IF21・複雑な想い
969 :即興埋め :05/04/06 23:29 ID:coLEmk0E
―――空って綺麗………
そういえば、こうやって落ち着いて空を見上げたことなど、しばらく
なかったような気がする。
塚本天満は、学校の屋上で、床に直接大の字に寝そべって、瞬きもせずに
空を見上げていた。
空はどこまでも高く、そして青く………
自分がその中に吸い込まれて行きそうな感覚。
自分が空気になり、肉体のみならず、精神までもが空の一部と仮すような錯覚。
空虚……… それは、今の塚本天満にとって、最も求めていた感覚でもあった。
ギィと音を立てて、屋上の扉が開かれたのが判った。
感覚が次第に現実に戻ってくる。
屋上に入ってきた誰かが自分に近づいてくるのが判る。
それが誰なのか、天満にはすでに判っていた。
いつだって自分を見守ってくれていたあの人………
「よう、塚本」
「播磨くん………」
970 :即興埋め :05/04/06 23:29 ID:coLEmk0E
天満はゆっくりと身を起こして、そのまま膝を抱える。
播磨は何も言わずに、天満の隣に腰を下ろした。
そのまましばしの時間が過ぎる。
二人は、何も語るでもなく、屋上に並んで座ったまま、時折吹いてくる風を身に
受けていた。
「播磨くん………」
しばらくして、おもむろに天満が口を開いた。
「おう」
「………私ね………振られちゃった」
明らかに作りモノと判る笑顔を播磨に向ける。
播磨は何も言えずに、サングラスの下で目をしかめさせた。
「でもね………ホントは何となく分かってたの。ダメなんだろうなぁ………って」
「………」
「何度かアプロ−チ掛けてみたんだけど、何の反応もなくて………」
「………」
「イイ感じかなぁ?って思ったこともあったんだけどね……… 結局、なんとなく
相手してくれてただけだったみたい」
「………」
「でも、このまま終わるのはイヤだったから…………」
「………」
「でも………」
「………」
「………振られちゃった」
972 :即興埋め :05/04/06 23:30 ID:coLEmk0E
空白。
言葉は途切れ、しばしの静寂が二人を包む。
「………いいのか?」
「………え?」
「烏丸………今日出発なんだろ?」
塚本天満の想い人は今日アメリカへ旅立つ。
「うん………、お別れは昨日したしね」
「そうか………」
「………失恋ってさ………、もっと悲しいモノかと思ってた」
「……?」
「なんか不思議な感じ。『悲しい』ってより、『ああ、終わっちゃったんだなぁ』って感じ」
「塚本……… 後悔してんのか?」
「え、何を?」
「………烏丸に恋したこと」
「そんなコトないよ! だって私言ったもん、烏丸君に。『貴方のおかげで幸せでした』って」
「………そうか」
「うん」
「………塚本、いい恋をしたな」
「………うん」
その微笑みには以前は感じられなかった透明感を感じる。
こうやって『女』になっていくんだな……… 播磨は妙な感慨にとらわれた。
973 :即興埋め :05/04/06 23:31 ID:coLEmk0E
「播磨君ってさ………」
「ん?」
「優しいよね」
「………そうか?」
「うん………、今日も来てくれたし。播磨君いつだって私のそばに居てくれたよね」
「………」
「私ね、播磨君に謝らなきゃならないコトがあるの」
「………」
「私………、播磨君の気持ち知ってた」
「………!」
「知ってて気づかないフリしてた。播磨君の気持ちに気づいちゃったら、答えを出さなきゃ
ならなくなるから………、優しい播磨君がいなくなっちゃうような気がしたから………
だから気づかないフリしてた。そしたら播磨君はずっと私のそばに居てくれると思ったから」
「………」
「でも、それって播磨君の気持ちを弄んだってコトだよね……… ごめんなさい、播磨君」
「塚本! オレは………」
「ダメ!」
「! ………」
「………ダメだよ、播磨君。それ以上は言っちゃダメ。今は播磨君には大切な人がいるんだから。
裏切っちゃダメだよ」
「でも………でもよ」
974 :即興埋め :05/04/06 23:31 ID:coLEmk0E
狂おしい。
2年間の高校生活は、確実に彼を変えていた。
入学したばかりの播磨であれば、天満以外の女性を『大切な人』などと思うコトはなかったで
あろう。
今や、播磨にとって彼女は、天満以上に守らねばならない存在になっている。
そうだ、確かに言ってはいけない。
この言葉を言ってしまえば、自分の中の彼女への思いが全てが壊れてしまうような気がした。
播磨は唇を噛みしめる。
「ごめんね………私、播磨君を傷つけてばかりだった。今も播磨君を困らせてる」
「塚本………」
「ごめんなさい……… もう播磨君を困らせたりしないから」
天満の目尻に涙が浮かぶ。
泣き笑いの表情を浮かべながら懺悔する天満の前で、播磨は何も出来ずにいた。
肩を抱いてやってもいいのだろうか?
胸を貸してやってもいいのだろうか?
だが………だが………
ちくしょう! オレはやっぱり天満ちゃんに何もしてやるコトが出来ないのか!?
975 :即興埋め :05/04/06 23:31 ID:coLEmk0E
だが、そんな思いも、天満の瞳から大粒の涙が溢れだした瞬間に………それでもなお
微笑もうと口を歪ませているのを見た瞬間に消し飛んだ。
播磨は天満の肩を引き寄せると、自分の胸に抱き寄せた。
天満は逆らわなかった。播磨の胸の中で嗚咽を漏らしている。
天満の背中にそっと手を回す。
瞬間、一人の少女の咎めるような顔が頭をよぎった。
だが播磨は、それをムリに頭から振り払った。
―――空って綺麗………
そういえば、こうやって落ち着いて空を見上げたことなど、しばらく
なかったような気がする。
塚本天満は、学校の屋上で、床に直接大の字に寝そべって、瞬きもせずに
空を見上げていた。
空はどこまでも高く、そして青く………
自分がその中に吸い込まれて行きそうな感覚。
自分が空気になり、肉体のみならず、精神までもが空の一部と仮すような錯覚。
空虚……… それは、今の塚本天満にとって、最も求めていた感覚でもあった。
ギィと音を立てて、屋上の扉が開かれたのが判った。
感覚が次第に現実に戻ってくる。
屋上に入ってきた誰かが自分に近づいてくるのが判る。
それが誰なのか、天満にはすでに判っていた。
いつだって自分を見守ってくれていたあの人………
「よう、塚本」
「播磨くん………」
970 :即興埋め :05/04/06 23:29 ID:coLEmk0E
天満はゆっくりと身を起こして、そのまま膝を抱える。
播磨は何も言わずに、天満の隣に腰を下ろした。
そのまましばしの時間が過ぎる。
二人は、何も語るでもなく、屋上に並んで座ったまま、時折吹いてくる風を身に
受けていた。
「播磨くん………」
しばらくして、おもむろに天満が口を開いた。
「おう」
「………私ね………振られちゃった」
明らかに作りモノと判る笑顔を播磨に向ける。
播磨は何も言えずに、サングラスの下で目をしかめさせた。
「でもね………ホントは何となく分かってたの。ダメなんだろうなぁ………って」
「………」
「何度かアプロ−チ掛けてみたんだけど、何の反応もなくて………」
「………」
「イイ感じかなぁ?って思ったこともあったんだけどね……… 結局、なんとなく
相手してくれてただけだったみたい」
「………」
「でも、このまま終わるのはイヤだったから…………」
「………」
「でも………」
「………」
「………振られちゃった」
972 :即興埋め :05/04/06 23:30 ID:coLEmk0E
空白。
言葉は途切れ、しばしの静寂が二人を包む。
「………いいのか?」
「………え?」
「烏丸………今日出発なんだろ?」
塚本天満の想い人は今日アメリカへ旅立つ。
「うん………、お別れは昨日したしね」
「そうか………」
「………失恋ってさ………、もっと悲しいモノかと思ってた」
「……?」
「なんか不思議な感じ。『悲しい』ってより、『ああ、終わっちゃったんだなぁ』って感じ」
「塚本……… 後悔してんのか?」
「え、何を?」
「………烏丸に恋したこと」
「そんなコトないよ! だって私言ったもん、烏丸君に。『貴方のおかげで幸せでした』って」
「………そうか」
「うん」
「………塚本、いい恋をしたな」
「………うん」
その微笑みには以前は感じられなかった透明感を感じる。
こうやって『女』になっていくんだな……… 播磨は妙な感慨にとらわれた。
973 :即興埋め :05/04/06 23:31 ID:coLEmk0E
「播磨君ってさ………」
「ん?」
「優しいよね」
「………そうか?」
「うん………、今日も来てくれたし。播磨君いつだって私のそばに居てくれたよね」
「………」
「私ね、播磨君に謝らなきゃならないコトがあるの」
「………」
「私………、播磨君の気持ち知ってた」
「………!」
「知ってて気づかないフリしてた。播磨君の気持ちに気づいちゃったら、答えを出さなきゃ
ならなくなるから………、優しい播磨君がいなくなっちゃうような気がしたから………
だから気づかないフリしてた。そしたら播磨君はずっと私のそばに居てくれると思ったから」
「………」
「でも、それって播磨君の気持ちを弄んだってコトだよね……… ごめんなさい、播磨君」
「塚本! オレは………」
「ダメ!」
「! ………」
「………ダメだよ、播磨君。それ以上は言っちゃダメ。今は播磨君には大切な人がいるんだから。
裏切っちゃダメだよ」
「でも………でもよ」
974 :即興埋め :05/04/06 23:31 ID:coLEmk0E
狂おしい。
2年間の高校生活は、確実に彼を変えていた。
入学したばかりの播磨であれば、天満以外の女性を『大切な人』などと思うコトはなかったで
あろう。
今や、播磨にとって彼女は、天満以上に守らねばならない存在になっている。
そうだ、確かに言ってはいけない。
この言葉を言ってしまえば、自分の中の彼女への思いが全てが壊れてしまうような気がした。
播磨は唇を噛みしめる。
「ごめんね………私、播磨君を傷つけてばかりだった。今も播磨君を困らせてる」
「塚本………」
「ごめんなさい……… もう播磨君を困らせたりしないから」
天満の目尻に涙が浮かぶ。
泣き笑いの表情を浮かべながら懺悔する天満の前で、播磨は何も出来ずにいた。
肩を抱いてやってもいいのだろうか?
胸を貸してやってもいいのだろうか?
だが………だが………
ちくしょう! オレはやっぱり天満ちゃんに何もしてやるコトが出来ないのか!?
975 :即興埋め :05/04/06 23:31 ID:coLEmk0E
だが、そんな思いも、天満の瞳から大粒の涙が溢れだした瞬間に………それでもなお
微笑もうと口を歪ませているのを見た瞬間に消し飛んだ。
播磨は天満の肩を引き寄せると、自分の胸に抱き寄せた。
天満は逆らわなかった。播磨の胸の中で嗚咽を漏らしている。
天満の背中にそっと手を回す。
瞬間、一人の少女の咎めるような顔が頭をよぎった。
だが播磨は、それをムリに頭から振り払った。
2010年12月04日(土) 21:04:52 Modified by ID:/AHkjZedow