IF22・馬鹿の挽歌

811 :ギーガp ◆PopGDGnCZ6 :05/04/23 11:52 ID:Boo/sKZ.
最近、愛しの彼女に悪い輩が憑いている。―――何と言う事だと、彼は目に怒りの炎を滾らせた。
あの男は、自分の欲望の為だけに彼女に付きまとっているに違いない。
何と言う悪漢だ。何と言う鬼畜だ。……絶対に、許すわけにはいかない。

そんな事を考え、彼は。

花井春樹は、打倒播磨拳児に乗り出した。



「……あん?」
「?……どうか、しましたか?播磨さん」

肌寒い風の吹く屋上に二人―――塚本八雲と播磨拳児はいた。

「いや……。何か変な気配が……」
「……?」
「ああ、いや。なんでもねえ。……それより妹さん、どうだ?渾身の出来なんだが」
「は、はい。ここはもう少し―――」
「あ、なるほど。でもよ、ここは―――」

二人は校内公認のカップルと言われているが、実際はそうでもない。
播磨拳児が塚本八雲に、書いた漫画を見て貰っているだけだ。
少なくとも播磨にはそれ以上の意味は無い。―――八雲にとってはまた別だが。



812 :馬鹿の挽歌 :05/04/23 11:53 ID:Boo/sKZ.
―――さて。この二人、かなり距離が近い。傍から見れば、仲睦まじいカップルに見える。
だからこそ。―――だからこそ、それが屋上の隅から覗いている彼には憎いのであり。

「――――――!誰だ!!」
「は……播磨さん?」
「さっきからビシビシ殺気飛ばしやがって!出て来い!!」

流石校内一の不良である。―――殺気なんてどう感じるのだろうか。
さてはともかく、気配を感じ取られた彼は二人にその姿を見せる。
その姿は、言うまでもなく。

「―――メガネ?」
「―――花井先輩?」
「……オノレ播磨!我が女神を誑かしおって!成敗ッ!!」

いきなり播磨に飛び掛ってくる花井。
―――コイツ、殺る気だ!
花井が本気で仕掛けてくる事に気付き、咄嗟に横に飛んで逃げる。



813 :馬鹿の挽歌 :05/04/23 11:54 ID:Boo/sKZ.
「何故避ける!」
「避けるわ馬鹿たれ!!何のつもりだ、テメェ!!」
「貴様……知らぬとは言わさん!他の皆も、貴様に恨みがあるのだ!!」
「何……!?」
「ヘイ!皆、カモン!!」

明らかにキャラの壊れた花井の呼び声に、何処からか―――言い方は悪いけどまるでゴキブリのように、と八雲は後に語る―――大量の男子生徒が現れ、播磨を包囲する。

「お前ら何なんだ!」
「皆お前が憎い奴等さ!!」
「ハァ?―――って言うか、こいつら殆どウチのクラスの面子じゃねーか!」
「正味な話、お前を恨んでいる人間が余りにも多いからひとまずウチのクラスの皆を代表とした」
「だから、恨まれる理由がわかんねえ!!」
「まだ言うか!!」

殺気が膨れ上がる面々。―――播磨と八雲には、訳が分からない。
八雲がひとまず聞いてみる。

「あ、あの……花井……先輩……?」
「―――ん?何かね八雲君」

播磨に見せた鬼のような形相と打って変わって藤田和日郎のマンガにでてくる「イイ笑顔」で対応する花井と、その愉快な仲間達。
八雲は、彼らの心を見ないように播磨に擦り寄った。―――何時の時代も、本能で生きる男の心は放送禁止炸裂な物である。

播磨と、彼に縋っている八雲を見て更に殺気が膨れ上がる面々。
いよいよ、断罪を行う。



814 :Classical名無しさん :05/04/23 12:00 ID:wTjye2JE
支援?


815 :馬鹿の挽歌 :05/04/23 12:07 ID:Boo/sKZ.
「播磨拳児」
「だから何だよ!―――いい加減、イラついてんだ!!」
「―――塚本八雲」
「……私?」
「―――沢近愛理」
「お嬢?」
「―――姉ヶ崎妙先生、刑部絃子先生、笹倉葉子先生!」
「なんだそりゃ」
「場合によっては高野晶、周防美琴、一条かれん、果ては嵯峨野まで!!」
「だからなんなんだよ!!」
「―――お前に好意を寄せる女達だ!!」

「―――ハァ!?」

呆気に取られる播磨。―――そりゃそうだ。彼には本当に身に覚えが無い。
そもそも高野、周防、一条とは余り接点が無いし、嵯峨野って誰?見たいなレベルだ。
八雲も呆気に取られていたが、やがて意味を理解するとリンゴよりも真っ赤に染まった顔を手で隠した。
そしてその後、彼に想いを寄せる面々の数に思わず播磨を非難の目で見た。

「分かったか。―――これが、貴様が断罪される理由だ!」
「分かるか、バカタレェェェェェェ!!」
「皆、かかれ!―――八雲君はこっちへ」
「え?…………嫌、です」



816 :馬鹿の挽歌 :05/04/23 12:07 ID:Boo/sKZ.
いきなり話を振られて驚いた八雲だが、拒否の意を示す。
このままでは播磨が危険と判断したらしい。

「おい、妹さん!ここはアイツの言う通りにした方が―――」
「……嫌です。嫌です、嫌です!―――ここが……私の場所です」
「ちょっ!冗談いってる場合じゃないぞ―――」
「冗談なんかじゃありません!……いさせて……下さい」
「う、うううえええ?」

「―――やくも、くん」

花井の、呆然とした声。―――泣いている。
八雲は少し罪悪感が湧いたが、それでもこの想いだけは譲れないとばかりに播磨に引っ付く。

「―――皆、撤収だ」
「な、何だってー!……いやいや、ちょっと待てよ花井!!」
「今日はコイツに天罰を喰らわせるんじゃなかったのかよ!」
「俺ら死ぬ覚悟できたんだぜ!遺書だって書いた!!」
「俺なんか彼女と涙の別れをしたんだぜ!!」
「―――いいから、撤収だ!!……あと、彼女持ちが来るな!―――彼女が悲しむだろう、あとで処罰だ!!」
「うええええええ!?」

血涙のでる思いで撤収命令をだす花井。
あっという間に、帰る時もゴキブリのようなスピードで撤収する面々。

そして後には、播磨と八雲、そして花井が残された。



817 :馬鹿の挽歌 :05/04/23 12:08 ID:Boo/sKZ.
「メガネ…………」
「花井先輩………」
「…………播磨、彼女を幸せにな」
「え?―――いや、ちょっと待て、オイコラ」
「さらばだ、愛しの女神!!」

凄いスピードで去っていく花井。
播磨と八雲は顔を見合わせる。

「な、なんだったんだ、今のは……」
「あ……あの」
「ん?」
「その……さっきは……その」
「さっき?……ああ、アレか」
「……!」

「いやぁ、俺なんか庇ってくれなくても良かったんだぜ?あの程度の数なら余裕だ」
「……!?い……いえその……そういう意味じゃ」
「しっかし優しいなぁ、妹さんは。俺なんか庇ってくれて!」



818 :馬鹿の挽歌 :05/04/23 12:08 ID:Boo/sKZ.
―――これは、駄目だ。
八雲は、播磨のあまりの鈍さに頭を抱えたくなってしまった。

「でもよ、あいつら馬鹿だよなぁ。俺を好きな奴なんているわきゃねーだろーに」
「…………」

ここに一人います。―――そう心の中で叫ぶ。
しかし播磨には届くはずも無く、八雲はこれからだと気合を入れた。


そうしてまた、何時もの日々が続く。

おまけ

―――また何かややこしい事になるんじゃねーのか!?

そう気付いた播磨は、二日後に愛しの彼女から祝福を言い渡されまたヘコむ事になる。
2010年11月20日(土) 01:02:26 Modified by ID:/AHkjZedow




スマートフォン版で見る