IF23・別にないや


誰もいない…投下するなら今のうち?
初投下です。タイトル……別にないや


  麻生広義はまた大きくため息をついた。
すると、隣から心配そうな声が聞こえた。
「先輩、どうしたんですか?」
 きれいな金髪の子である。名をサラ・アディエマスという。
 たまたまバイト先が一緒で、麻生のどこが良いのか分からないが懐いているようだった。
 もっともサラはみんなともそれ以上に仲良くしており、麻生に近づいてくる者のなかでは、という
但し書きが必要だが。
 二人はバイトの帰りだった。
 さすがに夜は暗くなるし危険なので送っていってください、と以前サラに言われそれももっともだ
と思った麻生はバイト帰りはサラを送っていくようにしていた。
 今はまた違った思いがあってだが。

「いやなに 知り合いに紹介してほしい女性がいるって言われてな」
「へー、どんな子ですか?」
 サラはなぜか興味津々と言った様子で聞いてきた。
 その様子を不思議に思いながらも麻生は答えた。
「ああ、バスケ部の後輩でな結構筋が良いんだ。
それなりに目をかけてるし、出来ればそいつの希望に沿ってやりたいんだが」
「…先輩。誰の事言ってます?」
 なぜ口調が険悪になったかわからないまま麻生は答えた。
「誰ってその知り合いだが?お前が聞いたんだろ」
 なぜだか麻生は殴られた。


205 :Classical名無しさん:05/05/03 02:05 ID:FqZbaFt6
「痛いな。いきなり何をする」
 多少不機嫌になりながら麻生が文句を言うと
「そんな人、殴られて当然です!」
 と更に殴られた。
「どうしてこの話の流れでその後輩さんの事を聞かなければならないんですか。
普通は紹介してほしい女性に決まってるじゃないですか!!」
 効果音が聞こえるような動きでサラは麻生を指差した。
 普通どっちか分からないし、それだったら両方とも聞かないと言う構造が出来そうなものだが、と
思いつつもそれを言う程麻生は愚かではなかった。
 しかし困ったな。指を差すな、指を、とサラにいいつつ麻生は思った。
 先程からため息をついていた理由がその"女性"だからである。
「さ、先輩、教えてください」
 サラはにこやかに言った。が、だからこそか逆らってはいけないというオーラが出ていた。
 仕方なく麻生は多少の情報を与える事にした。

「で、誰なんですか?その女性は。先輩に頼むんですから2−Cの誰かなんですよね」
「言っとくがプライバシーの問題上、双方の名前は教えられないぞ」
 麻生がそう言うとサラは少しむくれた。が
「まあ、くっついたらすぐにわかるしそこは妥協しましょう」
 と納得したようだった。
 しかし、
「で、その女性って誰なんですか?」
 麻生は何度目か分からないため息を吐きつつ言った。
「だから教えられないって言ってるだろう」
「はい、ですから両方の事を知ろうとはしませんよ」
 言いながら隣を見ると満面の笑みでそう言われてしまった。
 少し前までならその笑みも振り切れただろうが今の麻生には難しかった。


206 :Classical名無しさん:05/05/03 02:06 ID:FqZbaFt6
「―――なぜ俺がこんな事で悩んでいるかというt」
「そんなのでごまかそうとしたってダメですよ」
 人差し指をビシッと伸ばし麻生を指差してくるサラ。
 危うく負けそうになったが、麻生は何とかこらえて続けようとする。
「まあ聞け。現在状況を把握させてやるといってるんだ」
「うーーーーん」
 長い事悩んでいたが、麻生の態度からこれ以上は聞き出せないという結論に達したのだろう。
 サラは妥協してきた。
「今回の所は退いてあげますけど、もし嘘を吐いていたりしたら…」
「わかったわかった」
 そう言いつつも、多少殺気を感じたのは気のせいだろうか。
「それで、どうして先輩は悩んでいるんですか?」
 サラは聞いてきた。
「いつもの先輩で、その後輩さんのこと、後輩後輩って言うのもなんですからAさんって呼びますけど、そのAさんのこと気に入っているなら、すぐ紹介してあげるんじゃないですか?」
「まあな」
 麻生自身も普段ならそうしただろうと思う。しかし……

「で、どうして先輩は紹介してあげないんですか?」
 サラは聞いてくる。
 麻生は無意識のうちにため息を吐きつつ言った。
「まぁあいつの好きな事の奴の事を知ってるんだが、どうもあいつ勘違いしてるみたいでな」
「勘違い?」
「そう。あいつ相手の事を大きく勘違いしているんだ」
  言ってまた自分の言葉を確かめるように、麻生はもう一度言った。
「そう、アレこそ勘違いだ。でなきゃあんな事を言わないしな」
よりにもよって彼女の事を優しいと思うとは…
「どんな勘違いなんです?」
 やや自分の世界に入りつつあった麻生を、サラは現実へと引き戻した。
「あいつはな、優しいと思ってるんだよ、"彼女"の事をな」
 半ば投げやりになりつつ麻生は言った。事実そう見えるから直の事困る。


207 :Classical名無しさん:05/05/03 02:07 ID:FqZbaFt6
「Aさんがですか」
 サラが相槌を入れる。
「なんだ?」
 そのややふくみのあるの言い方に麻生が訊ねると
「いやなんか先輩の態度を見ている限り、先輩もその人の事を好きなんじゃないかなと…」
 言葉にならない悲鳴が出た。幸いその瞬間はサラに見られなかったので、麻生は動揺を隠しつつ聞いた。
「―――なぜそう思うんだ?」
 すると、
「あれ、否定しないんですか」
 瞬間麻生は自分がはめられた事に気づいた。
 しかしとき既に遅し。サラは笑みを浮かべながら再度聞いてくる。
「やっぱり好きなんですね」
 ああ、怖い。氷点下を大きく過ぎた笑みがこちらに向いている。
 どうしてこんなやつが優しく見えるんだ。
 一体どんな事をさせられるのだろう。いやでも待てよ。まだ俺が誰を好きかサラは分かってないんじゃないか。いやいやこいつのことだ。俺の後輩の事なんてすぐ調べやがるだろう。もしそうなったら…
 そんなあての無い旅に出てしまった麻生を、サラは現実の恐怖へと引きずり戻す。
「で、誰なんですか?麻生先輩が好きなその人は?」
 い、今ここで言えというのか、こいつは。
 黒い!こいつの本性間違いなく黒いぞ!

 麻生は何とかしてこの状況から抜け出そうと考えたが、サラの住む教会までは幸か不幸かまだまだかかりそうだった。というかこの時確実に麻生にとっては不幸であった。 
 サラは笑顔を浮かべたまま、さぁさぁと脅してくる。
 麻生は覚悟を決めた―――
2007年09月11日(火) 22:40:09 Modified by ID:LOVLpNCrSQ




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