IF19・Bravery Revolution

354 :風光 :05/02/01 18:38 ID:27xhTQPE

続き、投下します。
タイトルは『Bravery Revolution』です。



356 :Bravery Revolution :05/02/01 18:39 ID:27xhTQPE

 あれから一日が過ぎた。
 今日も文化祭の準備のため、突貫工事で作業が進められている。
 私もまたいつものように作業のお手伝い。
 喫茶店の看板に色を塗る作業をしている。うーん、結構大変かも。
 まぁ、今はほとんどの人が演劇の背景や小物を作るために駆り出されてるから、こっちの方に人員が回せないんで
実質1人で作業してるってことで余計に大変なんだけどね。
 それでも下書きはしっかりしてるし、色指定もちゃんとされてるから作業はし易く細かいところは
別の人がやってくれるらしいのでなんとかなると思う。
 数時間後、私は作業を終えた。
 何のトラブルもなく作業は順調そのものだった。
「次は何を手伝おうかな……」
 そう呟いて周囲を見渡していると不意に声をかけられた。
 同じクラスの雪野さんだ。
「あっ、永山さん。もう休憩時間だから休んで良いよ」
「え、そう? うん、分かった」
 なら休み時間の間どうしようかな。
 そう考えを巡らせていると雪野さんはそれでなんだけど、っと前置きをして手を合わせた。
「お願いがあるんだけど演劇の方の人たちにも伝えておいてもらえないかな。私、これから用があって」
「あ、うん、良いよ。伝えておくね」
「ありがとう」
 ぺこりと会釈すると雪野さんはその場から出て行った。
「さてと……」
 軽く息を吐くと私は演劇の準備をしている教室に向かって歩き出した。
 向こうはどのくらい進んでいるのかな。
 こっちは料理のメニューなども決まり、終わりが見えている状況だけど向こうは間に合うんだろうか?
 そんなことを考えながら私は教室の扉を開けた。
 そしてその場で固まってしまった。
(……田中君?)
 教室では田中君が1人で作業していた。
 今は背景に使うであろう板に金鎚を打ちつけているところのようだ。
 黙々と作業していて、どうやら私が入ってきたのに気付いていないようだ。


357 :Bravery Revolution :05/02/01 18:40 ID:27xhTQPE

 しばらくの間逡巡したが、息をゆっくりと吐いて私は歩き出すことを決めた。
 踏み締めるように一歩一歩確実に彼に近づいていく。
「あー、そこの釘抜き取ってくれないか?」
「え?」
「……早く」
「あ、は、はい」
 どうやら誰かが教室に入ってきたのには分かっていたらしい。
 おそらく私と気付かずに指示を出しているのだろう。
 慌てて私は近くにあった釘抜きを手に取った。
「はい、田中君」
「ああ、さんきゅ……………え?」
 受け取ってこちら側に視線を向けた彼はその格好のまま固まってしまった。
 まじまじと私の顔を見つめてくる。
 う〜、そんなにじっくりと見られると恥ずかしいな……。
「………永山?」
 疑問系で彼は訊ねてきた。
 他に誰に見えるんだろう。
「うん、そうだけど……」
 そう答えた瞬間、彼は驚いたようにその場を飛び去ってしまった。
 そしてその反動で釘抜きは床に叩き付けられてしまった。
「わわっ、床に傷がついちゃう……」
「あ、す、すまない……」
 慌てて釘抜きを拾い上げた私に彼は頭に手を置いて謝ってきた。
 もう仕方ないなぁ。
「うん、良いけど。でも気をつけなきゃダメだよ」
「ああ、悪かった。………ってそうじゃなくて。…………なんで永山がいるんだ?」
 深く頭を下げた彼は気づいたように顔を上げた。
 そして微妙に視線を外しながら訊ねてきた。
 ちょっとその態度が悲しい。でも久しぶりに会話できたからそれほどは気にならない。


358 :Bravery Revolution :05/02/01 18:40 ID:27xhTQPE

「えっと……休憩時間だってことを伝えに来たの。……それで他の人は?」
「え? ……あれ? どこ行ったんだ?」
 今気付いたとばかりに周囲に視線を向け、ポツリと呟いた。
 本当ならいろんな人が作業しているはずなのにどうしちゃったんだろう。
「先に休憩取っちゃったのかな?」
「たっく、声かけてけよ。……ああ、ともかくありがとな。そ、そんじゃあ……」
 彼はそそくさと私に背を向け作業を再開した。
「えっと……休憩しないの?」
「あ、ああ。あとちょっとでキリよくなるからな。だから行ってていいよ……」
 こちらに顔を向けずに答えると、田中君は作業に没頭し始めた。
 拒絶、されてるのかな? ……でもここで諦めちゃダメだよね。
 うん、今動かなきゃいけないんだよ、きっと。
「じゃあ、さ。私も終わるの待ってるよ」
「え?」
 彼は驚いて振り向いた。
 その途端、私と視線が合って慌てて顔を背けてしまった。
「あとちょっとなんだよね。なら待ってるよ……」
「い、いいよ、別に。さっさと休憩してこいよ。……ほら、誰か誘っていけよ」
 田中君はどうあっても私をここから追い出したいようだ。
 うん、気持ちは分からないでもない。やっぱり気まずいもんね。
 でもだからと言ってここで『はい、そうですか』とすごすごと引き下がることはしたくなかった。


359 :Bravery Revolution :05/02/01 18:40 ID:27xhTQPE

「いいよ、待っていたいの。……それにね……」
「…………それに?」
 彼は訝しげに視線を向けてきた。
 その表情に少し怯んだけど……でもここで逃げちゃダメだ。
 ……勇気を出さなきゃ。小さくてもいい、踏み出す勇気を出そう。
「……た、田中君に話したいことがあって……」
 ……言った。まだ何も始まっていないけどきっかけを作れた。
 凄い進歩だと自分では思う。
 彼はどう反応してくれるのだろうか?
「……話したい、こと……?」
 恐る恐る様子を伺うと、彼は目を見開きその言葉をかみ締めるように呟いていた。
 そして沈黙。
「田中、君?」
「……」
 どうしたのかと思って声をかけてみた。
 けれど反応は返ってこない。
「え、えっと……」
 どう、しよう……。
 リアクションがないと途方に暮れてしまう
 すると不意に彼は動いた。
 私に背を向け、ゆっくりと金鎚を床に置いたのだ。
「え? あの……」
「休憩に……しようか……」
「う、うん……」
 私が答えると彼はチラリと視線を向け歩き出した。
 その行動に私は慌てて彼のあとに続いた。




360 :Bravery Revolution :05/02/01 18:41 ID:27xhTQPE

 そうしてやってきたのは自動販売機の前。
 彼はコインを投入するとコーラのボタンを押した。
 そしてコーラを取り出すと新たにコインを投入し、彼は私に向かって訊いてきた。
「何が飲みたい?」
「……え?」
「飲みたいの、言ってくれ」
「あ、うん。ならホットの紅茶がいいな」
 私の言葉に頷くと、田中君はピッとボタンを押して紅茶を手に取った。
 そして私のほうを振り向くと軽い動作でそれを投げて寄越した。
「ありが……って、アツッ」
 受け取った私はあまりの熱さに驚いてお手玉をしてしまった。
 熱すぎるよぉ。
 私は慌てて手を袖の中に入れ、缶を掴んだ。
「ああ、熱いから気をつけて持てよ」
「お、遅すぎるって……」
 私は涙目になり、恨みがましく彼を睨んだ。
 先に注意してくれないと意味ないって、もう。
「悪かったよ」
 降参と言ったポーズを取って彼は謝った。
 けどあんまり悪びれてるように見えないんだけど……。
「イジワルだよ……」
 私は目に力を込めて、更に睨んだ。
 けど彼は意に介した風もなく私の側を通り過ぎると近くの石段に腰掛けた。
 私はしばらくに睨んでいたが、諦めて溜め息をつき彼の隣に腰掛けた。
「…………それで話って?」
 しばらく間を置いて彼は訊ねてきた。
 未だ熱くて缶を手の中で転がしていた私は、一瞬何を言われたのか分からなかったが、
すぐにそれに思い至り彼に真っ直ぐ視線を向けた。
「うん、あのね。この前のサバイバルゲームのときのことだけど……」
「ああ……」
 やっぱりと言った風に呟き、彼はコーラを口元に運んだ。


361 :Bravery Revolution :05/02/01 18:46 ID:27xhTQPE

 私はどう切り出したものかと悩んだけれど、上手い言葉が思いつかず、結局気持ちをそのまま伝えようと口を開いた。
「あれって本気だったんだよね。……あれね、私……」
 嬉しかったよ、そう続けようとして思わず言葉を止めてしまった。
「ごめん」
 そう、彼が謝罪の言葉を述べてきたからだった。
「悪いな、永山。あんな状況で言うべきじゃなかった。断れないよな、あんな風に言われたら……」
「あ、えっと……」
「状況に酔っててさ……つい。まぁ、結局はうやむやになっちまったけど……でもごめん、迷惑掛けて」
 本当に済まなさそうに呟き一気にコーラを呷った。
 そして大きく息をつくと更に言葉を重ねた。
「俺さ、お前の気持ち全く考えずに突っ走っちまったから。だから冷静になったらどうにも気まずくて
顔合わせられなくて、謝りそびれちまってた。……けどさっき永山に話しがあるって言われた時、
きっとこのことだなって思ってな。覚悟を決めたって訳さ」
 そこまで言い終えるとコーラを再び口に持って行き、中身が無いのを確認すると彼はゆっくり立ち上がった。
 その口元には小さな笑みが浮かんでいた。
 苦さを含んだ、悲しそうな笑みだった。
「ごめんな、嫌な思いさせて。永山に迷惑掛けたかったわけじゃないんだけど結果的に掛けちまった。
けどあれは……まぁ、犬に咬まれたとでも思って忘れてくれ。……悪いな、困らせて……」
 彼はそう言い終えると再び私に頭を下げ、その場から立ち去ろうとした。
 …………少しムカついてしまった。私はあんまり怒らない性質だけど今回はさすがに腹が立った。
「待って、田中君」
 私は言葉と共に立ち去ろうとした彼の袖口を掴んだ。
「っと……な、なに?」
 彼は戸惑った声を上げ、私を見た。
 けれど私は視線を向けず、未だ手の中にある缶を見つめながら呟いた。
「勝手に……人の気持ちを決めないで……」
「……え?」
「決めないでって言ってるの。いつ私が迷惑だって言ったの? 嫌な思いしたって言った?
言ってないよ、そんなことっ」
「……永山?」
「決め付けたりしないで……。私……私は……」
 そこで私は大きく息を吸い込んだ。


362 :Bravery Revolution :05/02/01 18:47 ID:27xhTQPE

 これから告げることはそれほど勇気を必要とすることだから。
 ……でも今なら言える、はっきりと。
「嬉しかったんだよ、あなたからデートに誘われて」
「……え?」
 彼が息を呑んだのが分かった。けれど私は構わず言葉を続けた。
「凄く嬉しかった。言ってもらえたら良いなって言葉だったから。そのくらい嬉しくて……だからあの時頷いたんだよ」
 我知らず缶を握る手に力が篭った。
「なのにそんな風に言われたらどうしたら良いか分からないよ。迷惑なんかじゃないのに……全然嫌じゃなかったのに……
なのにそんなこと言わないでよ……」
「永山……」
「ずっと……ずっと前からあなたのこと好きだったんだよ……」
 そこまで言い切ると、途端に力が抜けた。
 彼の袖を掴んでいた力が緩み、手が離れてブランと垂れ下がってしまった。
 言っちゃったな、とうとう。
 けどもう少しロマンチックな場面で伝えたかったな。何で怒りながら言ってるんだろ。
 そう考えると悲しい気持くなっちゃうな。
 そう思ってると不意に周囲の空気が動いた。
「わりぃ……」
「田中……君?」
 私は恐る恐る顔を上げるといつの間にか目の前に田中君が来て、片膝を立てて座っていた。
 すると彼は私を見て、ひどく申し訳なさそうな顔をしてしまった。
「すまない。また俺、先走りすぎてた。あの日もそうだけど今日も全然お前の気持ち、思いやっていなかった」
「あ……」
 無造作に垂れ下げた私の手を彼はそっと触れてくる。
 そして私の瞳をじっと見つめた。
「俺、前からお前ともっと仲良くなりたいって思ってたんだ。けどそんなことストレートに言うの恥ずかしくて
なかなか言い出せなくてさ……。けどずっと気持ちは抱えてて………あの日、場の雰囲気に押されて
それに流されるようにデートしようって言っちまったんだ。…………でも雰囲気に押されてだろ?
俺、お前が俺のことどう思ってるのか全然知らなかったから怖かったんだよ。……受け入れてくれたけど
あれは本心じゃなかったんじゃないか? そう考え出したら普通に話せなくなっていって……」
 彼は触れる手に力を込めた。


363 :Bravery Revolution :05/02/01 18:47 ID:27xhTQPE

「それにデートの約束もおじゃんになったろ。だから話題に触れずらくてさ。……かっこ悪いよな。
お前の気持ちをちゃんと聞くのが怖いから、お前と面と向かって話すのが気まずいからって
露骨に避けて距離を置いてさ……。でもそのくせそう言う状態に耐えられなくなると今度は一方的に関係を戻そうと
あの事を無かったことにしようするなんて……。ホント、マジでかっこ悪すぎだ」
「そんな事、ないよ。私だって気まずくて顔合わせづらかったもの。だからおあいこだよ」
 額に手をやり自己嫌悪に陥ってる彼に私はゆっくり語りかけ、微笑んだ。
 けれど彼は小さく首を振った。
「いいや。やっぱ俺は格好悪いよ。悪すぎる」
「なんで……そんなこと言うの?」
 私がそう言うと彼は視線を逸らし微かに顔を赤らめた。
 不思議に思って首を傾げると、彼は小さく息を吸い込んで呟いた。
「……好きな子を泣かせてんだから、情けないに決まってるだろ」
「え……?」
「……気付いてないかもしれないけど永山、泣いてるから」
 彼の言葉にしばし呆然とする。
 缶を置いて頬に触れれば、確かに言われたとおり涙が流れていた。
 私は恥ずかしくてカァーッと顔を赤くしてしまった。
「だからかっこ悪いんだよ。……泣かせたくなんてなかったけど結果として傷つけちまった。だから……ごめん」
 彼は自分自身を激しく責めているようだった。
 そんな風に謝らなくて良いのに。
「大丈夫。謝ることないから。私ね……」
 キュッと握ってくれている彼の手を握り返した。
 そのことに彼は驚いて顔を上げた。
「田中君が私のこと気にかけてくれるだけで嬉しいから。……だからもう良いよ」
「けど……」
 私はそれ以上彼が何か言うのを人指し指で制し、少しだけ悪戯っぽく笑みを浮かべる。


364 :Bravery Revolution :05/02/01 18:48 ID:27xhTQPE

「……それに格好悪くなんてないよ。……だって、私が好きになった人ですから」
 すると途端に田中君は顔を更に赤らめてしまった。
 そして恐縮したように頭を下げた。
「ホント、悪かった……」
「もう。だから謝ることはないんだから」
「け、けどさ……」
 ポリポリと頬を掻き、田中君は困った顔をしてしまった。
 まだ罰が悪いって思ってるのかな。
 でも私はもう良いんだけどな。
 彼が好きって言ってくれて、ちゃんと向き合ってもらえたから大丈夫なのに。
 このままじゃ変に気まずくなりそうだよ。
 ホント、どうしてこんなことになってるんだろう? ……と言うかそもそもここに何をしに来たんだっけ?
 私は根本的なことをふと頭に思い浮かべた。告白をしようと思ったんじゃないよね。
 うん、そんな大それた事考えられるはずないし。…………まぁ、結局はしてるんだけど……。
 えーっと……………。
「あっ……」
 思いの外大きな声が出て、私は慌てて口を押さえた。
 田中君は不審そうな視線を向けてるし。
 でも思い出した。デートに誘おうと思ったんだ。なのになんで一足飛びに告白してるんだろ?
 私は心の中で小さく苦笑を漏らした。
 けどそれなら当初の目的を達成させよう。私は小さく頷く。
「ねぇ、田中君」
「ん? なに?」
 私の言葉にまだ赤い顔のまま彼は聞き返してきた。
「えっと、どうしても納得できないなら私のお願い聞くってことでどう? ……それならいいでしょ?」
 どうも告白したら少し大胆になってるのかもしれない。
 これから言うことに心の中で迷いが無くなってるのが分かった。


365 :Bravery Revolution :05/02/01 18:49 ID:27xhTQPE

 彼が頷くのを見て、私ははっきりと告げた。
「なら文化祭、一緒に回ってくれないかな?」
「……え?」
「……ダメ?」
「えっと……なんで?」
「好きだからに決まってるよ」
「っ……」
 私の言葉に彼は頬を紅潮させ、言葉に詰まる。
 そして一瞬躊躇う素振りを見せてから訊ねた。
「俺でいいのか?」
 その言葉にしばし言葉を失い、すぐに苦笑を浮かべた。
「いいに決まってるよ。田中君と回りたい……ううん、田中君以外となんて考えたくないよ」
 さすがに恥ずかしかったけど、私はしっかりと想いを言葉にした。
 すると彼は少しの間私をじっと見つめ、次の瞬間深く息を吐いた。
 なんだろうと思ってドキドキしながら次の言葉を待ってると、いきなり手を引っ張られた。
 驚く間もなく引き寄せられ、彼は私の耳に口元を近づけた。
 そして言霊を紡いだ。
「なら喜んで付き合うよ」
「!?」
 囁かれた言葉に私は全身が緊張し、身体中が真っ赤になったのを感じた。
 ど、どうしてそう言うやり方で答えるかな?
 私は耳まで真っ赤に染まった顔を向け、ムッと睨んだ。
 すると私の気持ちが伝わったのか、彼は口を開いた。
「俺ばっかり赤くなってる気がしたからちょっと恥ずかしがらせようと思って。………やりすぎたかな?」
 彼の言葉に私は無言で頷いた。
 いくらなんでもやりすぎだと思う。消えてた恥ずかしさが一気に戻ってきて真面に田中君を見れない。
 そんな私に気付いたのか、彼は赤い顔を微かに逸らし、掴む腕の力を緩めた。
 けれど今度は逆に私がその手を掴んだ。
「永山……?」
「い、いいよ、別に掴んでも。……こうやってると安心するから」
 目を伏せたまま呟く。
 恥ずかしいけど離れるよりは良い……。


366 :Bravery Revolution :05/02/01 18:51 ID:27xhTQPE

「そ、そうか……」
 見ると彼は頬を赤くして微妙に視線を逸らしてしまった。
 ……えっと、もしかして恥ずかしい言葉、言っちゃったのかな?
 うう、そんなつもり無かったんだけど……。
 ………でもよく見ると田中君の困ってる顔ってちょっと可愛いかも。
 …………もう少し困らせちゃおうかな。
 ふと悪戯心が沸き上がり、私はそんなことを考えてしまった。
 さっきの彼の行動は本当に恥ずかしかったんだからそれくらいしても良いよね。
 私は何か手はないかと頭の中でグルグルと考え始めた。
「……どうかしたか?」
 急に黙ってしまった私に彼は心配そうに声をかけてきた。
 慌てて首を振ったけどこのままだと不審に思われちゃうよね。
 なにか素敵なアイデアがポンって出てこないかな。
 なにか…………。
(……あっ)
 思いついちゃった。……でもいいのかな。
 これって私自身もかなり恥ずかしいんだけど……。
 ううん、やってみよう。それにこんな機会じゃないと言えないかもしれない。
 私は小さく息を吸うと、彼に視線を向けた。
 うう、やっぱり顔を見ると恥ずかしいな。
 でもここは頑張らなくっちゃ。私は緊張で震える腕を押さえながら呟いた。


367 :Bravery Revolution :05/02/01 18:56 ID:27xhTQPE

「えっと、お願いの追加していい?」
「ん?」
「私を恥ずかしがらせた罰だよ」
「あ、ああ……」
 私の言葉に戸惑いの声を上げつつも彼は頷く。
 それに勇気付けられ、私は決心する。
 夢だったこと。叶えたかった願いを口にしてみよう。
 紅潮した顔を更に赤くし、私は搾り出すように訊いた。
「あのね……しゅ、修学旅行も……」
「……なに?」
 頑張れ、私。告白までしちゃってるんだ。
 今更それを言ったって変わりないんだから躊躇せずに言わなきゃ。
 私は自分を叱咤激励し、覚悟を決めて口を開く。
「……修学旅行も私と一緒に……過ごして……」
「…………え?」
「で、できればクリスマスもお正月も……い、一緒に過ごしたいのっ」
 私は一気に言い切ると深く息を吐き、
「………いい?」
 上目遣いに彼を見て訊ねた。
 田中君はしばらくビックリとした表情で私を見つめていた。
 けれど次に瞬間表情を緩め、顔を赤くし頬を掻くと優しい声で囁いた。
「俺で良ければいくらでも付き合うよ」
 一瞬その言葉に惚けてしまう。
 けれどすぐに真っ赤な顔で私は何度も頷いた。
 何度も、何度も。
 嬉しくて、本当に嬉しくて。そして私はポツリと言葉を漏らした。
「ありがとう……」
 色々な想いを込めて、私はそう口にした。




368 :Bravery Revolution :05/02/01 18:56 ID:27xhTQPE

「ふぅー」
 すっかりぬるくなってしまった紅茶を私はやっとのことで飲み干した。
 あの後かなり気恥ずかしくなって、心を落ち着けようと飲んだんだけど、それは成功したみたい。
「終わったか?」
「うん」
「じゃあ捨ててきてやるよ」
 田中君は私の了解を得ずに缶を取り上げるとゴミ箱に歩いていってしまった。
 本当は先に帰ってもらおうと思ってたんだけど、彼は付き合うよと首を振ったのだ。
 どうしてとは訊かなかった。私も側にいて欲しかったし、なにより彼の優しさが嬉しかったから。
 私はスカートの位置を直しながら小さく笑った。
「……どうかしたか?」
 戻ってきた彼は不思議そうに聞いてきた。
 私はさすがに考えていた内容を正直に話すのは恥ずかしくて、首を横に振った。
「ううん、何も。……それよりもそろそろ戻らなきゃ拙いと思うんだけど」
「あー、だろうな。結構長い時間いたし。さっさと戻るか」
「うん、だね」
 頷いて私は立ち上がった。
 あっ、そう言えば聞いてなかったな。
 スカートについた埃を払って、私は彼に訊ねた。
「ねぇ、ところで演劇の準備は終わりそうなの?」
「……たぶん。セットは後ほとんどで完成するはずなんだが……肝心の役者の方がどうなるかわかんねーな」
「あー、確かに。……でもきっとなんとかなるよ。うちのクラスって土壇場で強いもの」
「そーいやそうだな。まっ、花井とかやる気になってるし大丈夫だよな」
「うん、私もそう思うよ」
 私が頷くと、彼は満足そうに笑いゆっくりと歩き出した。
 その隣に私は少し躊躇しながらも並んだ。
 そのことに彼は軽く驚き、けれど優しく笑い私たちは仲良く教室にへと戻っていった。

           ――好きな人の傍らで、幸せをかみしめながら私は歩いていく――


                       〜 Fin 〜
2010年11月17日(水) 00:13:23 Modified by ID:/AHkjZedow




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