IF24・body change 2


228 :body change -Black Goddess & White Satan:05/06/25 18:44 ID:VM2.pTwc
 駐輪場に着いてから、播磨(in八雲)は八雲から鍵をもらい忘れた事に気付いた。

「しまった…。そこまで気が周らなかったぜ。…まあ仕方ねえか、一日くらい大丈夫だろ。」

自転車を固定して、サラと連れ立って玄関に向かう。
 歩きながら、播磨は今日有り得るはずだった天満との至福の時間を思い浮かべた(というか妄想)。

 以下妄想。
「播磨君、荷物運ぶの手伝って。」
「おう、任せとけ塚本!」
いっぺんに全ての荷物を抱え上げる播磨。
「わあー、播磨君って力強いねー!」
「なぁに、軽い軽い。」
「…私、逞しい男の人って、好き…。」
「塚本、いや天満!俺がこの力でお前を一生守ってやるぜ!」
「播磨君…。素敵…。」
妄想終了。

(天満ちゃんと日直、楽しかっただろうなあ……。)

深い悲しみに沈み、播磨は一筋の涙を零した。それは美しい光景だった、端から見ればだが。

「八雲、八雲ってば!」
「…あ?ああ、俺のことか。」
「俺のことかじゃないよ!どうしたの?考え事してると思ったら急に涙なんて流して…。」
「へっ、何でもねーよ。目にゴミが入っただけさ。」

そう言ってずずっ、と鼻を啜る八雲の姿をした播磨。

「や、やめてよ八雲!いくら真似でも下品すぎるよ!」
「だから、俺は播磨だって!いい加減信じろよ!」



229 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 18:46 ID:VM2.pTwc
何とかサラを納得させようと説明をしながら歩いてゆき、玄関の前まで辿り着いた。
とその時、

「八雲くーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」
「あん?」

耳慣れた大声が響き、播磨は眉をひそめた。
校門の方向から爆走してくる一人の男。2-Cが誇る八雲バカ一代、花井春樹である。
 それはいつも矢神高の生徒達が見かける朝の風景に思われた。
やたらと押しの強い花井に対して、困惑の表情を浮かべ八雲が応対する。
 しかしこの日はいつもと違っていた。八雲が花井に向かって一歩踏み出したのだ。
おおっ、と周りの生徒が目を瞠る。そして花井は、

「や、八雲君……!ついに…ついに僕の思いを受け入れてくれるのかーーーーーっ!!!」

歓喜の雄叫びを上げて八雲に向かって両手を広げて突っ込んだ。
播磨(in八雲)は右手に持った鞄から手を離し、ゆっくりと前に進む。
二人がまさに抱き合おう(としているように周りには見えた)とした時、それは起こった。

 播磨(in八雲)が閃光の如き右ストレートをノーモーションから放つ。
その一撃は全くそんな事を予想せずに踏み込んだ花井の顎をカウンターで正確に打ち抜き、
脳を左右に揺らし、脳震盪を引き起こした。
播磨の目前で花井が膝から崩れ落ちる。続けざまに播磨が左のアッパーカットを放ち、花井の顎をかち上げる。
今度は脳を縦に揺らされ、花井の意識はここで完全に消失した。
 アッパーで無理矢理立たされた花井に、駄目押しのように播磨が右のハイキックを叩きつけた。
そして花井は、直前の記憶すらも掻き消されて、大の字になって失神した。

 その間、僅か2秒。


230 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 18:47 ID:VM2.pTwc
「や、八雲…?」

 一瞬の間に目の前で起きた惨劇に、サラも、周りで見ていたギャラリーも完全に硬直していた。
当の播磨は、倒れている花井に一瞥をくれただけで、

「…チッ、朝っぱらからウゼえメガネだぜ。」

と捨て台詞を吐いて、周りの視線には全く気付きもせずに玄関へ歩き出した。
 さて、玄関のドアを開けようとした時、手に走る鈍い痛みに播磨は顔をしかめた。
手を見てみると、花井を殴った部分にアザが出来ていた。それを見て、播磨の顔がサーッと青ざめる。

「し、しまった……!妹さんの…妹さんのカラダをキズモノにっ…!」

 播磨はぐるりと振り向くと、未だ伸びている花井に向かって走っていき、

「メェガァネエェーーーッ!テメエのせいでキズモンになっちまったじゃねーかよ!!」

八つ当たり気味にゲシゲシと蹴りつける。

「や、八雲……播磨先輩、もうその位で……!」

サラが必死になって播磨を羽交い絞めにして押し留める。

「はーっ、はーっ…って、何だ、ようやく俺の話を信じてくれたのか?」
「信じますよ、もう…。いくら芝居でも八雲はこんな事するわけない、というか出来るわけありません…。」
「そうか、やっと信じてくれたか。おし、メガネの犠牲も無駄じゃなかったな。」
「自分でやっといて人事みたいに言わないで下さい!もう…八雲の悪い噂が広がったらどうしてくれるんですか!」
「う…た、確かに…。出来るだけ派手に立ち回らねーようにしねーとな。ボロが出ちまう。」
「もう…もう…手遅れです…。」

これからどんな事が起こるかを考えると、サラは涙を押さえることが出来なかった…。


232 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 18:49 ID:VM2.pTwc
  所変わって、八雲(in播磨)は2-Cの前に来ていた。
以前にも天満の忘れ物を届けるために何度か来た事はあるが、今日はいつもとは違う緊張感がある。

(落ち着いて……不自然に思われないようにしないと……。)

 一つ深呼吸をしてから、意を決して教室のドアを開ける。

「あら、おはようヒゲ。」
「オース、播磨。今日は早いな。」

先に教室に来ていた愛理と美琴が八雲に声をかける。

「あ、おはようございます、沢近せ、さん、周防さん。」

八雲は当り障りのない返事をしたつもりだったが、愛理は薄気味悪そうに顔を歪めた。
周防も何か変な物でも見たかのような顔をする。

「な、何だよ、急に敬語なんか使って。」
「気持ち悪いわね、何か悪いものでも食べたの?」
「い、いえ、別に。」
(普通に挨拶しただけなのに…。ええと、普段の播磨さんの喋り方は…。)

そもそも八雲の話し方と播磨の話し方は全然違うのだ。八雲は必死で思い出そうとする。

「え、えーと…な、なんでもねー、よ?」
「何で疑問形なのよ…?…まあいいわ。」

そう言うと愛理は会話を切り上げ、美琴とお喋りに戻った。
 
(気をつけないと。でも難しそう…。)


233 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 18:56 ID:VM2.pTwc
 取り敢えず敬語を抑えて話そう、そう決めてから授業の準備をする。
1時限目は物理らしい。しかし鞄を探しても教科書は見つからなかった。
机の中を調べてみると、他の教科書やノートと一緒に入りっぱなしになっていた。
 だが、教科書を出したはいいが、自分がやっているものより高度なうえ、そもそも今やっている所が分からない。
八雲は予習はあきらめて教科書、ノートの準備だけをした。
そのとき、教室のドアが勢いよく開け放たれ、

「た、大変よみんな!」

嵯峨野が血相を変えて大声で皆に呼びかける。

「ん、どうした嵯峨野?血相変えて。」
「そ、それが、花井君が失神して保健室に運ばれたって…!」
「な、何ィ!?」

今度は美琴が大声を上げる番だった。

「ど、どういうことだ、急病か何かか?昨日道場じゃ元気満々だったぞ!?」
「い、いやーそれがしこたま殴られたらしくて…」
「な、殴られた?ウチの学校で花井を気絶させられる奴なんて何人もいないだろ。」
「えーとそれが、聞いた話によると…」

嵯峨野が説明しようとして、そこで言いよどむ。

「何があったんだ?」

美琴が話の続きを催促する。嵯峨野は少しの間迷っていたが、やがて覚悟を決めて話し始めた。


234 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 18:59 ID:VM2.pTwc
「それが…、塚本さんの妹の八雲ちゃんにやられたんだって…。」
「………は?」

自信無さげに言う嵯峨野の言葉に、美琴は完全に思考停止した。
 そして同じく、それを聞いた八雲も硬直もまた固まった。

「…八雲が?」

何時の間にか教室に来ていた晶が、混乱している美琴の代わりに嵯峨野に訊ねる。

「うん。何かいつも通りに花井君が八雲ちゃんに向かってダッシュしていったら、
八雲ちゃんが物凄い反撃をして花井君がボコボコにされたって…。」
「………にわかには信じがたい話ね。」

流石の晶も半信半疑の様相である。
 しかし八雲は、今自分の体の中に入っている人物が、それをすることが出来る人間であることを知っていた。

(ま、まさか…)

 確認するために播磨に連絡しようと、携帯電話を取り出そうとした時、

「…磨君。…播磨君?」

晶が自分の事を呼んでいることに気付き、あわてて向き直る。

「は…はい、な…何でしょう?」
「…播磨君、何か心当たりはある?」
「い、いえ、何にも…。」


235 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:00 ID:VM2.pTwc
 晶は暫く八雲の目をサングラス越しに覗き込んでいたが、

「……そう。」

それ以上は聞かずに自分の席に戻っていった。
 八雲はほっ、と胸を撫で下ろし、あらためて携帯電話を取り出した。
Eメールアドレスを呼び出した時、登録されている「妹さん」の文字に、ふっ、と頬を緩ませる。
しかしすぐにそれを引っ込めると、播磨に確認のメールを送った。


「ん?何だ、「三匹が斬られる」のテーマじゃねーか。」

その音楽が鞄の中から響いてくることに気付き、

「ああ、妹さんの携帯か。渋い着メロだな。」

取り出して内容を確認すると、[FROM : 播磨さん]となっている。
一瞬わけがわからなかったが、「ああ、俺の携帯からか。」と気付き、本文に目を通す。

[花井先輩が保健室に運ばれたそうですが、何があったんですか?]

「ありゃ、もう伝わってるのか。」
「どうしたんですか、はり…八雲?」

教室ということもあって、サラは呼び方をいつも通りに直して訊ねた。

「いや、メガネをぶっ飛ばしたのがもう知られたみたいだ。まあ同じクラスだしな。」
「やっぱり…、玄関前であんな事するから…。」

よく見ると、周りの視線も何か雰囲気がおかしい。
こちらを盗み見て何かヒソヒソと喋っている。何か言ってやりたいが、自分で蒔いた種なので我慢した。


236 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:02 ID:VM2.pTwc
 その時、稲葉が八雲に話しかけてきた。

「ねえねえ塚本さん、今朝花井先輩をKOしたって本当?」
「え?あ、いやー、あれは何かその、物のはずみで。オホホホホ。」

一応播磨は播磨なりに言葉に気をつけて喋っているのだが、稲葉は当たり前だが不思議そうな顔をした。
サラが慌てて播磨の肩を掴んで振り向かせ、小声で怒鳴りつけるという器用な真似をする。

『先輩、怪しすぎます!もう少し気をつけて喋ってください!』
『気をつけろったって、俺は女の喋り方なんて出来ねーよ!』
『八雲はホホホなんて笑い方しません!せめておとなしめに、口数も少なく!』
「…二人ともどうしたの?」
「「…な、なんでもない。」」

取り敢えず稲葉を強引に席に戻らせて、播磨は八雲にメールの返信をした。



237 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:03 ID:VM2.pTwc
2-Cにて

 携帯が「プロジェクトX」のテーマを奏でる。
八雲は返信のメールに目を通した。そしてその内容にがっくりと肩を落とす。

[スマン。突っ込んできたんではずみで殴り倒しちまった。]
(…播磨さん……。)

どうやらこの話は本当だったようだ。八雲は心の中で花井に陳謝した。

「…あー、あたし保健室行って様子見てくるよ。」

美琴がそう言って教室を出て行った。

(私も、後で見舞いに行こう…。)

そう思った時に、教室に谷先生が入ってきた。
八雲は携帯をマナーモードにして仕舞い、正面に顔を向けた。

波乱に満ちた1日が、始まった。


238 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:05 ID:VM2.pTwc
 2-Cの1時間目は刑部先生の物理の授業だった。
問題や説明が高度で理解し難いが、板書だけでもきちんとしようと、八雲は真剣に黒板に向かう。
 しかし、授業時間が半分も進まぬうちに、強烈な睡魔が八雲を襲った。

(そんな……起きてないと………いけない…………のに……………)

しかしそれに抗うことは敵わず、八雲は深い眠りへと沈んでいった。


 絃子は不機嫌だった。その理由は机に突っ伏している一人の男が原因である。
珍しく播磨が真面目に板書しているのを見て、きちんと反省しているなと半ば感心していたのだ。
それが30分も持たずに撃沈してしまったのだ。

(拳児君…、一瞬でも君に期待した私が馬鹿だったよ。)

家に帰ってからどんな目にあわせてやろうかと思っていたが、眠りこけている播磨(実は八雲)の姿が嫌でも目に入り、だんだん苛立ちが抑えられなくなってくる。
予定変更、今すぐ制裁を実行する。絃子は手ごろなチョークを掴むと、弾丸の如き速度で投げはなった。
それは八雲(in播磨)の頭に直撃し、髪の毛を真っ白に染める、はずだった。
だがそれが命中する寸前、八雲の右手が上がり、人差し指と中指の間で掴み取ったのだ、無論顔は突っ伏したままで。

(な…?)

しかし絃子が驚きの声を洩らす前に、更なる驚愕が絃子を襲った。
八雲が掴み取ったチョークを手首の返しだけで投げ返したのだ。
それは絃子が放ったものに勝るとも劣らぬ速度で絃子の顔めがけて飛来する。

「くっ!」

命中する直前、かろうじて絃子はそれを掴み取った。


239 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:06 ID:VM2.pTwc
 一連の出来事に、教室全体からどよめきが起こる。
絃子は呆けた表情を浮かべていたが、すぐに我に返り、未だに顔を伏せている八雲を睨みつけた。

(中々味な真似をしてくれるじゃないか、拳児君。)
「播磨君、起きているのなら顔を上げて授業を受けるんだ。」

そして、感情を殺した声で八雲に呼びかける。
それでもピクリとも動かない八雲に業を煮やし、絃子は八雲の席の前まで歩いていった。
すぐそばに立っていても顔を上げる気配はない。呼吸も安定している。
どう見ても完全に眠っている。しかし今の絃子にはそれも芝居としか思えなかった。
絃子は手に持った物理の教科書を、躊躇い無く角から振り下ろした。
だが、振り下ろされるその腕の手首を、顔を伏せたまま八雲は掴み取り、

「え…?」

その勢いを利用して投げ飛ばした。絃子の視界がぐるりと一回転する。
そして絃子の体は綺麗に机の机の間に転がされた。この狭さで机にぶつけられないのは驚嘆すべきコントロールである。
 ざわめいていた生徒達は、この光景に逆に静まり返った。

きーんこーんかーんこーん………

その時、終了を告げるチャイムが鳴った。
絃子は立ち上がると、

「……本日の授業は終了する…。」

そう一言だけ言って教室から出て行った。

(拳児君、覚えておきたまえ……!)

その心の内に烈火の如き怒りを秘めて。


240 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:11 ID:VM2.pTwc
 1-Dの授業は現代文だった。播磨もまた、珍しく真剣に黒板へ向かっていた。

(妹さんには迷惑かけたからな、せめてノート位はちゃんと取らねえと。)

しかし結局眠りこけてしまった。もっとも、こちらはただの居眠りだが。
 そして、

「はっ!?」
「あ、起きました播磨先輩?」
「あ、あれ、妹さんの友達、授業は?」
「1時間目は終わりましたよ。今は休み時間です。」
「な、何だって!?しまった…。真面目に授業受けるつもりだったのに、このままでは妹さんの評判が…」
「大丈夫ですよ。八雲の居眠りはいつものことですから。」

そう言ってから、サラは小声で注意した。

『それよりも私を呼ぶのに「妹さんの友達」は変ですからやめて下さい。サラでいいです。
第一何でそんな長い呼び方するんですか?』
「いや、すまねえ。最初にそのイメージで覚えちまってな。
しかしこれ以上妹さんに恥はかかせられねえ。サラちゃん、次の授業は?」

今までが何だったかというようにあっさりの呼び方を変える播磨。

「次の時間は体育です。みんなもう移動開始してますよ。」
「体育か。少なくとも居眠りの心配はねえな。よし、行くか!」

気合を入れなおして、サラと二人で更衣室に向かった。


241 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:12 ID:VM2.pTwc
「妹さんは体育は得意なのか?」
「得意も何も学年トップクラスですよ。彼氏ならそれぐらい知っていないと。」
「いや、それはだから違うんだって…。」

 話しながら何も考えずに更衣室のドアを開けて入り、中の光景を見て180度ターンして
更衣室を出た。

「はーっ、はーっ……じょ、女子更衣室じゃねーかよ…。」
「どうしたんですか播磨先輩?」

慌てて飛び出した播磨を追って更衣室から出てきたサラが播磨に訊ねた。
しかし、「あ…」とすぐその理由に気がついて、今現在とんでもない状況になっていることを理解した。
男の播磨が、女の八雲の着替えをしなければならないのだ。

「ど、どうすりゃいいんだサラちゃん!?」
「ど、どうしましょう……着替えは女子トイレでするとしても……」

問題は着替える場所ではなく着替えることそのもの。
言ってしまえば播磨が八雲を脱がす、そういうことだ。

「あの、つかぬ事をお伺いしますが……。」

サラが顔を真っ赤にして、それでいて興味有りげに訊ねる。

「な、何だよ?」
「播磨先輩は…八雲の…その……は…裸を見たことありますか?」
「ぶっ!?バッ、バカヤロー!ンなことあるわけねーだろ!」
「な…無いんですか…?」
「ねえよ!だから何遍も言っているけど妹さんとの事は誤解だ!」


242 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:14 ID:VM2.pTwc
 しかしサラは播磨の後半の言葉を全く無視して話を続ける。

「なら…勝手に見たら…、八雲怒りますよね…?」
「当たりめーだろ。…クソッ…どうすれば……」

播磨は暫く考え込んでいたが、

「仕方ねえ…、サラちゃん、俺は目ェ瞑ってっから、あんたが着替えさせてくれ。」
「ええぇっ!?」
「他に方法がねーんだ。サボるわけにゃいかねーしそもそも俺一人じゃ制服の脱ぎ方も着方もわからん。」
「そ、そっか…、も、もうそれしか無いですね。」

サラと播磨は覚悟を決めて、更衣室へと向かった。


少し遅れて、サラと播磨は体育の授業に参加した。
結局女子トイレで着替えたのだが、播磨が女子トイレへの一歩を踏み出すのと、
着せ替え人形のような着替えに時間を食ってしまったのだ。
しかし結局播磨は最後まで薄目も開けることはなかった。一途さか、それとも強い克己心の為せるわざか。

「…あー、緊張したぜ。」
「…なんか、いけないことをしているような気分になりました……。」

服を脱がせたサラが頬を薄く染める。

「いけないことだろ。全く、変態だぜこれじゃあ…。(天満ちゃんに合わす顔がねえ…。)」
「ひ、ひどい!手伝ったのに変態呼ばわりなんて…。」
「い、いや、サラちゃんの事じゃなくてだな…」
「おまえら、無駄話してないでさっさと準備しろ!」
「「は、はーーーい。」」


243 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:15 ID:VM2.pTwc
 今日の体育は100m走である。

「必ず勝つ、妹さんの名誉のために!ところで前回計った時は何位だったんだ?」
「2位でしたよ。陸上部の期待の星に負けたんです。」
「そうか、じゃあそいつに勝てばいいんだな?」

 播磨の順番が回ってきた。タイム別にまとめているため、その陸上部の子と播磨は同じ組だった。

(おあつらえ向きだぜ。やっぱ直接戦りあった方が気合が乗るからな。)

 スタート位置につく。他の生徒達も体育教師も固唾を飲んで見守っている。
それもそのはず、これほどまでに気迫を漲らせた八雲(中身は播磨)を見るのは皆初めてだったからだ。

「位置について………用意………」

パァン!

 全員一斉にスタートした。
その中から、一気に飛び出して他の選手を置き去りにする二人の選手がいる。八雲と陸上部の子だ。
ふたりのスピードは全くの互角だった。

(クッ…、コイツ…マジで速ェ…ッ…。)

二人は完全に併走したまま、いよいよゴール前まで迫ってきた。

(負けるかっ!神よ、この俺に奇跡をっ!!)
「ウオオオオォォォォーーーーーーーーーー!!!」

そのまま同着かと思われたゴール直前、播磨が限界かと思える速度からさらに加速する。
そして身体1つ分だけ前に出て、播磨が一着でゴールインした。


244 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:16 ID:VM2.pTwc
「す、すごいわ塚本さん!」
「あんなに速く走れるなんて、やっぱり陸上部入った方がいいんじゃない?」

 周りの人間が口々に賞賛の声を上げる。
そして陸上部の子は、信じられない物を見るような目で播磨を見つめていた。
 本来、八雲は他人を押しのけてまで何かをしようとは思わない人間である。
そのため、この手の勝負事では、せいぜい持てる力の99%しか発揮できない。
しかし、絶対に勝とうとした播磨の凄まじい気迫が、八雲の潜在能力を限界まで引き出したのだ。

「凄いよ八雲!…って今は播磨先輩なんだっけ。」
「おう、勝ったぞ。いやーギリギリだったぜ。」

呼吸を整えながら、笑顔でサラに応える。

「でも本当に凄いですよ、前回は負けたのに。もしかして八雲よりその身体をうまく使えるんじゃあ…?」
「んなことはねーよ。大方妹さんは前回そこまで調子良くなかったんだろ。」
「そうかなぁ…?」

どうにか八雲の面子を保てたことに播磨は安堵していた。
 しかしその後、陸上部に必死に勧誘され、断るのに大いに難儀することになった。


245 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:18 ID:VM2.pTwc
きーんこーんかーんこーん………

「ん………。」

 八雲は目を覚ました。
あわてて時間を確認する。丁度2時間目の休み時間に入ったところだった。

(身体が変わったのに…。)

いつでも寝てしまう癖は抜けないらしい。
取り敢えず時間割を確認して、次の授業の準備をする。
 しかし、どうも周りの自分を見る目がおかしい。

(…?ずっと居眠りしていたからかな…?)

そう思った時、隣からとても聞きなれた声で呼びかけられた。

「播磨君、起きた?」
「え?う、うん。」

姉の天満だった。天満は難しそうな顔をして話を続ける。

「大変だったんだよー、播磨君が寝てる間。」
「え、えーと、何かあった?」

出来るだけ、言葉使いに気をつけて問い返す。

「それがね、播磨君寝惚けて刑部先生を投げ飛ばしちゃったの。」
「え、えぇっ?」

いきなりとんでもない事実を教えられ、八雲は驚愕した。


246 :body change -Black Goddess & White Satan-:05/06/25 19:19 ID:VM2.pTwc
 詳しく話を聞くと、居眠りを注意しようと刑部先生が投げつけたチョークをキャッチして投げ返し、
さらに叩き起こそうとした刑部先生を床に転がしたというのだ。
八雲は全く記憶に無かったが、羞恥で顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。

「おまけに播磨君は今まで寝っぱなしだし。一時間目は私が黒板消したんだから次は播磨君がお願いね!」
「う、うん…、ごめん、姉さん。」

刑部先生の事に気を取られていたため、八雲はついいつも通りに応えてしまった。

「へ…?」

天満はキョトン、とした表情を浮かべたが、すぐににへらーっとした表情を浮かべた。

「やだー播磨君!流石にまだその呼び方は早いよーっ!」
「あ…!」

八雲は今自分の大失言に気付き、慌てて弁明しようとする。

「あ、あの…これは…違…」
「またまた照れちゃってー。もう播磨君の中では私は「お姉さん」なんだね!」

ある意味で核心をついた台詞である。八雲は必死で言い繕うが、今の天満には全く通用するはずがなかった。
結局、「八雲のこと、末永く宜しくねー!」となってしまい、八雲は諦めて黒板を消しに行った。
ふと視線を感じ、そちらの方に目を向けると、愛理が厳しい目でこちらを見ている。
八雲としばし目を合わせていたが、結局愛理の方が目を逸らす。だが、その一瞬、

『やっぱり、ヒゲは八雲のこと…』

心が視えた気がした。それは本当に一瞬で、確証の持てるものではない。
しかし、それは八雲の頭の片隅に引っかかった。

(今の私は「播磨さん」。もし、今のが見間違いじゃなかったとしら、沢近先輩は………)
2007年09月26日(水) 17:50:48 Modified by ID:EBvjy16zhA




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