IF19・銭湯にて

17 :銭湯にて :05/01/21 12:34 ID:.4eL4Ft6

 姉さんが学校に泊まると言った日の夜、電話が掛かってきた。
「あ、八雲? 皆で銭湯にいくからおいでよ!」
 姉さんからの電話だった。
 クラスの有志で行くことになったらしい。
「え…でも……」
「だーいじょーぶ! 播磨君も来るよ!」
 断ろうと思った矢先、あの人の名前が出た。
「え…播磨さんが…」
 播磨さんと聞いた途端、伊織がピクッと反応した。
 ここ暫く逢っていない。あの人に逢いたい。
「うん。わかった、行くね」
 待ち合わせ時間を聞き、支度をはじめた。
「伊織も一緒に行く?」
 振り返って聞くと、嬉しそうに鳴いた。
 私は伊織を抱き上げて、銭湯に向かった。



18 :銭湯にて :05/01/21 12:58 ID:.4eL4Ft6

 歩いて10分程の所に銭湯はあった。
「あ、来た来た。おーい、こっちこっちー!」
 姉さんがブンブンと手を振っていた。
「八雲君! よく来てくれた! さあ…」
 ドゴォという音と共に花井先輩は周防先輩に蹴られていた。
「ワリィな、八雲ちゃん。気にしないでいいからよ」
「は、はい」
 周防先輩に恐縮して、周りを見渡すとあの人がいた。
「ニャー!」
 先に気付いた伊織が、あの人に走り寄る。
 あの人は伊織に気付いて、抱き上げた。
「お、久しぶりだな。元気だったか?」
 伊織はゴロゴロとじゃれていた。
(いいな、伊織…)
 そんな風に思ったら、あの人が声を掛けてくれた。
「妹さんも、久しぶりだな。わりぃな、忙しくて」
「い、いえ。元気そうで安心しました」
 久しぶりの会話。それだけで嬉しかった。
「じゃ、風邪ひく前に入るか。またあとでな、妹さん」
 伊織にも、ここで待っててくれと言って、あの人は入っていった。



20 :銭湯にて :05/01/21 13:23 ID:.4eL4Ft6

 脱衣所で、周防先輩が注目を集めていた。
「やっぱり大きいわね、美琴」
 沢近先輩が、周防先輩の胸をまじまじと見つめる。
「ずるいよ美コちゃん、私にもわけてよー!」
 姉さんが自分の胸と比較して、叫ぶ。
「バッ、バカヤロー 大きくたって良いことねーんだよ」
 真っ赤になりながら、否定する周防先輩。
「さ、胸は後でいいから、入りましょ」
 高野先輩の一言で、皆浴場へ進んだ。



23 :銭湯にて :05/01/21 13:40 ID:.4eL4Ft6

 広い湯船に皆でつかる。
「ふう、気持ちいいねぇ、八雲」
「うん。そうだね、姉さん」
 温かさが、体の疲れを癒してくれるようだった。
(いい気持ち…)
 目を閉じて、そう思っていると、姉さんが大声を挙げた。
「ミ、美コちゃんの胸がお湯に浮いてるー!」
 皆の注目が周防先輩に集まる。
 確かに浮いていた。さっきよりも大きく見えた。
(あんなになるんだ…いいな…)
 姉さんの声は男湯にも届いたらしい。
「今鳥が鼻血出して倒れたぞー!」
「貴様ら、なに股間を押さえてる!」
 花井先輩たちの声が聞こえてきた。



25 :銭湯にて :05/01/21 14:34 ID:.4eL4Ft6

 皆の騒ぎをよそに、ふっと思い出した。
(いけない、伊織を待たせたままだった)
 そのことを皆に伝えて、一足先に銭湯を出た。
「伊織ー! どこー?」
「おう、こっちだ妹さん」
 少し離れたところから、あの人の声がした。
 暗がりで、伊織を撫でていた。
「すいません、播磨さ…」
 そこまで言って、私は呆然とした。



26 :銭湯にて :05/01/21 14:38 ID:.4eL4Ft6

 そこには、髪を下ろした、美形の男の人がいた。
「? どうした、妹さん?」
 その声は、確かに播磨さんだった。
 初めて見る、素顔。
(サングラス…しない方がいいのに…)
 思わず、見とれてしまった。
「おーい、いもーとさーん」
 そう言われて、我に返る。
「あ、あの…サングラスは?」
「ああ、したまま入るワケにもいかねえからよ、外したら皆が騒いで壊れちまったんだ」
「そうですか…でも、こんなに早くなのは?」
「たぶん、理由は一緒だ。コイツが気になってな」
「あ…」
 肩に乗せた伊織を撫でる。
(やっぱり、播磨さん…)
「さ、妹さん、送ってくぜ。行こうか」
 そう言って、歩き出す。
(皆に見せたくない。でも、サングラスはしない方がいい)
 私は播磨さんにお願いをした。
「あの、播磨さん。私だけに素顔を見せてくれますか?」
「な?」
 私の申し出に、戸惑っている。
「だめですか?」
「わ、わかった。二人だけの時に、な?」
 了承してくれた。これで、素顔はわたしだけの秘密…
2010年11月16日(火) 22:33:46 Modified by ID:/AHkjZedow




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