IF17・月に吠える

824 名前:Classical名無しさん :04/12/05 10:40 ID:kZh8KsUY
流れを無視して、>>549氏と今週号読んで思いついたガンダムSEEDネタ投下します。
SEEDネタって言うか、今号シチュエーションがアレだったんで思いついたんですけど、むしろ本編のIFな感じでSS書きました。
つまらなさそうとか、元ネタありは嫌とか、っていうかそもそも種自体が(ry
って人はIDをNG登録おながいします。あと今週号(1号)のネタバレも含んでいます。まだ読んでない人は気をつけてください。
舞台は今号の最終コマから。


825 名前:月に吠える。 :04/12/05 10:41 ID:kZh8KsUY
矢神高校、屋上――。
「許してくれなんて言ったか?」
 月を背にポーズを決める播磨。
「貴様…どこまでも!」
 ギリッ……。
 歯噛みする花井。
 播磨に合わせサイドアームの拳銃を手に取り、弾倉を確認する。
 眼前の敵を睨みつける。サングラスの所為で相変わらず表情は読めない。
(…美コちゃん)
 かつての自分、弱かった自分。
 彼女のようにあろうと誓ったあの日が、花井の胸に昨日のことの如く蘇る。
 美コちゃんが今の自分にとっての原点であり、「正義」の象徴だ。
「…それを…!」
 それをこの男は踏みにじったのだ、目の前で!
 銃把を握る手にも力が入る。
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
 花井の咆哮が合図となった。
 ダンッ!
 ほぼ同時に地を蹴り、両者の距離が一瞬にして縮まる。
 パパン!
 すれ違いざまの射撃。
 しかし、射線はお互いの体を外れ、弾丸は夜の闇に吸い込まれていく。


826 名前:花井、播磨。直情バカ。 :04/12/05 10:42 ID:kZh8KsUY
「チィ!」
 歯噛みする花井。
 すぐさま体勢を立て直し、播磨へと銃口を向ける――。  
「!?」
 だが、もう人の影はなかった。
 かわりに背後から叩きつけられる殺気。
「!!」
 パァン!
 銃声。
「うっ!」
 弾丸が頬を通り過ぎた。しかし命中はしていない。
 花井は振り向きざまに一発射撃する。
 それは難なくかわされたが、体を立て直すには充分な時間を得た。
 播磨が撃ち、花井も応戦する。二人の動きは止まる事はなく時間が過ぎていく。
 跳弾が花井の頬をかすめる、しかし怯むことなくトリガーを引く花井。
 パパンッ! パァン! パンッ!
 やがて二人の動きが同時に止まった。
「「……!」」
 弾切れだ。
 播磨は空の弾倉を捨て、新しくカートリッジを入れ替える。
「……やるじゃねぇか」
 皮肉を込めた播磨の笑み。
 しかし花井は、黙して何も語らなかった。





827 名前:塚本天満、天然バカ。 :04/12/05 10:43 ID:kZh8KsUY
既に戦闘の収束した喫茶店軍本陣。
 ピリリリリリッ……。
 無機質な携帯電話の着信音が響く。
「失礼」
 高野晶が携帯電話を開く。
 届いたメールの本文を、天満と烏丸両方に届くよう音読する。
「……屋上で雌雄を決する最終決戦が始まったそうだよ。生き残った戦士は…花井君と播磨君だそうだ」
 ぴくん!
「花井君と播磨君が……」
 コク、と無言で肯定する晶。
「……」
 ダッ!!
 一瞬のとまどいの後、一気に廊下へと駆け出す天満。
「塚本さん」
 ぴょこん!
 烏丸の声を感知したかのように天満のアンテナが動く。
「…止めないで、烏丸君」
 ぽつり、と天満。
「播磨君を助けなきゃ…! 播磨君が負けちゃったら、今までやられたみんなの思いが、烏丸君の決意が、みんなムダになっちゃうんだよ……だから!」
 スゥ、と深呼吸する。
「止めないで。烏丸君」
 想い人へ、少しの覚悟と少しの勇気を秘めた瞳で告げる少女。
 一歩足を踏み出す。勢いをつけて、彼女は迷いなく屋上へと駆けていった。
「…………」
「…………屋上ね」
 ぼそっと、晶。
 そして、烏丸はついぞ天満に「襟元の糸ほつれてるよ」という忠告は告げられなかった。


828 名前:花井春樹、周防美琴とは幼なじみ。基本事項。 :04/12/05 10:44 ID:kZh8KsUY
「播磨ァァ――――!!」
「うおおお…っ!」
 いまだ激しい銃撃戦が続く屋上。
「キサマが周防を! …周防を殺したァァ!!」
「死んでね、っつの!」
 激昂する花井の驚異的な戦闘力に圧される播磨。
(…ッそ! このままじゃジリ貧だ…!)
 心中で毒づく。
 こちらが引き金を引けば既に花井の姿はなく、体勢を崩せばすぐに敵弾が飛んでくる。
 もはやいつ撃墜されてもおかしくない状況におかれている播磨。
 今の彼には常に照準に捉えられないよう逃げ回る事しかできない。
 その時。
 バァン!
 勢いよく開け放たれる屋上の扉。
「播磨くんっ!」
 そこに、塚本天満の姿があった。
「天――塚本っ!?」
 これは運命か。自然と播磨の顔が綻ぶ。
「助けに来たよ!!」
 パンッ! パンッ! パンッ!
 と、銃を乱射する天満。
(助けに――? マズイ!)
 播磨は天満が銃を向けている相手が誰なのかを思い出した。
 質実剛健、2−C歴戦の勇士。花井春樹だ。
「天満ちゃん! ダメだっ、来るな!!」
 とっさに叫ぶ播磨。


829 名前:Classical名無しさん :04/12/05 10:45 ID:Z8IxTg7U
オンドゥルルラギッタンディスカー!!


830 名前:閃光の、刻。 :04/12/05 10:45 ID:kZh8KsUY
「チッ!」
 舌打ちして、銃口を天満に向ける花井。
 そこからの出来事は、播磨にはスローモーションに感じられた。
 パァ…ン…ッ!
 引き金を引く花井。
 銃弾はまっすぐ天満の元へと引き寄せられる。
「あ……っ!」
 そんな天満の最期の悲鳴を聞いたような気がする。
 ゆっくりと屋上のコンクリートへと傾く天満。 
「あ……あぁ…あ……あ…!」
 声にならない悲鳴を上げる播磨。
 ドサァ、と地面に倒れ伏す少女。
「天満ちゃんッ!!」
 ズル…。
 播磨のサングラスがズリ落ちる。
「…………」
「…………」
 沈黙が二人を包み、月だけが彼らの動向を見守る。。
「……くぅ……ッ!!」
 ギン! と眼光鋭く花井を睨みつける播磨。
 パキィン!
 播磨のサングラスが地に落ち、弾ける!


831 名前:塚本天満、戦闘時間12秒。 :04/12/05 10:51 ID:kZh8KsUY
「メェガネ゛ェェェエ゛エ゛ェェ!!」
 まさにそれが合図になったかのような獣の如き絶叫。跳躍。
 力いっぱい仇敵の名を……名ではないが叫び、一発花井の顔面に撃ちこむ!
 ビシ!
「ぐ!」
 幸いサングラスが銃弾を引き受け、大事には至らなかった。
 しかし、播磨はそのまま勢いを活かし花井の顔に上履きをメリ込ませる!
 ドゴォ!
「ぐうぅ…っ!」
 播磨の飛び蹴りを受け、端正な顔立ちを歪ませる花井。
 体勢を立て直す為、一旦後ろに跳ぶ。
(キサマがどんな傷を負おうが!)
 一瞬浮かぶ在りし日の美琴の笑顔。
「僕が……!」
 鬼気迫る播磨の顔をターゲットに捉える!
「お前を討つ!!」
 パリィン!
 花井のサングラスがコンクリートを跳ね、砕ける!
 パン! パパンッ! パンパンッ! パァン!!
 再び始まる凄絶な撃ち合い。
 花井の肩に、腕に、播磨の銃弾が食い込む。
 しかし花井は拳銃のトリガーを休むことなく引き続け、殺意の雨を播磨に降らす。
 だが播磨は怯まない。たとえ脚に、胸に花井の銃弾が突き刺さろうとも、退けぬ訳がある!


832 名前:最終手段。ちなみにこれはサバイバルゲーム。 :04/12/05 10:52 ID:kZh8KsUY
「メガネェェェェェェ!!」
「播磨ァァァァァァァ!!」
 月に吼える二人の漢。
 カチッ!
「!」
 播磨の片方の銃が沈黙した。そこに生まれたスキを逃さんと、地を蹴り距離を詰める!
 花井は一気に肉迫し播磨の鳩尾に銃を突きつけた!
「ぐっ!」
 ニヤリ……。
 口の端を歪め、指をかけたトリガーに力を込める…!
 カチッ!
「…ッ!」
 カチッ! カチッカチッ!
 何度もトリガーを引く。しかし、弾丸がバレルを通る事はなかった。
 弾切れ。その現実を突きつけられた花井は歯噛みする。
「…く……チィッ!」
 ガシャン!
 何を思ったか花井は突然銃を捨てた。
「えっ!?」
 おもわず漏れる播磨の呟き。
 そして花井は固く拳を握り締め、播磨の顔を――!
 バチッ!
「ぐわっ!?」
 ――殴れなかった。


833 名前:高野晶、傍観者。…のハズ。 :04/12/05 10:58 ID:kZh8KsUY
 ドサッと音を立てて崩れ落ちた花井の変わりに現れたのは、高野晶だった。
「…………」
 ……片手にスタンガンを持って。
「………えっと…」
 状況がつかめず困り果てている播磨に、晶は一言こう告げた。
「ジャッジメント」
 ジャッジメント。確か裁きだとか審判とかそんな意味の言葉だったはずだ。
「花井君が体に弾を受けたのにそのまま戦闘を続行した。だからジャッジメント」
 あー、そっか。と納得しかけて、播磨はあることに気付く。
「……じゃあその場で止めりゃあよかったじゃねえか。だいたいお前、いつから……」
 んー、と唇に人差し指を当て、
「おもしろかったから」
「……」
 絶句する播磨。
 ピリリリリリリ…。
「…!」
 再び鳴る携帯電話の電子音。晶は携帯電話を開く。
「もしもし。…ええ。たった今、全ての戦闘が終了しました。……ええ。楽しみにしておいてください」
 パチン。
「さて、これから放送室にいかなきゃね。キミはカレを連れて教室へ」
 ぴっ、と花井のなきがらを指差す晶。
 そして、同じく戦死していた天満を連れ校舎の中に消えていく。
「………どうすりゃいいんだ」
 対花井戦により昂ぶった感情の捌け口を失い、しばらく自失する播磨だった。


834 名前:おしまいです。 :04/12/05 10:59 ID:kZh8KsUY
 後にこの戦いの戦績には、こう記されることになる。
 
 ――花井の自爆と。



 後日。
『美コちゃ――――ん!!!』
『キサマが周防を! …周防を殺したァァ!!』
『僕が……! お前を討つ!!』
 高野晶サバゲーベストセレクションが上映され、花井春樹は多大な拍手とひやかしと、周防美琴のイジメを貰ったそうだが、
 それはまた別の話。


835 名前:Classical名無しさん :04/12/05 11:09 ID:kZh8KsUY
というわけでスレ汚し失礼しました。
最初はほんの小ネタのつもりだったんですが、思いのほか長引きました。
楽しかったから満足です。でも正直ドキドキもんですわ。いいのかな、コレ!?
2007年05月31日(木) 01:49:19 Modified by ID:Q0jlQ7pRPw




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