IF23・『貸し、ひとつね』


804 :702:05/05/31 01:55 ID:JEJLX/x2
――放課後―SIDE-B

喫茶メルカドに姦しい声が響く、普段と変わらぬ光景だ

「全く、アンタはいつもいつも…」
「えーっ?ちょっとそれどーゆーことー?」

普段と違うことがある、とすれば構成されるメンバーが一人少ない、
ということだが、ただそれだけの事だ

「…ふうっ」
「あら?どうしたのよ溜息なんか吐いちゃって」

知らずのうちに溜息を吐いていた様だ

「何でも無いわ」
「あっそーいえばねー溜息って一つつく度に幸せが一つ消えてくって
 聞いたこと有るけどホントなのかなー?」

ああ、そんな話も聞いた事があるな、と思いつつ
ここにはいないもう一人のことを考える

彼女、上手くやっているかしら?


805 :702:05/05/31 01:57 ID:JEJLX/x2
正直な話、私は他人の恋愛沙汰には関心が無い
全く無いとは言わないがそんな事は当人同士に任せておけばいいのだ、と考えている
しかし、大切な親友達の事となれば話は別である
彼女たちには幸せでいて欲しいし、最悪、その恋が破れた時も笑顔でいて欲しいと思っている
現実問題そんなことは難しいが、できるだけそうであって欲しい、と考えている

目の前の友人達との会話を上の空で聞きながらふと、窓の外に目をやると
一組の見覚えのある男女が歩いているのが目に止まる

「ゴメン」
「えっ?どうしたの?」
「ちょっと用事を思い出して」

我ながら陳腐な言い訳だ

「えーっ?そーなんだー残念だねー」

人の言う事を何の疑問もなく素直に受け入れる、と言うのは果たして
美徳なのか、それとも欠点と言うべきだろうか
まあ、この子の場合はその両方があてはまるのだろう


806 :702:05/05/31 01:58 ID:JEJLX/x2
「で、何の用なの?」

こちらは人並みに疑念を抱いている

「知りたい?」
「ま、どうしても、ってんならね」
「ひみつ」
「なによ、それ!!」

しかし彼女の方も分かり易い、少しからかっただけですぐに冷静さを失う

「まぁいいわ、急いでるんでしょ?」

どうやら追及するのは諦めたようだ

「ゴメンね」

自分の分の会計を済ませ、急いで店を出る
まだそんなには離されてはいない筈だ

暫く急ぎ足で歩くと件の二人の姿が見えてきた
二人とも勘は鋭い方なのでこれ以上接近するのは諦めたほうがいいだろう



807 :702:05/05/31 01:59 ID:JEJLX/x2
「―――――――」
「―――――」

何かを話しているようだ
聞き耳を立ててみる

「――――――受け取ってくれ」

どうやらプレゼントを渡している様だ

「――そんな――良かった―――もらってく――――」

彼女も受け取っている
遠目で見ても二人ともとてもいい顔をしているのが分かる

―――カシャッ―――

思わずシャッターを切ってしまう
夕日に映える一組の男女、画像は確認していないが
自分の今まで撮ってきた中でも最高の部類に入る一枚だろう事は難くない



808 :702:05/05/31 01:59 ID:JEJLX/x2
今日の所はこれだけで充分だろう

「いい写真も撮れたし、ね」

そう一人呟き家路へとつく

自室で今日撮った一枚を見返す
二人の穏やかな笑顔とそれを取り巻く暖かな空気、
これを彼女に見せればそれは面白い反応が見られるだろう

しかし、と考え直す
その場合、確かに面白い事にはなるだろうが結局ただの一過性の
騒ぎで終わってしまう可能性が高いだろう
私の見立てでは彼女たちは余りにも身近な存在過ぎていて、互いの気持ちに
気づいていないだけなのだ
ならば、その気持ちに二人が気付いたとき、
その時こそがこの一枚の写真が本当の価値を示すときだろう

それまでは私が、そう、この私が責任を持って所有しておいてあげよう

「貸し、ひとつね」

誰も気付かないような薄い微笑を浮かべながら、
私はデジカメの電源をOFFにした

――――了
2007年09月15日(土) 13:59:44 Modified by ID:LOVLpNCrSQ




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