IF22・Mind change(下準備)
517 :Mind change(下準備) :05/04/16 19:03 ID:aDdyZICY
どこか遠くで部活に励む人たちの声が聞こえる。夕日が顔を出して、茶色のグラウンドを赤に染めている。
そんな時間に、ここ2年C組のクラスで一人黄昏れている少女がいた。
日本人とは思えない色白な肌、風になびかれサラリと靡くブロンド色の髪、そしてその両髪をリボンで結んでいる彼女。
まさにそれは、我らが矢神高校のマドンナ、沢近愛理だ。彼女は頬に手をあて肘でささえ、、いかにも退屈そうな顔で外を見つめている。
(はー、暇ねぇ・・・)
窓越しに空を見上げる彼女。なぜか今日は、いつも周りに居る親友たちがいない。
いつも騒いでいる彼女たちだが、それが欠けると、とても静かになる。
「すまない、今日は大事な用事があるんだ」
「私も花井と組み手やる約束してんだ、ごめんな愛理」
「ごめーん愛理ちゃん、今日は烏丸君と一緒にカレー食べにいくんだー♪」
(まったく、何がカレーよ、天満のやつ)
自分一人だけが取り残され、何もすることのない彼女。空白のような時が流れていく教室。憂鬱な気分だ。
愛理の口から思わずはぁ、と漏れるため息。まるで世界には自分しか居ないような気分だ。
(帰っても何もすることないけど・・・そろそろ帰ろうかしら)
自分の席を立ち、横についているバッグを持ち教室を出ようとしたとき。
誰も来るはずのない教室の扉が、音を立てて開いた。こんな時間に誰かくるとは思っていなかったので
その扉の人物が誰か少し気になった。
(誰、こんな時間に?もしかしてヒゲのやつ?)
518 :Mindchange(下準備) :05/04/16 19:03 ID:aDdyZICY
なぜか少し期待をもち、開いた扉に近づこうとする。が、その人物が見えた瞬間、愛理の期待は破られた。
その人物は、黒髪で、赤い瞳をもち、その落ち着いた容姿から、学校の「春の女神」と称えられている彼女。
そう、塚本八雲だ。同時に、播磨拳児の恋人として話題を呼んでいる人物である。(それは愛理がつくった誤解だが)
(何でこの娘がこのクラスに?)
いきなりきた彼女に疑問を持つ愛理。そして、愛理の存在に気づいた八雲。
(あれ・・・なんで沢近先輩が・・・)
八雲もまた、誰もいないはずのクラスにいた彼女に驚いた。実は、八雲は播磨から教室に忘れた原稿を取りに行かされたのだ。
誰もいないから大丈夫と播磨から言われていた彼女なので、この状況にどう対処すればいいのかわからなかった。
すると愛理が口を開き、強張った声で八雲に話しかける。
「あら、こんな時間にどうしたの?何かこのクラスで待ち合わせでもしていたのかしら?」
彼女の顔を睨めつけるように、そして皮肉を込めた言葉に、八雲は少し怯えてしまった。
愛理には、八雲がこのクラスに来た理由がだいたいわかっていた。播磨に関係することで来たのだろう、と。
(沢近先輩・・・私のこと怒ってる?)
彼女のあきらかに苛立ちを思わせる顔に、八雲は戸惑ってしまった。そして小さな声で答える。
「そ、その・・・播磨さんに頼まれて・・・」
519 :Mindchange(下準備) :05/04/16 19:03 ID:aDdyZICY
───やっぱり───
その言葉を聞いた愛理は、何故か肩を落とし、さっきまでの苛立ちはどこへやら、彼女の心は一気に悲しみに覆い尽くされた。
いつものお嬢様のような雰囲気が、一気に無くなってしまい、触れると今にも壊れそうな感じだ。
「そう・・・何を頼まれたの?」
ぼそりとつぶやくように八雲に尋ねる愛理。しかし、漫画のことは言えない、八雲はどう答えていいのかわからず、
ただ立ちつくすしかなかった。そんな彼女の様子をみて、自分には言えないことなのだろう、そう理解した。
「私には言えないことなのね・・・わかったわ。」
違う、と否定しようとした八雲だが、内容が内容なので、否定しようがなかった。
そして彼女は元いた席に座り、その席で八雲を誘うように手を動かした。
「ちょっと話がしたいんだけど、いいかしら?」
呼ばれた八雲は、やっぱり怒っているんだろうか・・・、などと考えながらも、恐る恐る足をすすめ、彼女のいる
席へと動き、彼女から一つ前の席に座った。何を言われるのだろう、などと心配をしていた八雲。
すると愛理が、八雲の顔をのぞき込むように彼女の瞳を真剣に見始める。まじまじと見つめる彼女に八雲は少し恥ずかしく、顔を少し赤に染めた。
「あ、あの、沢近先輩?」
「こんなこと言うのも変かもしれないけど、似てるわよね、私たちって?」
似てるって、どういう意味?私が先輩と?
その言葉の意味がよくわからなかった八雲は、少し頭で考え、口を開く。
520 :Mindchange(下準備) :05/04/16 19:04 ID:aDdyZICY
「に、似てるって・・・?」
「だから、私とあなたよ。」
そして愛理が顔を前に出し、自分との顔の差が10cmも満たない距離まで近づいてきた。
女性でも、男を思わせるキリッとした瞳に、思わず八雲はドキッと心臓が震えた。
「髪型と目の色さえ変えたら、誰から見てもわからないかもね。」
「そ、そうですか?」
確かに似ていると言えば似ている。その上品な雰囲気、すらりとしたモデルスタイル、そしてぱっちりとしたつり目に、色白な肌。
目の色とその対照的な性格、髪の色さえなければ、たしかにそっくりである。
「それに・・・播磨君に対して好意をもっているとこも似てるかもね」
「さ、沢近先輩・・・」
「冗談よ、冗談。」
とっさに本音がでてしまった愛理。彼女は少し笑ってごまかしてはいたが、その内面には少し複雑な顔が出ていた。
そしてそんなことを言われた八雲も、少し複雑な気分になった。そして彼女が八雲から顔を離し、思いがけない言葉を彼女に言い出した。
「ねぇ、私たち、入れ替わってみない?」
───いれかわる・・・?────
彼女のその言葉に、八雲はぽかんとハの字に口を開けたままになってしまった。
再び彼女の発したその言葉の意味を頭で考え、八雲は自分の口を動かす。
「い、入れ替わるって、どういう・・・」
「簡単なことよ。明日、一日だけ私たちが入れ替わるの。つまり、貴方が沢近愛理で、私は塚本八雲ってとこね」
「で、でも、どうやって入れ替わるんですか?」
「そんなの簡単よ。今日、貴方が私の家に泊まって、そのときにカツラと変声機を貴方にわたす。それで次の日学校にいけばいいの」
521 :Mindchange(下準備) :05/04/16 19:04 ID:aDdyZICY
そう、入れ替わることなど、彼女の財力を使えば簡単なことなのだ。だが、八雲は疑問に思うことがあった。
それは、なぜいきなり彼女が自分と入れ替わりたいなどと申し出てきたのかだ。八雲は、愛理が自分のことをよく想っていないことは
何となくわかっていた、だがそんな彼女が入れ替わりたいと言ってきた。何か理由があるはず、そう考えた八雲は、愛理に問いただす。
「で、でも・・・」
「あら、まだ何か質問がある?」
「その・・・なんで先輩は、私と入れ替わりたいと思ったのですか?」
「!」
八雲の口から発せられた言葉に、愛理は一瞬眉をピクッと引きつらせた。が、すぐに元の顔に戻った。
そして何かが彼女の心から吹っ切れたのか。彼女から目をそらし、夕日が照らす窓側をみて、彼女の質問に答える。
「・・・気まぐれ。って言ったらウソになるのかな。」
「え?」
そして、今まで自分が、播磨に対して思っていた感情を八雲に話す。そしてそのことを知った八雲は動揺を隠せなかった。
自分以外に播磨に好意を抱いている、しかも目の前の女性が。自分は彼女にどうすればいいのかわからなくなってきた。
そして愛理はさらに自分の口をすすめる。
「だから、確かめたいの。彼が、播磨君が私のことどう思っているか。」
「先輩・・・」
「だけど彼にそんなこといっても答えてくれるはずがないと思うの。だから、貴方になって聞けば、本当のことが聞けるかなって思ってね。」
そう、彼女は普段播磨と接している八雲なら、自分のことをどう思ってるのか聞き出せると考えたからだ。
自分と違う人物から自分のことを聞けば、普段彼が自分のことをどう思ってるのか知ることができるからだ。
考えてみれば、播磨と対等の立場でいる女性は、愛理と八雲と絃子先生ぐらいしかいない。
だから彼女は、もっとも自分と似ている、塚本八雲を選んだのだ。
522 :Mindchange(下準備) :05/04/16 19:06 ID:aDdyZICY
「貴方だって、播磨君の気持ち、知りたいでしょ。」
そして八雲も、同じようなことを考えていた。確かに私は播磨さんのことが好きだ、だがそれは恋なのかどうかはわからない。
彼も自分のことをどう思っているのかわからない。色々な思いが八雲の頭のなかで交差している。
だが、この機会を逃したら一生このさき後悔してしまいそうだ。彼女に入れ替われば、普段知ることのできない播磨の姿を知ることができる。
「えっと、その、やってみたい・・・です。」
「じゃあ、交渉成立ね。」
八雲が小さな声だが、ぼそぼそと入れ替わることに同意すると、愛理は自分のバッグから携帯を取り出した。
もちろん電話先の相手は、八雲の姉、塚本天満だ。
「それじゃあ貴方のお姉さんにいっとかなくちゃね。今日は私の家に泊まるって。」
「あ、はい。お願いします・・・」
そして電話に天満がでて、愛理が今日八雲が自分の家に泊まることを告げると、喜んでOKしてくれた。
その後二人は、期待と不安を抱えながら学校をでて、中村が用意していたリムジンで、彼女の家にいくことになる....
523 :Mindchange(下準備) :05/04/16 19:06 ID:aDdyZICY
おまけ
「拳児君、キミは何をやってるんだい?」
「何って妹さん待ってるんだよ?」
「ほう、こんな夜遅くに何をする気だ?」
「別に、俺は妹さんに大事なものを持ってきてもらってるだけだよ」
「大事なもの・・・ゴホンッ!」
「ん、どうした絃子?」
「さんをつけろさんを、それよりこんなところするとは、その、大胆になったなキミも」
「はぁ?何言ってんだお前?」
「どうでもいいが、こんな野外でするんじゃなくて、目立たないとこでしてくれよ。」
「あぁ、そんなの当たり前じゃねぇか!」
「あたりまえ・・・君たちは本当すごいところまで進んでるな。」
「おい、何か勘違いしてないかお前?」
「何もしてないよ拳児君。じゃあ私はお邪魔みたいなので帰ることにするよ。」
「おう、気をつけて帰れよ・・・って何がしたかったんだあいつ?」
結局播磨は太陽が顔を見せるまで屋上で待っていたという・・・
「あら先輩、どうしたんですかこんな時間に?」
「いや、拳児君も大人になったものだなと。」
「へっ?」
「それより、そろそろ拳児君に育児の本とかを読ませたほうがいいかな?」
「先輩、それってまだ気が早すぎると思いますよ・・・」
670 :Mindchange2 :05/04/18 20:36 ID:TqLInFqM
「さ、ついたわよ。」
彼女がそう言うと、中村の運転するリムジンがブレーキを掛け、少しずつ停止する。
中村がリムジンのドアをあけ、八雲を外に下ろすと、その先には八雲が見たことのないような景色が広がって見える。
自分の身長の何倍もでかい玄関、入ってすぐ横にある、樹齢100年はあるだろうか、貫禄を思わせる樹木、
テニスコートが10面は入りそうなぐらいの広さを持つお庭、そして漫画でしか見ることのないだろうその家、いや屋敷だろうか。
あきらかに、自分の家とは格がちがうことを思い知らされた。
「すごい・・・」
八雲はその広大さに呆気にとられ、口をぽかんと開いたまんまになっている。
その後からでてきた愛理が、彼女の肩を叩き、八雲を正気に戻す。
「ちょっと、何ぼーっとしてんのよ?」
「あ、す、すいません。あまりにも家が大きいものですから・・・」
「あぁ、気にしないで。これなんてまだ小さいぐらいだから」
こ、これで小さいか・・・やっぱ先輩ってすごいな・・・
何故か顔を下に向け、悄げる八雲。そんな彼女を見て愛理は不思議に思う。
「何してんの?さっさと行くわよ?」
「す、すいません・・・」
愛理に連れられ、彼女の屋敷に足を運んでいく。玄関をがちゃとあけ、八雲は丁寧におじゃまします、と挨拶をして入るが、またもや驚かされてしまう。
彼女が挨拶をすると、五人ぐらいの召使いが自分に挨拶を返してくれた。
671 :Mindchange2 :05/04/18 20:37 ID:TqLInFqM
「ようこそ、沢近邸に。お嬢様のお友達様でございますか?」
綺麗なメイド服を着た女性から訪ねられて、八雲は戸惑ってしまった。答えられない八雲に替わって愛理がそうよ、と彼女たちに説明する。
事情を聞くとメイドは八雲に、ではごゆっくり、と言うと奥の部屋に消えていった。まだ混乱している八雲を、愛理は彼女の手を引っ張って、目の前にある階段を上り自分の自室へと連れて行く。
そして部屋にたどり着くと、愛理が部屋をあけ、八雲をそのなかにいれると、扉横にあるインターホンで誰かに連絡を入れている。どうやら相手は執事の中村のようだ。
何かを持ってくるようにと伝えたあと、愛理は電話を切った。
「じゃあここでまってて。私は中村に道具を持ってこさせるから」
はぁ・・・と軽く返事をして、そのまま八雲は愛理の部屋に置いてけぼりにされてしまった。
八雲は回りを見渡して、大きなソファーに腰を下ろす。
「ふぅ・・・」
なんだか落ち着かない彼女。何せ他人の家に行ったことなどほとんどないから、緊張してしまう。
その緊張を解そうと、八雲が窓を見上げると、その大きなステンドガラスから空に存在する大きな月が見える。
綺麗・・・家から見るお月様と全然ちがう・・・
その美しい景色に見とれているうちに、愛理が中村を連れて部屋にはいる。
「ごめんなさい、待たせちゃって。道具を探すのに苦労しちゃって」
後ろには愛理が持ってこさせたのか、でかいタンスを一人で抱えている中村。
愛理からもう良いわよ、と言われると、タンスをふん!とかけ声と共に床に置く。その際にドスンと言う大きな音が響く。
持ってきたタンスを彼女が開くと、中には色々な化粧道具、そして黒と金色のかつらに、何か小さな機械のようなものが二つ。
その中にあった、黄金色のサラサラとしたカツラを八雲に渡す。
672 :Mindchange2 :05/04/18 20:37 ID:TqLInFqM
「はいこれ、私の髪の毛の材質をそのままコピーしたカツラ。あと、貴方の髪を調べて、早速作らせたカツラよ。」
い、いつのまに、なんて驚いている八雲だが、そんなことは置いといておく。
すると愛理が指をパチンッと鳴らせた。その途端、後ろのドアを開いて、さっき八雲が玄関で会ったメイドたちが入ってきた。
「およびですか、お嬢様」
「ええ、ちょっとあなた達にも手伝ってもらおうと思って。」
いきなり現れた彼女たちに、また八雲は混乱してしまった。愛理が、彼女たちに持ってきた化粧道具を渡す。
「実は彼女たち、私の専属のメイクさんなのよね。この娘たちが、貴方と私をそっくりにメイクしてくれるわ。」
さらりと、何気にすごいことを話す彼女。もう八雲は自分の感覚が麻痺してきた。
そんな八雲に一人のメイドが近づいてきた。そして何かをチェックするように彼女を見回す。
「なるほど、確かに顔つきは似てますね。」
そう言うと八雲の腕をつかんで、いつの間にか用意されていた化粧台へと座らせる。戸惑う八雲を後に、いきますよ、と言うかけ声と共に、化粧道具
を持ち、神業を思わせるメイドさんのメイク技が始まった。
素早い手つきで道具を持ち、八雲の顔をどんどんメイクしていく。そして十分ぐらいたっただろうか。これで終わりですわ、と告げ、八雲へのメイクが終わった。
そして最後の仕上げに、金色のカツラを八雲の頭にかぶせ、両側を紅いリボンで結ぶ。
どうなってるんだろう・・・、何せずっと目を瞑っていたため、八雲には今自分がどんな姿かわからないのだ。
するとメイドが、彼女の肩をぽんと叩いて、目を開けてもいいですよ、と告げる。八雲は恐る恐る目を開け、前に鏡をのぞき込む───
あ・・・・
673 :Mindchange2 :05/04/18 20:38 ID:TqLInFqM
自分の姿に驚愕してしまった。目の前の鏡に、映るはずの自分。のはずなのに、映っているのは、自分ではなく、
紛れもなく沢近愛理という人間だ。ちょっと色が薄すぎたかしら、などとメイドが言う声など聞こえない。
開いた口が塞がらない、そんな言葉どうり、八雲は口を開いたまま固まり、自分の姿に、八雲はじーっと見とれるばかりだった。
「さ、次は私の出番ね。」
そういうと愛理はもう一つの化粧台に座る。そして愛理も同様に、神技メイクで八雲に変身していく。
再び十分ぐらいたち、彼女へのメイクが完了すると、メイドが愛理に確認をする。
「どうですかお嬢様?」
訪ねられた愛理が、自分の顔を鏡で確認しようとする。そして彼女もまた、自分の姿に驚愕する。
「これが私・・・?」
周りのメイドたちからは、すごいくらいそっくりですよ、二人とも、などと言葉を言われている。中村も、お嬢様が二人おらっしゃる、などと
感動している。愛理が、あとは声だけね、と八雲に話すと、中村に持ってこさせた特殊な変声機を彼女に渡す。
「これをつけると、私と貴方の声が入れ替わるって代物よ。試しに私からやらせてもらうわね。」
そういうと、手に持っていた機械を喉元につけ始めた。そして確認のために、あーあー、などと喋り、声が変わっているか確かめている。
「どう、替わってるかしら?」
訪ねられた八雲は、自分の声ってこんな感じなんだ、なんて思っていた。そして、いつもの強い口調の声ではなく、
か弱い感じを思わせる八雲の声に、しっかりと替わっていた。
「大丈夫、だと思います・・・」
674 :Mindchange2 :05/04/18 20:38 ID:TqLInFqM
そのことを確認して返事をすると、愛理は八雲に次は貴方が付ける番よ、と言われたので
八雲もその機械を自分の喉元につけた。そして愛理に話しかける。
「どう・・・ですか?」
愛理はその口調に背筋がぞくっとなった。いつもお嬢様口調の彼女なので、
いきなり八雲のようなおとなしめ系を感じさせる口調になると、流石に違和感を感じた。(中村は「こんなお嬢様なら・・・」などと感動していたが)
「やっぱりしゃべり方に問題があるわね・・・」
姿形は完璧だが、中身はやはりどうにもならない。その後二人で、どうすればいいのかと色々な案を考え始めた。
天満は駄目ね、あの娘じゃ練習にならないだろうし・・・美琴なら、いや、こんなこと言えないわね・・・。
刑部先生は・・・論外だわ。だいたいこんな夜に来てくれる人物なんて限られてるし・・・。
愛理が頭のなかで色々と考えていたとき、八雲が考えた案を愛理に話す。
「あ、あの・・・高野先輩に教えてもらえばいいと思います・・・」
その言葉を聞いて、愛理の頭に昔よく漫画であった電球のアイコンが浮かび出す。
「そうよ、晶に教えてもらえばいいんだわ!」
愛理がつるんでいる仲間の中で、唯一頭が切れる彼女。彼女なら自分たちのことをよく知っているし、
教えてもらうにはちょうど良い人物だからだ。八雲もその案に納得し、早速携帯で電話を掛けることにした。
675 :Mindchange2 :05/04/18 20:39 ID:TqLInFqM
「──それで私をこんな時間に呼び出したのか?」
何気なく不満な表情を出している晶。真夜中の丑三つ時の時間に、しかも理由が「口調を変えてくれ」、なんて言われたのだから、
普通なら断って帰るところである。しかし、すっかり入れ替わった彼女たちを見て、晶はこれはネタになるな・・・、なんて考えていたので、
おもしろ半分で来てみたのだ。
「すいません、高野先輩・・・いきなりこんなこと頼んでしまって・・・」
彼女に謝る八雲。高野としては興味本位として来てみたので、別に悪い気はしなかった。
「いいってことよ、後輩と友達の願いは聞いてあげるのが良い人間だからね・・・」
そういうと、ちらっと八雲の姿の愛理の方を見つめる高野。目線に気づいた愛理は照れながらも、借りはいつか返すわよ、とつぶやいた。
「しかし、なんでいきなり入れ替わるなんて言い出したんだ?」
さりげなく理由を聞き出そうとする高野。しかし、その理由が自分の好きな人の気持ちを確かめるため、だなんて言えるはずがなかった。
訪ねられた愛理は、黙って答えようとはしなかった。だが、何となく理由がわかっていた高野には別にどうでもいいことだった。
ふぅ、と息をつくと、彼女は愛理のところに近づいていった。
「な、なによ?」
「いや、馬子にも衣装だと思って。」
彼女の言葉に愛理は顔を真っ赤にして、な、なんですってー!!、などと怒っていたが、ジョークジョークなどと言われ軽く流された。
怒っている愛理を後に、次は八雲のところに足を運んできた。
「あ、あの・・・」
「こういうお嬢様の姿も、キミにはお似合いだな。」
676 :Mindchange2 :05/04/18 20:40 ID:TqLInFqM
そ、そんな・・・、と頬を紅くして照れてしまう八雲。後ろで愛理が、私は似合わなくて悪かったわね、などと拗ねている。
「そんなことより早く練習しましょうよ、もう夜遅いのよ?」
「わかってるよ、愛理。じゃあ早速しましょうか」
そう言うと、晶が二人をいすに座らせ、バッグから何かのメモ帳のようなものをだしてきた。
「じゃあまずは発音の練習ね。はい、「あっぽー」。続けて」
- ・はぁ?と思わず愛理が口を開く。
「な・ん・で!英語の練習なのよ!」
愛理が立ち上がり、机をバンッと強くたたきつける。そんな愛理をよそに、隣では晶の言ったとおり、あっぽーと繰り返す八雲。
「あんたねぇ・・・なんでそんなに素直なの?」
「え?」
はぁ、とあきれ果てる愛理。こんな調子で大丈夫なのかしら、頭を抱え少し不安になってきた。
「はい、愛理も続けて。」
こうして三人の夜は更けていく・・・。
2010年11月21日(日) 11:22:38 Modified by ID:/AHkjZedow