IF1・A LOVE may develop into all kinds〜 (後編)

687 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:22 ID:dacLqGqP

 自爆後、復帰に1時間行動不能だった八雲も、どうにか回復した。

 深呼吸をして、八雲は播磨のへの前に立つ。
 落ち着いて、落ち着いて、と自分に言い聞かせる。
 …よし。
「あの…播磨さん…入ります」
 ガチャリ、と扉を開けると

 ぐーぐーぐー

 寝てた。

 ずっこける八雲。
 なんとも機先を制された。
 まあ、一時間もほっとかれれば風邪引き人間は眠るものである。

 どうしようか、と考えていると、足に何か当たった。
 よく見れば、この部屋はそこらじゅう散らかっていた。


688 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:23 ID:dacLqGqP

「……ふう」
 掃除も一段落して、部屋も大分きれいになった。
 最初は地面の可視床率は50%以下だったが、今ではチリ一つない。
 散らばっていた雑誌は一つのところにまとめておいた。
 ゴミは可燃、不燃、再生ときちんと分けた。
 誰がなんと言おうと、文句のつけようがない状況である。

 片付けをしているときから、八雲にとって気になることが一つあった。
 播磨の机の上においてある写真立てである。
 机を整理しているときに気づいたのだが、見るのは失礼に当たると思い、裏返したまま片付けた。

 駄菓子菓子!
 …失礼、だがしかし!
 妙に気になる。
 なぜか気になってしまう。
 非常に気になってしまった。
 ともかく気になってしょうがない。


689 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:24 ID:dacLqGqP

 そして、ついに八雲は己に負けてしまった。
 悪いことだと思いながらも、横目で播磨を見つつ、そっと机に向かう。
 目標へたどり着いたとき、もう一度播磨を見る。
 規則正しい寝息を立てて眠っている…っぽい。

 そっと、手を伸ばす。
 額に触れる。

 ゴソリ
「…!!!!!」

 心臓が跳ね上がった。
 そのままの姿勢で動けない。

 …どうやら、播磨が寝返りを打っただけらしい。
 ほっ、と息をつく、危ない危ない、大声を出してしまうところだった。
 …しばらくして動きがないの確認して、もう一度ひっくり返そうとする。

 心臓が早鐘のように鳴っている。
 視界がせばまる。
 そして、ひっくり返そうとした瞬間

「んん…」
「――!?☆♪!∵!?」

 今度は心臓が止まるかと思った。
 しばらく動くことが出来ない。

 …どうやら、ただの寝言のようだ。
 ほ、と息をつく。そして、視界を机に向けると――


690 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:25 ID:dacLqGqP
「………………?」

 そこには、誰かに頭をなでられている修治の写真が…
 いや、それにしては妙に古い。
 もしかしたら、幼いころの播磨だろうか。
 だとすると、ビックリするほどそっくりである。
 それでは、この女性はお母さん?
 残念ながら途中で切れていて、顔までは見えないので正確には分からない。
 ただ、なんとなく八雲は母親だろうと確信した。
 写真の播磨は、気持ちのいいぐらいに笑っていた。
 幸せそうな写真だ。

 やはり、悪いことをした。
 これは、播磨さんにとって一番大切なものだったのだろう。
 少し、八雲は後悔した。
 あとで、播磨さんに謝ろう、そう思った。


691 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:25 ID:dacLqGqP

 その後、ちょっと恥ずかしいのだが、八雲は眠っている播磨の服を脱がした。
 かなりドキドキしたのだが、汗をぐっしょりかいているので、タオルで拭いてあげなければ、と思ったらしい。
 そのとき、ちょっとしたハプニングもあったのだが、八雲と播磨のためにここでは語らない。というか、
こんなところで語れない。
 まあ、端的言えば

「…お、大き…」

 と、言うことらしい。


692 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:26 ID:dacLqGqP

 しばらく静かに椅子に座っていた八雲だが、播磨の顔色を見ようと覗き込んだ。
 汗も引いて、大分顔色が良くなってきている、これなら明日には全快だろう。
 ほっと、一息つく八雲。
 …そこで、播磨が寝るときまでサングラスをつけっぱなしのことに気づいた。
 そういえば、素顔を見たことが無かったな…
 八雲は、これぐらいなら…と、播磨のサングラスを取った。
 その顔は、意外と、といっては失礼だが、なかなか整った造形をしている。
 ヒゲとサングラスで気づかなかったが、けっこう童顔だ。
 寝顔を見ると、子供のように見えてきた。

 先ほどの写真を思い出した。
 播磨の頭を撫でる女性…
 八雲は無意識に、播磨の頭を撫でだした。

(私…なにしてるんだろう…?)

 自分でも、恥ずかしいし、おかしいと思っていても、手の動きは止まらなかった。
 まるで、考え事をしている自分と、体を動かしている自分が別人のような感覚に陥ったような、不思議な感覚だ。
 数分がたつころには、純粋に播磨の頭を撫でることに楽しみを覚えている自分が居た。

 播磨さんの髪、意外と柔らかい…

 そんなこを考えながら。

 しかし、その時だった。


693 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:27 ID:dacLqGqP

 播磨 イン ドリーム☆

 ついに帝王カラスマを打ち倒した播磨。
 傷つきながらも扉をあけると、そこには天満がいた。

「て…天満ちゃん…!」
「は、播磨君…」

 彼女が、だっと駆け出した。
 自分も走りだしたかったが、ケガで思うように動かない。
 ついには膝の力が抜け、その場に倒れてしまう。
 その時、駆け寄る天満がスソを踏んで転びそうになる。

「あ、危ない!!」

 播磨は起き上がり、上半身と手を伸ばし、彼女をしっかりと抱きかかえるも、その場に倒れてしまった…。


694 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:27 ID:dacLqGqP

 んで、現実。

 いきなりの出来事だった。
 播磨が起き上がった、そして、何を思ったか自分に抱きつき、そして抱きついたままベットに倒れたのだ。

「――!?☆♪!∵!?」

 あまりのことに、八雲は声も出ない。
 何事か、ふざけているのか、それともまさか押し倒されたのか?
 たくさんの考えが飛ぶが、何も考えていないと同じだった。
 色々な言葉が出ては消え、また飛び出してくる。

「えと……離してください…!」

 真っ赤になって訴えるも、播磨は答えない。

「播磨さん…その……だめです…!」

 それでも離さない。

「ダメ…まだ…!」←(まだ?)

 それでも以下略。


695 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:28 ID:dacLqGqP

 その間、八雲は一瞬が何秒にも感じた。

 ……というか、本当に何秒か経っている。
 それも、かなり。
 そして、それ以降なにも起こらない。

「……え?」

 さすがにこれ以上なにもおきないので、八雲も落ち着いてきた。
 いや、男性に抱きつかれているのだから、普通は落ち着かないはずなのだが、拍子抜けというか、
なんというか、ともかく、妙に冷静になってしまった。


 とりあえず、播磨さんは動かない。
 というより、グーグーと寝息が聞こえる。
 どうやら、ぐっすり眠っているようだ。
 つまり、寝ぼけていた…?

 なんじゃそりゃ。

 と八雲が思ったかどうかは知らないが、ともかくそういうことらしい。
 少し安心したような、残念だったような、まあ、とりあえず起きよう、とした

 だが

「…………ん?」

 だが

「……………え?」

 だが

「……………動け…ない?」

 …ともかく、そういうことらしい。


696 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:30 ID:dacLqGqP

 数分ほど、必死になって動いたが、一向に動けない。
 播磨がかなりの力で抱きついているようだった。
 いいかげん、あきらめよう。
 八雲はそう思い、出ようとするのを止めた。

 今のところ、自分の顔が播磨の胸に当てられている、腕は…
 考えたら恥ずかしくなった。
 播磨は、先ほど汗を拭いたばかりだからか、そんなに汗臭くは無かった。
 それでも、多少におうが、それは男の人の匂い、といったものだ。


 不思議と、不愉快さは感じなかった。

 誰かの胸に預ける感覚。
 久しぶりのその感覚に、八雲は心地よさをかんじた。
 誰かに抱きとめてもらう感覚。
 初めてのその感覚に、八雲はドキドキした。
 普通なら、恥ずかしい。
 いや、いまも恥ずかしいのだが、それよりもこのくすぐったい感覚を長く感じたいと思う自分が、間違いなくいた。

(あ…いけない…だめ…こんなところで)

 ナ、ナニをするの? なんて世の男性は思うかも知れない事を考え出す八雲
 駄菓子菓子、期待するような(謎)ことではなかった。
 八雲のまぶたが閉じそうになったのだ。

 こんなところで眠ってはいけない。
 いけない、よ思っても、かなりの心地よさから眠気が襲ってくる。

「ん…………」

 健闘むなしく、八雲は56秒の激戦の末、睡魔に敗れてしまった。


697 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:31 ID:dacLqGqP

 ふたたびまどろみから覚める播磨。
 ふと、違和感を覚えた。

 ナニかいる。
 自分のすぐ横になにかいる。
 というか、なにかを抱きかかえている。

 そして、人の頭みたいなのが、目の前にある。
 …つーか、人の頭だった。

「なんだ、人の頭か…おどかすなよ」

 もう一度眠ろうとする播磨(おいおい) 

「…ん? 人の、頭?」

 そう、人の頭である。

「どぅぇぇぇぇぇ!!??」

 ようやく正しいレアクションをしてくれた播磨。
 眠気もマッハで吹っ飛んだ。

 がばりよ起きて、おそるおそる確認をする。
 誰が、一体誰が?

「………ううん」

 寝返り打ったその人は

「い、妹さん…?」


698 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:32 ID:dacLqGqP

 またしても、播磨脳細胞が創造の翼を広げた。

 妹さんと寝た(?)
「ひどい…播磨さん…!」
 お姉さんの天満ちゃんに、そのことを言う
「私というものがありながら(え?)…播磨君、最低だよ!」
 別れる(え?)。
 …死のう。

 つーか、もともと付き合ってないじゃん。という言葉は播磨には聞こえない。
 このまま、高飛びするしかない、いや、やはり首を吊るか。
 真剣に悩んでいたりする。
 とその時、なかなか事態は最悪の方向に跳んだ。

「……………ん」

 塚本八雲、起床。

「……………………!!」

 播磨拳児、声が出ない


699 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:33 ID:dacLqGqP

 播磨はとにかく、まくしたてた。

「これは違う! いや、実はよく分からんが、多分違う!」
「……」
 
 八雲、まだ寝ぼけている。

「いやまて、落ち着け。そう、アレだアレ!」
「……」

 八雲、眼が覚めだした。
 じっと播磨を見て、自分を見る。

「…………」
「…………」

 播磨拳児、あきらめた。
 塚本八雲、覚醒&状況認識&記憶再生


 結局、塚本八雲は今日何度目かの顔真っ赤現象を起こし、播磨に

「す、すいません!!」

 と大声で叫んでから、部屋と家を飛び出した。
 一人残された播磨は、最初はボンヤリしていたが
 その後、本気でどうしようか悩みだした。


700 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:34 ID:dacLqGqP

 播磨さんに…播磨さんが…播磨さんの…播磨さんと…播磨さんを…

 帰り道、熱いからだを夜風に涼ませながら、家路に着く。
 よくよく考えれば、今日一日でなにをしたか。
 思い出すたびに、恥ずかしさで死にそうになる。

 明日……顔が見れない……
 どうしよう…。

 心の底からそう思った。
 気づけば、すでに家についていた。
 玄関に、姉がいた。

「あ、八雲、心配したんだよ? 授業中、突然いなくなったって聞いて」

 あ、そうか、すっかり忘れていたが、今日は授業を休んだのだ。
 姉にいらない心配をかけたことに心が重かった。

「ごめん、姉さん…」
「うん、ちゃんと帰って来たから許してあげる。で、どこに行ってたの?」
「え…えと、伊織と遊んでて」
「あ、そっか。ならしょうがないね」

 一応、納得してくれたようだ。
 まさか、播磨さんの看病をして、それから………なんて言えなかった。
 また色々と思い出してしまい、顔が赤くなる。


701 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:35 ID:dacLqGqP

「うわ、八雲、顔が真っ赤だよ!? 風邪ひいたの?」
「え、ちが…」
「はやく布団に入って、ほらほら」

 家に押されるように入れられ、
 姉は問答無用で八雲を布団に押し込んだ。

「ともかく、ちゃんと治さなきゃダメだよ?」

(違うの…姉さん…これは風邪じゃなくて、これは播磨さんのせいで…)

「ん、八雲、なんか言った?」
「…………え、う、ううん、なんでもない」
「そう、じゃあおやすみ」
「オヤスミナサイ」

 布団の中で、八雲は考える。
 明日、どんな顔をして会えばいいのか。
 もしかしたら、会ってくれないかもしれない。
 播磨さんが、どんなふうな顔で来るのか。

 でも…とも思う。

 今日のことがあったからこそ、会いたいとも思う。
 もしかしたら、私を意識してくれるかもしれない。
 塚本天満の妹でなく、一人の女の子、塚本八雲として…。

 そんなことを考えていると、いつの間にか八雲は眠ってしまった。


702 名前:A LOVE may develop into all kinds of illness. :03/12/23 21:35 ID:dacLqGqP

 翌日、結局八雲は播磨に会えなかった。
 どうやら、本当に風邪を引いてしまったらしい。
 一日中家で眠ってい過ごした。
 しかし、よかったような、残念なような…。

 お昼を過ぎたころ、姉が帰ってきた。

「八雲〜お見舞いの人が来たよ〜」
「八雲、大丈夫?」
「あ、サラ…」

 サラが手土産、おそらく果物を持ってやってきた。
 そして、意味深な顔で八雲を見る。

「…?」
「それからねーふふふ…」
「そうそう、八雲がビックリする人が来てるんだよ?」

 誰だろう、そう思った八雲の視界にその男性(ひと)が写った。
 背は高く、ヒゲを生やし、サングラスをかけた男性(ひと)が―――。

 八雲の機能が、再び停止した。


 fin
2007年11月02日(金) 08:59:26 Modified by ID:aljxXPLtNA




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