IF21・後夜祭の願いと気持ち


883 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:04 ID:xLSWjhu6
 文化祭。学校の全面協力のもと、学生達が主体で様々な企画を執り行う年に一度のお祭りである。
生徒達は完成までの過程において親睦を深め、普段からは体験できない経験と出会いへの期待に
胸を膨らませる。現在、矢神高校ではそんな文化祭最後のイベントである後夜祭が行われていた。
体育館に集合した生徒達が、音楽をバックに絶えず踊り続けている。
教師のやや長すぎる挨拶の最中に乱入してきたバンドチームの演奏からはじまったこのダンスパーティは、
既に開始から一時間以上が経過していた。新たな相手を見つけては踊りだすことのできる幸せな空間に、
隅でうずくまっている男が一人。

「げほっげほ……(ああ体がだりぃ…)」
 彼―播磨拳児は先程まで天井に文字通り磔にされていた。自分のクラスの催し物である眠り姫の劇に
何故か姫の役で出演してしまい、劇を危うく台無しにしかけた罰である。体が宙に浮く奇妙な感覚が
抜けきらず、まだ足元がおぼつかない。拘束具が外れた体に残る痛みでときたま咳き込んでしまう。

「全く…君もバカな真似をしたものだ」
 床にうずくまっている播磨の傍に立つのは教師の刑部絃子。磔の彼を助けた人物である。
「だ、だってまさか演劇のベッドだなんて夢にも…誰もいなかったしよ…」
「舞台裏にある時点で、おかしいとは思わなかったのかね?
…だいたい、寝るなら演劇とは関係ないところへ行け。クラスの邪魔になる」
 次々と聞こえてくる耳に痛い言葉に、播磨は黙り込んでしまう。
これ以上はたまらない、と彼はひとまずその場を離れようとした。


884 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:05 ID:xLSWjhu6
「…播磨君、何処へいく?まだお説教は終わってはいないのだぞ?」
「う、うるせえ。もう話は分かったよ。十分聞いたって!悪かった!反省してる!」
「そうか。それならば当然、これから頭を下げに回るのだろうね?」
逃げようとした矢先に、絃子のそうはさせまいとする意思が立ちはだかる。播磨は彼の愛する人である
塚本天満の元へ行こうとしていた。天井から見ていた今の会場の雰囲気ならば、ダンスに誘える―そう考えていた。
しかしそんな甘い考えは、とっくに絃子に読まれていたわけである。
「う…うぐぐ………」
「さっさと行くぞ。ついてこい。時間が惜しいならなおさらだ」
耳をひっぱられ、彼はいやおうなしに絃子にひきずられていった。

「ヒゲ?」
「刑部先生?」
 まず二人が向かった先は、播磨の乱入によりもっとも迷惑を被ったと思われる人物のところである。
すなわち、王子役の沢近愛理のところへ。彼女の傍には急遽悪い魔女役を演じた塚本八雲の姿もあった。
二人は演劇が原因で衝突していたが、後夜祭にて踊りと会話を通じ亀裂の入った関係を既に修復していた。
会場で最も注目を集めた踊りを披露し終え、今は飲み物を片手に二人で談笑していたところである。

「…すまん。俺があんなところで寝ていたばっかりに…妹さんも、俺のせいで劇に出る事になってすまねえ」
後頭部にスコープを当てられているような気配に怯えながら、播磨は二人に頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。


885 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:06 ID:xLSWjhu6
「…本当に悪かったって思ってんの?……だいたい、なんであんなところで寝てたのよ?」
「悪いと思ってる。本当だ。……寝てたのは……その…昨日、ちょっと徹夜しちまってつい…」
「……あの……播磨さん、私は気にしてませんから…」
「!……八雲。このヒゲを甘やかしちゃ駄目よ。徹底的にやらなきゃ」
「あ、あの……播磨さんだけでなく、私も悪かったですから……先輩も、どうかそのくらいで…」
 愛理はいつにも増して厳しい視線で播磨を睨めながら、拳を丸めて彼の頭にぐりぐりと押し付けていた。
必死で痛みに耐える播磨を見かねたのか八雲がフォローの言葉を入れる。やれやれ、といった様子で
愛理は拳を離した。
「……まあいいわ。今回だけは特別に許してあげる。と・く・べ・つ・にね」
「!……あ、ありがとうございます」
アンタが言ってどうすんのよ、とやや呆れたように八雲のほうを愛理は見た。播磨はぐらぐらする頭を片手で
押さえ、立ち上がる。

「いってえ……お嬢。妹さん。悪かったな」
 珍しく素直な播磨の態度に違和感を覚えつつも、愛理は壁にもたれかかって視線を逸らした。
踊りに興じる多くの学生らの姿が目に入る。ふと、体育祭の最後の出来事を思い出した。
今、あの時のように申し出ればあの時のような気持ちになれるだろうか。
「ねえ、ヒゲ…」
同じ勇気を出し、同じ言葉を投げかける。


886 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:06 ID:xLSWjhu6
「ほれ、さっさと次へいくぞ拳児君」
 瞬間。それまで沈黙を保っていた絃子が突如口を開いた。既に播磨の耳を掴んでおり、ぐいぐいと容赦なく引っ張る。
「痛い痛い痛い!絃子サン、耳はやめてください!」
くだんの男は、叫び声をあげながらあっという間に遠ざかっていってしまった。差し出そうとした手だけが虚しく残る。

「「………」」
二人は呆然と立ち尽くしていた。今起こった事態をようやく整理できた愛理が口を開く。
「…八雲……」
「……はい…?」
「…なんで刑部先生が、ヒゲといるのかしら…」
「………あの二人は……旧知の仲、らしいです…」
(……よりによって………!ワザと?……まさか…ね)
(……俺の、絃子……それに今、拳児君って………やっぱり……?)
 播磨と八雲の関係に納得のいく答えを得た愛理であったが、同じ日に新たな疑問を抱く事となった。
八雲は八雲で、前々からの疑問の答えを言葉の迷宮の中で探し続けていた。


887 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:07 ID:xLSWjhu6
 耳をなんとか勘弁してもらい、播磨は絃子に腕を引かれながら歩いていた。
「で、次は誰のとこ行くんだよ?まさかクラス全員なんて言うんじゃねえだろうな…」
「さすがにそれは無理だが…本来の姫役の周防君、シナリオを考えて収集をつけてくれた高野君、
あと学級委員の花井君にくらいは直接言うべきだな。…その上でまた今度クラス全員揃った場で謝るといい」
先の長さに大きなため息をつきながら、播磨は早く終わらせようと次の目標を捜し求めた。


「んー、まあ遅刻しちまったアタシが言えたことじゃないからなあ。いいよいいよ、気にすんなって」
皆に謝って歩いて回ってんのか?結構やるなあ、と三人目の人物周防は軽く励ましの言葉をかけた。
先程の愛理とは雲泥の差の対応に、播磨は少し涙がでそうになる。後ろから舌打ちをする音が聞こえた気がした。
「じゃ、じゃあな。……もうちょっと踊ってくるから」
「ん……?お、おう。邪魔して悪かった」
(そういや姫なんだよなあ……ああ…お姫様姿の天満ちゃんと踊りてえ…)
口とは全く関係のない事を考えつつ、播磨は周防を見送ると次の相手のほうを振り向いた。

「……おいメガネ……邪魔したな。悪かった」
「…なんだ、珍しいな。どうした」
すぐ近くには、周防を影から見守っていた花井の姿があった。


888 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:07 ID:xLSWjhu6
「…そのことか。わかった。僕からも皆に伝えておこう」
「何、本当か!ありがとよ!!」
 ライバルに頭を下げることに大きな抵抗を感じていた播磨であったが、そんな反発心は直に身を潜めてしまった。
「大げさな奴だな。…お前が文化祭の準備で皆に協力しようと頑張っていたことは僕が知っている。
 演劇のことだって、わざとじゃないんだろう?」
(……このメガネ、こんなにいいヤツだったのか!)
 播磨は感激していた。あまりにも話が素直に進んだ事に。物わかりのいい好敵手に。だから、余計な事まで
口走ってしまう。

「いやあ、驚いたぜ。俺はてっきり妹さんのことでまた面倒なことになるかと…」
(さすがだ、拳児君)
「……播磨……今思い出したが…何故塚本君があそこにいたんだ!?オマエか!?オマエが連れ込んだのかああ!?」
「ば、バカヤロウ!俺はただ、呼び出しただけで…」
「やっぱりオマエかあああ!?」
その後、騒ぎに気付いた周防が止めるまで播磨は足止めをくらうこととなった。

(チ、チクショウ……早く……早くあの女を……バンドが終わっちまう…)
最後の人物を視認した瞬間。彼は全力で走り出していた。


889 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:07 ID:xLSWjhu6
「あら播磨く……何してるの?」
 高野晶は愛用のデジカメを片手に、会場を動き回っていた。この場特有の雰囲気が生み出す、
様々な表情を収める絶好の機会。一瞬一瞬が見逃せないシャッターチャンス。
そんなときに足止めを受けるのは、あまりいい気分がしない。しかし彼の行動はとても無視できるものではなかった。
「すまん!せっかくのシナリオをぶち壊して悪かった!!」
肩をがっしりと掴まれて、大声で叫ばれる。走ってきたのか息が荒い。どうやら演劇の事で謝っているらしい。
自分は別に気にしてはいないし、それよりも何故彼がアクションに出たのかが気になった。
「…気にしないで。それよりどうしたの?」
「許してくれるのか!ありがとう!」
そういうと、播磨は走り去ってしまった。急にやってきて、急にいなくなる。さすがの彼女といえども、
一体彼が何をしたかったのか見当がつかなかった。すると、彼を追いかけるように見知った人物がやってくる。

「…はあっ、はあ…。…高野君、播磨君はきちんとあやまりに来たかね?まったく…」
なるほど、そういうことか。彼女の頭の中では全ての納得がついていた。と同時に、奪われてしまった
大事な時間を取り戻そうと画策をする。
「ふふっ…」
「?…どうした、高野君」
「いえ、先生……演劇のことを……実はあれ、口だったんです」
「!」
それ、いただき。パシャリ!………手で隠しましたか。やりますね


890 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:08 ID:xLSWjhu6
(!いた……天満ちゃん!)
 幸い、播磨の本命である塚本天満はすぐに見つかった。吊るされていた時から今に至るまで、
彼女はその場を動いていなかったためである。場所はステージ近くの壁際であった。
発見と同時に、次が最後の曲であることを知らせるアナウンスが流れる。彼はすぐさま行動に出た。

「よ、よう塚本。何やってんだ?」
「え、あれ…は、播磨君?……うん、ちょっと…」
そう言うと彼女は視線を播磨から移し、舞台のほうへ戻してしまう。悪意のないその態度が、播磨に
全てを悟らせてしまった。
(か、烏…丸……か……)
舞台の上では、烏丸が他のメンバーらと共にこの会場を盛り上げていた。彼にしては珍しく汗をかいている。
必死であった。播磨にもそれがわかった。そして天満は、そんな彼をずっと応援し続けていた。
(ぐっ…きっと……天満ちゃんが踊りたいのは……)
よくよく考えれば、この場所は壁際であるが烏丸に近い。そして演奏が終われば込み合った中央よりも
遥かに早く控え室へ入る事の出来る位置でもあった。

(…それがどうした……関係ねえよ!……烏丸は舞台の上だ。…行くぜ、俺!)
「…なあ。塚本」
「…………何?……播磨君…」
声のするほうを振り向く事もなく、天満は上の空で返事を返した。
その反応は播磨にはたまらなく辛いものであったが、嫌な事を振り払うように誘い出した。
「…お、踊らねえか?…」


891 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:08 ID:xLSWjhu6
(言った……言ったぜ、俺!)
 後夜祭が始まってから、念願の思いをついに彼は伝えることに成功した。告白にはほど遠いが、異性を
意識しなければ出てくる事のない台詞でもある。既に周囲の雑音は耳に入っていない。
播磨は、じっと天満の口が開かれるのを待った。

「…ありがとう、播磨君。……でも私はさみしいわけじゃないから。…そうだ、八雲と踊ってあげて。ね?」
ある意味、想像していたとおりの答えに播磨の中で何かが切れた。
「そうじゃねえ!!」
大声と同時に両腕で天満の肩を掴み、強引に振り向かせる。急に視界がぶれたことに天満は驚き、
目の前に立つ播磨の顔を見つめた。

「俺が言いたいのは――――!」

 最後の言葉を、天満が受け取ることはなかった。体育館に一際大きな歓声があがり、かき消されて
しまったためである。二人ははっとなってステージを見た。それは、最後の曲が終わった瞬間であった。
「あっ……播磨君、ごめんね!!」
肩の上の播磨の腕を振り払い、天満は控え室めがけて走りだした。
播磨はしばらく放心状態であったが、、はっと我にかえるとすぐさまその後を追う。
(諦められるかよ………!)
控え室の扉を開けて、播磨は室内に駆け込んでいった。ステージ上に、既に演奏者達の姿はなかった。


892 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:09 ID:xLSWjhu6
 笹倉葉子と刑部絃子は、体育館の後方から後夜祭最後の瞬間を眺めていた。歓声にかき消されて
しまうため、二人は特に何も話そうとはしていない。演奏終了後も生徒達の興奮は収まることがなく、
会場は再度の演奏を求める声であふれていた。

(…こういう盛り上がりっていいな……皆が必死で頑張って……私や先輩にもこういう時期が……)
ふと自分達の高校時代を思い出し、葉子は隣の人物をちらりと見た。いつものクールな表情であるが、
どことなく懐かしそうに感じている様子が伺えた。
(…………)
同じ事を感じている事を嬉しく思いつつ、葉子はすぐに生徒達を見つめ直した。
すると、全ての生徒がステージ側を向いているにも関わらず、一人だけこちらを向かってくる生徒が目に入る。
その人物を彼女はよく知っていた。隣の絃子も怪訝そうな表情を浮かべる。
(……拳児君?)

「播磨君、どうした?塚本君のところへ行ったのでは……っ!!?」
言い終える前に、播磨は絃子の手を掴んでいた。そのまま離れないよう強く握り締め、走りはじめる。
「け、け、け……!?な、何をする!?」
「いいから来いっ!お前が必要なんだ!!」

 葉子は目を疑った。決してありえない光景である。あまりの衝撃に、その場から微動だにできなかった。
(嘘……絃子先輩が……拳児君に連れて行かれちゃった……)


893 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:09 ID:xLSWjhu6
「何のつもりだ!!さっさと手を離せ大馬鹿者!」
「黙ってろ!!さっさと来い!」
「な、な、なんだと!?こ、この私にそんな口を聞いて……」
「……が…!……で……!」
 群衆の中に入り込み、絃子には播磨の声が聞き取れなくなってしまう。
なんとか手を振り払おうと努力するが、掴まれた腕は全く意のままにならない。いつだって自分に
逆らえた事も勝った事もない彼に対して、今の自分は無力であった。
(そんな………こんな………!)
受けた衝撃に、絃子は憔悴しきっていた。

「悪い!遅れた!!」
 播磨は絃子を引きずりながら、ステージ横の控え室に駆け込んだ。そこには先程まで演奏をしていた烏丸や冬木を
はじめとするバンドチームや、彼らを応援しようとかけつけた友人らがいた。
その中には、烏丸を不安げな表情で見つめる天満も含まれていた。

「播磨!」
「え、刑部先生!?」
その場全員の視線が、彼ら二人に集まった。


894 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:10 ID:xLSWjhu6
「!……けん…播磨君、どういうことだ?」
「頼む絃子!烏丸の代わりに、ギターを弾いてやってくれ!」
「!?っ…ふ、ふ、…ふふふざけるなあっ!!」  
 意味不明の願い出に、思わず手が出てしまう。手加減せずに頬を叩いてしまうが、播磨は全くひるむ様子を
見せなかった。それどころか逆に真剣な表情で迫ってくる。
「はっ…はっ…最初から説明しろ。何故私がそんなことをしなくてはならない?」

 播磨ではややこしくなりそうだから、ということでバンド組のリーダーである冬木が説明役を名乗り出る。
「演奏が終わったんですが……でもすぐアンコールの声が上がってきたんです。ほら、今も。それで
 俺達あと一曲やろうと思ったんですが……」
「か、烏丸君が…!手を……怪我しちゃって……!ち、血が……!」
「!?怪我だと…」
割り込んできた声の主は塚本天満。怪我という単語に反応した絃子は急いで烏丸のところへ向かう。
彼の両手には、赤みがかったタオルがかけてあった。
「…両手を見せろ。掌を私に向けるんだ」
 烏丸は何も言わず、掌を上に向け両手を差し出した。指先には幾重もの切り傷があり、至る所から血がにじみ
出ている。爪が割れている箇所もあった。手全体が朱に染まり、汗と脂も入り混じっている。
それを見た絃子はぐっと、下唇を噛んだ。


895 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:10 ID:xLSWjhu6
「練習をはじめたのは?」
「…二学期が始まった頃…」
「これだけの舞台で演奏をした経験は?」
「…ないです…」
 もういいよ、と絃子は烏丸に告げため息をついた。
「こんにちわ〜…怪我をしたっていう人が…」
「!こっちです、先生」
入り口のドアが開き、保健医の姉ヶ崎妙が救急箱を抱えて入ってきた。彼女は烏丸の両手を見ると、
少しだけ青ざめて傍に駆け寄る。手伝います、と天満が申し出た。

 烏丸の治療をひとまず任せ、絃子はバンドメンバーらとの話に戻る。観客達から何度も繰り返される
『アンコール!』の声で話が聞き取り辛い。
「…これまで何度も練習して、怪我もしたんですが…あんなひどいことは一度も…」
何故今日に限って、と不安げに話す冬木に対して絃子は諭すように返事をした。
「…本番と練習は違うんだ。練習と同じようにできたつもりでも、体には思ってもいない負担が
かかることだってある。本番慣れしていない間は、特にね。…たまに、それが指にきてしまう例があるんだ」
絃子は自らの初ライブの時の事を少しだけ思い出していた。


896 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:11 ID:xLSWjhu6
「…大丈夫、僕やるよ。後一曲くらい、なんとかなるから…」
「烏丸君!またそんな事!絶対…絶対ダメ!!」
「駄目よ。何言ってるの。あなたの手、どうなってるかわかってるでしょう?」
烏丸の申し出に、手当てをしている天満と姉ヶ崎が即刻NOを出した。しかし烏丸はなおも引き下がろうとしない。
「でも…このままじゃ、納得できないと思う…聞いてくれた人も、皆だって…」
 普段の彼からは想像もできない発言である。彼は、表情にこそ表れてはいないが後夜祭のステージを
楽しんでいた。だからこそ、最後を不本意な形で終わらせたくはなかったのである。それは、冬木や一条ら
他のメンバーも同じ気持ちではあった。烏丸はアンコールに応えて観客を満足させてあげたかった。
自分のせいで、友人らの望みを絶ちたくはない。そう思っていた。

(烏丸君が演奏すれば、塚本君が悲しむ。しないならしないで声援は一転、ブーイング……烏丸君が
残念に思って塚本君も…か。やれやれ、どっちにせよ悲しむんじゃないか……そして…)

「さっきも烏丸が今みたいな事言って…それで、播磨が『代わりの奴を連れてくる』って言って先生を…」
「でも先生、ギターできるんですか?」
(拳児君は、塚本君を悲しませないために……!)
ようやく絃子には全ての合点がいった。何故あの従兄弟があれだけ必死になって自分を連れてきたのか。
なんて馬鹿なのだ、彼は。彼女は心の中でため息をついた。自信がないわけではない。
それとは別に、いくつかの問題があった。


897 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:11 ID:xLSWjhu6
「仮に私が参加するとして。まず…バンド組の君達。最後の最後で、烏丸君が抜けて私になる。
 それはいいのか?飛び入りだぞ?ずっと練習してきた仲でもなんでもないんだ。それで満足いくのかね?」
 絃子の問いは、当然といえば当然であった。しかしメンバーらは迷うことなく返答する。
練習をつみ仲を育んできたからこそ、今の烏丸に演奏は絶対させたくない。彼の手を傷つけないで、
今日応援してくれた皆のためにあと一曲できるなら、それがいい。そう答えた。
「…それで皆が喜ぶなら…」
代わられる側の烏丸も、残念そうではあるが異議はないようであった。自身はステージに立ちたいだろうに、と
絃子は思った。

「肝心の観客達は、どう思うだろうね?」
「そこは最初に説明しようと思います。怪我のことは、伏せておいて…」
ボーカルの一条が提案をする。隣に立つキーボード担当の結城もうんうんとうなずいた。

「最後に…いいんだな、拳児君」
「!……何がだよ。なんで俺に聞くんだ?」
「分かるだろう?」
「いいんだよ!やってくれ!」
播磨は二つ返事でOKを出す。絃子と播磨以外には、その質問や答えの意味がわからなかった。


898 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:12 ID:xLSWjhu6
「…五分、時間を稼いでくれ。演奏する曲は?ギターと楽譜を頼む。できたら烏丸君が使っていた奴だ」
「あ……はいっ!ありがとうございますっ」
 絃子の承諾ととれる発言に、控え室の人間らがあわただしく動き始めた。冬木と結城がステージへ
向かい、まだかまだかと急かす観客らをなだめに向かう。彼らと同じメンバーである嵯峨野が練習に使っていた
楽譜を取り出し、絃子に手渡した。天満が持っていた烏丸のギターとピックを大事に抱えて絃子に預ける。
絃子は上着を脱いで襟元を少し崩し、自らを多少は動きやすい格好にした。眼鏡は既にケースにしまってある。
汗と脂をふき取って、楽譜に手早く目を通しながらギターを数回弾く。

「一条君、嵯峨野君。君達は、先程と同じようにやってくれればいい。烏丸君がいると思ってくれ」
「あ……はい…でも、先生…」
「『The One』か…大丈夫。弾いたことがある曲だ。…アレンジが多少入っているようだが、まあ問題ない」
「え、すごい……でも…逆に私達ができるかどうか…」
「何言ってるの一条!先生もああ言ってくれてるし、大丈夫だって。私達ならできるって信じよう!」

そして、五分が経過した。会場の明かりは全て落とされ、進行役も兼ねていた冬木がステージに上がる。
その周囲だけに光がともされ、観客全ての視線が彼に集中した。


899 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:12 ID:xLSWjhu6
「えー皆さん!長らくお待たせしました。これよりアンコールにお答えして!最後に一曲、やらせて頂こうと
 思います。その前に、一人特別ゲストをご紹介します。右手側にご注目下さい。さあどうぞ!」

 ライトの位置が切り替わり、ステージ横の入り口付近を光が照らす。そこにいる人物を視認した者は、
すべからく驚嘆の声を挙げた。彼らのよく知る物理教師が、ギターを抱えて立っていたのだから。
自らに注がれる視線に気付いていないかのように、絃子はステージ中央に突き進む。
冬木からマイクを受け取り正面を見据え、簡単な挨拶をした。
「やあ諸君。驚いてくれただろうか。…ご覧の通り、私も最後の演奏につき合わせてもらう。
 腕前のほうは…まあ秘密だ。だがよかったら聞いていってくれたまえ。……さあ、はじめよう」
そう言うと彼女は合図のように鋭くギターをかき鳴らした。ステージ全体が明るくなり、他のメンバーらが
続々と登場する。…ドラムのビートから、演奏が始まる。歓声が巻き起こり、ダンスパーティが再開された。


「…はい、これでとりあえず大丈夫。でもあんまり無理しちゃ駄目よ?あと、ちゃんとした病院にも…」
一方控え室では、姉ヶ崎が烏丸の手当てを終えていた。彼の指には丁寧に包帯が巻いてあり、出血も止まっている。
「ありがとうございます…」
烏丸は一言だけお礼を言うと、じっとステージのほうを見た。演奏は、滞りなく進んでいるようである。
その場に自分がいないことが少しだけ残念でさみしかった。そんな烏丸の心境を悟ったのか、
天満がちらちらと烏丸のほうを見ている。それを少し遠くから眺めていた播磨は、ゆっくりと動き出した。


900 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:13 ID:xLSWjhu6
「お姉さん、いいっスか?ちょっとこっちへ」
保健医の腕をやや強引に引きながら、播磨は姉ヶ崎を連れ控え室を出ていった。
他の生徒達は照明や音響を手がけており、、室内には天満と烏丸しか残っていない。
気遣ってもらったのかと感じとり、天満は沈んだような表情をしている気がする烏丸に話しかけた。
後夜祭が始まってからの密かな夢に挑戦する。

「あ……あの…烏丸君……よ、よかったね……皆喜んでるよ…」
「…うん……そうだね……」
「え、えっと……か、烏丸君さえよかったら…………そ、そ、そ、その…………お、踊らない?」
「…………?」
 精一杯の勇気を振り絞って、天満は烏丸に誘い出た。不思議そうに烏丸は天満の顔を見る。
絶対に勘違いや誤解などがないように、天満は言葉を選びながら続けた。
「……み、皆の音楽にあわせて…一緒に…踊るのも……た、楽しいよ!バンドもいいけど、踊るのも楽しい!
 ここで見てるだけなんて、絶対に損だよ!」
「……そうなのな…よく、わからないんだ……」

ややひややかな反応に怖気づくことなく、天満は烏丸を誘い続けた。
「そうだよ。…絶対そう!」
「…………そうだね。行こうか、塚本さん」
「!!………うんっ」
二人は踊り場に向けて歩いていった。天満の足取りは非常に軽く、その笑顔は喜びに満ち溢れていた。


901 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:13 ID:xLSWjhu6
(……なんでこうなっちまったんだろうなあ………)
 播磨は踊りはじめた天満と烏丸を壁際で眺めながら、自らの行動を振り返っていた。演奏が終わり、
後一歩というところで逃げられて、控え室まで追いかけた。そこで見たものは、血を流しながらも
演奏を続けると主張する烏丸と、泣きそうになりながらそれを止めようとする愛しの彼女。
告白どころではなかった。最初は自分も彼女と同じ考えであった。アンコールなど無視すればいいと。
けれど、天満が悩んでいる事がわかってしまった。烏丸の身が第一であったが、本当は彼の望み――
観客を喜ばせ、演奏を続けて楽しみたいという望みを叶えてあげたいと思っていることに。
両立は決して不可能であり、自分なりに考えた結果が代役を頼む事だった。

 天満が烏丸と踊りたいと思っていることは、播磨にも察しがついていた。烏丸が自由になれば、彼女から
申し出るだろうと彼は考えた。烏丸の手は傷つかない。踊りに誘う機会もできる。
烏丸は演奏と引き換えに天満から踊る楽しさを与えられ、新たな喜びを知る。
二人は楽しい時間を共有することができ、彼女は傷つかない。これ以上の考えは浮かばなかった。
自分の気持ちが入り込む余地がないことに気がついたのは、先程控え室で絃子に言われてからであった。
それでも、彼は迷わなかった。

(……まあいいか……天満ちゃんが…幸せなら……)
ごまかすように、天満の幸せそうな顔を見ながら彼はそう思い続けた。


902 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:14 ID:xLSWjhu6
「ハリオ…泣いてるの?」
 姉ヶ崎妙には、はっきりとした事情はわからなかった。怪我人がいると呼び出され、
両手をひどく傷つけたギター役の代わりに、刑部先生が出演することになった。彼女は今ステージの上で
ノリにノっている。バンド組の面子も問題なさそうだ。
そして治療がすむと、思いを寄せる彼に誘われた。最初は期待してしまったが、
その彼は今壁にもたれかかりうずくまりながら先程の二人を見つめている。
それだけであるが、彼女は長年の経験により播磨が何をしたかおおよその理解を示していた。

「ハリオ……元気だして。……私達も踊らない?」
 しかし播磨は誘いにものらず、ただ一言すみません、と謝るだけであった。仕方なく自分も中央で
踊っている天満と烏丸の二人を眺めてみる。動きはぎこちないが、天満は彼の手を気遣うように踊っていた。
何やら彼女が顔を真っ赤にしながら喋り、烏丸の返事に大喜びしている様子が見える。
多くの恋を経験していた彼女は、それが告白であり成功したものと理解した。
それを見ていた隣の彼は、自分の腕を強く握り締めて震えていた。

 やがて演奏が今度こそ終わりを告げた。特別ゲストの熱演に観客達は両手をあげて歓喜し、精一杯の賞賛を
ステージに送っている。聞いた事もないような大声援の中で、彼女にだけは播磨の咽び泣くような声が
聞こえていた。姉ヶ崎はそっと、泣きじゃくる彼を慈しみながら抱きしめた。


903 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:15 ID:xLSWjhu6
 演奏が終わると、再び控え室に人が集まってきた。バンドチームの面々はそれぞれ充実した顔つきで、
互いの成功を喜び合い、祝っている。

「刑部先生すごかったですね。ホント、烏丸君がいるかと思ってしまいました」
「いやいや、君達のほうこそよくやってくれたよ」
「というか、烏丸と塚本さんが踊ってるのを見て俺びっくりしたよ。よかったね塚本さん」
「え、あ、う、うん……皆、ありがとう…」
「そうそう。ねえねえ、烏丸君、塚本さんと何話してたの?」
「うん……いろいろと」

 和やかな会話の中で、天満は恥ずかしくも幸せそうな表情をしていた。その顔を一度だけ見ると、
播磨はそっと控え室を出て行った。姉ヶ崎が心配そうにその後を追う。そしてそれを見ていた絃子は
他の用事もあるからとそそくさとその場を抜け出した。彼女らは二人ともそれなりに人生経験は
豊富であったが、彼にかける言葉だけは見つからなかった。

(…ハリオ………心配しないで。私がついてる。……絶対、元気ださせてみせるから!)
(分かってはいたが、彼の意思とはいえこれではな…引き金を引いたのは私なのかい?拳児君)


904 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:15 ID:xLSWjhu6
 そして夜――刑部邸。播磨はあの後、クラスで予定されていた打ち上げ会に参加しないで帰宅した。
とてもそんな気分ではなかったし、自分がバカなことをしないうちに引き上げようという考えもあった。
彼は同居人の絃子とその友人笹倉葉子、更に自分を気遣って家まで訪れてきた姉ヶ崎妙と共に
酒盛りをしていた。とはいっても部屋で引き篭もっているところを無理やりひきずられてきたのだが。

「いやあ、びっくりしましたよもう。絃子先輩が拳児君に連れて行かれた上、ステージに立ってるんですから。
 その上ギターですよギター。まさか文化祭のステージでまた先輩のギターが聴けるとは思ってませんでした」
「私はそれよりも刑部先生とハリオが同棲してることのほうが驚きました。え、同棲じゃないって?
 そっかあ、それなら………睨まないでくださいよ、先生」
「まったく二人とも、その話題はいいかげんに………ほらほら拳児君、今日はとにかく飲みたまえ」
「…………おう……」

 生気のない返事をしながら、播磨はグラスに注がれた液体をちびちびと口にしていた。酔いが回ってきたのか
彼は次第に自分の気持ちを語りだした。

「て、天満ちゃんが……天満ちゃんがあ……でも、幸せそうで……俺……俺……」
「ハリオ……前にも言ったけれど、恋なんていくらでもできるのよ?そう、今もごっ………
 …何するんですか、刑部先生」
「妙な事を吹き込まれては困りますね姉ヶ崎先生。だいたい『前』ってなんですか『前』って」
「私とハリオはアナタの知らない時を過ごしていたんです、王子様。私、イケナイ魔女なんです」
延々と言い合いを始めた二人をよそに、葉子はそっと播磨の隣に寄り添った。


905 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:15 ID:xLSWjhu6
「………カッコよかったよ。絃子先輩を引きずっていったときの拳児君」
「?」
ふいに発せられた奇妙な言葉に、思わず播磨は顔をあげた。彼女は更に話を続ける。
「サングラスしてたのに、すごく真剣な顔をしてるのがわかったの。あんな拳児君は私初めてだと思う。
 先輩から事情を聞くまでわからなかったけど、好きな人のために頑張ったんでしょう?」
恥ずかしさのせいか酒が入っていたせいか、播磨は赤い顔をしながらうなずいた。

「今はもう、その子のために何もやろうっていう気がおきないの?」
そんなことはない。今だって彼は塚本天満のことが好きである。首を何度も横に振った。
「だったら、諦めるなんて勿体ないと思わない?塚本さんに、それだけの気持ちが伝わっていないと思ってる?
 …先輩を代役に連れてきて、気を利かせて二人にしてくれたのに?……私はそうは思わないかな」
「…それは…『八雲は幸せ者だよ』とか…そういう意味で……」
「あら、十分じゃない。誤解はいつか解けるわ。そのとき、塚本さんから拳児君はどう見えるかしら?」
それは、希望のある話のようにも聞こえた。しかし彼は今日一番の問題を、自ら作り上げてしまったのである。

「…天満ちゃんはもう……ダンスの時に…烏丸の奴に告白して……つきあってて…」
「本当にそれを確認したの?彼女の口から聞いたの?…彼女、文化祭で烏丸君に楽しんで欲しかったのよね。
 だから最後ダンスに誘い、楽しめたか確認しようとした。烏丸君は楽しかったと答え、聞いた彼女は喜んだ。
 拳児君が見たものはそれだったとは考えられないかな?」


906 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:16 ID:xLSWjhu6
(………確かに……俺はあの後天満ちゃんとはまともに話してねえ……いや、ありゃあ普通……
でも、天満ちゃんだぞ………もしかして…………)
葉子の言葉を受け、少しずつ播磨に生気が戻り始めていた。それを見た葉子は嬉しそうに最後の話をする。
「それに…例えつきあうことになったからって、終わりじゃないわ。もっと好きな人ができることだって
 あるんだから。…もちろん行き過ぎはよくないけれど、まだそうじゃないでしょう?」
「………………ああ…………そうだな。そうだった…ありがとう、葉子姉ちゃん!」
まだ希望が残されていた。それを教えてくれた葉子に、播磨は心の底から感謝した。
どういたしまして、と言いながら葉子はひょいと播磨の顔のサングラスを外す。
「……そっか。あの時も、こんな目をしてたんだね。拳児君……」
「???え…?え?」
何がやりたかったのかわからず混乱している播磨を見て、彼女はクスクスと笑いながらサングラスを返した。

「え……えと………明日も片付けがあるし、俺もう寝るわ。おい絃子!」
「だから、姉ヶ崎先生。私と拳児君はただの親類で……む、何だね拳児君?」
あれ、ハリオ?と姉ヶ崎が一際甲高い声を上げる。
「俺、もう寝るからな。……今日はありがとよ。無理言って悪かった。
 ……お姉さんも、ありがとうございました。……おやすみっス」
バタン、と扉を閉めて彼は自室へと戻っていった。知らぬ間に立ち直っていた彼に、葉子を除く二人は
ただただ驚くばかりであった。


907 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:17 ID:xLSWjhu6
「ハリオ……元気になった?……どうして…」
「葉子、何を言った?…まさかいかにもそれっぽい話で、ごまかしたんじゃないだろうね?」
「やだなあ先輩。ただ私の思ったことを言っただけですよ。…拳児君、なんとかなったみたいですね」
「「………」」


 ――深夜。なんとか播磨と一つ屋根の下で寝ようと奮戦するが無駄に終わり、姉ヶ崎はようやく
彼女のマンションに到着した。鞄を放り投げて、すぐに寝ることのできる格好に着替えてしまう。
ベッドに身を投げて目をつぶる。何も考えないつもりでも、彼のことが頭に浮かんできてしまった。
(ズルいぞハリオ……勝手に立ち直っちゃって……)
後夜祭最後の瞬間。彼女にだけは聞こえた彼の叫びが、耳からまだ離れていない。
多くの失恋を経験した彼女には、その痛みが辛いほど理解できた。だからこそ、あらゆる手を使って
彼を慰める覚悟で刑部邸を訪れていたというのに結局空回りに終わってしまった。
(まあ、元気が一番……かな……それにしても……)
彼女は眠りに着く前に、最後の力を振り絞って強敵一名、候補生一名を新たに自分の中にリストアップした。
(………ハリオ……ライバル多すぎるよ……でも負けないゾ……)


908 :後夜祭の願いと気持ち :05/04/05 23:17 ID:xLSWjhu6
「それじゃあ先輩、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。気をつけてな」

 聞きなれた爆音が遠ざかっていったことを確認し、絃子は一人ソファーに座り込んだ。
冷蔵庫から取り出したビール缶を空け、一気に喉に流し込む。
(やれやれ…)
 缶をテーブルに置いて、一息つく。今日はいろいろなことがあった。
まさか全生徒の前でギターを弾くことになるとは夢にも思わなかったし、
彼にあんな態度をとられるとは一生ありえないことだと考えていた。

(……まったく……思いっきり掴んでくれて…しかも、君の恋を自爆させるお手伝いだと………?)
 掴まれたほうの手をじっと見つめる。当然感触など残ってはいなかったが、その気迫と力強さ、
サングラスを通して感じた視線は忘れようがなかった。中学時代、魔王と呼ばれていた彼にさえ
特別に感じた事はなかったというのに。つい先ほどまでの彼の心を癒してあげたいという気持ちは
何だったのか。彼の決意を知ったときの昂りは。
(………何なのだ、この感情は…………ずいぶん昔にも、確か同じことが……そうだ、あの人に………
………ちょっとまて、何故そうなる………ふっ………バカバカしい…)
自問自答の末、彼女は『それ』に名前もつけず心の奥底へ放り投げた。
そして気が向いたときだけ、とりだしてやることにした。



909 :くだらないおまけ :05/04/05 23:18 ID:xLSWjhu6
「あんたねえ、自分が何キロ出してたかわかってるの?ウチの署の新記録だよ、これは」
「あ、あうう……」
「おまけに飲酒運転。アンタ教師やってるんだって?自覚はあるのかい?」
「はい……すみません……」
「これは罰金で済まないよ。ちょっと署まで来てもらえるかな?」
「そ、そんなあ……」
いつもは街中では法定速度を守るのに、今日のやりとりを思い出しニヤけているうちに
思わずぶっとばしてしまった笹倉先生でしたとさ。
2010年12月04日(土) 20:58:19 Modified by ID:/AHkjZedow




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