IF12・Birthday... Itoko Osakabe


224 名前:Birthday... Itoko Osakabe :04/08/18 05:29 ID:WL4iFSCg
「さて、今日はわざわざありがとう。悪いけれど私は、これで失礼させていただくよ」
 立ち上がった絃子の背中に、わずかに届いた谷と葉子の会話。
「……なんか不機嫌そうですね」
「フフ。本当に祝って欲しい人が、今、遠くにいるんですよ」
 余計なことを。舌打ちしながら、振り返って怒鳴りつけたくなる衝動を、彼女は辛うじて抑えた。
 開く携帯電話。いっそ、こちらから電話をしてやろうかとも考えるが、そうしたところで。
 また一つ、舌打ちをして、彼女は空を見た。街の光が眩しくて、星は見えない。
 それが何故か悔しくて、切なくて、彼女は家路へ向かう道を早足に歩いた。

 誰もいない、暗い自分の部屋。同居人は今、茶道部のキャンプに参加しているという。
 全く、これでは本末転倒だな。一人言を呟きながら、電気をつける。そんな自分が惨めに思えて、
絃子は小さく笑う。自らを嘲笑う。
 今日は彼女の、何度目かの誕生日。
 何を期待しているわけでもないが、彼と共に過ごしたいという欲望に負けて、キャンプには行かな
いと告げた。だが当の本人が、そちらに行ってしまっている。
 結局、笹倉と谷の二人に、先ほどまで祝われていた。アルコールには強いはずの体、だが今は、
気分が悪い。
 ふと気付く。家の電話の、ボタンが光っている。それは留守電が入っているということ。
 ボタンを押して、再生する。
『あー、絃子か?』
 彼の声。知らず、彼女の頬は染まる。アルコールに、ではなく。
『こういうの、柄じゃねえんだけど、よ。誕生日、おめでとな……そんで俺の机の上に、プレゼントが
置いてあるから……あー……じゃ、な』
 照れ臭そうな言葉と共に、留守電は唐突に終わる。
 言われた場所には、細長い箱。その中には、銀のネックレスが、一つ。
「フン、いつも金がない、金がないと騒いでいるのに」
 誰も見ていないのに、うるむ瞳を誤魔化すように彼女は一人、自分に呟く。
 姿見の前で、プレゼントを身につけてみる。それは彼女の白い肌に、とても映えた。
「君にしては、いいセンスじゃないか」
 この場にいない、彼に絃子は感謝の言葉を捧ぐ。
 帰ってきたら、少し優しくしてやろうか。
 そんなことを思う彼女の顔は、先ほどとは別人のように、そして少女のように、ほころんでいた。
2007年02月23日(金) 20:55:39 Modified by aile_irise




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