IF23・プレゼント
743 :702:05/05/29 17:18 ID:L2l/Qg46
――放課後
一旦帰宅し、着替えを済ませてから彼女の家の門をくぐる
幼い頃より隣同士なので、特に気にする事も無い
「ピンポーン」
呼び鈴を鳴らし、家人が出てくるまで待つ
「おう!やーっと来たか」
と、元気な声で、僕の一番大切なひと
――と、言っても異性として、では無いのだが
が、顔を見せる
「うむ、準備は出来ているようだな」
「ああ、さっさと済ませちまおうぜ」
会話だけを聞くと、まるで男同士の様な印象を受けるが、
彼女はとても女らしい面も持っている、
まあ、僕には特に関わりの無い事なのだろうが、
744 :702:05/05/29 17:19 ID:L2l/Qg46
「おい、何ボケッとしてんだ?置いてくぞ!」
「ああ、少し考え事をしていてな」
今日は週末の芋煮会の買出しに、彼女に付き合って貰うのだ
師範に頼まれ、引き受けたのはいいのだがよくよく考えてみると
相当の量になるのではないか? と思い
彼女に助力を願った、という訳だ
「やっぱ田中商店かな」
「まあ、妥当なところだな」
この辺りで買い物をする、と言うことになると、
田中商店ということになるだろう
多少の距離はあるが、彼女は全く気にする様子も無く
歩みを進めていく
その後姿を見ながら、やはり彼女は「あの頃」と変わらないのだ
などと考えていると、ふとこの間の「サバイバルゲーム」のことに
思い当たる、
745 :702:05/05/29 17:22 ID:L2l/Qg46
そう、あの「絶叫」だ
幾ら無意識だったとは言え、今日の事も含め、僕は彼女に
迷惑を掛けすぎているのでは無いのか?
そんな事をとりとめも無く考えている内に周囲の景色が変化していく
「矢上銀座、か」
そうつぶやいた後、ある一つの考えが浮かんだ
「おい、少し寄り道しても構わないか?」
「ん?すぐに終わるのか?」
「いや、少しかかかるかも知れんが」
「じゃあ、先に行ってるから」
「ああ、済まないな」
「ま、あんたにゃ食材の見立てなんか出来ないだろうしな
アタシが見繕っておいてやるよ」
返す言葉も無い
746 :702:05/05/29 17:22 ID:L2l/Qg46
「ああ、では頼む」
彼女と別れ、暫く迷いながらもあるものを購入する
「彼女へのプレゼントですか?」
店員が人懐っこい笑顔で聞いてくる
「い、いえ、日頃世話になっている人への感謝の品です」
僕は何を狼狽しているのだろうか?
そんなことを気にする様子も無く店員は包装を済ませ
「どうぞ、頑張って下さいね」
と、包みを渡す
ここは何を言っても無駄だろう、そう判断し、
ありがとう、と一言残し、店から退散する
買うべき物も買った、彼女と合流するとしよう
田中商店へと急ぐ
747 :702:05/05/29 17:23 ID:L2l/Qg46
僕が彼女を見つけたと同時に向こうもこちらを見つける
既に大半の食材を選定していたらしく
一杯になったカゴを両腕に下げながら、恨みがましい視線をこちらに投げかけている
「おっせーよ」
「悪かった、荷物は僕が持とう」
当然、と言いたげなその視線から回避するべく、
その手からカゴを受け取ると、彼女の背後へと移動する
「えーっと、イモはあるだろ、人参、ネギも入れたし、あとは…」
「大根が無い様だが?」
「ああ、大根は重いから最後にしようと思っててね、忘れてたよ」
大根をカゴの中へと入れる
「ふむ、これで食材は完璧だな」
「アンタは途中から参加の上、荷物持ってただけだろ」
「ム…」
748 :702:05/05/29 17:25 ID:L2l/Qg46
大根の事は僕がいなければ忘れていたろう、
と言いたいのを我慢するここは黙っていた方が得策だろう
わざわざ藪をつつく事は無い
会計を済ませ、外へと出る
もう随分と日も傾いてきた、暗くなる前に道場へと急いだ方がいいだろう
「そいうや、さっきお前何買いに行ってたんだ?」
「ああ、コレだ」
そう言いながら僕は小さな包みを彼女に渡す
「何だ、コレ?」
「ああ、今日の謝礼とこの前のサバゲーの時の謝罪のつもりだ、
受け取ってくれ」
「あぁ?ンな事気にしなくっても良かったのに」
「まあ、僕の気持ちの問題だからな」
「ま、くれるってんならもらってくけどな」
「そうしてくれると有り難い」
749 :702:05/05/29 17:26 ID:L2l/Qg46
こう言うところがクソ真面目だ、と彼女に言われる所以なのだろう
しかし、こればかりは性分なので仕方が無い
そうこうしているうちに、道場へと帰り着く
「今日は済まなかったな、無理に付き合わせてしまって」
「だーかーら、気にすんなって言ってんだろ」
背中を向け、ひらひらと手を振りながら
いつもと変わらぬ軽口を叩きつつ彼女は自宅へと入っていく
「プレゼント、気に入ってくれるだろうか?」
そんな事を考えながら僕も道場へと帰る
750 :702:05/05/29 17:27 ID:L2l/Qg46
自室でプレゼントの包みを解きながら、誰ともなしに呟く
「アイツ、何くれたんだ?」
包みの中から現れたのは、口紅、色はシャイニスト・ピンク
ゴールドとピンクのラメが入っている、
悪いが正直アタシの趣味じゃ無い
「あのバカ、口紅って何考えてんだ?」
そう、愚痴りながらも彼女は思いを巡らせる
アイツ、コレをどんな顔して買ったんだろうか?
口紅をくれたってことは少しは女として見てくれてんのか?
「ま、機会があったら使ってやるか」
そう、呟きながら、机の引出しの中へと
大事な宝物をしまうように収め、
「かちり」
鍵をかける
誰にも見せたことの無いような、穏やかな笑顔を浮かべながら
―――了
2007年09月14日(金) 22:21:26 Modified by ID:LOVLpNCrSQ