IF22・八雲の想い

67 :Classical名無しさん :05/04/07 18:13 ID:te7XRpEw

「・・・でよ、ここをどっかーん!と」

「・・・あ、あの・・恋のお話でどっかーんと言うのは・・・」


ここは矢神高校の屋上。その上で話しているのは播磨拳児とおなじみ塚本八雲だ。
二人はいつも通り、漫画のことについて話している。


「いや!妹さん!オレはこれがいいんだ!」

「は、はぁ・・・」



いつもと雰囲気が違う播磨に、八雲は少しとまどっていた。





68 :Classical名無しさん :05/04/07 18:13 ID:te7XRpEw


(変だな・・・いつもならこんなこと言わないのに・・・)


「・・・・やっぱり変?」

「えっ!あ、いえ、私は・・・おもしろいと思います・・・」

「でも、制作段階の楽しさと、読む人のおもしろさはちょっと違うと思います・・・もう少しわかりやすくしたほうが・・」

「そ、そうか!・・・うーん、こっちのが好きなんだけどな・・・それを言われると・・・」


ピリリリリ ピリリリリ


二人の会話を邪魔するかのように、播磨の携帯にメールが届く。





69 :Classical名無しさん :05/04/07 18:15 ID:te7XRpEw

「ちっ!なんだよこんなときに・・・げっ!!」



携帯の液晶に写された文字は刑部絃子の文字だった。そして
播磨は嫌々ながらメールを見ると

(播磨君へ ちょっと授業態度について話があるから、すぐ職員室にくるように。
PS 逃げると新型の改造銃の実験台になってもらう)


「ちくしょー、絃子のやつ・・・何もこんなときに・・・」

「あの・・・私のことはいいですから、行ったほうが良いと思います・・・」


そういうと八雲は持っていた原稿を播磨に渡した。




70 :Classical名無しさん :05/04/07 18:16 ID:te7XRpEw

「すまねぇ妹さん!せっかく見てもらってたっていうのに!」

「いえ・・・私の好きでやってることですから・・・。それより早くいったほうが・・」

「おっとそうだった!早くしねぇと絃子に殺されるからな!じゃあまたあとで頼むぜ妹さん!」

「あ・・・はい」


そういうと播磨は急いで階段を降りようとした。ところが、


「おっ・・・うわぁああぁあぁあ!!!」



ドンガラドーン!!!



播磨の悲鳴が聞こえると共に何かものが落ちていくような音がした。



71 :Classical名無しさん :05/04/07 18:16 ID:te7XRpEw

「播磨さん!!」

八雲がその音に気づき、急いで播磨の元にむかった。そこを見ると、階段から足を滑って
下で頭に星が回っている播磨を見つけた。


「大丈夫ですか播磨さん!」


しかし、頭からダイビングよろしく壁にぶつかったので、流石の播磨も気絶してしまったようだ。


「どうしよう・・・私のせいで・・・・早く保健室へ・・・!」



そう思うと、一瞬八雲の中の黒い心が動いた。





72 :Classical名無しさん :05/04/07 18:18 ID:o50sxSn2
>33
ホントほわ〜んとしてて良かったです。
萌え萌えですね。ネコミミ八雲・・・鼻血もんです(゜o゜グハ!


73 :Classical名無しさん :05/04/07 18:19 ID:te7XRpEw



このまま保健室へ行かせたら、きっと姉ヶ崎先生に播磨さんを取られちゃう

私が行かせたせいで、播磨さんは転んでしまった

責任は私にあるんだ・・・。そうだ、私が播磨さんを治療しないといけないんだ

そうよ、私が播磨さんを・・・・


そして数時間後。



74 :Classical名無しさん :05/04/07 18:19 ID:te7XRpEw



(うーん・・・天満ちゃーん、愛してる・・・・)

      • ・まさん・・・・

(誰だ・・・オレを呼んでるのは・・・もしかして天満ちゃん!)

      • りまさん・・・・

(おぉ、今オレの気持ちに気づいてくれたのか!天満ちゃん!オレも愛してるぜ!!)

 は り ま さ ん ! ! 

(うおーー!!!好きだーー!!!)


 がばっ!


「きゃっ!」


きゃ?





75 :Classical名無しさん :05/04/07 18:20 ID:te7XRpEw


「あの・・・は、播磨さん?」

するとそこには、塚本天満ではなく、妹こと塚本八雲がいた。しかも自分に抱かれて。

(あれ?  オレどこでどう道を間違えたんだ?ダレカオシエテクダサイ
ていうかなんで妹さんがここに?何で抱いてるんだ?たしか、屋上で絃子に呼ばれて・・・それから・・・・)

!!!

(そうだ、たしかオレは妹さんから漫画を読んでもらって、それから絃子に呼ばれて、全速力でとばしたら
階段から落ちてそのまま・・・・じゃあここは!?)


播磨が回りを見渡すと、紛れもなく自分の部屋だと気づいた。
しかし、驚いてる暇もなく、自分の前で赤くなっている少女が言葉をいった。


「あ・・・あの、播磨さん・・・ちょっと痛いです・・・・」

「え?ああ!!妹さん!!」


彼はやっと状況を理解することができた。そう、気絶した彼をこの部屋につれてきてくれた人は
まぎれもなく彼女なのだ。そして、自分をここにつれてきてくれた少女を、今自分が抱いていることにも気づいた。




76 :Classical名無しさん :05/04/07 18:21 ID:te7XRpEw

「すっすまねぇ妹さん!!」

そういうと彼は素早く手を離した。

「い、いえ・・・私は全然・・・というかそのまましてほしk・・・」
「え?」
「い、いや、何でもないです!」

彼女は顔を真っ赤にしてそういった。

「しかし、妹さん。オレをどうやってここに?」
「あ・・・それは・・・私がおんぶしてここにつれて来たんです・・。」
「え?妹さんがオレを!?」
「あ・・・はい。今にも天国にいきそうでしたので・・・。」
「そ、そうか。すまねぇ妹さん!気絶したオレをここまでつれてきた上に
看病までしてくれるなんて!」
「いえ・・・私が勝手にやったことですから・・・」
「でも、何も妹さんがしなくても、保健室にオレをつれていってくれればよかったんじゃないのか?」

「え?・・・」

彼がその発言を言うと、昼に頭に浮かんだことを思い出してしまった。



77 :Classical名無しさん :05/04/07 18:22 ID:te7XRpEw


そうよ・・・私が播磨さんを・・・・



「妹さん?」
「あ!は、はい!」
「どうしたんだいきなりぼーっとして?」
「いえ、何でもありません!というか何も考えてません!」
「そ、そうか。ならいいんだけどよ。」

彼女は思った。なぜ自分がこのようなことをしたのだろうかと。自分ではなく姉ヶ崎先生に任せればよかったのにと。
そして彼女はなぜ自分が播磨を誰にも渡したくないと思ったのだろうと。

わたしは別に、播磨さんから何とも思われてはいない・・・

だって、私は播磨さんの心を見えないから・・・・

播磨さんは私ではなく姉である塚本天満が好きだということも知っている。

なのになぜ・・・私は・・・播磨さんのことを・・・・・何とも・・・・



78 :Classical名無しさん :05/04/07 18:23 ID:te7XRpEw


   渡  し  た  く  な  い  !



その言葉だけが、頭に大きく浮かんだ。彼女は播磨拳児を渡したくないと。
その言葉が思いついた瞬間、彼女は超えてはいけない線を越えようと思った。


「あの・・・播磨さん・・・」

「ん?何だ妹さん?お礼なら何でもするぜ!」

「いえ・・・礼なんて入らないです。ただ・・・」

「ただ?」

「こんなこと言って変かもしれませんが・・・播磨さん、まだ頭を打ったところ痛いですよね?」

「え、いや、もうだいじょう・・・」

その言葉を言おうとしたとき、播磨には彼女からすごい悲しみが伝わってくることがわかった。



79 :Classical名無しさん :05/04/07 18:24 ID:te7XRpEw

「・・・・ぶじゃないな!うん!まだいてぇよ!」

とっさに思いついた言葉をはなつと、八雲は決心した。

「・・・じゃあ痛みが引くまで・・・」

「・・・私が播磨さんの様子、泊まりがけでみてあげます。」


いきなりの彼女からの申し出に、流石に播磨は驚いた。

「い、いや妹さん!それはあまりにも迷惑をかける!そ、それにもう0時になるし、早く帰ったほうが・・・」
「・・・どうしてですか?」

またもや彼女の言葉に彼は驚いた。

(あ、あれ?妹さんってこんなこと言う娘だっけ?)



80 :Classical名無しさん :05/04/07 18:25 ID:te7XRpEw

「いや、どうしてって・・・・だって、よぉ。い、妹さんだって、年頃だし、そんな人が泊まるなんて・・・」
「・・・いやなんですか?」
「え、い、いやって訳じゃ」
「じゃあ良いじゃないですか。前にも播磨さんの家には泊まりましたし・・・」
「あ、あれは、漫画が間に合わないから止めただけで」
「漫画のことがないと私は泊めてはくれないんですか?」
「い、いや・・・だって、妹さんだってもう疲れてるだろうし」
「私の好きでやりますから、心配しなくても大丈夫です」
「いや・・・だから・・・」



どうして?なんで播磨さんはいやがってるの?

私が女として見ていられないから?

塚本天満の妹として見てるから?





81 :Classical名無しさん :05/04/07 18:26 ID:te7XRpEw

八雲の心は今にも崩壊しそうでいた。その崩壊の前兆は彼女の顔で現れていた。
彼女の顔はいまにも泣きそうで、今にも壊れそうな顔になっていた。

「きらい・・・」

「え?」


「嫌い・・・なんですか?私のこと?」
「だから、そういうことじゃなくてだな・・・」
「私が塚本天満の妹、だからですか?」
「そうでもねぇけど・・・」
「じゃあ・・・・なんで播磨さんは私が泊まるのを嫌うんですか?」

その言葉がでたとき、播磨は何も答えることができなかった。


「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・やっぱり・・・」

彼女が沈黙を破って言葉を言った。



82 :Classical名無しさん :05/04/07 18:28 ID:te7XRpEw
「やっぱり私は・・・播磨さんにとって・・・ただのどうでもいい人間なんですね。」
「!!・・・そんなわけねぇ!」
「私は播磨さんにとってどうでもいい存在、消えても気がかりになってくれない存在なんですね。」
「そうじゃねぇ!!」
「じゃあなんで!!」


「・・・・なんで私を・・・私を側に置いてくれないんですか・・・」


そういうと、彼女は泣き出した。目にたまっていた水のしずくを流して。

「いつもそうです、私はただ播磨さんの原稿を書いたり手伝ったりで・・・」
「・・・」
「どんなときも距離を置いているようで・・・私の気持ちに気づいてくれなかった・・・」
「妹さん・・・」
「・・・播磨さん、知ってましたか。私がどんな思いで播磨さんと接してきたか・・・」
「・・・・」
「・・・私はいつも播磨さんを想っていました。原稿を書くのを手伝うときも・・・授業中のときも・・キャンプにいったときも・・・」
「・・・」
「播磨さんが、姉さんのことを好きだと知ったときも、私は播磨さんのことを想っていました。」
「・・・」


83 :Classical名無しさん :05/04/07 18:28 ID:te7XRpEw

「話してくれましたよね、播磨さん?つきあうってどういうことか・・・」
「・・・」
「そういう瞬間を一緒に感じたい、お互いにそう想える人がいる、そういう時間を積み重ねていくことが「つきあう」ってことじゃないかなって・・・」
「・・・」
「播磨さん笑ってましたけど、私、それを聞いて、とてもうれしかったです。」
「・・・」
「だから私も、播磨さんとそういう瞬間を一緒に感じたい・・・そう想いました」
「・・・」
「それで言いましたよね。姉さんが屋上にきたとき、「必ず妹さんを幸せにします!」って・・・」
「・・・」
「私、それを聞いて、たとえ本気で言ったことじゃなくてもとてもうれしかったです・・・」
「・・・妹さん・・・」
「・・・播磨さん。前に「心を読めるんだな?」って言いましたよね」
「ああ・・」

そして、彼女がもっとも秘密にしていることを、彼に言った。

「あのことなんですけど、私、本当に人の心が見えるんです・・・」
「え?・・・」
「笑うかもしれませんけど・・・これは本当なんです」
「・・・」


84 :Classical名無しさん :05/04/07 18:29 ID:te7XRpEw

「でも、みんなの心が見えるわけじゃないんです・・・私を異性として見ている人の心だけ見えるんです」
「・・・」
「人が聞くと、便利だなって思うかもしれません・・・。でも私にとっては入らない力でした・・・・」
「・・・」
「知りたくもないこと・・・人が自分をどんな目で見ていること・・・」
「・・・」
「でも、姉さんだけは別でした。姉さんは心から私を想ってくれてました。」
「・・・」
「でも・・・この力のせいで、一時期不登校になったこともありました・・・」
「・・・」
「人を・・・姉さん以外の人を信じることもできなくなりました・・・」
「・・・」
「でも、そんなとき、私の前に、播磨さんがいました・・・」
「・・・」
「初めて出会ったときを覚えていますか?播磨さん?」
「いや・・・」
「そう・・・ですか。でも・・・私は百年たっても、たとえ死んで生まれ変わっても忘れないと思います・・・」
「・・・」
「・・・私がけがした伊織を連れ戻そうとしてたとき、播磨さん、あなたと出会いました・・・」
「・・・」
「なぜか伊織は、初対面なはずの播磨さんに、抵抗せずあなたになついて・・・」
「・・・」

「そしてそのときに・・・見えるはずの心が、播磨さんだけは見えないことも知りました・・・」



85 :Classical名無しさん :05/04/07 18:32 ID:te7XRpEw

「・・・」
「私は不思議でした・・・なんで播磨さんだけが心が見えないのだろうかと・・・」
「・・・」
「そのときからです。私が播磨さんを意識し始めたのは・・・・」
「・・・」
「それから・・・播磨さんと漫画を書いたり、動物について話してもらったりして・・・私は気付きました・・・」
「・・・」
「私が播磨さんに・・・・好意を持っているということに・・・」
「・・・」
「いつも優しく接してくれる播磨さんに・・・なぜか心が見えない播磨さんに・・・」
「・・・」
「私は初めて恨みました・・・自分の力を・・・」
「・・・」
「・・・なんで播磨さんの心は見えないのだろうと・・・」
「・・・」
「私は悲しみました・・・播磨さんの心が見えないことに・・・」
「・・・」
「播磨さんの心が見えないことは・・・私のことを何とも思ってないということ・・・」
「・・・」
「播磨さんは私のことをどう想っているのだろう・・・どうみているのだろう・・・と」
「・・・」
「・・・そのせいで・・・私は初めて姉さんを恨みました・・・」
「・・・」
「なんで私じゃないの?なぜ姉さんなの?と・・・」
「・・・」
「自分の感情を自分でも抑えられなくなるぐらい・・・播磨さんのことを想ってしまいました・・・」
「・・・」


86 :Classical名無しさん :05/04/07 18:32 ID:te7XRpEw

「それで私は想いました。「播磨さんの側にいよう」 と・・・」
「・・・」
「心が見えないなら・・・私のことを何とも想ってないなら・・・私が振り向かせればいい!・・・と」
「・・・」
「それで沢近先輩が播磨さんとつきあってるってことを言ったときも・・・解けるはずの誤解も解きませんでした・・・」
「・・・」
「播磨さんにとっては迷惑だったかもしれません・・・・。でも私はうれしかったです・・・」
「・・・」
「誤解でも、播磨さんとつきあってるということになっていただけで・・・」
「・・・」
「でも現実は違います・・・。播磨さんは私ではなく姉さんを好きだということは・・・」
「・・・」
「播磨さんは・・・たとえ姉さんに好きな人がいたとしてもそれを追いかけようとしてました・・・」
「・・・」
「だから私は、今日決心しました・・・。播磨さんの家に泊まろう。泊まらせてくれなければあきらめよう。と・・・」
「・・・」
「おかしい話ですよね・・・別にとまったぐらいで・・・播磨さんの気持ちは変わるわけじゃないですけど・・・
「・・・」

「・・・それでも私は・・・」

「もういい妹さん」

ついに、黙っていた播磨が言葉をあげた。そして、彼女を、思いっきり、ギュッと抱きしめた。



87 :Classical名無しさん :05/04/07 18:33 ID:te7XRpEw

「は、播磨さん・・・」
「たしかに・・・オレは妹さんといて、正直、天満ちゃんといるより楽しいと思った。」
「それに一度だけ、・・・オレはキミが天満ちゃんに見えたときもあった」
「あ・・・」

そう、そのことに八雲は覚えがあった。
たった一度だけ、播磨の心が見えたときのことだ。

「それでオレは・・・いつのまにか妹さんと一緒に「つきあいたい」、そう思うようになった」
「・・・」
「だが・・・・オレはそんな妹さんを知らずに悲しませてしまっていた・・・。だからこんなオレにつきあう価値はないと思う・・・」
「そんなことありません!!」

八雲は叫んだ。人生で一番と言うぐらい大声でいった。
そして、播磨の頭の後ろに手を伸ばし、自分から播磨の顔を近づけ、そして唇を交わした。



88 :Classical名無しさん :05/04/07 18:34 ID:te7XRpEw

「いっ!妹さん!」
「・・・そんなことありません・・・」
「だって・・・私にとって播磨さんは・・・「つきあいたい」人ですから・・・」
「妹さん・・・」
「あの・・・名前で呼んでくれませんか・・・?」
「あ、ああ。や、八雲・・・」
「はい、播磨さん。・・・・愛してます。」

そしてまた二人は唇を交わした。いつまでも、いつまでも・・・・時を忘れるぐらいに・・・・。

「播磨さん」
「お、おう。何だ?」
「いつまでも私は・・・播磨さんの側にいますから・・・」
「だから・・・今日は・・・その・・・泊まってもいいですか・・・?」
「ああ、オレからもお願いするぜ。」
「播磨さん・・・」
「妹さんのおいしいスパゲッティ、また食べたいしな。」
「八雲です、播磨さん・・・」

END





89 :Classical名無しさん :05/04/07 18:34 ID:te7XRpEw

(おまけ)

「そういえば播磨さん・・・」
「ん、なんだ?」
「何か忘れてませんか?」
「え?そうか・・・そういえば何かあったような・・・」



そしてここは矢神高校の職員室


「拳児君・・・拳児くん・・・拳児・・・けぇんじぃぃぃ!!!」



そして次の日、播磨が意識不明の重体で病院に入院したということはいうまでもない。
2010年11月21日(日) 02:19:39 Modified by ID:/AHkjZedow




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