IF10・AN OFFICER AND A GENTLEMAN


339 名前:AN OFFICER AND A GENTLEMAN :04/07/09 19:51 ID:6kaMuI7g
「ピンピロリン♪」
 塚本八雲の携帯電話にメールが届いた。
『件名:休刊』
 いつもの二人のやりとり。でも、今日はちょっと違う……。
 昨日の喫茶店でのこと――。播磨さんは何も言わずに帰ってしまった。
怒ってるかな……。ちょっと怖いけど、ちゃんと話しをしないと……。
 足取りも重く、八雲は屋上へ向かった――。

――播磨拳児、全ての元凶
 くそっ。昨日は一睡もできなかったぜ。
まさか、お嬢のことだけじゃなく妹さんのことまで勘違いされちまうとは……。
 妹さんに迷惑かけるわけにはいかねぇ。
せっかく漫画のほうもいいところまで行ってたんだが、しばらく会わないよう
にしたほうがいいな。
しかし、これからどうやって誤解を解くか……。
 ゴロリと横になって、大の字に寝そべる播磨。
あぁ、今日はあったけぇな。やべ。なんか眠くなってきた……。
 悩み疲れた播磨を睡魔が襲う――。



340 名前:AN OFFICER AND A GENTLEMAN :04/07/09 19:51 ID:6kaMuI7g
――塚本八雲、その気はなし
「播磨さん……」
 屋上に着くと播磨は寝転がっていた。返事は無い……。
 ……寝てるのかな?
起こすのも悪いし……。今日はバイトが無いから起きるまで待とう……。
それにしてもなんだかひどくうなされてる……。頭……痛いのかな……。
 そわそわして落ち着かない八雲。
 そうだ――。
 播磨の頭をそっと持ち上げ、膝の上に乗せる。
いつも猫の伊織を乗せているように――。
播磨の表情が次第に幸せそうな顔に変わっていく。
 ……良かった。
 ほっと一安心して、昨日の出来事に想いをめぐらせる。
沢近先輩はなんであんなことを言ったんだろう? 播磨さんが私のことを好き?
心が見えないからわからない。でもお姉さんのことを一生懸命思ってくれてる。
それだけはわかる。播磨さんが好きなのはお姉さん……だと思う。
 私は……? 男の人で安心して話せるのは播磨さんだけ……。
たまにすごい迫力で怖いと思うときもあるけど、それはいつも真剣だから……。
何より動物にも好かれるほど優しい人。私のことも大切にしてくれてる。
私は……好き……。でもお姉さんの烏丸さんに対する想いとは違う気がする。
 私はこんな頼れる兄が欲しかったのかも知れない――。



341 名前:AN OFFICER AND A GENTLEMAN :04/07/09 19:52 ID:6kaMuI7g
――サラ・アディエマス、八雲の友人
 八雲がたびたび屋上で播磨先輩と会っているのは知ってた。
余計な詮索はすまいと思ってたけど……。高野先輩からあんな話しを聞いたら……ね。
邪魔しちゃ悪いけど、様子を見にいっちゃえ――。
「八雲ー。部活始まるよー」
 しー……。八雲は人差し指を口に押し当てた。膝には幸せそうな播磨先輩の寝顔。
「起こしちゃ……悪いから」
 あの男の人が苦手と言ってた八雲が……。
「播磨先輩とつきあってるって本当だったんだ」
「……え、うん。でも……そういうのじゃなくて……」
 しどろもどろに説明する八雲。
「そうやってると仲のいい恋人同士にしか見えないよ?」
 そう言われて初めて八雲の顔が赤くなった。
「……あ、これは違……」
 かわいいな、八雲は。それにちょっと羨ましい……かな。
「それじゃ、またあとでね」
 私はそそくさとその場を立ち去った。
 あとでじっくり話しを聞かせてもらおっと――。


342 名前:AN OFFICER AND A GENTLEMAN :04/07/09 19:52 ID:6kaMuI7g
――花井春樹、八雲バカ一代
 まさか八雲君があの播磨とつきあっているなどと……。信じられん!
この前、八雲君に聞いたときは否定していたとゆうのに。
こうなったら、力づくでも播磨に問いたださねば!
「播磨。居るか――」
 な、ナニィィ!? 花井の眼鏡にピシッと亀裂が入った。
八雲君の膝枕だと? なんてうらやましい……もとい不埒な真似を!
「おい、起きろ。播磨! 八雲君に迷惑だろ……」
 しかし、八雲は怯えた表情で首を横に振っている。
「やめてください……。それに迷惑じゃ……」
 ぐはぁ! 花井の心は砕け散った――。
播磨なのか!? やっぱり播磨じゃないとダメなのか!?
っく。だがここは愛する人の幸せを願うのがせめてものはなむけ――か。
「すまなかった。八雲君。僕は退場するよ」
「どうか末永くお幸せに……」
 敗者に語る言葉無し。僕は背中を向けて屋上をあとにした。
明日から何を楽しみに学校に来れば良いというのか……。
 ふと見ると階段の踊り場に周防が立っていた。
「どうした。しょぼくれやがって。今日はパーっと飲みに行くか?」
 コイツにはいつも妙なところで元気づけられる。
「すまん。周防……。行くか!」
 終わった。僕の初恋――。


343 名前:AN OFFICER AND A GENTLEMAN :04/07/09 19:52 ID:6kaMuI7g
――沢近愛理、八雲のライバル?
 よくよく考えると昨日は八雲にひどいことしちゃったかも……。
とにかく、あのヒゲにも確認してみないと始まらないわ!
どうせアイツのことだから、屋上にいるわよね。
 ガチャ。屋上のドアが軋みを立てて開く。そこで目にした光景は……。
「――っ」
 膝枕? まさか、二人の仲がそこまで進んでいたなんて。
勘違いであればいいと思った。
でも私の知らないところで確実に二人は会っていたわけで……。
「何してるのかしら? あなたたち」
「播磨先輩に用事が……。でも来たら寝てて……」
 何てしらじらしい――。
「あーら。仲がおよろしいことでっ。そういうことは学校外でやって欲しいわね」
 感情が抑えきれない――。私は急いでドアを閉めた。
なんで私、泣いてるんだろ……。二人が仲が良さそうだったから?
 つまり、私がアイツに振られたってこと? いや、私はあんなヤツ好きじゃない。
……たぶん。
 なんだろう。このもやもやは……嫉妬?
 あぁ、もうどうでもいいわ!
天満どころか八雲にまで先を越されるとはね……。
なんか私一人振り回されてバカみたい。
 それもこれも全てアイツのせいよ――。


344 名前:AN OFFICER AND A GENTLEMAN :04/07/09 19:55 ID:6kaMuI7g
――播磨拳児、夢の生活
 あれから数年が経った……。
俺は漫画界でプロデビューを果たし、紆余曲折あったが無事塚本天満ちゃんと結婚した。
小さいながらもあたたかな家庭。子供は二人。名前は愛理と八雲。両方とも女の子だ。
二人とも元気すぎて困る。まるで天満ちゃんが三人に増えたみたいだ。
 そして、どんなに年をとっても俺と天満ちゃんの愛は変わらねぇ……。
「ねぇ、あなた。耳掻きするからここに横になって……」
「あぁ、頼む」
 天満ちゃんの膝に頭を乗せ、顔を横に向ける。
「み、耳がくすぐってぇ」
 顔のニヤケがとまらねぇ。
「ふふ……。あんまり動いちゃダメ」
 天満ちゃんの極上の笑顔。柔らかい膝枕。
あぁ……。俺は最高に幸せだ!
このまま時が止まってしまえ。そう強く願った。
 が、その幸せも束の間。
ふいにバタン! と大きくドアが閉じる音が響いた。
場面は急速に暗転していく――。
 ……ちっ。何だ夢かよ。もう一度寝るか。
ん? この頭にあたる柔らかい感触……。夢じゃねぇ!
天満ちゃん! と叫ぼうとした瞬間。
 見上げるとそこには八雲の顔――。


345 名前:AN OFFICER AND A GENTLEMAN :04/07/09 19:55 ID:6kaMuI7g
――播磨拳児、愛と青春の旅立ち
 ……妹さん? 播磨の目が丸くなる。
これは恋人同士がやる膝枕……だよな。
ということはつまり……。妹さんは『本気(マジ)』だったのか!?
 何てこった……。俺の心は天満ちゃん一筋!
しかし、恩義のある妹さんを傷つけるわけにはいかねぇ。
こうなったら……。自ら妹さんに嫌われるっきゃねぇ!
 だがどうする? 考えろ。播磨拳児!
そうだ! 天満ちゃんに変態扱いされたアレだ!
つまり――。

 押 し 倒 す!

「すまねぇ。妹さん」
 ぐぃっと八雲の肩をつかみ。素早く、しかし傷つけないように静かに押し倒した。
 突然のことに驚きの表情を浮かべる八雲。だが疑いの無い眼差しで播磨を見つめる。
――何故、抵抗しないんだ!(……心が読めないのでどうして良いかわからない)
 お嬢のときは必死に抵抗したのに……。
ということは……。つまり妹さんは俺にぞっこんLOVEってわけで……。
播磨の頬を冷ややかな汗がつたう。
 くっ。さすがにこれ以上は無理だ。
「妹さん……。君の気持ちはよくわかった」
「だがしばらく考えさせてくれ。俺は旅に出る」

――播磨拳児、留年決定。
2007年02月15日(木) 23:11:55 Modified by aile_irise




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