。
(播磨…さん…?)
 窓の外をふらふらと播磨が歩いていた。
 その様子は某ボクサーのようで見ていて危ない。
 今すぐへへ、と笑って燃え尽きてしまいそうだった。
 それでも、なんとか校舎の外へと向かっているらしい。
(………………)
 不安ながら、じっと見ていると、播磨は倒れそうだ。
 あっ、と声を上げる。
「ドウシマシタカ? ミス・ヤク〜モ?」
「え、あ、いえ………」
 なんだなんだ、とクイス中の視線がそそがれた。
 ついでに、大量の心の中が見えてしまった。
 これは正味ツライ。
「あの…」
 その時、ついに窓の外の播磨は倒れた。
「あ………!」
 どうしようか、と数瞬迷った結果、なんと八雲は
「あの、私、トイレに…!」
 などとのたまうた。


671 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:07 ID:dacLqGqP

 …。
 ……。
 ………は?

 クラス中が静まった。
 え、あれ? と思いながらも八雲は
「先生、それで……」
「………………………あ、はい、ドウゾ」
 クラスを後にしつつ、自分の何が悪かったのか分からずに八雲は駆けていく。
 残された生徒と先生は、ぼけーっとその様子を眺めていた。
 ただ一人、八雲の友人であるサラのみが、笑いをこらえるのに必死で、体を震わせていた。


672 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:08 ID:dacLqGqP

 校舎の外の播磨はぶっ倒れている。
 朝から腹が痛くて、熱っぽかったのだ。
 そして、ついに体が
「もう無理ですばってんヨロシクゥ」
 と、謎の言葉を残して機能停止したのだ。

 思い当たる節はたくさある。
 昨日食った色が変わったアンパン、昨日飲んだ臭い牛乳、風呂上りで素っ裸でスチャート大佐ごっこを
したこと、どれもありえた。

「く、やべー…そろそろお花畑と川が見えそうだゼ…」
 結構、余裕というか、へらず口は叩けるようだが、実は強がりだったりする。
 まさに、もう一歩も動けましぇーん、といった感じで倒れ中なのだ。
 もしかして、俺はこのままなのか!? などという悪い予感がする。


673 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:10 ID:dacLqGqP

「あの…大丈夫ですか?」
 その優しい言葉…まさか俺の女神サマ天満ちゃんの登場?
 さすが俺…ピンチをチャンスに変えるとは…!

 などと都合よく解釈した播磨の眼に映ったのは
「お、惜しい…」
「…………?」

 妹の八雲であった。

「あの、惜しいって…?」
「いや、なんでもねえよ…妹さん」
「あの…大丈夫ですか…?」
「み、見てのとおり、だだだ大丈夫ですぜ…」
「………」

 見てのとおりなら、大丈夫そうではない。
 八雲は無言で播磨に肩を貸した。

「い、妹さん…?」
「あの、保健室まで送ります…」
「いや、そんなワケには…」
「…でも」
「……う!」

 見上げられた顔は泣きそうだった。
 そういう顔に播磨は致命的に弱い。


674 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:10 ID:dacLqGqP

「いや、その保健室にはもう行ったんだよ…それでまあ、帰ろうかと」

 …そうですか、分かりました、その八雲の言葉を聴いて、播磨はほっとする。
 愛する天満の妹に手を煩わせるワケにはいかなかったのだ。

「じゃあ…家まで送ります…」

 …その時の播磨の顔を、皆さんにお見せできなかったのが残念で仕方がない。


675 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:11 ID:dacLqGqP

「ここ…ですか?」
「…お、おう」

 結局、女の子に肩を預ける形で、播磨は自宅についた。
 道中、何度も説得も試みるも、八雲の
「―――――……」
 という無言の叫びと、きっと結ばれた口、そして強さそうな意思と裏腹の泣き出しそうな瞳に、
強く言うことができなかった。

「ありがとうよ…もう、十分だからよ」
「あ、はい」

 玄関で離れて、礼を言う。
 授業中だから、早く帰んな、と言って播磨は扉を閉じた。
 扉が閉まったあと、八雲が帰ろうとした瞬間――

 ドンッガラガッ!!

 という激しい音が聞こえた。
 急いで八雲が扉を開けると、播磨は玄関で倒れていた。


676 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:12 ID:dacLqGqP

 急いで八雲は駆け寄り、状態を見る。
 意識はなく、呼吸が荒い、体も熱い、汗も大量に出ている。
「風邪…」
 すばやく状況判断すると、八雲は播磨の重い体を一生懸命持ち上げた。


「………よいしょ」

 播磨を――恐らく彼の部屋であろう――少し汚い部屋のベットに下ろした。
 意識はまだ戻ってない。

 さて、どうするか。
 時計を見れば、まだ三時間目の授業の時間。
 自分は、このまま帰るべきか否か。
 常識的に考えれば、帰るべきである。
 いちおう、授業には出なければいけないし、そもそもここに残って看病するのは八雲の役目かどうかは、
疑問である。

 でも――と八雲は思う。
 播磨の容態は、あまり良くない。下手をすると脱水症状を起こすかもしれない。
 ここで彼をおいていって、何かあったら自分の責任ではないか?
 それに、病人を置いていくのは人道的見地からいって、間違ってるのではないか。
 しばらく思案の末、八雲は台所へと向かった。


677 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:13 ID:dacLqGqP

 播磨はまどろみの中で気づいた。
 …布団の中?
 なぜか自分は布団の中にいた。
 あいまいな記憶を辿る。
 たしか、校庭で倒れた、妹さんがやって来た、かついでもらって家についた。
 そして、妹さんと別れてから…
 ………あれ?

 そこからの記憶はない。
 無意識に自力でベッドにたどり着いたのだろうか?

 すると、なぜか軽快な調理の音と、いい匂いがただよってきた。
(一体、なにが起きてんだ?)
 ワケが分からない。
 もしかしたら、イトコが帰ってきて、料理しているとか?
(いや、それはありえねえ)
 何気に失礼千万なこと考える播磨。
 それをもし、本人の前で言ったら恐ろしいことが起きるだろう。

 ともかく、謎で不思議な現象が自分を取り巻いている。
 しかし、そこは我らが播磨拳児。スバラシク自分本位な予想をくみ上げた!


678 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:14 ID:dacLqGqP

 妹さんは俺が風邪だと知っている。
 それを姉である天満ちゃんに話す。
「…そんな、待ってて播磨君、今行くから!」
 現在、俺のためにおかゆでも作っている
 天満ちゃんが持ってくる。
「すごい汗だね…拭いて…あげよっか?」
 マイボデーを拭いてもらう。
「わあ、すごい体…男の人ってスゴイね…こんな腕で抱きしめられたら…」
「天満ちゃん…」
「だ、ダメだよ播磨くん…まだ体調が…ああ…」

 はらりと落ちる 恋の花――

 こ、これかっ!? こんな状況なのか!?

 ……来た。

 来たぜこんちくしょう。
 神は居た。そしえマイ、スウィート女神が今ここに!

 ガチャ
 そして、いま運命の扉が開かれたっ!
「ええい、まどろっこしいぜ! いっそ一気に最後までイこうぜ天…」
「あ、大丈夫ですか…播磨さん」



679 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:15 ID:dacLqGqP

 …その天満ちゃんは
 髪型が違って
 体型が違って
 ついでに顔も似てるけど違って
 そういえば、妹さんに良く似ていマシタ。

 …。
 ……。
 ………

 あれぇ? おかしいなぁ?

 目の前に居るのは天満ちゃんではなく、なぜか妹の八雲サン。
 なんとなく、いろんな物が萎えた播磨であった。


680 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:16 ID:dacLqGqP

「あの…おかゆ作ったんですけど…」
「…」
「あ、えっと…帰ろうとしたら音がして、見たら播磨さんが倒れてて…」
「…」
「それで、家に勝手にあげちゃったんですけど、良かったですか?」
「…」
「……? あのう、播磨さん?」
「あ、いやなんでもねえ。えーとすまなかったな」
「…いいんです、その、勝手にしたことでしたから…」
「…」
「…」
 二人の会話が途切れてしまった。
 そのなぜか気まずい雰囲気、思い出したように八雲が手の上の茶碗を思い出した。
「それで…これ、おかゆ」
「あ、おう、すまねえ、いたたぐわ」
「はい、じゃあ…」
 播磨は自然に両手を出して、八雲が茶碗を渡すのを待った。
 だがしかし、八雲はレンゲでおかゆをすくうと、自分の口の前にもっていき、フーフーと息をかける。
 マヌケヅラでぼけっとそれを眺める播磨。
 自分で味見でもすんのか? という阿呆な考えをしていた。
 しかし、八雲は、そのレンゲ播磨の口元へもって行き。
「はい、どうぞ…」
 と、おっしゃった。



681 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:17 ID:dacLqGqP

「………」
 これには播磨くんはドッキドッキ?
 てーか超大混乱。
 エート、これはアレか、いわゆる一つの「はい、アーン」という奴か?

 …なんでだよ。

 などと考えるていると

「あの…食べないんですか?」

 とさらにお続けになる八雲サン。
 こころもち、表情が悲しそう。

「え、あ、では…」

 ぱくり、とおかゆを食べた播磨。

 …………なんだこりゃ、超恥ズイゾ。


682 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:18 ID:dacLqGqP
「あの、味はどうですか? …その、美味しくないとか」
「イエ…ソンナコトハ…」
「あ、それじゃあもう一口…」

 と言って、再び同じ行動
 → 口でフーフー
 → 目の前に持ってくる
 → 「…どうぞ」

 いや、えと、あのー

「播磨さん…?」
「…俺、自力で食えんだけど…」
「……………………………………………」

 その言葉に、八雲サン、活動停止。


683 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:18 ID:dacLqGqP

「………………………………あ」

 コトを認識してから、八雲が無表情になる。
 ついで、表情が崩れる。
 ボッ! と八雲の顔が赤くなる。
 本当に、火が吹いたのではないかと思うほど。
 もう、耳から首元まで真っ赤っ赤。
 そして、下を向いたままこっちを向かない。

 風邪の〜播磨さん〜困ってしまってワンワンワワン♪
 って、なんだそりゃ。

「…えーと、もらうぞ? このおかゆ」

 コクコク、と頷く八雲

 微妙な空気の中。もぐもぐと食べる播磨。
 うーむ、美味いのだが、なぜか味が分からない。
 風邪のせいだろうか?(多分、違います)


684 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:19 ID:dacLqGqP

「いやーうめえ、こんなおかゆ食ったの生まれて初めてだぜ!」

 八雲、反応無し、いまだ回復せず。

「いやーすぐに元気になれるぜ!」

 八雲、反応無し、いまだ回復せず。

(ええい、なんだこの雰囲気は!?)
「はっはっはー妹さんの旦那サンになる人は幸せだなァー」

 その発言を聞いた八雲がビックリした顔でこちらを向いた、そしてやはり顔を真っ赤にしながら
あの、その、それは…と続ける。
 が、突然、クラリとして

「………ぁぅ」

 という声と共に、プシューと謎の汽笛を鳴らして布団に倒れこんだ。

「お、おーい? 妹サン? 妹サン!?」

 結果、播磨のみが一人取り残された。


685 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:20 ID:dacLqGqP

「すいません…その」
「ああ、いいっていいって」

 何に対して謝っているのか分からないが、とりあえずそう言うしかない播磨。

「えーとよ、とりあえずおかゆは美味しくいただいたからよ、アンガトな」
「いいえ、どうしたしまして」

 未だに顔を向けれない八雲。
 先ほどから、下を向きながら話している。
 うーん、どすりゃいいんだ? と考えていた播磨に、八雲が声をかけた。

「あの…あれは…いつも姉さんが風邪を引いたときに…していて」
「は、はあ」
「それで…姉さんも私にしてくれて…」
「マ、マジかっ!? うらやましいぜ…」
「え?」
「あ、いや、姉妹の仲が良くて、ってことな」
「はぁ…。ともかく、スイマセンでした…」

 そう言うと、八雲はすぐさまパタパタと部屋を出て行った。


686 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:21 ID:dacLqGqP

 我ながら、なんと恥ずかしいことをしたのか…
 八雲は思い出すたびに顔を赤くして、しゃがみこんでしまう。
 あんなことを男性にするなんて
 あんな、まるで恋人同士みたいなこと…

 ………。

 恋人同士?
 …恋人?
 …播磨さんと…私が?

 ………ボフッ!
「……………………………ぁぅ」

 塚本八雲、本日二回目の自爆。
2007年11月02日(金) 08:54:36 Modified by ID:aljxXPLtNA




スマートフォン版で見る