IF23・答えなんかきっと無い
918 :702:05/06/08 22:27 ID:8XT2y2nc
――――後日、昼休み
「あー、結城」
廊下で誰かに呼び止められる。
担任の谷先生だ。
「朝のSHRの時は忘れててな、悪いけど次の授業に必要な資料を
取ってきて欲しいんだけど…」
「あ、はい」
「すまないな、少し重いかも知れんから気をつけてな」
そんな物、私みたいなか弱い女子生徒に運ばせるんじゃないわよ。
いや、これはあの日の事を問い質すチャンスかもしれない。
なにしろ『理由』が向こうからやってきてくれたのだ。
「分かりました」
「じゃ、これ持って来てもらう物のリスト」
919 :702:05/06/08 22:28 ID:8XT2y2nc
先生からメモを受け取り教室へと急ぐ。
「花井君、ちょっとイイ?」
「むう、な、何だ? 結城君」
あからさまに不審感を感じさせる返事が返ってくる。
「先生に頼まれて資料室に行くんだけど、持って来る物が多すぎて、
手伝ってくれない?」
彼の性格を考えれば、まず断る事は無いだろう。
「うむ、よかろう。この花井春樹、学級委員として皆の役に立てるならばな」
実に予想通り過ぎる答えに力が抜ける、学級委員は関係ないだろう。
それにしてもその口調、あんたは一体何時代の人間だ?
まあいい、とにかくこれで邪魔は入らないだろう。
920 :702:05/06/08 22:29 ID:8XT2y2nc
「では、早速資料室に向かうとしよう」
「え、うん」
どうやって問い詰めようか、そんな事を考えている内に資料室につく。
「で、何を持って行けばいいんだ?」
「ああ、コレにかいてあるから」
先生から預かったメモを彼に渡す。
「コレとコレは僕が持っていくとして…コレとコレは結城君だな」
彼は一人で淡々と仕事をこなしていく、このままじゃダメだ。
当たって砕けろ、いや、砕けてどうする。
921 :702:05/06/08 22:30 ID:8XT2y2nc
「あ…あの、花井君、ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
まずは軽いジャブから。
「周防さんとは付き合ってないって聞いたけど、ホントに?」
間髪入れず返事が来る。
「はっはっは、僕が周防と付き合う?そんなことなど有り得ないな、
なぜならば僕には八雲君と言う素晴らしい女(ひと)がいるのだから」
流石と言うかなんと言うか…言い切りやがったこの男。
しかも聞いてないことまで。だけど…
「塚本さんの妹さんって確か播磨君と付き合ってるんじゃなかったっけ?」
疑問をそのまま口にする。
「ふっ、全く問題は無い。八雲君には以前確認済みだし、
播磨には別に好きな女性がいるらしいからな」
ふぅん、そーなんだ。播磨君の好きな人って一体だれなんだろ?
見たところ一番親しそうなのは沢近さんだけど…ってそれどころじゃない。
今回の目的を果たさなければ。
923 :702:05/06/08 22:33 ID:8XT2y2nc
「もうひとつ、いい?」
「僕に答えられる事ならば、な」
「土曜日の事、なんだけど」
言うと同時に彼は私との距離を取る。
「な、なんのことかな?」
明らかに何かに怯えている。私は一歩づつ彼との距離を縮め、
彼の顔を両手で掴み、ぐいっと引き寄せてから尋問を再開する。
「何が、あったの?」
「は?」
互いの呼吸が聞こえるほどの距離での間の抜けた声。
「何もおぼえてないのよ」
「あれを、か?」
信じられない、といった表情を見せる。
「だから教えて欲しいって言ってるのよ」
「成程、ならば僕よりも周防に聞いた方が良いのではないか?」
それが出来ていればこんな事などしない。
924 :702:05/06/08 22:34 ID:8XT2y2nc
「教えて貰えなかったのよ」
「そうだったのか、しかし周防が教えなかった事を僕が教える、というのもな。
それに世の中には知らぬ方が良いことも……」
「それも周防さんに言われたわ、
だけど自分のした事くらい知っておきたいじゃない? それに、ね」
彼の言葉を途中でさえぎり、にっこりと笑いながら。
「貴方には拒否権は無いのよ、花井君。
この状況を誰かに見たらどう思うかしら、ね」
間違いなく誤解されるだろう。
それは私も望むところだ。
「なっ……仕方が無い、白状するしかないか…。その前に…」
まだ何かあるのか?往生際の悪い男だ。
「この手をどけてくれないか?」
「イヤ、離したら逃げるでしょ?」
当然の要求と拒否、彼も私も必死だ。
925 :702:05/06/08 22:35 ID:8XT2y2nc
彼は諦めたように話をはじめる。
「恐らく何かの弾みで酒を飲んだのだろうな、
僕が見たのは途中からだが、一升瓶を持って暫く周囲の人間に
絡んでいたのを見たな。その後は…」
そこまで話すと彼は顔をしかめる。
ここまで聞いたら最後まで聞かなければ私の気が済まない。
「で、その後は?」
「うむ、その後に僕と周防に絡んできてな、僕達の関係や行動について、
そのほかにもいろいろな事を好き勝手にわめき散らした上、意識を失ってしまった。
細かい事は省くが概ねそんな感じだったな」
顔からサーッと血の気が引いていく。
いつもと変わらぬ口調で彼が言う。
「だから言ったろう、知らぬ方が良い、とな。
ところで、そろそろ手を離してはくれないか?」
え?手?ああ、離してあげないとね。
926 :702:05/06/08 22:37 ID:8XT2y2nc
と思った刹那、勢いよく扉が開く。
「あ、結城ここにいたんだ。って花井君も?」
声の主は嵯峨野恵、一応私の親友だ、ついでにかなりのゴシップ好き。
「え?ふーん、そーゆーコトだったんだ、ごめんねーお邪魔しちゃって」
ニヤニヤしながら扉を閉める、花井君は固まってしまっている。
マズイ、確かにさっきはこの状況になることも少しは望んでいた、が。
やはりマズイ、特に嵯峨野に見られた、というあたりが。
脳をフル回転させて今すべき事を考える。
一つ、嵯峨野を説き伏せる
一つ、花井君を元に戻す
一つ、資料を教室に持っていく
とりあえずは花井君だ、彼のほほを二、三回はたく。
927 :702:05/06/08 22:38 ID:8XT2y2nc
「……はっ、僕は……」
うん、正気に戻った様だ。
「ごめん、花井君、資料運んどいて!!」
「え?ゆ、結城君?」
よし、残る問題はあと一つ。
ダッシュで教室にもどり、嵯峨野を探す。
「ねーねー聞いてよ一条、さっき結k「わーわーww」
良かった、どうやら間一髪間に合った様だ。
「ちぇーっもう来ちゃったんだ結城、つまんないの。
で? さっきのあれ、どーゆーコトなのかな? おねーさんに話してごらん」
「だーかーら、あれはちがうんだって……」
嵯峨野への説得で昼休みの残り時間全てを費やす事になってしまった。
「うんうん、結局結城はアレは誤解だって言いたい訳ね、
仕方ないなぁ、結城がそう言うんならそーゆーコトにしといてあげよう」
928 :702:05/06/08 22:40 ID:8XT2y2nc
結局嵯峨野への説得で昼休みの残り時間全てを費やす事になってしまった。
「うんうん、結局結城はアレは誤解だって言いたい訳ね、
仕方ないなぁ、結城がそう言うんならそーゆーコトにしといてあげよう」
意地の悪い笑顔でそう言って来る。
これから暫くの間はからかわれ続けるのだろう。
ひとつ問題が解決したら必ず次の問題が現れる。
何で私ばかりが……最近よくそう思う。
答えなんかきっと無い、ひとつずつ解決していく他はないだろう。
「考えても仕方ない、か」
今日の所はそう結論付けて、授業に意識を集中させる。
荷物運びを一人でこなし、ぐったりしている花井君を目の端に止めつつ。
――――了
2007年09月15日(土) 14:49:47 Modified by ID:LOVLpNCrSQ