IF20・I can...

   「I can...」
「やっぱりダメだって、お父さん」
少し顔を曇らせて母は言った。
「お仕事でしょ、忙しいお父様に無理なことを言った私が悪いのよ」
私は家庭の事情というものをよく分かった、物分りのいい子でないといけない。
そうじゃないと家の人は誰も私を見てはくれない。そんなのは昔から知っていることだ。
「そう、ならいいけど。じゃあお母さんは夕方まで出かけていますから」
きっと母はそういう仲間の人としゃべりに行くのだろう。
「(子供より友達が大事か)行ってらっしゃい、ママ」
私はいい子でいる・・・。

(Trrrrr)
「はい、もしもし。なんだ天満か」
そっけなく言う私。こうしないと彼女は面白くない。
「なによー、むぅー。そんなんだったら誕生会中止にしちゃうぞ」
明るい笑い声が電話越しに聞こえた。彼女と親友と呼べる仲になったのはとても最近だった。初めて会ったときはとても明るい子、といった印象だったが今はそれにバカがくっ付いてきている。
「うそよ、うそ。集合、1時だったわよね。解ってるってば。遅れるわけないわよ、じゃあね」
この歳になって誕生会なんて柄じゃない。けどそれでも初めての友達との誕生会である。うかれずにはいられない。
思えば高校は激動に思える。人に初めて悪態をつき、自然に笑ったり、怒ったり。以前では考えられなかった行動だった。そして好きな人も・・・



134 :猫○。 :05/02/28 19:38 ID:1TUdl4yQ
「愛理ちゃんの17歳を祝して、かんぱーい」
『カンパイ』
それといって特徴もない誕生会。しかし私はうれしかった、そして楽しかった。
天満がいつものようにドジを踏み、美琴がそれを大笑いし、晶がそれをじっと見ている。
日常、というものが私には新鮮で楽しかった。笑顔は数えられないくらいこぼれた・・・

「じゃあ学校で」
日が沈み少し夕闇が広がった頃、私は帰ることにした。しかたがないから。

帰り道、向こうから見覚えのある、いや覚えてしまった姿が歩いてきた。
「何してんのよ、ヒゲ」
突っかかるようにしか話せない、いやどんなに丁寧に話そうとしても心が言うことを聞いてくれない。大分重症らしい。
「もうヒゲじゃねーよ」
そう、彼はヒゲではない、そしてサングラスはもうない。何があったのかは分かりやすかった。文化祭のあと2週間、彼はどこかに消えていた。そうすべて知っても・・・
「それよかなんだ?お前こんなの所で」
「誕生会よ『天満』の家でね」
この一言はかなり響いたようで、明らかに顔色が変わっていた。
やっぱり彼はあの事を・・・
「な、なんだ? 俺から物ふんだくろうってのか?」
動揺は収まらなくても言葉は出せるらしい。
「別に。そんな気無いわよ。それに」
こんな事言ったら嫌われるかもしれない。けど私は・・・
「それにあんたには一番いい物貰ったしね」
言った、多分この世で一番素直な気持ち。誰にも変えられない、私の真実。そう唯一の・・・
「はぁ?なんだそれ」
まったく分かっていないようだった。けど私はそれでいい。
「あんたと同じものよ」
素直が一番、なのかな。
2010年11月18日(木) 20:12:54 Modified by ID:/AHkjZedow




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