IF11・彼女の想い


123 名前:彼女の想い :04/07/23 07:23 ID:zjD0eHxM
「はぁ……」
 思わずため息を吐いてしまう。夜、自室で一人になった時、自然と今日あったことが思い出されてしまった。
 今日の午後、バイト先に姉さんたちが来た。それはいい。ただ、その時に、私とあの人が、その……付き合っている、と誤解されてしまった。
 あの人のことを思い出す。どこか怖そうな雰囲気がするけど、本当はとても優しいあの人を。
 初めて会ったのは、あの人がクーラーを直しに家にやってきた時だ。それ以前にも姉さんのクラスで見かけたり、キリンさんの飼い主があの人だったりとしたけど、はっきりと会ったと呼べるのはあの時だろう。
 でも、別にその時何かあったわけではない。伊織を助けてくれたりもしたが、その時はただあの人の心が視えないということに興味を持っただけ。



124 名前:彼女の想い :04/07/23 07:25 ID:zjD0eHxM
 私があの人のことを意識しだしたのは、そう――二学期になって、あの人が飼っていた動物たちのことでの騒動の時だろうか。
 あの時、あの人は動物たちを必死になって逃がそうとしていた。そこに、あの人の優しさが感じられた。そんな様子を見ていた私の口からは、思わずあの人の名前が漏れていた。
その時の私は、あの人のことを無意識に「先輩」ではなく「さん」と呼んでいたのだ。後で気付いたが、私があの人の名前を口にしたのはこの時が初めてだった。
 それから、私はどうも少し変になったようだ。


125 名前:彼女の想い :04/07/23 07:27 ID:zjD0eHxM
 結婚式のお芝居の時には、私は男の人が苦手だというのに、相手の新郎役が気になっていた。無意識に、もしかしたらあの人がなってくれるのでは、という期待を抱いていた。
乱入してきたあの人が私の事を誰かと勘違いしていると気付いた時は、あの人が探している相手ではないことを告げることがなかなか出来なかった。
 あの人の漫画を見た時には、「また読んでもらいたい」という言葉に自然と嬉しくなっていくのを感じていた。
姉さんがあの人から貰ったお礼の色紙を見て「誰から貰ったのか」という問いには、思わず「ヒミツ」と答えていた。
 あの人の「キスしてもいいか」という言葉には、漫画の事だと分かっていても動揺しないでいることは出来なかった。
 どんどんあの人に惹かれていくのが自分でも分かっていた。
 そして今日、あの人とのことが誤解されてしまった。



126 名前:彼女の想い :04/07/23 07:28 ID:zjD0eHxM
 原因は私。あの人のジャージの名札を直していた所を沢近先輩に見られたのだ。その光景を傍から見れば私とあの人が付き合っていると考えても不思議じゃない。
少なくとも、私があの人に好意を持っているように思われるだろう。そしてそれは間違いじゃない。
 姉さんたちにあの人と付き合っているのかと問い詰められて、正直に話したけれど結局私とあの人が付き合っていると誤解されてしまった。
それは姉さんたちの誤解でしかなかったけど、私とあの人が付き合っているなんて、単なる誤解とはいえそう思われるのは決して悪い気がしなかった。
――愕然としたあの人を見るまでは。


127 名前:彼女の想い :04/07/23 07:31 ID:zjD0eHxM
 姉さんたちは気付いていなかったけど、あの人は姉さんたちが来るよりも早くお店に来ていた。なので当然騒いでいた姉さんたちの話が聞こえていたわけで。
 私との関係が誤解されたあの人は、まるでこの世の終わりとでも言われたかのように茫然自失となっていた。
 あの人にとって、私との関係が誤解されては困るのだろう。きっと、特定の誰かに、私と付き合っていると思われたくなかったのだ。
一体誰だろうか。沢近先輩? 姉さん? それとも他の人?

129 名前:彼女の想い :04/07/23 07:53 ID:zjD0eHxM
「はぁ……」
 再びため息が漏れる。思考を切り替えるように布団に入った。
しかしそれでもあの人のことが頭から離れない。あの人の顔が頭に浮かぶ。動物たちを守ろうと必死になったあの人。結婚式で抱きかかえられて間近に見たあの人。いくつもの顔が浮かぶ。
でも――最後に浮かぶのは、誤解されて愕然としたあの人の顔。
――決めた。明日になったら誤解を解こう。まずは姉さんに。そして沢近先輩たちには姉さんから誤解を解いてもらう。当事者である私からよりも、姉さんからならすぐに誤解が解けるだろう。
これであの人が、もうあんな表情を浮かべる事も無い。――でも、誤解が解けてしまうということが、なぜか少し残念に感じてしまう。
そんな想いを振り払うように、眠りに就こうと目を閉じた。でも、いつもは簡単に訪れる睡魔が、今夜に限ってなかなか訪れる事はなかった。
2007年02月17日(土) 00:18:47 Modified by aile_irise




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