IF21・崩壊

537 :1/19 :05/03/30 22:50 ID:kjywfUuU
「・・・無理ね・・・」
旧校舎の一室、茶道部で高野晶は一人、あらぬ方向に視線をさまよわせていた。
彼女のほかに、人はいない。
本来ならば部活動の時間なのだが、ここにいるのは彼女一人だ。

ことの起こりは五日前、
突然アメリカに出発することになった烏丸に告白するため、塚本天満は播磨のバイクに乗
せてもらい、ぎりぎり離陸20分前に烏丸を発見、告白した。
「・・・ずっと前から・・・好きでした!」
「僕もだよ・・・」 えっ?と期待する天満、その後ろで顔面蒼白になる播磨
しかし、相変わらず無表情のまま烏丸は言葉を続ける。
「・・・でも、僕じゃ君を幸せにはできない・・・君を思う人は、いつもそばにいる」
驚いた天満が烏丸の指さした先を見ると・・・固まっている播磨が
放心状態の二人を残し、烏丸は搭乗口へ一直線。

「・・・これでよかったのかな」
遠ざかりゆく矢神を眺めつつ、烏丸は気持ちを整理した。
塚本さんの気持ち、播磨君の気持ち、播磨君を思う女の子たちの気持ち・・・
すべて把握した結果の行動だったはずだ・・・たとえそれによって不幸になる人たちが出
てきたとしても・・・
「お肉にしますかお魚にしますか?」 「カレー」

一方放心状態からさめた天満と播磨はというと。
(・・・えーと・・・私が烏丸君に告白して、烏丸君がOKして、だけど播磨君と付き合っ
て、みたいに言われて・・・でも播磨君は八雲と付き合っているんだし、烏丸君は何か勘
違いしているのかな・・・あー、わかんないよ!!!)
ピコピコをいつもよりよけいに回しながら、自分もくるくる回る天満。
そこへ播磨の一撃が
「おめぇ、この顔覚えているか?」
播磨がサングラスをはずすと、隠れていた双眸が明らかになる。



538 :2/19 :05/03/30 22:51 ID:kjywfUuU

「?・・・!!!!!」
(この後、変態さん呼ばわりしようとした天満を必死で落ち着け、何とか誤解を解いた上、ついでに告白までした播磨についての興味深い話があるのだが、省略)
「・・・というわけで、俺の本当に好きなのは塚本、お前なんだ!」
「そんな・・・八雲は遊びだったの?愛理ちゃんに告白したのは?ミコちゃんへの告白の練習は?」
「だからあれは・・・(この後、とうとう漫画のことをばらした上、今までの誤解をことご
とく解く播磨の話)・・・というわけだったんだよ!」
播磨が話を終え、前を見ると、播磨の話の処理により、負荷が500%を超え、脳内回路がシ
ョートし気絶した天満の姿があった。

1時間後、塚本邸
「妹さん、開けてくれねーか?」
播磨の声をきき、何の用かなとちょっとどきどきしながら八雲が玄関のドアを開けると、
天満を負ぶった播磨
「姉さん!」
「その・・・詳しくはて、塚本から聞いてくれ。じゃあな」
呆然とした八雲と気絶したままの天満を残し、播磨はそそくさと去っていった。
数分後
「姉さん!」ようやく起きた天満を見て喜ぶ八雲・・・しかしすぐに顔が曇る。
「あれ・・・播磨君は?え、八雲?私の家に?」
八雲は見てしまった。姉の後ろに広がる、(烏丸君・・・行っちゃった・・・播磨君が告白・・・
私を助けてくれた・・・八雲と漫画・・・どうしよう・・・断れない)という文字を。
「あのね、八雲・・・八雲!?」
目を潤ませながら、自分の部屋にかけていく八雲を見て、天満はその場から動けなかった。
この夜、八雲の部屋からは一晩中啜り泣きが途絶えることはなかった。

次の日、周防美琴が通学路の矢神坂を登っていると、いつもどおり
「ミコチンー!!!」ドゲシッ!



539 :3/19 :05/03/30 22:52 ID:kjywfUuU
坂を転がり落ちていく今鳥・・・「銀ちゃん、かっこいい・・・」?
しかし今の攻撃で思わず体制が崩れた周防、あわてて受身の態勢をとろうとするが後ろに
傾き・・・(もうダメだ・・・)
ガシッ (へっ・・・?) 気づくと長身の美形の男が支えてくれていた。
「大丈夫か周防?」
「・・・あ、ああ」
「じゃあな」男はバイクにまたがり、去っていった。
(どっかで見たことあるような・・・それになんか心臓がバクバクいっていて・・・これが
吊り橋効果っていうやつか?・・・なんかかっこよかったな)
途中で沢近や高野に声をかけられるが上の空の周防

2−C教室に、長身の美形の男が始業チャイムとともに駆け込んできた。
播磨拳児、告白の結果が怖くて、ぎりぎりまで彷徨
「ふぅー、間に合ったぜ!・・・どいてくれねーか?お嬢」
「ちょっと、誰よあんた、ここはヒゲの席・・・て、お嬢って、まさかあんた」
「「「「「「「えーっっっっっ!!!!!」」」」」」」(2−Cの面々)そこへ刑部先生到着
「さぁ授業を始めるぞ・・・(拳児君はきちんと来たみたいだな・・・塚本君はいるな、やは
り不自然な様子だ・・・八雲君のほうは欠席だったが・・・それにしても結構な数の女子
が拳児君を見つめている・・・沢近君はわかるとして、周防君まで顔を赤らめているとは・・・
やれやれまためんどうなことになりそうだ)」
刑部紘子、今のところ第三者
播磨拳児、モデルガンを突きつけられて、全て白状

その日、播磨と天満は無意識にお互いを避けていた。播磨の周りに女子たちがまとわりつ
いて接触する機会がなかったせいもあるが。
また、播磨の素顔を知って告白しに来た女子が昼休みまでに数人出てきたため、沢近や周
防も心中穏やかではなくなってきた。
(何よ、サングラスはずしてかっこよかったから告白だなんて、なんて軽薄なの。)
(大体、あいつはもともと私に告白しようとしていたんだぞ)



540 :4/19 :05/03/30 22:53 ID:kjywfUuU
(あいつのことは私のほうがよく知っているの)
(意外と女の子にやさしいこととかな)
(・・・でもそのせいで、断りきれずに付き合って・・・なんてことも)
(早く手を打たなくちゃ先輩の二の舞だ)
(・・・よし、放課後にあいつを呼び出そう)
(・・・しかし自分から呼び出したらばればれだよな、播磨の隣の天満に、呼び出しのメモ
を授業中に渡してもらおう)
(・・・放課後屋上で、と)
「「天満、播磨(ヒゲ)にこれを渡して」」
この日ずっと、下にうつむいていた天満が顔を上げると、なぜかお互いをにらみつけてい
る親友二人の姿があった。
((あんた(お前)までそんなに軽薄な女の子だったの(か)?))

放課後、屋上
(天満ちゃんから呼び出し、てことは昨日の告白の返事だよな・・・やべぇ、心の準備がで
きてねえ)
「よっ!播磨っ」
「えっ周防!何でここに?」
「実は呼び出したのはわたしなんだ。」
(呼び出したのが周防・・・ちょっと待て、放課後屋上で二人きり・・・しかも顔が赤い、
ってことはまさか・・・)
「・・・まさかお前も告白しにきたのか?・・・なんて(俺の勘違いであってくれ・・・)」
コクン。播磨石化
(・・・つまりこれが天満ちゃんの答え?私と付き合えないから親友を紹介するってことなの
か・・・なんだったんだ俺の告白は・・・)
「ちょっと待って、ヒゲ・・・私の気持ちも、聞いてくれる?」(ポッ)いつの間にか後ろに
いる沢近
再びいやな予感がする播磨
「・・・まさか、そんなはずはないよな。俺とお前は天敵同士・・・」
「・・・あれは愛情の裏返しよ。」再び顔を赤らめる



541 :5/19 :05/03/30 22:54 ID:kjywfUuU

(・・・終わった。天満ちゃんはよほど俺と付き合いたくないんだ・・・)
天満は二人が告白するなんて知らない。ただ播磨に伝えただけ。
「「それで返事は?」」
「へっ?」
「「どっちを選ぶの?」」
二人限定?・・・「すまん、もうすこし考えさせてくれ・・・」
((少なくともほかの女のように拒絶はされなかった))少しほっとする二人。
だが次の瞬間、親友・・・否、恋敵と眦をあわせ、相手を威嚇し、屋上を去っていった。
硬直している播磨を残し

「・・・はぁ、そうすりゃいいんだよ!」
自暴自棄気味につぶやいた播磨、だが、殺気を感じて背後を見ると
「播磨、きさまぁっっ!」
花井の渾身の力を込めたこぶしが、播磨の頬に直撃する。
「・・・いってえな、花井、何の用だ!」
「とぼけるな!八雲君と付き合っておきながら、周防にも手をかけようとするなんて・・・八
雲君の幸せを思い、手を引こうとも思っていたが、これじゃ僕の気持ちに収まりがつかな
いじゃないか!!!」
「いや、妹さんとのことは・・・」言いかけて、播磨は花井の異変に気づいた。
(こいつ、泣いている?)
「問答無用!!!」
数分後、播磨は無残にぼこぼこになって地に斃れていた。
「なぜ、抵抗しない?」
「・・・・・・」
「なぜだ!」そのとき花井は、播磨の目に、自分へ向けられている哀れみを見た。
「ちくしょーーっ!」(・・・なんてみじめなんだ)普段の彼なら使わない言葉を残し、花
井は屋上を後にした。

一時間後、周防は一人花井道場で天井を所在無さげに見上げていた。



542 :6/19 :05/03/30 22:56 ID:kjywfUuU
(またか・・・)夏のつらい思い出がよみがえる。沢近の一言から二人の間の友情が壊れた思
い出が・・・
(でも、もう失恋はしたくないな・・・)屋上から出て行った後、二人は近くの公園で互いに
相手をののしりあった。
「所詮、孔雀のように、外見重視の女だったんだな!」
「何よ、あんたこそ心が大事、なんていっておきながら素顔を見たとたん態度を変えて・・・」等等
最後には、二人とも目を真っ赤にはらして、逆方向へと去っていった。
「ふぅ・・・」
「周防・・・泣いていたのか?」
いつの間にか近くにいた花井に、周防は気がつかなかった。
「お前こそ・・・眼、赤いぞ」
しばらく二人とも何もしゃべらない。
「・・・あのよ・・・」
「・・・ん?」
「私の告白・・・聞いていたのか?」
「・・・・・・」
無言を周防は肯定と取った。
「応援・・・してくれるよな?」
「・・・・・・」
今度は否定だ。
「・・・なんだよ、好きな人ができたらお互いに応援するんじゃなかったのか?」
「お前が、そんなに軽い女だとは思わなかった。」
「えっ!」
「素顔が男前だから、その日のうちに告白するなんて・・・」
周防は顔を青ざめ、ふるえていた。
「花井・・・お前こそ、外見で八雲を好きになったんじゃないのか?八雲の迷惑を考えず追
い掛け回して・・・それに、播磨に嫉妬しているんじゃないのか?八雲をとった上、幼馴染
まで奪うかもしれない播磨に。」
「な・・・僕の八雲君への気持ちは、純粋だ!」



543 :7/19 :05/03/30 22:57 ID:kjywfUuU
「だからかえって迷惑なんだよ!大体、そんなに八雲のことが好きなら、私が播磨とうまく行
くように応援したらどうなんだ?そうすれば播磨に捨てられた八雲が、お前と付き合うかも
しれないだろ!」(何言ってんだ・・・私)言いたくないのに、口が勝手に言葉をつむいでいった。
パシッ
二人とも、その時何があったかわからなかったが、一瞬の後、周防は頬の痛みを感じ、手
を当てた。
周防の前には仁王立ちになり、自らの右手を驚愕の目で見つめている花井がいた。
「花井・・・」
ひきとめようとする周防の声を後に、花井は道場から出て行った。

花井は自分の部屋で、怒り、悲しみ、屈辱、・・・湧き上がる負の感情の全てに苦悩していた。
(なぜ僕は周防に手を・・・今まで女に暴力を振るったことなんてなかったのに?しかもそれ
が周防・・・僕のヒーロー・・・ミコちゃん・・・)
ふと部屋の片隅にある、幼き日のリコーダーが眼に留まる。
花井は懐かしげに手にしたが、周防の言った言葉を思い出し、憤怒に駆られ、それを真っ
二つに折り、周防の部屋に向かって投げつけ、窓とカーテンを乱暴に閉めた。
(・・・・・・僕たちはもう、あのころには戻れない・・・・・・)

そのころ沢近はなぜか塚本家の前にいた。
(今度は、逃げ出さないわよ)
チャイムを押してしばらくの後、塚本八雲が現れた。
(この子も泣いていたの?)
一方八雲は、突然の来訪者に、
「あの・・・何の用でしょうか?」
「その・・・私、播磨君に告白してきたわ。」驚く八雲
「あんたもはっきりしないとね。私だけじゃなく、美琴や結構な数の女の子も告白していたわ。」
「・・・」



544 :8/19 :05/03/30 22:58 ID:kjywfUuU
「じれったいわね。早く告白してきなさいよ。播磨君、私や周防には、もう少し考えさせて
くれ、なんていっていたわよ。」
「え・・・(播磨さんは姉さんが好きなのに・・・告白したのに何で?もしかして姉さん播磨
さんを振ったの?だったら私にもチャンスが・・・何を考えてるの?私、今ひどいことを考え
ていた・・・)」
「さあどうするの、今なら学校にいるかもよ。」
「・・・行きます。」
ナカムラの運転する車内にて
「あの・・・お尋ねしてもいいですか?」「?」
「なんでこんなことを?」
「そりゃ・・・(何でだろう?一番のライバルのはずなのに?)あんたが参戦しないと、張り合
いがないからよ・・・」
「・・・えーっと・・・あ、ありがとうございます。」
「・・・ばか」(自分と八雲、どちらに向けたセリフかしら)

播磨はまだ屋上にいた
(どーすっかなあ)考えれば考えるほどループしていって何も思いつかない。
「播磨さん・・・」
(この声は・・・妹さん!)
「妹さん!どうしてここに?」
「あの・・・す、好き。」 カァーッ(サングラスをはずすと、こんなにかっこよかったんだ・・・)
播磨、再び石化
「え・・・聞き違いか?今妹さんが俺のこと好きって・・・」
「あの・・・聞き違いじゃありません・・・」恥ずかしくて下を向き続ける八雲
(何だって・・・妹さんが俺のことを・・・てことは、俺が天満ちゃんに告白するための漫
画を妹さんに書かせていて・・・妹さんは俺が天満ちゃんが好きなのを知っていて・・・
つまり俺は・・・俺は・・・なんて最低な男なんだ!!!)
「すまねえ、妹さん!」
もし八雲が播磨のほうを向いていたなら、一瞬だけ播磨の心が読めただろう・・・しかし
運命は残酷なもの、八雲は「すまねえ」を当然のことながら告白の拒否と捉えてしまい、泣



545 :9/19 :05/03/30 22:58 ID:kjywfUuU
きながらドアの向こうにかけていった。
「ちょっとヒゲ!いくらなんでもひどすぎるでしょ!」
「へっ?」沢近にシャイニングウィザードをかませられ、播磨気絶
(私って・・・何やっているの?こうなることを本当は望んでいたんじゃないの?わざと八雲
をせかてて、ヒゲに振らせて・・・ただの偽善者だったのかしら・・・)
(ありがとうございます・・・八雲、こんな私にお礼を言っていたんだ・・・こんな偽善
者の私に・・・八雲、ごめん!!)

「八雲、八雲どうしたの?」
茶道室で泣いている八雲にサラが声をかける。
「サラ・・・サラは私の味方だよね。」
八雲はサラに漫画のこと、告白のこと、振られたことを打ち明けた。
(ひどい・・・でも、播磨先輩ってそんな人?どこかに誤解があるんじゃ・・・)
「播磨さん、沢近先輩や周防先輩は断らなかったのに・・・」
「周防先輩が播磨先輩に!!!」

サラにとって、親友である八雲が一番大事・・・のはずだった・・・しかし・・・
(周防先輩が播磨先輩に告白・・・しかも播磨先輩は断らなかった・・・もし周防先輩と播
磨先輩が付き合えば・・・麻生先輩は・・・)
サラの頭に、体育祭のとき、騎馬戦で周防に抱きしめられて赤くなっている麻生の姿、二
人がプールのホッケーで息が合っていた、サバゲーで同じチームだった・・・などの話が
浮かんでいった。
「サラ、サラどうしたの?」八雲がたずねるが、サラは上の空である。
(今までは・・・八雲が播磨先輩と付き合っているから、花井先輩は周防先輩とくっついて・・・
私は麻生先輩と・・・なんて少し思っていた、だから安心して応援できた・・・)
「サラ・・・私、もう播磨さんとは一緒になれないのかな・・・」
「・・・そうかもね・・・」
「!」
八雲は一縷の望みが断ち切られた気がした。そのまま部室の扉から姿を消した・・・
(・・・私、今なんていったの?) 自分の放った言葉に驚愕するサラ、そして



546 :10/19 :05/03/30 22:59 ID:kjywfUuU
「ごめんね、八雲、ごめんね・・・」
いつの間にか入ってきた高野に気づくことなく、サラは泣きつづけた。

刑部邸では、放心状態の播磨の前で、刑部紘子が攻めあぐねていた。
(・・・昨日のようにモデルガンで脅そうにも、これではな・・・)
「・・・拳児君、何があったか聞きたいのはやまやまだが、とりあえず酒でもどうだね?」
「・・・ああ、こんなこと、酒の力でもかりねぇと、話せねえーからな。」
ちびちびと酒を飲みながら話す、播磨の話は断片的で、複雑だったが、ある程度のことは
把握できた。
(つまり、天満君に振られ、大勢の女の子から告白され、しかもそこには八雲君も混ざって
いる、しかも八雲君はどうやら拳児君に振られたと思い込んでいる・・・ということか。)
なぜか湧き上がるある種の期待感、焦燥感に刑部紘子はとらわれていた。
「まあ、拳児君、明日は休みだ、ゆっくりし・・・もう寝ている、か」
やれやれ・・・と播磨をベッドまで引きずっていき、布団をかける。
「しかし、サングラスをはずした寝顔はなかなかかわいいもんだな。」
ふと顔をのぞく刑部先生。だがいきなり両肩をつかまれ、引き寄せられた。
「な、何をするんだ拳児君!」
「好きだ・・・」
「えっ・・・」
そのまま刑部先生は播磨と口付けをし、ベッドに入ってしまった。

「八雲―っ!カレーができたよーっ!」八雲の部屋に何度も声をかけるが、八雲は出てこない。
(昨日から閉じこもっている・・・やっぱり播磨君の告白のせいだよね。よー氏、何とかし
て播磨君と八雲との仲を取り持とう。播磨君には悪いけど、かわいい妹のため・・・お姉
ちゃんパワー!!)
バンッとドアを開けた天満。そこで出てきた言葉がなんと、
「八雲っ!播磨君のことはお姉ちゃんに任せて!」
「!!!!!」
「さあ八雲、カレー食べよ」
「・・・姉さんなんて大嫌い!」



547 :11/19 :05/03/30 23:00 ID:kjywfUuU
「・・・えっ」小さいときを含めて、たった一人の妹からこんな言葉を聞いたことのなか
った天満にとっては、頭が割れるほどの衝撃だった。
「・・・どうして姉さんなの!姉さんより、私のほうが女らしいのに、料理ができるのに、
頭がいいのに、男の人にも何度も告白されるのに・・・なんで姉さんが播磨さんを取っち
ゃうの?」
「八雲・・・」
「・・・ごめん、姉さん。」(私、今なんてことを?)
「もういいよ!せっかく八雲のことを心配してたのに・・・八雲なんて知らない!」
(姉さん・・・心が読めない!?)
いつもなら天満の後ろに大きく浮かんでいたはずの文字が、ぜんぜん見えなかった。
(ということは姉さんは私のことを・・・)
それは播磨に振られた(八雲にとって)時よりも衝撃的なことだった。
(姉さん・・・)
部屋の中には、人形のように虚ろな瞳の八雲が残されていた。

あくる日、刑部邸
(なんてことをしてしまったんだ私は・・・)
刑部紘子は播磨のベッドでいつに似ず顔を青ざめ、あわてていた。
横にいるのは播磨拳児、彼女の従弟
(何とかごまかせねば、こっそり出ていけば、きっと拳児君のことだ。酔って何もかも覚え
ていないだろうし・・・)
しかし運命は時に非情だ
「兄貴ー、紘子姉ちゃんー、・・・鍵があいているな、入るぞ!」
「しゅ・・・修治君、ダメだ、来てはいけない!」
「兄貴の部屋から・・・?・・・!!!!!」
「修治君、どうしたの・・・!」
「違うんだ、修治君、これは・・・その・・・」
「・・・紘子姉ちゃん、兄貴の先生だったよな。しかも八雲姉ちゃんの担任で・・・八雲姉
ちゃんと兄貴は仲良くて・・・最低だよ、二人とも!」
播磨修治は天王寺(妹)の手を引いて、駆けていった。



548 :12/19 :05/03/30 23:01 ID:kjywfUuU
「・・・ン、今修治の声がしたようだが・・・って、何だこれは!」
全身蒼白状態の播磨が横の刑部先生(半裸)を見ると、
「いいか、このことは他言無用だ、私と健児君との間には何もなかった、いいかい?」
鋭い瞳でにらんでくる刑部先生
「・・・ハイ、ダレニモイイマセン」

「・・・ねえ、修治君、今の修治君のお兄さんとベッドにいた人、誰?」
「・・・俺たちの従姉だ・・・だがあんなやつら、もう従姉でも兄貴でもねえ!・・・こうし
ちゃいられねえ、早く八雲姉ちゃんに伝えねえと!兄貴とはもうかかわるなって!」
「え、修治君?」
「すまない、もうお前は自分の家に帰ってくれ。俺はいかねえといけないんだ!」
「・・・うん・・・」

「八雲姉ちゃん、八雲姉ちゃん!」
「うるさいなー、こんなときに・・・(ガチャッ)ああ、修治君、どうしたの?」
「八雲姉ちゃんは!今すぐ伝えないといけないことが!」
「八雲・・・知らない!自分の部屋でしょ。(タタタタタ)たくっ!」
(あれ・・・この声、修治君?もしかして、播磨さんに何かあったのかしら・・・)
「八雲姉ちゃん、入ってもいい?」
「いい・・・」言いかけて、八雲はドアを突き破るほどの感情に気がついた。
(兄貴と紘子姉ちゃんが同じベッドで・・・八雲姉ちゃんは兄貴と会っちゃダメだ・・・八
雲姉ちゃんの担任・・・裏切り・・・二人ともくずだ・・・)
「開けるよ、八雲姉ちゃん!」
「入らないで!来ないで!会いたくない!」
「八雲姉ちゃん・・・」
八雲は修治の弱弱しくなっていく心を読んだ。
(八雲姉ちゃんに・・・嫌われた・・・)
(ごめん、ごめんね、修治君・・・でも、会ったら絶対・・・もう・・・私・・・)

次の日2-C教室



549 :13/19 :05/03/30 23:02 ID:kjywfUuU
高野はもはや自分のクラスに、かつての明るさを感じてはいなかった。
確かにいまだに播磨の素顔は話題となっているし、他クラスの女子何人もが、播磨を興味
深げに見に来ている・・・しかし、仲良し4人組には、亀裂が入っているようだし、花井
と周防の間にも不穏な空気が読み取れる・・・
そこへ、高野の思索を止める大声が聞こえてきた。
「播磨!俺と勝負しろ!」
2−Dの巨人、天王寺だ
「・・・わりーが、今そんな気はおきねえ」播磨は疲れきっているようだ。
「ふざけんな!妹から聞いた!お前、前に塚本が好きだとか行っていたよな!それに周防がお前
に告白したそうだな!それなのに、お前ってやつは・・・お前の従姉と一緒にベッドでいち
ゃいちゃするなんてよ・・・塚本や周防の気持ちを考えたことがあるのか?」
その瞬間、播磨を始め、2-Cの全員(高野までも)が凍りついた。
(・・・播磨君の従姉だって・・・播磨のやつ、従姉がいたのか?・・・ミコチンが告白・・・
やっぱり播磨のやつ、八雲と付き合ってたんじゃねーのか・・・)
2−Cのクラスメイトが一斉にひそひそ話を始めた・・・塚本、沢近、周防、花井などの
当事者たちを残して・・・
「あの告白はうそだったの?そのせいで初めて姉妹喧嘩をしたのに?」
「つまり、八雲も私も眼中になかったのね?」
「播磨、お前・・・」
「・・・周防はともかく、八雲君の気持ちを考えたことはないのか?」
今にもつかみかからん勢いで迫ってくる者たちに、播磨もかつてない恐怖を感じた。
「ちょ・・・ちょっと待ってくれ、俺とイトコがベッドに入っていたというのはその・・・」
ガラッ 一時間目の授業の先生が入ってきた・・・血の気のうせた顔で
「け・・・拳児君、君と私のことは、他言無用だと・・・」
「「「え?」」」刑部紘子の声に2−Cの空気がまた凍りついた。
いち早く解けた播磨が思わず・・・
「紘子のばかやろー!黙っていれば、刑部先生が実は俺の従姉だったなんて、ばれずにすん
だんだ!」
「・・・播磨君、おかげでみんなに知れ渡ったわ」
高野がポツリと漏らした。



550 :14/19 :05/03/30 23:03 ID:kjywfUuU
刑部紘子は授業を自習にして、いち早く追及を逃れ、茶道室までやってきた・・・
だがそこには・・・
「・・・八雲君」
「・・・刑部先生・・・ずっとお待ちしていました。」
「・・・その・・・」
「先生、本当ですか?播磨さんと寝たというのは?」
刑部紘子は驚愕した。彼女にはいつものおどおどとした雰囲気はどこにもなく、代わりに
修羅場を潜り抜けたかのような女の強さめいたものがあったため。
「本当だ、で、どうしろと?」
「・・・残念です、刑部先生は私の一番敬愛する先生でしたのに。担任であり、しかもどこ
の分にも入れずにいた私を茶道部に入れてくれ、より大きな世界へといざなってくださっ
た優しい方でしたのに・・・播磨さんと師弟の間柄でありながら、私の気持ちを知ってい
ながら、そのような破廉恥なことをなさるなんて・・・」
「・・・君は、本当に八雲君なのか?」
「・・・悲しみが・・・悲しみが私を変えました。」
「・・・すまなかった・・・あれは、その・・・勢いで・・・」
「答えになっていません。とにかく先生は、教師として最低です。」
「・・・最低・・・か」よろよろと刑部紘子は出て行った。いつもの彼女からは想像できな
いが・・・
「・・・ごめんね、八雲、こうせずに入られなかったの」
刑部紘子が去ってしばらくした後、八雲の体から小さな女の子の像が現れてきた。
「・・・いいの、どうなっても・・・私はもう抜け殻でありたい。ずっと私の体を使ってい
いわよ・・・そうすれば恋もできるし、成仏できるわ。」
「・・・八雲・・・聞いていい?男の人好き?」
「・・・好き・・・だけど、嫌いなほうがよかった・・・こんなにつらいものだなんて、知
らなかった・・・」
「・・・そう・・・じゃあ、もう少しだけ、体借りるね。」

一方、2−Cでは刑部先生と播磨が相次いで出て行った後、もはや混乱の極に達していた。
「ミコチン・・・なぜ播磨に告白したんだよー!」



551 :15/19 :05/03/30 23:03 ID:kjywfUuU
今鳥が、周防に尋ねる・・・しかし、いくら両者とも失恋したとはいえ、今鳥と周防じゃ
ショックの度合いが全然違い、
「うるせーな!もともと、今鳥、お前が私を坂から突き落とそうとしたときに、播磨が助けて
くれたおかげで大怪我せずにすんだから、ほれたんだよ!」
あまりにも語気が荒くなったため、少々オーバー気味、流石の今鳥も落ち込んだ。
「ミコチーン・・・」
「あの、今鳥さん、大丈夫ですか?」一条がたずねるが、こちらも言葉が荒くなってしまい、
「うるせーな!俺が振られたからって付き合うチャンス!なんて浮かれてんのか?大体、お前の
よーな怪力宇宙人なんて、どっかいっちまえ!」
2−C最強と謳われる一条も、心は純真なだけ、一般女子より格段に弱い・・・泣きなが
ら教室を出て行ってしまった。
(・・・悪いことしたかな・・・)今鳥は思ったが、もう後の祭り、周りの女子たちから「サ
イテー!」のレッテルを貼られてしまった。
(・・・女子全員から嫌われるなんて、悪夢だ)

播磨は、というと、保健室に逃げ込んだ。
「お姉さーん!助けてくれー!」
「え・・・ハリオかー!懐かしいね、その顔!どうしたの?」
「そんなことはどうでもいいんだ!とにかく、匿ってくれ!」
「OK♪」るんるん気分の姉ヶ崎先生、だが数10分後、
「播磨君はここにいますか?」
「えーっと?笹倉先生、どうしたんですか?」
「実は刑部先生と彼を対面させようと思いまして・・・」
「・・・彼ならいませんけど、いったいどうしたんです?」
「さあ、刑部先生、姉ヶ崎先生に説明を・・・」
そこには、もはやいつもの勝気な刑部紘子の姿はなかった。

茶道室をよろよろと出た後、彼女は後輩で同僚の笹倉葉子のもとへと向かった。
(彼女なら・・・私を赦してくれるかも・・・)
しかし、笹倉葉子は彼女を見るなり、冷たく言った。



552 :16/19 :05/03/30 23:04 ID:kjywfUuU
「刑部先輩、先輩と拳児君とのことが、職員会議にかけられるそうです。」

「・・・というわけで、播磨君が来たら、教えてく・・・姉ヶ崎先生、何ですかそのオーラは?」
「・・・へぇー、ハリオ、私が誘っても全然その気にならなかったのに、刑部先生とは平気
でねぇー・・・出てこい!」
「・・・お姉さん・・・勘弁してくれ・・・」
「やっぱりいたのね、拳児君!」
「拳児君・・・せめて君だけは逃がしたかった・・・」
「逃がせてあげましょうか?」と、姉ヶ崎
「「「え?」」」
「どうせ職員会議の結果は目に見えています。ハリオはもとからほかの先生方やPTAに嫌
われていますから、退学は間違いなし。その前に、私のところで秘密裏に預かっておきま
しょう。」
「それでは刑部先生はどうなります?」
「翻って、刑部先生は人気がありますから、ここはハリオが刑部先生を襲った・・・という
ことにしてはどうですか?保健室の先生を押し倒した・・・という前科もありますし」
「それは先生のせいだろ!」
「大体・・・真相は正反対だし・・・それでは拳児君にとってひどすぎる・・・」
「・・・いいんだ、紘子、俺はもう妹さんや、たくさんの人を傷つけてしまった、それに、
もう天満ちゃんに会わす顔がねえ・・・紘子、、今まで迷惑をかけっぱなしだった・・・こ
れがせめてもの、俺の恩返しだと思ってくれ・・・これからも、教師を続けて、ここでみ
んなを頼む。」
「拳児君・・・」
「じゃあ、行こうか、ハリオ!」
播磨と姉が崎妙は急いで出て行った。残された二人は、ただ見送るだけだった。
「先輩・・・いいんですか?」
「・・・」
「拳児君・・・先輩のためにすべてを背負って・・・」
「・・・なぜこんなことに・・・」
「でも先輩、教師を続けてくださいね。拳児君との、約束ですから。」



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「・・・ああ・・・葉子、私は最低の教師だな。」
「・・・そうです。最低の教師で、最低の従姉です・・・でも、そんな先輩にこの学校にい
てほしい私も、最低の教師です・・・」

うぅっ・・・うぅっ・・・保健室から、二重の泣き声が聞こえる。「「・・・拳児君、ごめんね。・・・」」というか細い声とともに。

その日の午後、喫茶「メルカド」に、仲良し四人組(かつての)が姿を現した。
「「「・・・・・・」」」今日は、無口な高野以外の三人が、黙りこくったままだ。
「・・・それで、みんなに聞きたいことがあるんだけど?」
「「「・・・・・・」」」
「私、今までのことは全部、何かの誤解の上にあることだと思うの。美琴と愛理との間がギ
クシャクしているのも、美琴と花井君との間がおかしくなったのも、天満と八雲との間の
ことも・・・きっと、話して、誤解が解ければ・・・」
「・・・晶ちゃん、それ本当?」
「ええ、私たちに何でも話して」
「じゃあ、言うね。実は私烏丸君に告白した後、播磨君に告白され・・・」
「「ええ!!」」今まで無表情だった沢近と周防が驚きの声を上げた。
「・・・ええと、そのあと、八雲や愛理ちゃんのことやミコちゃんのことを播磨君に聞い
たら、八雲はただのお手伝いだったとか、愛理ちゃんは私と間違って告白したとか、ミコ
ちゃんへの告白は本当は私にするつもりだったとか・・・」
「天満、ストップ!」急いで高野が言うが、既に遅かった・・・
「あれ?愛理ちゃん、ミコちゃん、どうしたの?」
「「・・・かえる」」
二人とも、呆然としながら、その場から足早に立ち去っていった。
(本当に勘違いだったんだ・・・)
(ヒゲは私のこと、すきでもなんでもなかったんだ・・・)
二人とも、「播磨の自分への告白」という強固な地盤に立ったうえでの播磨への告白のはず
だった・・・しかしそれは砂上の楼閣にしか過ぎなかった。
((私って・・・ばか?いやだな、こんな終わりかた))



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しかし、どうしようもない怒りは不条理に他者へと向けられる。
(大体、何で天満なの?)
(私より、料理が下手なくせに)
(私より、勉強ができないのに)
(私より、運動が苦手なのに)
(私より、きれいじゃないのに)
((私より・・・私より・・・私より・・・なのに・・・なんで?))
二人の目から涙が零れ落ちる・・・怒り、悲しみ、自己嫌悪の気持ちを含む涙が。

「・・・二人ともどうしたんだろ、ねえ、晶ちゃん?」
「・・・気づいてないの?」
高野晶も喫茶店を後にした。あまりにも鈍感すぎる天満へのいらだち、結局事態を改善で
きなかった自己への不満を胸に。

数分後、晶は茶道室にいた・・・しかしそこにあった光景は、
「・・・刑部先生なんか、大嫌いです!神様も絶対赦してくれません!」
サラが泣きながら駆け出していった。
中にはどことなくやつれた刑部紘子の姿があった。
「何があったんです?」
「・・・私は、全ての罪を拳児君に着せ、この学校にとどまることにした・・・罪悪感から、
シスターであるサラ君に懺悔して・・・許しを請おうとしたのだが・・・甘すぎたようだ・・・
もう、帰るとするよ・・・」刑部紘子は出て行った。
こんな弱弱しい先生を見るなんて・・・高野は、自分の目が潤んでいくのを感じた。

そのころ、姉ヶ崎邸
「・・・ごめんなさい、ハリオ、ごめんなさい・・・」
そこには、泣いている姉が崎妙と、「遺書」と書かれた手紙だけが残されていた。
「・・・全ての罪はこのおれにある。塚本天満を家に連れ込んで襲おうとしたのも、塚本八
雲を無理やり手伝わせたのも、裸でお嬢を襲ったのも、周防にちょっかい出したのも、姉
ヶ崎先生を保健室で襲ったのも、刑部先生を襲ったのもすべては俺の責任だ。俺の少しの



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良心が、この遺書を書かせている。さあ、これからは矢神一の不良、播磨拳児のことなど
軽蔑し、忘れてくれ、そして・・・俺からこんなことを言うのも変だが、幸せになってくれ。」
播磨拳児の姿は、どこにもなかった。

高野は茶道室で、たった五日前の状況を思い描いていた。

塚本、沢近、周防、高野の仲良し4人組・・・高野自身を除く、3人の関係はもう修復不可能に近いほど崩壊
塚本姉妹の強固な姉妹愛・・・崩壊
周防・花井の幼馴染パワー・・・崩壊
刑部、八雲、サラ、高野の茶道部の絆・・・高野自身を除く、3人の関係が崩壊
刑部・笹倉の先輩・後輩の絆・・・崩壊、とは行かないがギクシャク
播磨兄弟・刑部紘子の血縁という絆・・・崩壊

この状況が元通りになるとすれば、関係者のうち唯一の第三者?高野晶をほかにいない。
はたして彼女にこれを元通りにすることはできるのか?
「・・・無理ね・・・」やっぱりそうか
「無理ね、私だけじゃ・・・」

(つづく?のか)
2010年12月04日(土) 20:32:14 Modified by ID:/AHkjZedow




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