IF19・Bravery


311 :風光 :05/01/31 14:24 ID:NbjqeUqA

>288で書いたけど今回はこっちに投下してみます。
内容は永山さんのピュアラブものです。
彼女の登場回数って本編では少ないので結構苦労しましたけど何とか形にしてみました。

タイトルは『Bravery』。どうぞ。



312 :Bravery :05/01/31 14:25 ID:NbjqeUqA

「――この戦いが終わって2人とも無事でいたら……デ、デートしようぜ」
 彼のその言葉は私の心に響き渡った。
 そして、それは私たちの関係が変化した瞬間。
 私こと永山朱鷺と彼、田中一也君との関係に変化が訪れた瞬間だった。

                       − Bravery −

 体育祭が終わって数週間。いい加減文化祭の出し物を決めようと放課後ホームルームを開くことになった前日、
私は自室の布団の上でまどろんでいた。
 考えるのは彼のこと。思慕の念は日に日に強くなり、抑え切れなくなっていた。
「いつからなんだろう。私があの人のことを気にしだすようになったのは……」
 独白するように呟き、私は記憶の海を探る。
 けれどいくら考えても、覚えていないことに気付く。
 いや、始まりなんてなかったのかもしれない。
 ただ日々の積み重ねの中で、徐々に彼のことを目で追うようになっていただけのような気がする。
 けれどそれを口にすることなんてとてもじゃないが出来なかった。
 私は……臆病だから……。



313 :Bravery :05/01/31 14:26 ID:NbjqeUqA

 ――あの日も私は彼のことを目で追っていた。

「うらぁ〜、そこだ、そこーっ」
 その日、クラスの男子の大半は休み時間に元気にゲームで遊んでいた。
 熱の入りようから考えるにおそらく賭けでもしているんだろう。
 『俺の昼飯がー』などと言う言葉が時々聞こえるから、きっとお昼ご飯を賭けての勝負だと思う。
 そんな子供みたいな賭け事、この年になって早々する人はいない。
 けれど我が2−Cはそれが日常茶飯事。
 そのことで委員長の舞ちゃんなどは時折『ホント、スカ引いたよねー』などと零してる。
 まぁ、気持ちは分からないでもないけど……。
 ……でも……。
「よっしゃー、これで一週間の昼飯代ゲットだーっ」
 どうやら彼を含め数人が賭けに勝ったらしい。
 嬉しそうにガッツポーズを取っているその姿を見てるとつい、笑みが漏れてしまう。
 なんて言うか彼を含めて男子は皆、見ていて微笑ましいのだ。
 その辺はクラスの女子の共通意見。
「その権利、ビデオ2本で譲ってくれろ」
「おい、イカサマじゃねーのか、今の」
 まぁ、一部例外はいるけど。
 あの2人とかはさすがに許容範囲外だよね。
 私は『一週間昼食を奢ってもらえる権利』を獲得した彼らから、あの手この手でそれを譲ってもらおうとしている
西本君やいちゃもんをつけている吉田山君を見て溜め息をついた。
「あー、心は動かされるがやはり昼食代が浮くのは魅力的だからな。わりーがなしだ」
 彼が断ると他の人たちも次々に提案を断った。
 そのことを少し嬉しく思う。
 まぁ、なんだ。男の子なんだしそう言うのに興味があるのはおかしくはないんだけど、
やっぱり気になっている相手がエッチな提案を飲むのを見るのはやっぱり嫌だ。
 そして話がついたところでタイミングよく休み時間が終わったことを告げるチャイムが鳴り響いた。
 すぐさま男子はゲームをするために持ってきていた机を戻し、ぞろぞろと自分の席にへと戻り始めた。


314 :Bravery :05/01/31 14:26 ID:NbjqeUqA

「あっ、私も戻らなきゃ……」
 遠巻きに友達とその様子見ていた私も、慌てて自分の席に付こうと急ぐ。
「邪魔だ」
「キャッ」
 不機嫌なのを隠そうとしない吉田山君が進行方向にいきなり割り込んできたので、私はよろけてしまう。
 一瞬たたらを踏み、机に手を付こうとするが失敗。
 そのまま床に尻餅を突きそうになった。……けれど不意に背中に力が加わる。
「大丈夫か、永山」
「え? あ、うん」
 偶然通りかかったであろう彼が、背中を支えてくれたのだ。
 私はすぐさま体勢を立て直し、姿勢を正すと彼にお礼を言う。
 けれど、そんな私に彼は気にするなと笑って席に戻って行ってしまった。
 私は彼を見送りながら、熱くなった頬を必死に隠した。
(ずるいな……)
 あんな風にサラリと優しくされるとまた好きになってしまう。
 これ以上好きになると彼の前で平静を保っていられなくなってしまうかもしれない。
 それははっきり言って拙い。
 意識しすぎたら彼とはもう、話せなくなってしまうもの。
(それに、あれくらいで赤くなっちゃダメだよね)
 私は席に着きながら小さく苦笑を漏らした。
 こんなことで赤くなっていては私が誰を好きかすぐ他人にばれてしまう。
 そう、私が田中君のことを好きだと誰かに知られるのは出来れば遠慮したかった。
 ……だって、恥ずかしいもの。

 ――そう、恥ずかしかった。
 私はそんな言葉を言い訳にして今の安寧とした関係に浸かり、想いを告げることを恐れていた。



315 :Bravery :05/01/31 14:26 ID:NbjqeUqA

 けれど弥が上にも月日は流れ、いつの間にか秋も深まり体育祭も終わってしまった。
 そして文化祭まであと少しという時期にまでなってしまった。
 なのに私は一向に自分の気持ちを田中君に告げられていない。
 お喋りはよくするし、仲は良いほうだろう。
 けれど告白するような勇気は私にはなかったのだ。
「このまま文化祭や修学旅行になっても今のままなのかな……」
 私は小さな声で気持ちを吐露した。
 私だって出来ればクリスマスやお正月は好きな人を過ごしたい。
 ううん、そんな大それたことをしなくても文化祭や修学旅行で一緒に回るだけで十分幸せだ。
 けどそれすらも出来そうになかった。
「勇気ないな……私……」
 つい溜め息が漏れてしまう。
 けれど勇気がないくせに目で追うことはしっかりとしている。
 そのことで今日、友達に何を見てるのって聞かれちゃうし。
 なんとかその場は誤魔化したけど、どうしても目で追うことを止められそうにない。
 ホント、一歩間違うとストーカーだよ。
(はぅ〜、どうしよ……)
 私は心の中で深い溜め息をついた。
 こんなことばっかりしてたら、そのうち彼に気付かれて変な女の子って思われちゃうかも。
 そうなったら告白も何もなくなっちゃうだろうな。
 だけど自分の気持ちを彼に素直に告げる勇気はないし……八方塞ってこの事を言うのかも。

 そうやって私は悶々とした日々を過ごしていた。




316 :Bravery :05/01/31 14:27 ID:NbjqeUqA

 ――けれど転機が訪れた。
 きっかけは次の日に行った文化祭のクラスの出し物決め。
 私たちのクラスは体育祭が終わったというのに未だに何をするのか決めていなかったので、そこで喫茶店か演劇の
どっちにするか投票が行われたんだけれど結果は同票数。
 そのことで播磨君と花井君が揉み合いになったんだけど(理由はよく分からないんだけど、どうしたんだろう?)、
高野さんが上手くその場を納めてくれた。
 大の男の人を相手に堂々と渡り合えるんだから高野さんって凄いなぁ。
 同学年のはずなのにクールな大人の女性って感じがするし……度胸もあってちょっと憧れちゃうかも。
 ……こほんっ、話が逸れちゃった。
 ともかく高野さんの提案で喫茶店チームと演劇チームに分かれてサバイバルゲームを行い、
勝ったチームの出し物を文化祭でやることになってしまった。
 普通ならそんな提案、却下されるような無茶っぽいものだけど、
うちのクラスはノリが良いし妙なカリスマを高野さんが発揮してたからあっさり了承されてしまった。
 けどそこまではまだ良い。私も結構そう言うノリって嫌いじゃないから。
 でもここからが本題。私は喫茶店に投票したけれど、田中君も同じく喫茶店に投票していた。
 つまり同じチームで戦うということになったのだ。



317 :Bravery :05/01/31 14:32 ID:NbjqeUqA

 ―――――そしてサバゲー決行の直前。
「はぁー」
 私は小さく溜め息をついた。
 そりゃ嬉しいことは嬉しいけど、同じチームってのはどうしても意識してしまう。
 話す機会はあるだろうけど、いざとなったら何を話していいのやら。
 いつも通り普通に? でも状況が普通じゃないし、うっかりぎこちなくなったら気持ちがばれちゃうかも。
 そう言う風に考え出すと、ちょっぴり憂鬱になってしまった。
「どうかしたの、永山さん」
「え? あ、周防さん」
 声を掛けてくれたのは周防美琴さん。
 クラスで一、二を争う美人で、スタイル抜群な女の子。なのに性格はさばさばしていて男女共に人気がある。
 一応このチームのリーダーの1人。他に花井君や実行部隊を率いる麻生君もリーダーって言うのかな。
「なんか溜め息ついてるけど、悩み事? ……あー、それとも今回の騒動、嫌だった?」
 周防さんの言葉に私は慌てて首を振った。
「じゃあ悩み事?」
「うーん、悩み事ってほどじゃないんだけど……ちょっと……」
「ふーん」
「あっ、ゲームはちゃんとやるよ。私も喫茶店したいもの」
 そう答えて、支給された銃を掲げた。
「そりゃ心強い。……けど悩みとかあったら言ってみな。あたしでよけりゃ聞くよ」
「うん、ありがとう、周防さん」
 ニッコリと微笑んだ周防さんに私も笑顔を返した。
 やっぱり周防さんって良いな。私もこのくらい気さくに話しかけられる人間なら、
田中君にもさっさと告白できたのかもしれないけど。
 高野さんみたいな度胸や周防さんみたいな快活さがあれば、きっと恋愛とかそんなに悩まずに済むんだろうな。
 というか2人や沢近さんみたいに綺麗だったらそもそも悩みなんて発生しないかも。
 他の男子と銃の種類やサバゲーについて熱く語っている田中君を見て、つい私はそんなことを考えてしまった。



318 :Bravery :05/01/31 14:33 ID:NbjqeUqA

 しかしてゲームは開始される。
 序盤は私たち喫茶店チームが有利に駒を進めていたはずなのに、途中から何かがおかしくなった。
 急激に戦力を削られ始め、防衛ライン内にいつの間にか沢近さんが侵入、仲間を次々に血祭りに上げていった。
 一応仲間が沢近さんに発信機を取り付けたのでそれを追って麻生君と菅君が追跡に向かったけれど、
襲撃を受けた本陣では仲間は散り散りに。
 私は直前にパソコンで麻生君たちをナビゲートする役目を任され、フォロー役を任された田中君の助けを得て
彼らに指示を出していたけど最早そんな余裕すらなくなってしまっていた。
 そしてそのまま2人で一緒にその場を脱出、バリケードを作り抵抗を試み始める。
 本当だったら嬉しいはずの田中君との2人きりの状況。けれどそのことを喜んでいられるような余裕は
私の中にはこれっぽっちも残っていなかった。
 死体が転がり銃弾が飛び交う中、私たちは必死の抵抗も空しく徐々に追い詰められていく。
(もうダメかな……?)
 私は半ば諦めていた。
 彼に告げたとおり残弾数はゼロ。もしかしたらもう向こうもそれに気付いているかもしれない。
 空撃ちで誤魔化すような無駄な真似はせず、ここは潔く覚悟を決めたほうが良いんじゃないだろうか。
 弱気にも私はそんな事を考え、彼の顔をジッと見つめた。
 その時不意に彼は私の手に触れてきた。
 何事かと思って驚いていると、彼は何かを決意するように息を吸い、真剣な表情を私に向けた。
「あ……あのさ。もし……この戦いが終わって2人とも無事でいたら……」
 彼の言葉は響き渡る弾丸の音の中でもはっきりと聞こえる。
 そして一拍置き、彼はこう言った。
「デ、デートしようぜ」
 一瞬何を言われたのか理解できず、私は大きく目を見開いてしまった。
 けれど徐々にそれの意味するところが分かり私は顔を真っ赤にしながらもしっかりと頷いた。
「…………………………う、うん」
 彼はまだ諦めていなかった。そしてその上で生き残ろうと。生き残って恋人になろうと言ってくれたのだ。
 それはまさに告白紛いの言葉。
 嬉しかった。本当に嬉しかった。
 田中君のほうからそんなことを言ってくれるなんて夢にも思わなかったから。
 私は今の状況も忘れて彼に抱きついしまいそうになった。


319 :Bravery :05/01/31 14:33 ID:NbjqeUqA

 ……けれど現実はいつだって残酷だ。
 いつの間には銃弾の音は消えうせ静寂が支配する中、私たちはいつの間には背後の立っていた何者かに
揃って撃ち殺されてしまった。
 それは約束が消える瞬間。生き残るという約束も恋人になるという約束すらも消え去ってしまったような瞬間だった。
 想いは告げられたのに……告げたのに……。

 結局ゲームの勝敗は私たち喫茶店チームの勝利で終わった。
 なんでも喫茶店チーム唯一の生き残り、花井君と演劇チーム唯一の生き残り播磨君が直接対決し
その結果花井君が勝利を収めたとのことだった。
 けれど私にとっては最早あまりそのことは関係なかった。
 ゲームの終わりが告げられ、死体の振りをするのを止めたとき、折り重なるように倒れていた田中君が
私のことを全く見ずにその場を立ち去ってしまったこと。
 それだけが私にとって唯一の事実だった。




320 :Bravery :05/01/31 14:33 ID:NbjqeUqA

 次の日から私たちの関係は明らかに変わった。
 全く話さなくなってしまったのだ。
 別に嫌いになったわけではない。と言うかそれは絶対ない。
 なんとなく話しかけ辛くなってしまったのだ。
 どうしてもあの日のことが思い出されて恥ずかしく……そしてそれ以上に気まずかったのだ。
「結局デートの話はうやむやになっちゃうしな……」
 壁に背をもたれさせ、私は1人呟いた。
 返ってくる言葉は何もない。
 今、私たちは文化祭の準備の真っ最中だった。
 サバゲーまでして揉めに揉めた出し物だったけど、なんだかんだで
結局両方の出し物をすることに決定してしまったのだ。
 普通ならそんなことは無理だと思う。
 けど花井君が持ち前のリーダーシップを発揮してドンドンと下準備を進め、なんとかなりそうな所まで漕ぎ着けたのだ。
 そして現在私は休憩中。……サボりじゃないよ。
 と言うことで、他のクラスの出し物のために作られた看板やら背景やらが所狭しと置かれた屋上に私は座っている。
「どうしよ……」
 こんなに彼と話していないのは久しぶりだ。
 ほぼ毎日何かしら言葉を交わしていたと言うのに。
「周防さんは羨ましいな……」
 あの人は今回のことで花井君との距離が劇的に縮まったように見える。
 2人の組み合わせは一番お似合いだと思ってるから見ていて純粋に応援したくなるんだけど、
でも私たちの関係を省みるとちょっと切なくなってしまう。
「私たちも近づいたと思ったのにな……」
 花井君はあの日以降も周防さんに普通に話しかけてる。
 ううん、私たちが2人の関係を囃し立てても決して彼女と距離を取ろうとはしない。
 きっとそれは2人の関係に揺らぎがないからなんだろう。
 けどそれに反して私たちは距離を取ってしまってる。
「いつもならなにかしら田中君から話を振ってくれるのに……」
 何でだろう……。
 彼の方も私を嫌ってはいないと思う…………多分。
 ならば彼も気まずいのだろうか。


321 :Bravery :05/01/31 14:34 ID:NbjqeUqA

「……したかったな……デート……」
 もし出来たなら、それはとても楽しかっただろう。
 けどそれは『もし』の話であってもう空想の話でしかない。
「はぁ〜」
 私は深く溜め息をつき、顔を埋めた。
 不意に屋上のドアが開けられた。
 私は驚いてドアに顔を向けるとひょっこりと高野さんが顔を出した。
「どう、したの? こんなところに?」
「あなたを探してたの」
「……私を? あ、えっと、休憩時間終わってたっけ?」
 言って、私は自分の腕時計を確認した。
「いいえ、まだ大丈夫よ。私はただあなたに話があっただけ」
「私に?」
 なんだろうと首を捻った。
 それほどお話をする仲じゃないのにいったい私に何の話があるんだろう。
 高野さんは私の了解を取って隣にへと腰をかけた。
 そして一呼吸置くとズバッと切り込んできた。
「永山さん、悩んでるよね」
「え?」
「それも田中君のことで」
「ええっ!?」
 ズバリと言い当てられて私は素っ頓狂な声を上げて思わず後ずさってしまった。
 高野さんってエスパー?
 そんな私の心情を見抜いたのか、彼女は軽く苦笑を漏らすと種明かしをした。
「サバイバルゲームの時、田中君にデートに誘われてたでしょ」
「な、何で知ってるのか聞きたいんですけど」
「だってあの日の記録は全部取ってるもの」
 言われて思い出した。
 サバイバルゲームで起こった全ての事を録画、録音することを私たちは了承したんだった。
 そのことを思い出し、私は耳まで真っ赤になったのを自覚した。


322 :Bravery :05/01/31 14:35 ID:NbjqeUqA

「ああ、安心して。別に公表しないから」
「ホ、ホント? 信じていいんだよね」
「ええ」
「なら良いけど……」
 私はホッと胸を撫で下ろした。
 そこでふと気付いた。
「でもなんで悩んでるなんて思ったの?」
「ああ、それ。あの日を境にあなたたち、ぎこちないもの」
「え? そ、そう?」
「うん。なんと言うか意識的に話してないよね」
 言われて言葉を失ってしまった。
 全くその通りだったから。
「まぁ、気付いたのは冬木君に指摘されたからなんだけどね」
「冬木君?」
「そう。ここ最近あなたの表情が曇ってるって教えてくれてね。それもサバゲーの次の日から
だって言われたからピンと来たの」
「そうなんだ……」
 結構意外。冬木君って悩み事とか敏感に見抜く人なんだ。
 ……それとも知らず知らずにしっかり顔に出てたとか?
「あ、でもなんで高野さんがここに来るの? 私たちのこと、関係ないと思うんだけど」
 それほど親しい間柄じゃないんだからわざわざ心配してくるとは思えなかった。
「うん、まぁそうだね。けどあのゲームを企画した人間としては責任を感じてるのよ。
……それに一応クラスメートだしね。困ってるなら少しは手伝ってあげたいじゃない」
 その言葉に私はまじまじと彼女の顔を見つめてしまった。
 高野さんがそんなこと言ってくるなんて。いっつもクールで我関せずってイメージだったのに。
「そんなに意外かしら、私がそんなこと言うの」
「あ、そ、それは……」
「……まぁ、良いわ。それより教えてくれる? 力になれるかもしれないし……」
「…………う、うん……」
 一瞬迷ったが、私は彼とのここ最近のこと、そして自分の気持ちについて正直に告白した。




323 :Classical名無しさん :05/01/31 14:38 ID:edi.i5Cs

あqwせdrtfgyふじこlp


324 :Bravery :05/01/31 14:40 ID:NbjqeUqA

「そう言うこと……」
「うん……」
 私の言葉を聞き終えひとしきり頷いた後、高野さんはツイッと視線を向けた。
 なんだろうと思って見返すと、彼女は口元に小さく笑みを浮かべた。
「簡単じゃない。なら今度はあなたからデートに誘えばいいだけよ」
「え……ええーっ!?」
 あまりのことに一瞬思考が停止しかけてしまった。
 私が田中君をデートに誘う?
「で、出来ないよ、そんなこと」
「そう? でも一度お互いに意識してしまったんだもの、なにかきっかけを作らないと
ずっとぎこちないままだと思うわよ」
「で、でも……」
「どうにも話を聞く限り彼から再アプローチの可能性は低い。なら今度は永山さんから何かアクションを起こさないと」
「そうなのかもしれないけど……」
 私は大きくかぶりを振る。そんな真似、恥ずかしすぎる。
 男の人をデートに誘うだなんて……そんなこと一度もしたことないのに……。
「……したくないなら別にしなくても良いけど。……でもね、知り合いに何人か勇気が出せずに関係が一向に好転しない
娘たちがいるのよ。特に1人は意固地だし、1人は完全に気持ちを抑えようとしてる。
あのままじゃ後悔するのが目に見えている、そんな娘を何人か知ってるのよ。
だから出来ればあなたは後悔をしないように行動してくれるといいんだけど……」
「……高野さん?」
「何もせず後悔するより何かしたほうが断然後々利になるわ。幸いあなたの場合、彼の気持ちがあなたに傾いているのが
分かってるんだから行動を起こしたほうがベターよ」


325 :Bravery :05/01/31 14:41 ID:NbjqeUqA

「……ベストとは言わないんですね」
「まあね。人の心は移ろうものだから。こればっかりは絶対と言えないわ。……けどこのままぎこちない関係を
続けるよりはよっぽどマシな行動よ」
 彼女の言葉はひどく説得力があった。
 確かにこのままの関係なんて耐えられない。
 ……なら……それなら……。
「……仲良くなりたいんでしょ。なら動くべきよ。そうしなくては何も始まらないよ。
…………覚えておいて、臆病な恋は後悔しか生まないわよ」
「………………………うん」
 私は精一杯悩んだ挙句、しっかりと首を縦に振った。
 そうだよね。彼と話せないなんて嫌だものね。
 だったら……今度は私が動かなきゃ。彼がきっかけを作ってくれたんだもん。
「ありがとう、高野さん」
「気にしなくて良いわよ。ただ私はサバイバルゲームの責任者として責務を果たしただけなんだから」
「それでも言わせて。ありがと」
 私は高野さんに頭を下げると屋上の扉を開けた。
 そしてその場を立ち去った。
 動こう、今度は私が。だって……こんなに好きなんだもん。




326 :Bravery :05/01/31 14:41 ID:NbjqeUqA

 朱鷺が出て行って数分後、またも屋上の扉が開けられた。
「終わったかい?」
「ええ、まぁね。……ホント、こんな役割これっきりにしてもらいたいものね」
 晶は溜め息をつくと声をかけてきた人物を軽く睨んだ。
「まぁまぁ。そう言わないでくれよ。俺には荷が勝ちすぎる役目だったんだからさ」
「そうは言っても私にもこういう役目は似合わなすぎるわよ、冬木君」
 声をかけてきた人物はクラスのエロカメラマン、冬木武一だった。
 冬木は晶の言葉にまぁ、そうだけどねと肩をすくめて見せた。
 けれどすぐ、でも仕方ないよと首を振った。
「だからと言って他に頼める人間がいなくてね。他の人の言葉じゃちょっと説得力が足りない」
「美琴でも良かったはずよ。彼女は面倒見がいい性格なんだから喜んで引き受けたはずだよ」
「周防さんね。うーん、確かにそうだけど今は色々と微妙な状況じゃないか。恋愛問題に関しちゃあんま深く
関われる余裕はないんじゃないかな。まっ、微妙な状況に追い込んだのは俺らだけどさ」
 そう言って冬木は苦笑を漏らした。
 確かにクラス全体で花井とのことに対してからかい過ぎてる。
 ちょっと今の美琴に恋愛事を相談するのはタイミングが悪いだろう。
 その状況を作り出した張本人である晶もそのことが分かっているので、
彼の言葉にそれ以上何も言えなくなってしまった。
 冬木はそれを見て更に言葉を続けた。
「沢近さんや塚本さんも論外だしね。あっちは逆に本人が頑張れって言われちゃうよ」
「あれ? 愛理のこと、分かってるの?」
「なんとなくね。まっ、微妙な心境だろうけどさ。それに他の人間に頼むと余計なお膳立てまでしそうだしね。
ここは軽く背中を押すだけでいいはずだから、そんなことをやってくれそうなのは高野さんしか思いつかなくてね」
「嫌な認識ね。私、それほど他人の色恋沙汰に首を突っ込んで世話を焼いている自覚はないんだけど……」
「ふーん。……まぁ、結果としては良かったよ。これでいい写真が撮れる」
 冬木は持っていたカメラを構えると晶に向け、ファインダーを覗いた。


327 :Bravery :05/01/31 14:42 ID:NbjqeUqA

「せっかく綺麗なのに顔が曇ってちゃいい写真にならない。うちのクラスの女子は掛け値なしの美人が多いからね、
是非とも全員の美しい写真を撮りたかったから困ってたんだよ。……ありがとう、高野さん。
君のお陰でまた彼女の写真も撮ることが出来そうだよ」
 言葉と共に冬木はシャッターを切りカメラの中に晶の姿を収めた。
 絶妙のタイミング。冬木の言葉に微かに笑みを漏らした瞬間の絵を確実に捉えていた。
「……私なんか撮ってもいいことないと思うけど」
「まさか。いい写真だよ。少なくとも塚本さんや周防さんに匹敵するくらい輝いて見えるね」
「あら、ありがと」
 微かに口元を歪め、皮肉を込めたお礼を述べると晶は立ち上がった。
 それを見るともなしに、冬木は独白を続けた。
「最近やっと沢近さんのいい写真も撮れるようになったしね……このまま全員のいい写真が撮れれば万々歳なんだけど」
「そうね、それは私も願ってるわ」
 晶はそう呟くと冬木の方を振り返りもせず屋上を立ち去った。
 残った冬木は指でファインダーの形を取った。
 そしてそれを空に向け覗き込んだ。
「綺麗な風景や戦場の写真を取るってのもいいけど、やっぱ恋する女の子を写真に収める方が何倍もいいよな」
 誰に聞かせるでもなく、彼はポツリと呟いた。

                       〜 To be continued 〜
2010年11月17日(水) 00:10:46 Modified by ID:/AHkjZedow




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