IF10・望みの彼方

684 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:14 ID:d8LmGgBc
以前、私は月が好きだった。特に月夜の晩が。
柔らかい月の光を浴びながら猫と戯れる時間は
私の心を豊かにしてくれた。
だけど今は違う。私は月が嫌いだ。いや、憎んですらいる。
何故なら、今やあの月の光は、私の心の闇を浮かび上がらせるから。


685 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:15 ID:d8LmGgBc
今日は日曜日。空に朧に見える月は満月。
こんな日は家のなかで過ごすのが一番なのだけど
夕食の材料が切れていたので、仕方なく街に出た。
昼下がりの街は人が多くて、私の気持ちを鈍らせる。
目的地を目指して歩いていたら、不意に声をかけられた。
「お、八雲、こんなとこでなにしてんだ?今日はサラちゃんと
 でかけるっつってなかったっけ」
「拳児さん…」
そこには、彼がいた。
「あ、いえ、あの…、サラのほうの都合が悪くなって…」
私は咄嗟に嘘を吐いた。純粋な彼はきっと疑いもしないだろう。
「そっか。ならちょっと付き合ってくんねーか?また例のことで
 意見聞かしてもらいて―んだ」
「あ、えと、…はい、わかりました…」
「あんがとな。じゃ、いつもんとこにいくか」
「…はい」
私は彼と連れ立って喫茶店へ行くことにした。やっぱり、私は馬鹿だ。
これじゃ何のためにこの数日間彼を避け続けていたのかわからない。


686 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:16 ID:d8LmGgBc
カランコローン
私たちは喫茶店に入り、席に座った。
休日にしてはお客さんの入りは少ないようだった。
「で、早速でわりーんだけどよ」
といって彼は原稿を取り出す。私はいつものように原稿を受け取り
幾つか感想を述べた。彼はしきりに頷いて感心していた、いつものように。

「ま、こんなとこか。毎度毎度わりいな」
「いえ…」
彼の律儀な感謝の言葉に、少し距離を感じてしまう。
ああ、だめだ。やっぱり神経質になってる。
「ん?大丈夫か?八雲。なんか顔色わりーぞ」
「あ、えと…、大丈夫です、ちょっと…」
あなたのことを考えていただけですから。
「…そっか。なら…、いいんだけどよ。そうだ、最近お互いバイトやなんかで忙しくて、
 こうやってゆっくり話す暇なかったよな。だから、まあ、なんだ、
 これからちょっとでかけねえか?ようするに…、デートなんだけどよ」
照れながら彼が言うその言葉に、私は笑みを返した。
ぎこちなくなってはいなかっただろうか。


687 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:17 ID:d8LmGgBc
そう私と彼は今、恋人と呼び合える関係にある。
それは数ヶ月前のあの出来事がきっかけだった。

烏丸さんの転校が差し迫っていた時期。
姉さんは決死の覚悟で告白し、成功した。
以来姉さんは、家でも、クラスのなかでも、烏丸さんの話ばかりで。
それはとても幸せそうで、親友たちも苦笑いしながら、祝福していた。

だが、その一方で、砕けてしまった恋もあった。
姉さんが告白した現場に、私も、そして彼も、居合わせていた。
私は、不安がる姉さんの付き添いとして。
なら彼は?彼はその場に居合わせて当然だった。
告白を渋る姉さんを必死に説得したのは彼だったから。
姉さんを烏丸さんが出立する駅まで連れて行ったのは、彼だったから。
姉さんが幸せになることを望んだのは、誰よりも、彼だったのだから。

想いが成った後、姉さんは烏丸さんと連れ立って、
彼へ感謝の気持ちを残して、どこかへ行ってしまった。
彼は軽く頷いた後、その場にずっと、立ち尽くしていた。
ずっと。


688 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:18 ID:d8LmGgBc
どれだけ時間がたったのかはわからない。
私が彼の肩に手を掛け、何か言おうとしたそのとき。
彼はゆっくりと振り向いた。
彼は泣いていた。必死に声を押し殺しても、頬を伝う涙を
止めることはできなかったのだろう。そして不意に、彼は。
私を、抱き締めた。強く、強く。
何かにすがるように。自分の存在を確認するように。
強く。

そのときはじめて私は、彼が姉さんに恋をしていたことを確信し、
私が彼に恋していることを、自覚した。

その後の彼は、見ていて痛々しいほどだった。
まるで生気を失った彼は、それでも学校に来ていた。



689 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:19 ID:d8LmGgBc
そんな彼を、私は懸命に支えようとした。
私にできる限り。想いの限り。
最初は無反応だった彼も、次第に心を許してくれるようになった。
私を頼ってくれることも多くなった。

時間がたつにつれ、名前で呼びあうようになったし
休日は時々、一緒に過ごすようにもなったし
今はもう放課後は、かなりの時間をともに過ごす。
彼の声がはじめて聞こえたときは、嬉しさがあふれてしまって
泣き出した私を、彼は困りながら懸命になだめてくれた。
そうあの時は、本当に嬉しかった。嬉しかったのだ。

そんな数ヶ月を経て、私たちはこの場所に立っていた。


690 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:20 ID:d8LmGgBc
行儀よく並んだ木立のなかを、私たちは歩く。
「んでよ、あの花井のバカヤローがよ」
そこは街外れの公園だった。
私は彼の他愛もない話を、聞くともなしに聞いて
時々相槌を打ちながら、公園で子供たちが遊ぶのを見ていた。
「しっかしガキどもは元気だよなー。さすがに今はああやって
走り回る気はしねえぜ」
「そうですね…」
また適当に相槌を打ち、気づかれないようにそっとため息を吐く。
私は今大丈夫だろうか。うまく取り繕えているだろうか。さっきは
少し気づかれてしまったけど、彼を嫌な気分にさせるのは嫌だった。
私は意図せず、自分の意識を徐々に内へ向けていっていた。
しかし次の瞬間不意に見た光景は、私の意識を覚醒させた。

そこでは、数人の子供たちが遊んでいて
彼らは、子猫をキャッチボールして遊んでいた。

「おいオメエラ!!なにやってんだ!!」
気がつくと拳児さんは、子供たちのほうへと駆け出していた。



691 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:20 ID:d8LmGgBc
「お前ら、自分たちがなにやってたかわかってんのか?!」
彼は子猫を奪い取り、一喝した。
強面の大人が急に立ち入ってきて、彼らは怯んでいたけど
その目には反抗的な光があった。ひとりが言った。
「お、お前には関係ないだろ!余計な口出しすんな!」
「ほう、オメー、度胸あるじゃねえか。じゃお前もこの子猫と
 おんなじようにぶん投げてやろうか?」
子供たちは、その脅し文句に明らかに怯えていた。拳児さんは不意に
文句を言った子供に近づくと、その頬を打った。その子は泣き出してしまった。
「痛いか?」
彼はその子に問うた。
「うぐっ、ひっく、ぐす、うん、いたい、うう、ぐす」
「そうか、痛いか。そりゃそうだよな、引っ叩かれりゃ誰だって痛い。
なら、わかるな。こいつだっていてーんだ。自分が何をやってたか、もうわかるな」
「ひっく、うん、ぐす、ごめ、うう、ごめんなさい」
彼は優しげにその子の頭を撫でた。
「おい、お前らもこっちこい。ひとりづつ引っ叩いてやる」


692 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:22 ID:d8LmGgBc
泣き声が木霊す中、彼はその子供たちを諭す。
「いいかオメーラ、自分がやられて嫌なことは絶対に人にやるな。
そういうのはいつか自分に返ってくるもんだ。こんなことばっかしてたら
俺みたいなやつになっちまうぞ?わかったな、おい、返事は?」
「うん」「はい」…
「よし、んじゃちょっくら遊ぶか。お前ら、なにがしたい?」
彼は子猫に異常がないか確かめてから放すと、そう言った。
子供たちは戸惑いながらも意見を言うと、拳児さんは頷き
子供たちの輪のなかに入っていった。
「わりいな八雲」
「いえ…、そんなことないです。…私はここにいるので」
「そっか。ありがとな」
戸惑いが笑顔に変わるまでには、そう時間はかからなかった。


693 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:25 ID:d8LmGgBc
「ふいー、やっぱガキの相手は疲れるわ」
脇にあったベンチに腰掛けて彼は言った。
「…そうですか?拳児さん…、楽しそうでした」
「ばれちまったか?」
嬉しそうに云う彼をみて、私は少し胸のしこりが取れたような気がした。
やはり拳児さんは拳児さんだ。そんな当たり前のことを思いながら私は
自分が彼を好きなことに誇りを感じた。
うん、私は大丈夫だ。彼の温かな波動は私を満たしてくれる。
そう、信じた。    矢先。

途切れる波動。

彼の表情が驚きから苦しみへと変わる。

視線の先には。

姉さんと烏丸さん。


ああ、そういえば昨日嬉しそうに、明日烏丸君とデートなんだ、っていってたっけ。



694 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:26 ID:d8LmGgBc
ああ、拳児さん、あなたの心が視えません。
ああ、拳児さん、あなたの声が聞こえません。
何故ですか。
何故ですか?

二人は挨拶を交わして、何か話をしている。
その話し声も、遠くなって。
現実感すら希薄で。


そう、拳児さんは、いまだ、姉さんを。




思えば最初から気づいていたのかもしれない。
でも決定的だったのは、声が聞こえてから、最初の満月の日。
私は思い知った。拳児さんの心のなかにいまだ姉さんの影があることを。
心の奥底で、姉さんが息づいていることを。



695 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:26 ID:d8LmGgBc
でもそのときは、時間もさほどたっていなかったし。
拳児さんの中で日増しに大きくなっていく自分の存在を
感じることができたので、素直に、受け入れることができた。
できた、はずだった。

だけど、今はもう。私は苦しい。とても、苦しい。
確かに私の存在は着実に大きくなっている。
でも、そのたびに、心の奥に根付く姉さんとの差を突きつけられる。
どんなにがんばっても届かない。どんなに近づいても、距離は縮まない。
それはさながら星と星との距離のようで。無限にも感じる距離では
その一歩の意味は限りなくゼロに近い。



696 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:26 ID:d8LmGgBc
それは確かな理由があることだ。姉さんと出会ってからの彼は
言葉の綾ではなく、その全てを姉さんに捧げてきた。
たとえそれがひとりよがりでも。勘違いであっても。
積み重ねてきた時間と、想い。それに比べれば、私の想いは足りないのかもしれない。

でも例えそうであっても、いやだからこそ私は、私の心は耐えられず。
徐々に闇に侵食されていった。闇の名は、嫉妬。燃え盛るような、嫉妬。
それを感じるたびに私は叫びだしたいほどの衝動に襲われる。でも。
そうだといって、どうして彼を責めることができよう。私には彼の心が視える。
視えるからこそわかる。彼もまた苦悩している。そして私の想いを、闇も含めて
気づいているのだ。


697 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:28 ID:d8LmGgBc
だから、私にできることは、必死で耐えることだけ。
耐えられなければ、目をそらし避けることだけ。
現にこの数日間はそうしてきた。そして今日も。

今日一日私は必死に目をそらし続けてきた。
できるだけ彼を意識せず、周囲に気を配ったり
内面世界に逃げたりしながら。必死に。
しかし先ほどの出来事で私の心は緩んでしまった。
そして今、かつてないほどの力で、闇が蠢動している。
唯一の救いとなるはずの彼の心の中の私は、今は届かない。
皮肉にも、届かないからこそ、彼が今何を考えているのかがわかる。
誰のことを考えているのか。

ゆえにもう耐えられるはずもなく。
私は最大の禁忌を犯そうとしていた。


698 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:29 ID:d8LmGgBc
時に私は、人の心をとても深いところまで視ることができる。
だから私は知っていた。二人の出会いの物語を。
拳児さんがサングラスを掛けるわけを。
拳児さんが決して話してくれなかったそのわけを。


「姉さん…、拳児さんがなんでサングラスを掛けているか知ってる?」
急に話し出した私を、二人は訝しげな目で見つめる。
「姉さん、…中学生のとき、路地裏で暴漢に襲われて助けてくれた人に
寝込みを襲われたって話してくれたときがあったよね?」
拳児さんの表情が変わる。だけど彼は何も言わない。
私はもう止まることはできなかった。



699 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:31 ID:d8LmGgBc
想いが

「その人はね、そのときから姉さんに目をつけて

闇が

 同じ高校に入学までしたの。しかも同じクラスに入って

溢れて

 そしてまた姉さんのことを傷つけようとしてるの」

止まらなかった。
姉さんは急に、わけのわからないことを
言い出した私を驚いた表情で見ている。
そして最後の言葉。
「…その人はね、拳児さん、なの」


700 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:33 ID:d8LmGgBc
私はそういって、彼のサングラスをはずした。でも姉さんは
彼の顔を見ない。様子のおかしい私を気にしているようだった。
「ほら、よく見て、姉さん。見覚えあるでしょ」
私は姉さんを促した。姉さんは戸惑いながらも彼の顔を見て
「…うん、確かに、あのときのひとだね」
私は喜んだ。暗い喜びだった。
「…ね?拳児さんはそういう人なの。姉さん覚えてるよね、そのときのこと。
 幻滅したよね?拳児さんのこと嫌いになったよね?ね?だから…、だから…
 お願い、これ以上拳児さんを惑わさないで…、拳児さんを奪らないで…」
そして。
その場に崩れて泣いた。
手にしたサングラスは地に落ちた。
もう何もかもおしまいだと思った。

「…八雲」
不意に拳児さんの影が動いた。
私に触れようと。
「!やめて、やめてください!」
拒絶された彼の顔は、愕然としていて。
その場から私は、逃げ出した。



701 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:34 ID:d8LmGgBc
「…八雲…」
背を向けて走り出す彼女の姿を見て
俺は不覚にもその場にへたり込んでしまった。
「…くそっ」
やりきれなさに地面に八つ当たりする。
原因の全てが自分にあることはわかっていた。
「播磨君」
彼女が手を差し出す。
「わりいな、…塚本。」
手をとって、とりあえずその場に立つ。
今から自分が何をすべきなのかはわかっている。
しかしそれは許されることなのだろうか。
「で、播磨君、なにやってるのかな?」
不意に塚本が切り出した。
「早く八雲を追っかけてあげてよ」
確かに。でもそれは―。
「俺は追っかけてっていいのか?」


702 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:35 ID:d8LmGgBc
その言葉に塚本は怒った顔で
「何いってるの播磨君!播磨君が追っかけないでどうするの!」
「でも俺には資格が」
塚本は呆れ顔で
「っもう、資格なんてどうだっていいの!八雲は播磨君のことが
好きなんだよ?それで十分だよ!」
そうか
「そうだな」
「うん!」
「わかった。じゃ、いってくるわ」
「うん。…播磨君、八雲のこと、よろしくね?」
そのときの塚本の笑顔はとても綺麗で、俺はきっと一生忘れないだろう。
「…ああ、わかった」
落ちていたサングラスを手に取り
俺は、駆け出した。


703 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:36 ID:d8LmGgBc
ここは馴染みの場所。
まだ彼のことを播磨さんと呼んでいた頃の。
今私は虚ろだった。
夕焼けが、血のようだ。
何もない。誰もいない。
拳児さんも、姉さんも、きっと私に
愛想を尽かしてしまっただろう。
もう、息をするのもおっくうだった。
このまま消えてしまおうか。と考えたとき。

温かな感覚が、私の心によぎった。

そんな、まさか、そんな。
彼は今、校門をくぐってここに向かっている。
今日は特に力が強まっているようだ。
ここにいても、彼の心が手に取るようにわかる。
彼は息を切らせながら、さまざまなことに思い巡らせ
たくさんの想いを胸に、ここへ向かってきている。
しかしやはり彼の心には姉さんがいる。
なら何故ここに向かってきているのだろうか。
彼は今、ひとつの決意を胸に。
そのドアを、開け放った。


704 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:36 ID:d8LmGgBc
「…八雲!」
「拳児さん…」
学校の中で空に一番近い場所。
屋上で二人は出会った。

「八雲、俺は―」
「何をしにきたんですか?拳児さん」
私は彼の声を遮り、言った。
「…姉さんは、ここにはいません」
拳児さんは諦めずに繰り返す。
「八雲、頼むから俺の話を―」
「…私には、わかるんです。拳児さんが、…姉さんを忘れていないことが。
 私には…、わかるんです。何故ここにいるんですか?拳児さん」
私は畳み掛ける。―そう、彼を試すために。本当に私は嫌な女だ。
「…そんなに好きなら、忘れられないなら、奪えばいいじゃないですか。
 …拳児さんの、意気地なし」


705 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:37 ID:d8LmGgBc
彼は、本当に苦しそうな表情で。私はそれを見て
涙が。
「あの時抱き締めたのは、私だからですか?
それとも誰だってよかったんですか?」
そのとき。
彼の唇が動いた。
「…めろ」
「あの時抱き締めたのは、私だったんですか?
 それともただの藁にすぎなかったんですか?」
「やめろ!!」
彼の叫びは、私を―。

「確かに俺は、…塚本のことを忘れたわけじゃねえ。
 でも!おれは!お前が、八雲のことが好きなんだ!
 …虫がいいのはわかってる。でも、絶対この気持ちには
けりをつける!だから、もういちどだけ―」
私は、彼に最後まで言わせずに、彼の胸に飛び込んだ。



706 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:38 ID:d8LmGgBc
「拳児さんは、ひどい人です」
「…すまねえな、ほんとに」
彼が強く抱き締めてくれることに、私は満たされて。
「…でも、まだ、納得できません…。言葉だけじゃ…」
「…そうだな」
そういうと彼は、掛けていたサングラスをはずし
屋上の外へ、投げ捨てた。
「もう、必要ねえだろ?」
そう、いいながら。
はじめてみた拳児さんの素顔。
精悍な顔つきと、子供のような邪気のない瞳。
「…もうひとつだけ、わがまま…、いいですか?」
「ああ、なんだ?」
彼が言い終わるのと同時くらいに
私は
彼と
キスをした。
そして。



707 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:39 ID:d8LmGgBc
私は拳児さんの心を視た。
彼の心の中には、
たくさんの表情の私がいて
ただひとつ、自分自身見たこともない
綺麗な笑顔をした私がいた。
だから私は、そっと離れると
その真似をした。
うまく、いっただろうか?




それからまた、時がたって
今私は拳児さんと歩いている。
「ああー、今日はこれくらいでお開きだな」
「…はい。…でも、もっと一緒にいたいです」
拳児さんもそう思ってる。
「あ、ああ、そうだな、でも、まあ、もうおせーし
ほら月ももう隠れそうだ」
「…そうですね。…綺麗な満月」
「…そうだな。じゃ、また明日」
「…はい。また明日」
私は今、月が大好きだ。
特に満月が。
満月の日は、
拳児さんが
私を愛してくれていることを
一番実感できる日なのだから。


708 名前:望みの彼方 :04/07/19 19:40 ID:d8LmGgBc
余談―
「ん?そういや八雲なんであのこと知ってたんだ?
ほら、…出会いの話」
「………ヒミツです」
2007年02月16日(金) 15:39:17 Modified by aile_irise




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