IF13・ブービー

603 名前:ブービー :04/09/15 23:18 ID:wY0BtPbY
 体育祭の翌日、2-Cの一同は打ち上げとしてクラス全員でボーリング大会を行なっていた。
幹事は高野と冬木という、いかにも何かがありそうなメンバーである。
この大会には、隠していた頭を露呈し、沢近と踊りと色々あった播磨も参加していた。もちろん、天満の為にだ。
「天満ちゃんにいい所を見せてやる…!」昨日の疲れを見せない程の意気込みで乗り込んだ播磨。
だが、彼のレーンは場内でも一番隅。しかも、彼と同じレーンにいるのは、沢近ただ一人であった。
「何なのよこれは…隣のレーンは全員欠席してるし、これじゃあ私達だけ完全に孤立してるじゃない!」
幹事の高野に文句を言う沢近だったが、その顔からはさほど不満は感じられない。
「じゃ、ブービー賞とかガーター賞とか、景品は充実させてるから頑張って」
問題無しと判断した高野が取り合わずに去っていく。そして、残される二人…。
「くっ…こうなったらヒゲ、あんた優勝しなさい。そして景品を半分私にちょうだい」
「…あん?おいお嬢、何で俺がオメーの為にやらないといけねーんだ?テメーで勝てや」
「――生憎、どこかのハゲ駄馬の帽子を取ってやろうとした時に足を痛めたの。お陰でボーリングは泣く泣く見学…」
「ぐ…おい、あれはもう貸し借り無しに…くそっ、わーったよ!もし何か景品を取ったら、半分オメーにやるよ、お嬢!」
「負けるのは私のプライドが許さないから、全力で勝ちなさい」
満足げに沢近が播磨の肩をポンと叩いた。

 一瞬、深呼吸をした後、播磨は最初の投球に入った。
それを食い入る様に見つめるのは沢近だけ…だが、その後ろでは多くのクラスメートが二人を見ていた。
そんな事など知らず、播磨からボールが投じられた。
彼の力に見合わぬ、実にスローなボール。ボールはゆっくりゆっくりと右へ進路を変え、やがて溝に消えていった。
「…あんた、ボーリングやった事あるの?」
「いや、これが初めてだ」
「――ブービー賞とガーター賞のダブル受賞って所かしら…」
溜息をついた後、沢近が頭を抱えた。


605 名前:ブービー :04/09/15 23:18 ID:wY0BtPbY
 播磨は終始この調子を崩す事は無かったが、彼は会場を大いに盛り上げた。
彼に事実上の宣戦布告した者が現れたのだ。――そう、その者の名は天満。
天満は播磨に負けず劣らずガーターを連発。そのスコアは播磨と平行線を辿った。
優勝争いはほぼ麻生が勝利を確定し、大会への関心が薄れつつあった中でのこの激闘。播磨と天満の死闘に、多くの者が湧いた。
そして――


「――じゃあ、続いてはガーター賞。受賞者は…塚本天満さん」
楽しかった時間はあっという間に終わり、結果発表の時を迎えた。
高野が天満の名を呼び上げると、クラス中から惜しみない拍手が送られた。
天満のガーターの数は10、播磨は9。薄氷の勝利であった。
「塚本さんにはうまい棒120本が贈られます!…はい、塚本さん」
冬木が商品の入った袋を手渡すと、喜びを爆発させた天満はその場で開けて、皆に配り出した。
クラス全員からの歓声が、ますます大きくなる。
「はい、愛理ちゃん!播磨君もどうぞ!」
天満が満面の笑みで二人にもうまい棒を渡した。
「全員に一本ずつ配ってまだあんなに余ってるじゃない…ってかヒゲ、こんな駄菓子がそんなに嬉しい?」
不思議そうにメンタイ味のうまい棒を見つめる沢近。
ちなみに、播磨がうまい棒を喜んでいる理由は、彼の想い人から直々に手渡されたからに他ならない。



606 名前:ブービー :04/09/15 23:19 ID:wY0BtPbY
「――それでは、続いてはブービー賞。受賞者は――播磨拳児君」
高野の読み上げに一瞬沈黙が訪れたが、それでもすぐに大きな拍手が起きた。
スコアは播磨が9、天満は7。本当に、薄氷の勝利であった。
「ほら、行って来なさい!後で半分貰うから」
沢近に背中を押され、播磨が全員の前に出た。さらに拍手が大きくなり、柄にもなく照れる播磨。
「播磨君には、…あ、中身は自分で確かめてね。とにかく、おめでとう!そして、お幸せに――」
冬木が播磨に小さな紙袋を渡した。中身は全然見えない。
一同が中身は何だとどよめく中、痺れを切らした沢近が前に出た。
「中身は何なの?早く開けてよ!」
「おいおい、焦るなって。今――」
沢近に急かされ、播磨は紙袋の口を開け――そして、すぐに閉じた。
「ちょっと、全然見えなかったんだけど!よく見せてよ!」
「悪い、お嬢!やっぱこれは俺一人で貰うわ!」
「ふ、ふざけないでよ!半分くれるって約束したじゃない!」

「…ところで高野さん、あの紙袋の中身は何?景品は皆高野さんが決めたんだよね?」
クラスメートの前で喧嘩をする二人を見ながら、冬木が尋ねた。
「ああ、あれ?ただの精力増強剤。男用と女用を一本ずつ。
 天満と彼でワンツーフィニッシュするのは予想してたからね、ちゃんと景品にしておいたんだ」

「一人占めしようったって、そうはいかないから!さあ、見せてよ!」
「うわっ!?おい、マジでやめろって!!」
播磨の持つ紙袋に沢近の手が掛かるの見て、冬木はひたすら笑いを堪えた。
2007年03月05日(月) 23:20:18 Modified by aile_irise




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