IF23・shelter from the rain


え〜と、すいません初投下です。
今更ながら播磨×八雲です。
  • 矢神市は北関東のどこか
  • 7巻♯96の原稿完成後、播磨と八雲の二人で原稿を届けに行った
…という設定です。18禁にはしません。

あらすじ
談講社に原稿を届けた播磨と八雲は、疲労のため帰りの電車の中で寝てしまう。
目を覚ますと、東北地方N市郊外の駅にいた。
さらに運が悪いことに、大雨で線路が冠水し電車はストップ、帰れなくなる二人。
鉄道会社の計らいにより、二人はタクシーでN駅までは送ってもらった。とりあえず駅の向かいにあるラーメン屋で腹ごしらえをした二人だが…
*   *   *
N駅は100メートル四方のターミナルを囲い込むような、コの字形をしていた。
コの字形の内側は、建物に沿うようなアーケードとなっている。
地方の駅ではあるものの、市内ということもあり、それなりの大きさはある。
しかし大雨のうえ夜中とあっては、人影はほとんどない。
アーケードの下で、雨などまったく意に介さない様子の少年グループがいくつか騒いでいるぐらいだ。
「畜生畜生! 何だよ、この雨! …ホントすまねえ妹さん、あんたをここまで巻き込んじまって…」
「…いえ。雨はどうしようもありませんから…」
頭を下げて謝罪する播磨の前で、八雲は普段どおり両手を身体の前で重ねて立っていた。
播磨と八雲は、ラーメン屋を出て再びN駅に戻り、アーケードの下で雨宿りをしている。
「まいったな…」
顔を上げた播磨は頭を掻きながら雨のほうに向き直り、改めて現在の状況を整理してみた。
大雨。夜中の駅前。二人が吐く息の白さから、気温の低さが伺える。
そして、周りにはいくつかの少年グループ。
少年たちのうち何人かは煙草を吸っており、時折播磨たちの方を伺っては、何事かひそひそと話している。
播磨は、少年らにかつての自分と同じにおいを感じた。
「不良グループ」。播磨にとって、少年らを表現するのにもっとも適している言葉だった。
播磨一人ならば別段気にするほどの状況ではない。
万一周囲の少年らが悪意を持って襲い掛かってきたとしても、播磨一人ならば何の問題なく一蹴できるはずだ。
しかし今は、一人ではない。彼の隣には一人の少女がいる。
彼が体験してきたような修羅場とはまったく無縁な、ごく普通の大人しい少女が。
もしかしたらカップルと見なされ、少年らが絡んでくるかもしれない…



506 :shelter from the rain:05/05/21 16:26 ID:MRnQoByI
そういった邪推を巡らすうち、播磨の頭に急速に浮上してくる感覚があった。
それはこの少女を守らねば、という責任感にも似た感覚である。
そしてその責任感は、手伝ってもらった人間をこのような目に会わせてしまっているという罪悪感に
裏打ちされ、さらに大きくなっていた。
「…くしゅん」
播磨の横で、八雲が小さいくしゃみを一つして、軽く身体を振るわせる。
それは、八雲の姿をより一層か弱く見せた。
播磨は安全かつ暖かい場所を求め、周囲を見渡した。すると、一軒の建物が目に入る。
これだ! 播磨は急いで自分の財布の中身を確認すると、5日前に受け取ったバイト代1万円札が
丸々入っていた。
ここ3日間は学校と自宅の往復だけで無駄遣いをしていなかったことが幸いした。よし、これなら…
「妹さん、ちょっと濡れるが我慢してくれ! あそこまで走るぞ!」
「え? は、はい…!」
二人はアーケードから飛び出し、頭を抑えつつ播磨が指差した建物まで走った。
「あ…ここは…」
建物の前まで来ると、八雲は目を見開いた。それは駅前でよく見かけるビジネスホテルであった。
何を思い浮かべたのか、八雲の血液が顔に集まり、頬がうっすらと赤くなる。
そんな八雲の様子に気づくことなく、播磨は迷わず入り口の自動ドアをくぐり、フロントへと向かう。
外と違ってホテルの中は空調が効いており、暖かい。ロビーの床には赤い絨毯が敷き詰められている。
八雲は慌てて播磨の後を追い、二人はフロントのカウンター前に立った。



507 :shelter from the rain:05/05/21 16:27 ID:MRnQoByI
「いらっしゃいませ」
フロント係の中年男性は二人が入ってくると同時に恭しく頭を下げたが、顔を上げたところで
学生服に気づくと、案の定詰問してきた。
軽くうろたえる八雲の横で播磨が事情を説明する。
フロント係は、本来はだめなのですが…と宿泊を承諾した。
「どのお部屋になさいますか」
フロント係が示した料金表には、シングル、ダブル、ツインという3種類の料金が載っていた。
えっと、シングルとダブルってベッド一つの部屋のことよね…
播磨さんがシングルかダブルを選んだら私はどうすれば…
でも播磨さんは姉さんが好きだから…そんなことは…
あ、そういえば姉さんに電話してない…
テストが終わったのにサラの家に泊まるのは変だから、心配してるかも…
眼前で展開する状況についていくことが出来ず、八雲の思考回路は完全に混乱していた。
「えっと、ベッド二つの部屋ってツインっすよね? じゃあツインで」
播磨は当然のごとくツインの部屋を選んで料金と引き換えにルームキーを受け取ると、
行くぞ妹さん、とエレベーターに乗り込んだ。
「いやあ、部屋が空いてて良かったな。手伝ってくれたお礼に宿代は俺が出すから、ゆっくり寝てくれ!」
「…はい…ありがとうございます」
「いやいや、『ありがとう』はこっちのセリフだぜ」
エレベーターの壁に寄りかかりつつ発した播磨の言葉に、とりあえず頷く八雲。
しかし頭の中はこの後に対する不安で占められていた。
昨日までは播磨さんの家だったけど…今度は違う。
今度は、ホ、ホテ…
「お、着いたな」
チン、という音とともにエレベーターは目的の8階に到達した。
播磨が扉のほうを向いたため、八雲の赤面は悟られずに済んだ。

「808…ここだな」
ルームキーを差し込んで部屋のドアを開けると、播磨は八雲を先に通し、後ろ手にドアを閉めた。
と、突然播磨の内側に広がる違和感。播磨の頭は冷静に現状を分析し始めた。
あれ、何してんだ俺…女の子と二人で、ホテルに入ってる…
ちょっと待て…普通ホテルに男女が二人で泊まるってことは…
ここまでの播磨の行動は全て責任感、罪悪感、そして親切心から行われたものだった。
妹さんを安全な場所へ! 妹さんを暖かい場所へ!
ファミレスなんかじゃ駄目だ、風呂とかベッドとか、出来る限り快適な状況を…!
挙句辿り着いたのが、このビジネスホテルであった。
だが見方を変えれば…いやむしろ客観的に見てみれば、女の子をホテルに誘ったという状況に他ならない。
八雲にはそのことがわかっていた。
そして同時に、播磨の心が視えないことから、播磨の行動が自分のためのものだということもわかっていた。
だから、緊張しつつも播磨について来たのだ。
「まずいな…」
そうつぶやきつつ、播磨は八雲に続いて部屋の奥へ向かった。
部屋の中は3・5メートル四方くらいの広さで、二つ並んだベッドの間にはサイドテーブルがある。
八雲は奥のベッドに腰掛けると、バッグを脇に置いた。
ふう、と一息ついた後で、サイドテーブルに置いてあるお茶道具一式に気づき、緑茶を淹れる。
「どうぞ」
「お、おう。サンキュな!」
八雲はベッドに腰掛けたり立ち上がったり、所在無い様子で部屋をうろつく播磨に緑茶を手渡すと、
自分も一口目を口に含んだ。
播磨も八雲に向かい合ってベッドに腰掛けると、しばらくお茶をすする音だけが部屋のなかに響いた。
二人とも何を話してよいかわからず、話題を探してあれこれと思考を巡らせてみる。
先に口を開いたのは播磨だった。
「妹さん、先にシャワー浴びてきな!」



520 :shelter from the rain:05/05/21 18:12 ID:MRnQoByI
それは誰が聞いても「そういう意味」としか受け取れないセリフであった。
再三、八雲の頬が朱に染まる。
「え…」
「いや、明日も一応学校あるし…妹さんは行くんだろ?
こっからでも始発で行けば2限くらいには間に合うだろうから、シャワー浴びて、早く寝ねーと」
「は、はい!」
八雲は赤面を悟られないように俯きながら返事をすると、クローゼットの中に用意してあった浴衣を手に取り、
そそくさとバスルームに入っていった。
程無くして水が跳ねる音が聞こえてくる。
「…っふう!」
播磨はベッドに仰向けになり、サングラスを外す。
「何なんだよ、俺…」
先程部屋に入ったあたりから、形を成さない感情が播磨を支配している。
「女の子と二人きりで、ホテル、か」
改めて口にしてみると、このシチュエーションの特異性が明らかになってくる。
確かにキャンプのときに天満と二人きりで雨宿りしたこともあった。
だが、あの時とは孤立の度合いが違う。
「あの時は…周りにアイツらがいたが…」
今回は―少なくともチェックアウトまでは―誰に邪魔されることもない完全な「二人きり」なのである。
果たして朝まで無事に…
そして今回の相手は、あろうことか、思い人の妹なのだ。
間違っても間違いは起こせない。
「くそっ、マジで何してんだ、俺…!」
自らの行動を悔やんでみても、時既に遅し。播磨はベッドの上で悶えるしかなかった。



521 :shelter from the rain:05/05/21 19:11 ID:MRnQoByI
「あの、播磨さんシャワーどうぞ…?」
浴衣に着替えてシャワー室を出た八雲は、ベッドの上で苦虫を噛み潰したような顔をしている播磨を見て、
少し驚いた顔をした。
八雲の声で我に返った播磨は、動揺を悟られないように平静を装いつつ返事する。
「お、おう」
「すいません、先に使ってしまって…あっ…!」
何かに気づいたのか、八雲が慌てて浴衣の胸元を押さえる。
「どうした、妹さん?」
「あの、その…シャツの用意がないので…」
しどろもどろに話す八雲の顔が赤いのは、湯上りのせいだけではなかった。
八雲が着ている浴衣は男女兼用であり、胸元が開きやすいので、
シャツを着なければすぐに下着が見えてしまう。
播磨もその事を理解し、顔を赤くする。
「ちょ、ちょっと待ってな、妹さん! すぐにコンビニで買ってくるからよ!」
言うが早いか播磨は踵を返すと、八雲に断る間も与えずすさまじい速さで部屋を出た。
オートロックのドアは播磨を送り出すとガチャンと閉まる。
残された八雲は呆気に取られてしばらく硬直していた。
播磨がホテルを出ると、先程までの大雨が嘘のように、雨は止んでいた。
「おいおい、今更遅えよ・・・」
一言愚痴ると、コンビニを求めて一歩を踏み出す播磨。
雨上がり後の冷たい風に吹かれて、火照りが静まっていく。
3分ほど走ったところでコンビニを発見しTシャツを購入する。
ホテルに戻る頃には播磨の中のもやもやした感情はかなり落ち着いていた。
部屋に戻って八雲にTシャツを渡すと、八雲が礼を述べる。
気にすんな、と言いつつベッドに腰掛けると、播磨は走ったことで乱れた呼吸を整えに入った。
八雲はというと、受け取ったコンビニの袋を胸の前に抱えて視線を彷徨わせている。
「どうした? 妹さん」
「あの、播磨さん、着替えるので後ろを向いてて貰えませんか?」

ちょっと待て妹さん…それは…そのセリフは…!
八雲はまったく意識していないが、その一言は冷静になりかけていた播磨の頭を揺さぶるのに十分なものだった。
「あ、ああ、そうだな! ていうか俺、風呂に入るから!」
播磨は八雲の顔を見ないようにして、ガクランと靴下を脱ぎ、バスルームに入る。
そしてバスルームのドアを少しだけ開き、隙間からTシャツを放り投げた。
「キャッ」
ふわりと宙を舞った大きなTシャツが頭にかかったため、八雲は思わず声を上げた。
男がTシャツを投げ捨てる光景が、八雲に以前見たテレビドラマのワンシーンを想起させる。
「あ、すまねえ!」
「い、いえ! 大丈夫です!」
バスルームのドアが閉じられると、播磨がシャワーを使う音が聞こえ始めた。
八雲はゆっくりと頭にかかった播磨のTシャツを手に取った。
…播磨さんの…
Tシャツを握る手に少しだけ力が入る。
が、次の瞬間何事もなかったようにTシャツをベッドの上に置き、丁寧に畳む。
今度は播磨が買ってきた代えのTシャツを手に取り、袖を通した。
そしてベッドに顔を埋めると、先程の播磨よろしくあれこれと考えを巡らす。
動悸の激しさは相変わらずだが、播磨の顔が見えなくなったお蔭で頭は幾分冷静になった。
…何か、変な状況…
男のコの…播磨さんのTシャツ、大きい…
播磨さんの素顔、始めて見た…
先程までの目まぐるしい展開がつぎつぎとフラッシュバックする。
でも、やっぱり…心は視えない…
いつもどおりその考えに辿り着くと、何故か少しだけ憂鬱な気分になる。
八雲自身はその理由はおろか、憂鬱になっていることすら自覚したことはないのだが。
実は何度か心が視える機会はあったのだが、お互いに顔を見ようとしないために見送られたのである。

「ふうー、サッパリしたぜ」
頭を拭きつつ、シャワールームから出てくると、播磨はもうひとつのベッドの縁に腰を下ろした。
八雲は弾かれたように身を起こすと、播磨と向かい合うようにベッドの上に「お嬢さん座り」をした。
「お疲れさまです」
「ああ」
八雲が手際よくお茶を用意し播磨に差し出すと、播磨は礼を言いつつ受け取った。
またもや沈黙が訪れる。何故か会話が続かない。
漫画を描いているときは問題なく話せたはずなのに。
「あの…播磨さん」
今度は八雲が沈黙を破る。どうしたと答える播磨に、八雲は続けた。
「漫画、賞を取れるといいですね」
「そうだな」
「そういえば、あのペン軸ってお父様から貰ったものなんですか?」
「ああ、あれはだな…」
他愛もない会話で盛り上がる二人。話を続けるうち、段々と緊張も解けてくる。
「…んでその時、ものすんげー大波がこう、ガーッと…て、熱!」
話に夢中になるあまり動作が大きくなってしまった播磨が、お茶をこぼしてしまった。
幸いにも浴衣はあまり濡れなかったが、お茶は播磨の足先を掠め、ベッドとベッドの間に染みを作った。
「あ、私が拭きますから」
と、咄嗟に身を乗り出す八雲だが、ベッドの上での「お嬢さん座り」状態から身を乗り出そうとしたため、
バランスを崩し頭からベッドの間に落ちそうになってしまう。
「キャッ」
「危ねえ!」
播磨は八雲に向かって両手を差し出し、固く抱きかかえる。
「あ、ありがとうございます…」
「いや…」



529 :shelter from the rain:05/05/21 21:48 ID:MRnQoByI
すぐに離れればいいところを、一時停止ボタンでも押されたかのように動けない二人。
奇妙な空気が流れ、またもや沈黙があたりを支配する。
そんな中、二人の鼓動と呼吸音だけが部屋に響く。
薄い布越しに、互いの体温が伝わってくる。
「あ…!」
全力を振り絞って頭を動かし、播磨の顔を見た八雲が小さな声をあげた。
視える。播磨さんの心が…視える…!
それは常日頃八雲に向けられる男たちの感想・欲情と大差無いものだった。
違う点といえば、触感や匂いに対する感想が混じっているくらいか。
聞き慣れた言葉のはずなのに、発信源が違うせいで八雲には特別な言葉のように思えた。
播磨さんに、播磨さんに、そんなことを思われている…!
心を視るうち、何故か逆に自分の奥底を覗かれているような感覚に襲われ、
八雲の顔が破裂してしまうのではないかというくらい赤くなる。
播磨のほうも、完全に混乱していた。
播磨の中で、本能と、それを制しようとする理性が激しくせめぎ合う。
勿論その葛藤は全て八雲に筒抜けである。
気恥ずかしさに耐えかねて、八雲が声を振り絞った。
「な、何か変な状況ですよね。こういうことって、普通はつきあっている二人が…」
「か、かもな!」
上擦った声で答える播磨。
「それに、播磨さんは姉さんのことが」
姉さんのことが好きなのに、と言いかけたところで、播磨が八雲から手を離し、言葉を遮る。
「うおーっと、もうこんな時間か! もう寝なくちゃ明日起きらんないな、うん! じゃあ寝るか!
おやすみ妹さん!」
酷く狼狽しながら播磨はシーツをめくり上げ、その中に滑り込む。
そして八雲に背を向けると明らかに嘘とわかるイビキをかき始めた。
姉さん、という言葉を聞いた直後から、播磨の心は視えなくなっていた。



530 :shelter from the rain:05/05/21 22:17 ID:MRnQoByI
八雲は自らの失言を激しく後悔しつつも、とりあえず答えることしかできなかった。
「はい、おやすみなさい播磨さん…」
八雲も着衣の乱れを整えると、自分のベッドに入って目を閉じた。
全身が心臓になってしまったのではというほど動悸が激しく、しばらくは眠れそうにない。
率直に言えば、八雲は播磨がシャツを投げ捨てた時点で覚悟はしていた。
このまま事態が進めば、「そういうこと」になるであろう、と。それなのに。
私はなぜ、あの場面で姉さんのことを…
無意識のうちに、八雲は確認が欲しかったのかもしれない。
「そういうこと」になるからには、自分のことだけを見ていて欲しい。
だからこそ、姉のことを引き合いに出して播磨を試さずにはいられなかったのだ。
播磨が並の男だったならば、たとえ意中の女のコがいたとしても、本能に流され
君だけさ、と答えたろう。
しかし播磨はそれを良しとしなかった。
それは八雲にとって悲しいことではあるが、そんな播磨だからこそ八雲がここまで心を許したということも
否定できない。
八雲が眠れずにいると、播磨が八雲から顔を背けたまま話しかけてきた。
「…妹さん」
「はい?」
仰向けのまま、顔だけを播磨のほうに向けて答える八雲。
「明日、6時半起きな。学校、あんまり遅くなったら妹さんに申し訳ねえ」
「はい、わかりました」
それだけのやり取りの後は、また沈黙。
いつもの調子に戻った播磨の声に安心した八雲は、穏やかな決意を胸に秘めつつ眠りについた。



531 :shelter from the rain:05/05/21 22:18 ID:MRnQoByI
翌朝、6時半に起きてホテルをチェックアウトした二人は、近くのファミリーレストランで朝食を済ませた後、
N駅へと歩いていた。
昨晩の雨によってところどころに水たまりが出来、朝日を反射して輝いている。
「ホント済まねえ、妹さん! 『6時半起きな』とか自分で言っといて、妹さんに起こしてもらうなんて…」
「いえ、いいんです…」
播磨の謝罪に答える八雲の胸中は、昨晩のことを考えていた。
少しだけど…播磨さんの心は視えた…
だったら、私にも…私にもまだ…
ふと前を見遣ると、水たまりの反射光がまともに目に入り、八雲は思わず目をしかめた。
「キャッ」
「大丈夫か、妹さん?」
目を開けると、播磨が心配そうに八雲の顔を覗き込んでいる。
サングラス越しに見つめられ、八雲の動悸は高まる。
「播磨さん…」
「ん?」
口をついて自然と出そうになる言葉をぐっと飲み込む。
「播磨さん、急がないと、電車が…」
「おう、そうだな! 急ぐか!」
八雲に促され、駆け出す播磨。
私にもまだ、この人を追いかけるチャンスは…
播磨の背中を見つめながら、八雲はそんなことを考えた。
「どうしたー? 置いてかれるぞー、妹さん!」
数メートル進んだところで播磨が振り返り、八雲に声をかける。
「は、はい!」
心地よい朝の空気の中、播磨に追いつくように、八雲は播磨のもとへ駆け出した…

END
2007年09月13日(木) 15:48:03 Modified by ID:LOVLpNCrSQ




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