IF21・お昼寝

978 :お昼寝 :05/04/07 00:02 ID:fi9SoyLA
保健室に爽やかな風が吹き込む昼下がり。
この部屋の主、姉ヶ崎妙はいつものように机でお昼寝中。

でも、いつものように良い夢は、見られなかった。
見たのは、前の彼氏との別れの場面。

私は彼が本当に大好きだったのに…
信じてもらえなかった。

彼の罵倒の数々が心に刺さる。
「どうして俺だけを見てくれないんだ」
「お前は他の男に媚を売りすぎだ」
「俺じゃなくても、誰でも良かったんだろ」
そして彼は、あの雨の日に部屋を出て行った。

酷い言われようだ。
他の男と言ったって、みんな友達じゃない。
仲良くして何が悪いっていうの?
もう、こうなったら本当に誰でも良いや。
彼のいなくなった部屋を、体を、心を埋めてくれさえすれば。
妙に広くなった部屋に居たたまれなくなった私は、出かける事にした。

そして、出会ってしまった。
公園のブランコでずぶ濡れになっている一人の男と。

彼に声をかけたのはほんの気まぐれ。
いや、分かっていたからだ。
彼が私と同じ傷を抱えていることを。
彼となら、きっと分かり合えると思ったから。

ラッキーな事に、若くて結構男前。
今夜は一人寂しく過ごさずにすみそうだ。


979 :お昼寝 :05/04/07 00:03 ID:fi9SoyLA
ずぶ濡れの彼――ハリオを部屋に連れてきて、忘れ物のシャツに着替えさせる。
そして私は入念にシャワーを浴びてから、互いの隙間だらけの心を埋めるために酒盛りを始めた。

だけど彼の話が、純粋で一途な想いが何故か胸に痛い。
私は本当にこんなに彼を愛していたのだろうか?
どうしようもなく不安になる。

だから、試して、しまった。
「……恋なんていくらでもできるのよ」
潤んだ瞳で前屈みになる、とびっきりの悩殺ポーズでハリオに迫る。
「例えば……」
「今もほら目の前に…」

「い…いや自分は!!」
ハリオはビックリした後、すぐに飛び退いて、私の誘惑を拒絶した。
ハリオは失恋したと思っていてもなお一途なままだった。

私は何て事をしたのだろうと激しく後悔した。
気まずくなったのを誤魔化す為に眠る。
「おやすみ」

しかし、穢れた心への自責の念は離れることなく付きまとって眠れない。
だから、私はベッドの中で彼への、ハリオへの精一杯の謝罪の念を込めて呟く。
「…ゴメンね」

私の恋はもう終わってしまったけど、彼の恋はまだ終わったわけじゃない。
そうだ。応援しよう。彼の恋を。
彼が立ち直るまで、面倒を見よう。
そう決意すると、私は先程までが嘘のように眠りに落ちた。


980 :お昼寝 :05/04/07 00:04 ID:fi9SoyLA
ここで私の夢は覚めた。
今思い出しても悲しい夢だったが、不思議と夢見は悪くない。
「ふぁ〜〜。それにしても、何でこんな夢を見ちゃったんだろ」
伸びをしながら一人呟く。そして後ろを振り返ると原因を発見した。
ベッドには気持ち良さそうに眠っているハリオがいた。

ハリオの無邪気な寝顔を見てると、自然と顔が綻んでくる。
「君のせいだぞ。余計な事を思い出しちゃったじゃない」
「……でも、ありがとう」
「君のお陰で、今の私がある」

ハリオは今も一途な恋をしている。
相手の娘もいい加減気付きなさいよ。
本当、ハリオは大変な娘に惚れちゃったんだね。
「ガンバレ、ハリオ」
あの時より幾分大人びたハリオの頬に軽くキスをした。
これは恋の先輩からのエールのキス。

だけど、ハリオがもしも、恋に破れたら……
いつでもお姉さんに頼りなさい。
今度は心から慰めてあげるからね。


終わり
2010年12月04日(土) 21:06:12 Modified by ID:/AHkjZedow




スマートフォン版で見る