IF19・黒い修道女

974 名前:Classical名無しさん[sage 埋め] 投稿日:05/02/26 22:54 ID:zdPRa9Yo
──以下は某高校文化祭の出店、カフェSでの出来事である。
暴露にあたって関係者からの復讐が予想されるので
人物・場所・時期などが特定できないよう配慮した。あしからず。


「すいませーん、ツナサンド1、ミルクティー1お願いしまーす!」

シスターの格好をした金髪の少女が厨房に元気な声をかける。が、調理場からの返事はなかった。
この時店内の混雑ぶりは最高潮に達しており、調理担当の者まで接客に駆り出されていたからである。
と、そこへシンクで皿洗いをしていたメイド服の女性が顔を出した。

「うん? 注文か? 今人が出払ってるんでちょっと待ってくれ」

そう言って調理場へと入っていったメイドだったが、
すぐに出てくると眉間にしわを寄せて、

「……まずいことになった。材料が切れてる」
「えっ本当ですか? 部長の指示でわりと買い込んであったと思いましたけど…」
「どうも彼女の読み以上だったようだな……この盛況ぶりは」
「じゃあどうしましょうか? 事情をお話して別オーダーに変えてもらいますか?」
「イヤ、本当にロクなものが残ってないんだ。紅茶すら見当たらないし……」
「えっと、どんなものが残ってます?」

メイドに続いて厨房に入ったシスターは
調理台にのせられた貧弱な食材の群れをしばらく見つめていたが、
ぽん、と手を叩くとメイドに向き直り、

「うん、これならどうにかなりそうです!」
「どうにかなる……のか?? いくらなんでもこれじゃあ…」
「大丈夫ですって。まかせといて下さい!」

一面に花が咲いたような笑顔を見せると、シスターは調理台に立ち何やら腕をふるい始めた……

975 名前:Classical名無しさん[sage 埋め] 投稿日:05/02/26 22:55 ID:zdPRa9Yo
              ◆


「……お待たせしました、旅のお方。さぞお疲れになったでしょう。まずはこれを…」
「ありがとうございます、シスター。じゃあ早速……ってなんだコレ!?」
「レタスサンドパセリ添えとホットチョコレートでございます」
「いや、ございますじゃなくって! 俺が注文したのはツナサン──」
「呪いが解けなくてもいいんですか!?
 生まれてからの年月がイコール『彼女いない歴』になってしまう呪いが!」 【恫喝】
「ひっ!? い、いえそういうわけでは… ただこの料理は一体…」
「よくぞ聞いてくれました。
 実はこの料理こそが貴方を忌まわしい呪いから解き放つ、聖なる食物なのです」 【嘘】
「ええっ! ほ、本当ですか!?」
「そうですとも。このサンドイッチに使われているレタスとパセリは古来媚薬として用いられ、
 かのクレオパトラもローマの将軍アントニーを虜とした時使用したとか」 【つかみ】
「クレオパトラって聞いた事あるな…… でもこっちのチョコレートは?」
「そちらも同様です。カカオの香りは脳内麻薬ドーパミンを多量に分泌させる作用があって
 一説にはチョコレートを好む男性の82%は初対面の女性に好意を持たれるそうです」 【ハッタリ】
「マ、マジで!? そういうことならありがたくいただきます!」
「主も『モテるものはますますモテ、モテざるものもようやくモテ』と仰られています。
 存分に食べて呪いを解いて下さいませ。……ちなみに量が多ければ多いほどよい、とも仰られています」
「シスター、追加注文お願いします! 同じのあるだけ持ってきて!」
「かしこまりました。それではごゆっくり…………♪」

976 名前:Classical名無しさん[sage 埋め] 投稿日:05/02/26 22:56 ID:zdPRa9Yo
              ◆


かくしてシスターは店の余り物を一掃することに成功した。
彼女の『何もかも主のお導きのおかげです』という言葉を
素直に受け取った者がいたかどうかはわからない。
なお、帰宅後数日間に渡って同じメニューを食べ続けた男子高校生の
『呪い』がどうなったか、さらに数日後新聞の地方面のかたすみに載った
『食中毒?同クラスの男子全員入院』の記事の因果関係について詳らかにすることは
多少の哀しみに耐えなければならない事に加え、
わが身の危険を思えばここで筆を置くことがよさそうに思える。


黒イ修道女・完
2010年11月17日(水) 14:20:17 Modified by ID:/AHkjZedow




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